リハビリもかねて、ちょっと昔やってた800字小説なるものを。
大体800字前後で、突発短編。
特にキャラも練っている訳ではないです。
故に、読みにくいこともあるかもしれませんが、ご勘弁。
尚、お題提供はひよこ屋様の「おもちゃ」より。
セットお題なので、残り4つ、まったり出せるといいな。
長いので折りたたみ
<ちいさなピアノ>
赤い光に染められた部屋の中、カンカンと響く、独特の高い音。
それを生み出すのは、細くて長い、綺麗な指。
滑らかに動いて、絶え間なくメロディーを奏でる。
床に座り込んだ君は、背を丸めながら、狭い部屋で一人、小さな細い鍵盤を叩き続ける。
上手になったね。
僕は、声にならない声で、賛辞を呈した。
けど、君は聞こえないふりで、無心にピアノを引き続ける。
足りない音を誤魔化して。
伸びの無い響きを誤魔化して。
時折彷徨う指先は、きっと、誤魔化しばかりが上手くなる自分への戸惑い。
消え入りそうな小さな音だったり。
荒々しい、今にもピアノが壊れそうな叩き方だったり。
時に悲しいメロディーで。
時に辛そうなリズムで。
鍵盤を叩く君の顔は、ここから見えないけれど。
でも、音で、響きで、心は伝わって来るんだよ。
ずっと、ずっと、僕は聞いてきたからね。
いつだって、気まぐれに、狭い部屋で開かれる、小さなリサイタル。
ただ一つ置かれたおもちゃのピアノで。
観客の代わりに、僕をピアノの横に置いて。
今はもう昔、優雅にピアノを演奏する名前も忘れた大人に憧れた、幼いあの頃のように。
いくらでも弾いていいよ。
僕は邪魔をしないように、静かに聴いているから。
満足したら、君はまたこの部屋を出て行くんだ。
君にしか開けられない、たった一つしかない扉を開けて。
大きなピアノで。無数の音で。
伸びやかに世界に響かせるんだ。
君だけのメロディーを。
そして、僕は、また、一人で此処に残る。
扉の向こうの、此処からは決して聞こえない君のメロディーを想像しながら。
君が疲れて戻ってくるのを、この広い部屋で、待ち続けるんだ。
忘れ去られないことを、君が戻ってこないことを、祈りながら。
夕焼けに照らされる、何も無い部屋。
あるのは、君と、僕と、ちいさなピアノ。
夜の帳が部屋を覆う頃には、きっと音も止むのだろう。
副題は書いている時の主なBGM。
どちらかというと、本人の覚書。
ご本家とは全く関係ないです。
しかし……改めて見ると、歌詞のようだ(笑)