お花シリーズ - 椿1

「あれ?」

 成長途中で、可憐な女子中学生と間違えられることも多い、可愛らしい顔に疑問符を浮かべ、幼い、けれども妙にしっくり来る仕草で首を傾げる。

 これでも れっきとした男で、高校一年生だ。

「んー……」

 その日、彩はいつもの下駄箱に違和感を感じた。

 彼はいつも、下駄箱の扉をしっかりと閉めている。

 なのに、今日は僅かに開いているのだ。

「きちんと締めてなかったっけ……?」

 彩は、少々躊躇いつつもその扉を開けた。

「う、わぁっ」

 途端、どさどさっと、まるで漫画のように幾つかのラッピングされた箱が足元に落ちてきた。

 全部で6つ。

 しかし、それなりの大きさの箱が狭い下駄箱に詰め込まれれば、扉が閉まらなくなっても仕方がない。

「ここ……男子校だったよね???」

 今日は2月14日、バレンタインであることは、父親から貰ったチョコレートで覚えている。

 母親がいない代わりに、彼の父は行事ごとに何がしかイベントをしてくれるのだ。

 勿論、それは本来女の子がするべきイベントでも変わらず、家族に女の子がいないのにひな祭りを祝うのも、当たり前のことだった。

 とはいえ、世間一般から見てそれが少し変わっている事を、彩はきちんと理解している。

 当然、バレンタインが日本において女子が男子にプレゼントするイベ ントであることも知っている。

「……僕宛、なんだ」

 添えられたカードには、見まごうことなく自分の名前が書かれている。男にモテても嬉しくはないのだが……。



 何とも不可解な気持ちを抱きつつ、彩の高校生活初めてのバレンタインデーが始まった。


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