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「……一体いつの話だよ……」
予想外に壮大な未来予想図に呆れてソファに深く腰掛けた愛しい息子に、サンダピリアは書類に目を向けたまま、その口端をそっと上げた。
「ふふ。もう少し先の話じゃのう」
そう、もう少し。
長い時を生きてきた自分からすれば、瞬きほどの時間。
その間に、覚えさせるべきことは沢山ある。
沢山の物を見て、触れて、経験して。
自分の経験を全て伝えることは無理だろうが、その半分でも伝えておきたい。
いずれ来る、未来のために。
「ほれ、時間は限られておるんじゃ、休憩しておる暇は無いぞ」
「あぁ?」
「南の教区で悪魔の被害が出ておる」
サンダピリアは、キアランに目を通していた書類を笑顔で差し出す。
その笑顔の奥にあるのは、拒否権のない命令。
「……明日の授業は……?」
決して学業が好きなわけではないが、それでも言わずにはいられない。
これでも、キアランは学院では上位の成績を修めている、優秀な学生なのだ。
だが、返ってきたのは非情な笑顔。
「今から行って一晩で解決すれば、始業には間に合うじゃろうて。
ほれ、特別に飛ばしてやる。とっとと行ってこい」
教皇は立ち上がり少し開けた場所に移動すると、その場で事も無げに、大掛かりな移動用の術を組みだす。
諦めつつも、未練がましく盛大な溜息を吐いて立ち上がったキアランに、サンダピリアはふわりと優しい笑みを浮かべた。
「そう難しい話でもないがの。気は抜く出ないぞ?」
「わーってるよ」
軽く手を振り、空間を飛んだ息子を見送り、サンダピリアは先ほどまでキアランが立っていた窓際へ移動する。
まだ謁見は続いている。
「教皇、か」
彼が継ぐのは、あそこに立つ、人々に敬われる教会の顔か。
はたまた、自分が今立っている、人々を守るための結界を維持するための贄か。
「アレに選ばせる余裕があればよいがのぅ……」
教皇は小さく溜息のような呟きを零すと、再び執務に戻る為に、外の世界に背を向けたのだった。
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