お花シリーズ - 椿2

「……先輩達は、チョコ貰いました?」

 昼休み、いつもの温室で弁当箱を突きながら、彩は一緒に食事を取る『花組』に問いかける。

 生徒会会長の昴、副会長の聖、会計の立未は、高校入学時からその美貌で学園のアイドル視されており、3人揃って『花組』とか『華々(ハナハナ)』などと呼ばれている。

 最近は、その中に彩や、彼と同クラスの真弥も入っているのだが、まだ本人たちは知らされていない。

 ちなみに、今日は真弥は彼の事実上保護者になっている領真と一緒に食堂組だ。

「チョコ? 貰ったよ〜。10個ぐらい。多分、まだ増えると思うけど」

 真っ先に笑顔で答えたのは、立未だ。そして、その言葉に頷いたのは、聖。

「私もそれくらい受け取ったな」

「俺はないよ」

 そして、最後に意外な答を返したのは昴だ。

「えぇ!?」

「昴の場合、下駄箱に入っているものはボディーガードが処分するし、直接渡せる豪傑はまずいないからな」

「豪傑って……聖……」

 驚いた彩に、聖は説明をし、立未は苦笑いを返す。

「まぁ、チョコなんて貰っても困るだけだから、いーんだけどさ」

「そうなんですか……?」

「まぁ、お坊ちゃまは色々大変なんだよ」

 立未の揶揄に、昴は苦笑いするだけで何も言わない。

 もともと大きな会社の御曹司だとは聞いていたが、ボディーガードなどの単語が飛び出すほどとは思っていなかった彩は、なんとコメントしたらよいのかわからない。

「そういえば、彩ちゃんは先生に何か渡したの?」

「へ?」

 その上、突然矛先を向けられて、彩はさらに固まった。

 先生、といわれて結びつくのは、現在恋愛進行中の人だけ。

 それも、思い出すだけでドキドキしてしまうほど熱愛中だ。

 驚いて頬を染める彩に、立未はニヤニヤと笑みを浮べる。見れば、昴も同じような表情をしていた。

 聖だけは、相変わらずの無表情だ。

「へ? じゃなくて、チョコ。渡すんでしょ?」

 ほらほら〜と立未に突付かれ、彩は慌てる。

「え……と、どうしてですか?」

「どうしてって……」

 心底不思議そうな彩に、花組は顔を見合わせる。

 彩の方こそ、顔を見合わせたい気分だ。

「渡さないの?」

「だって、女の子が男の子に渡すイベントですよね? 外国では関係ないみたいですけど……僕も先生も男だし……」

「だからこそ、余計に関係ないんじゃねーか」

「愛を確かめ合う大切なイベントなんだろう?」

「まぁ、聖の認識が一般的かどうかはともかく、お互いにプレゼントしあったりするよね」

「そう……なんですか……」

 全然知らなかった。

 同性同士の恋愛どころか、恋愛すら初めての彩が知るはずもない。

 すっかり食事の手を止めて考え込んでしまった彩に、立未も聖も頭を捻らせる。

「今からじゃ、作るのも難しいよね」

「買うのも無理だな」

 そこで、唯一他人事のように食事を続けていた昴が、箸を止めて笑った。


  
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