お花シリーズ - 南天3

「……司、さん」

 会いたい。

『もう一回、彩』

 会いたい。

「司さん……ダイスキ」

 会いたいよ、司さん。

『俺もだ。 好きだよ、彩』



 それっきり、僕達は沈黙してしまった。

 話したい事はあるのに、何もない。

 暫く、お互いの呼吸だけを耳にする。



『……あんまり長話しても何だし。
 ……切る、な』


 別れの、切り出し。

 これが最後じゃないのは分かってるけど、ぎゅっと胸が痛くなって、僕は叫んだ。


「まって!」

 言ってから、戸惑った。

 引き止めたからには、何か話題がなくちゃいけない。

 でも、何も頭に浮かんでこなくて……早く何か言わなきゃ、この電話は切られちゃうのに……っ。


 縋るように向けた視線の先。

 ふと、赤い物が視界の端に映った。

 雪に埋もれた、赤い実……南天。


『彩?』

 訝しげな先生の声に、僕は慌てて声を出した。

「せ、先生、あのね」

『うん?』


「南天って、どういう花言葉があるの?」


 沈黙。

 先生の息遣いが、ちょっと変わる。

 分からない……というより、答えるのを戸惑ってるみたいな。

 僕の胸がドキドキして、痛くなる。

 聞いちゃ拙かったかな……?

「せんせ……」

 やっぱり、いいや……と続けようとしたその時、その言葉が聞こえた。


『俺の愛は増すばかり』


「……え?」

『だから……<私の愛は増すばかり>、だ』

「……先生、さっきと言ってる事違った、よね?」

 問いかけに、照れた沈黙。

『二度も言えるか』

 拗ねたような言い方に、思わず吹き出しちゃった。

 先生、ダイスキ。


 ダイスキ。 だいすき。 大好き……っ。


『明日帰ってくるんだったな?』

「うん」

『じゃぁ、明後日、店に行く』

 店……僕の家は花屋。

 つまり、僕に会いに来てくれるって事だよね?

『手伝ってるよな?』

「うん、待ってるっ」

 元気良く返事を返すと、先生は吐息で笑った。

 優しい笑顔が頭に過ぎる。

 それだけで、凄く幸せになる。


「……赤い実、沢山ついた南天を選ぶからね」


 だから、僕の想いも受け取って。


『楽しみにしてる』


 先生は、とても優しくて、とても嬉しそうな声で返してくれた。


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