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 数度の痙攣。
 白く染まる世界。
 同時に体内に放たれる、濃厚な闇。
 臓腑が凍りつくような冷たい闇の力がジワジワと体に満ちていくと、あれほど自身を翻弄した欲を孕んだ熱も急速に引いていく。
 それに合わせるように、思考を支配していた白い影も再び霞み、闇に溶けて見えなくなった。
「……は、ぁ……はぁっ……ッ、……」
 残ったのは、泣き濡れて虚ろな心を持て余す、寂しい悪魔が一匹。
 結合を解かれ、唐突に体を開放されて床へ倒れこむ。

 立ち上がる力もない。
 身も心も無残に陵辱されて穢れきった裸体を闇に横たえ、リコリスは瞼を閉じる。

 暗闇。

 白い影は、その一点の影すら存在せず。
 あるのは、空っぽな世界と、酷い飢餓感だけ。

「ふ……ふふ……」

 笑いがこみ上げる。

 穢れのない純白?
 どんなに求めても、もう手に入らないそれに、いつまで自分はしがみつくつもりなのか。

 なんという情けない悪魔だろう。

 疲弊した気だるい体を起こせば、玉座に座る魔王と目が合う。
 愉しげに蔑むようにこちらを見て嗤う、魔界の王。
 その漆黒の闇を湛えた瞳に、リコリスは艶やかに微笑み返す。
 そして、請うようにその足に身を寄せ、強請るように己の欲望を擦り付ける。

 不敬であることを、承知の上で。
 肩に、軽く歯を立てる。

「……、!、ぐ……が、ぁっ!!」

 全身に走る衝撃。
 左腕を襲う熱い痛み。

 吹き飛ばされ、床に身を横たえたまま見上げた先には、千切れた己の腕を手にして、唇を歪める王の姿。

「ってぇなぁ……んなに壊して欲しいのか?」
 血が滴る腕に舌を這わせる彼に、リコリスは嗤った。
 淫靡で、妖艶で、虚ろな笑みを、浮かべて。

 自分の信じていた、光に満ち溢れた世界など、とっくの昔に壊れてしまった。
 残ったこの体が壊れたところで、一体何の不自由があろうか。

「魔王陛下の……お望みの、ままに……」

 掠れた声で、ようよう呟けば、再び衝撃が体を襲う。
 痛みに顔を歪め、血しぶきを撒き散らしながら、それでもリコリスは泣き笑いをやめなかった。

 もっと、もっと、粉々に壊れてしまえばいい。
 思考すらできないほど、粉々に、砕いてくれればいい。

 そうして、意識を闇に沈めるのだ。
 求めて、請うてやまない、小さく儚い光から目を背けて。
 心の闇に包んで、守り覆い隠すように。


 世界がもっと、壊れてしまわないうちに。



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