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「……、!!」
突然、首筋に走る痛み。
急に現実に思考を戻され、リコリスは痛みに呻く。
視線を上げれば、この世の全ての闇を凝縮したような漆黒の瞳が、こちらを見ていた。
「っ……へい、か……?」
痛みと、嬌声で掠れた声。
問いかけに、サタンは唇を歪めて、嗤った。
そこから滲むのは、まるで獲物を見つけた子供のような、残忍さの漂う暗い愉悦。
「余裕じゃねぇか」
「……余裕、など……ぐっ……」
噛み付かれた首筋を抉るように舌で嬲られ、リコリスは苦痛の声を上げる。
その様子を楽しげに眺めながら、サタンは囁いた。
優しく……そう、不気味なほど、優しく。
「何を考えてた? ……いや違うな。
誰 を 思 い 出 し て い た ?」
「!?」
一瞬で、まるで冷水をかけられたようにリコリスの体が強張り、固まる。
同時に、背筋を走る恐怖を伴う悪寒。
そう、何度も、何度も経験させられたそれは。
「陛下……!やめ……っ!!」
体内を突き上げられながら、同時に脳内をかき混ぜられる。
不快感と、嫌悪感と、言いようのない不安と、恐怖。
そう、恐怖だ。
多くの悪魔を恐れさせ従える、魔界でも指折りの大悪魔が、恐怖に脅えている。
「あ、あぁ……ッ!!」
追い出した筈の、吐き出したはずの白い影が、戻ってくる。
明確な形を持って、思考を支配する。
目を逸らせないほど、強く。
「……や、め……はっ……ぅ、く……ッ」
拒否するように瞼を閉じたところで、その幻影が消えることはない。
むしろ、より鮮明に、まるで目の前に居るような錯覚さえ引き起こす。
白。
この世で、最も美しい色を纏った天使。
自分とは正反対の、最愛の半身。
「……、ふ……ぅ、あ……」
体が、熱くなる。
彼を求める本能が、体を疼かせ、卑猥な熱となってリコリスを炙る。
苦しいのに、心は悲鳴を上げているのに。
悪魔となった体は、欲に正直で、際限がない。
欲情している。
記憶の中の、彼に。
この世の何よりも綺麗な存在を想いながら、穢すように己の欲を満たす。
その背徳感に、興奮する。
まるで、自慰をしているようだ。
堕ちた悪魔の胸を締めるのは、泣き叫びたいほどの罪悪感と、己に対する殺意にも似た嫌悪感。
「っくぅ、あ……ぁっぁ、……っ」
とめどなく涙を溢れさせながら、リコリスはきつく瞼を閉じ、突き上げられるたびに苦しげな嬌声を上げる。
「いい締め付けだなぁ、リコリス」
現実から目を背けようとする彼に追い討ちをかける、サタンの言葉。
高ぶる熱が、開放を求めて体内であらぶっている。
「へいか、……もぅ……ゆるし……っく、ぁ……」
普段ならば決してありえないはずの、懇願の涙。
開放したい。
けれど、今それをしてしまったら、穢してしまう。
誰よりも美しく、穢れのない純白。
自分に唯一残された、幸福の記憶さえも。
「ぶっ掛けてやればいいじゃねーか。なァ?」
耳元で囁かれると同時に、促されるように穿たれて。
── ○○○○○
記憶の中の、彼が、微笑む。
「ッ、あ、あぁぁっ……!!!」
悲鳴のような声を上げて、リコリスは熱を開放した。
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