お花シリーズ - 紫陽花5
「マズイな……」
車の中、司は呟いた。
助手席には、先ほどお礼に貰った小さな花束。
色も種類もバラバラのそれは、可愛らしい少年の代わりに、車内を明るく穏やかにしてくれている。
「……彩……」
信号待ち。小さく少年の名前を呟いて、ハンドルに頭を預ける。
頭の中は、花のような笑顔でいっぱいになっている。
「何をドキドキしてるんだ、俺は……アイツは生徒の一人だぞ……」
しかも男の。
しかし、振り払っても振り払っても、まるで初恋に浮かれる少年のように、彩の顔が頭から離れない。
清いだけの想像ではないところが、更に罪悪感を催してくる。
近くの民家の庭に咲く紫陽花がバックミラー越しに目に入り、彼は苦笑した。
「あじさい、か……俺には無理だな」
あの笑顔が曇るのを考えてしまったら、もう冷たい人には如何してもなれない。
かといって……。
「!!?」
後ろの車にクラクションを鳴らされて司は顔を上げ、信号が青になっている事を確認すると車を発車させる。
バックミラーの紫陽花はすぐに見えなくなった。
紫陽花のもう一つの花言葉、「移り気」。
司には当分、「移り気」が到来する気配もなさそうだった。
end.
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