お花シリーズ - 雪の花4

「俺も、帰すつもりは無い。今夜は、お前を離したくない」

 真剣な眼差しに微かな欲を込めて見つめてくる司に、彩は頬を染めて俯いてしまう。

 初心なそれは、しかし、男を煽り悦ばせるだけだ。

「さぁ、彩、ドコに行く?」

「…………言わせたいんですね」

「そう。だから教えてくれ、彩。ドコに行きたい?」

 口元を緩ませる司の目は笑っておらず、手はハンドルとギアを握っており、出発準備は万端である。

 彩は観念して、俯いたまま、目線だけを上に上げて意地悪な恋人を見た。

 所謂、おねだり目線という奴だ。それを本人が意図してやってるかどうかはわからないが。

「……ホテルに、連れてってください」

「了解」

 そして、瞬時に入れられるギアはドライブに。足はアクセルをしっかりと踏んで、ハンドルを握る手と別の手は彩の方へと伸ばされる。

 彩はそれを嬉しそうに微笑んで握り、半年振りの恋人との触れ合いを堪能する。

「やっぱり表通りは混んでるな」

「裏道を通ってきたんですか?」

「あぁ。彩を待たせるわけにはいかないだろ」

「……少しくらい、平気ですよ」

「寂しがるくせに」

「子どもじゃないんですから、そんなことありませんっ」

 頬を膨らませる彩に、司は不意に声を低くする。

「……本当に?」

 怒っているわけでないのは彩にもわかる。

 だからこそ、彩は意地を張れず、羞恥に苛まれる事もなく、素直な気持ちが口から出てくるのだ。

「…………ごめんなさい。嘘です。待ってる間、寂しくて仕方が無かった」

 言葉と共にぎゅっと握る手に力が込められ、あやすように司も力を込める。

「俺も、会いたかった。ずっと、彩に」

「よかった」

 当たり前の、期待通りの言葉に、彩の顔は素直な喜びを浮かばせる。

 やがて、車は駅に程近いホテルの駐車場に滑り込む。

 そして、司が見事なテクニックで車を素早く駐車させると、双方待ちきれない気持ちが溢れて、どちらともなく熱いキスを交わした。

「ふ、ぅっ……んんっ」

 溢れ絡まる唾液に咽を鳴らし、時折薄く目を開けて、貪り貪られる相手を確認する。

 言葉より雄弁な瞳。

 言葉よりストレートな口付け。

 離れたくないと、離したくないと二人は指先で互いに伝え合う。

「……んっは、ぁ」

 辛い体勢に体が悲鳴を上げ始めてようやく二人は顔を離し、余裕の無い自分たちに苦笑しあった。

「まだ、時間はたっぷりある」

「うん……今日は、ずっと傍にいてね」

 笑いあい、二人は車を降りる。

 手をしっかり握り合うと、二人は夢の城へと足を進めたのだった。


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