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結局、仕事は1時間ほどで終了した。
一覧の作成だけでなく、用意された仕事の全て、だ。
後は司祭や司教のサインを貰うだけ。
「流石だね。君のお陰で助かったよ」
ペンを置き、ふんわりと柔らかく微笑む修道士に、白い男も穏やかに微笑み返す。
恐らく、此処に司教司祭が居たら驚きで固まるだろう。
だが今、此処には誰も居ない。
二人以外は、誰も。
「さて、助けてあげたのだが貴方は何か見返りにくれるのかな?」
「見返り?」
突然の言葉に、修道士はぱちくりと目を瞬かせる。
そしてしばし考えこんだ後、嗤う男に返す。
「私が君にあげられるものは、神より賜った力と、この想いくらいなのだけれど。
あぁ、あと、毛繕いもできるかな」
毛繕いという言葉に、男は思わずといった感じで笑いを零す。
「ふふ。私は余り獣型は取らないけれど……それでは、羽づくろいを手伝って貰おうか」
男が白い炎に包まれるのを眺めながら、修道士はソファへと移動する。
ゆったりと身体を預けて、ばさりと飛んできた一羽の白梟を膝へ迎えた。
白いふわふわとした羽毛に包まれる、丸い身体。
爪は太く鋭いが、足に痛みがないのは恐らく彼が気を使っているからだろう。
しばし見詰め合い、互いに迷うような間の後。
そっと……宝物を扱うように、修道士は鳥の顔へと指を伸ばし、その毛並みに指を埋めた。
強弱をつけて掻けば、梟は気持ちよさげに目を細める。
その顔のなんと幸せそうなことか。
泣きたくなるほどの幸せを感じながら、それでも何も言わずに毛繕いを続ける。
幸せだと……ずっとこうして居たいと、口にした瞬間、全てが消えてしまう気がして。
「いい腕だね。マッサージ師になれそうだ」
「ふふ。喜んでもらえて嬉しいよ」
名前さえ呼べずに、二人の時間を共有する。
どれくらいそうしていただろう。
ずっとマッサージを続けていた手が止まる。
同じように、梟も目を開けた。
「どうやら、マッサージは終りのようだね」
「そのようだ」
呟く梟に、修道士は寂しげな笑みを零す。
あと数分もせずに、この執務室の主達が入ってくるだろう。
堕天使と新入りの修道士が懇意にしていると分かれば、双方にとって良い結果にはならない。
「もう、行くのかい?」
「そんな顔をしなくとも、私はいつでも近くでこの部屋を観察しているよ」
梟は修道士の黒い柔らかな髪に頭を摺り寄せ、ばさりと羽ばたく。
そして、すいっと窓の外へ消えていった。
挨拶も、礼も言うまもなく取り残された青年は、しばし余韻に浸るように瞼を閉じた後、ゆっくりと立ち上がる。
「またいつか……」
無意識に呟きかけた言葉の先は、辛うじて働いた理性が飲み込んだ。
自分の立場を弁えれば、当然口に出来る言葉ではない。
想うことすら、本当は避けるべきことなのだろうけれど。
彼の姿に、気配に、温もりに。
込み上げて、でも言いたくても言い出せなかった、『愛』が、咽喉の奥で未だ燻っている。
侭ならない感情を持て余しながら、修道士に扮した智天使、ユーデクスは一度だけ、窓の外に目を向ける。
そして、想いを断ち切るように、仮初の自分に与えられた席へと移動したのだった。
end...
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