lucis lacrima - 2-6
目を開けたとき、クロエは一人、暗い闇の中にいた。
鼻を突くのは、青臭い匂い。身を起こすと、布が何も身に着けていない身体をサラリと滑る。
真っ黒なコートだ。
自分の下に敷いてあるのは、白いシーツ。傍らを見れば、地下室に入る前に脱がされた衣服が几帳面に畳まれて置いてある。
誰の仕業かは、敢えて気にしない振りをした。
未だ鈍痛を抱える頭を無理矢理覚醒させて、クロエは立ち上がり、衣服を身に着け始める。
最初にシラナギに会ってから、此処で何が行われていたか、正直あまり覚えていない。
ただ、部屋に充満する情事の匂いと身体に残る鈍い痛みだけが、知りたくも無いことをマザマザと教えてくれる。
身体の穢れは綺麗に拭われていたが、それにも目を伏せ、湯浴みをしようと考える。
そして、部屋に唯一の出口である扉に手を掛け、ゆっくりと引いた。
耳の奥まで響く軋んだ音は、扉が開いた音か、はたまた閉ざした心の扉の音か。
そんな他愛も無い考えに小さく笑みを浮かべ、クロエはフードを深く被りなおすと、足早に階段を上がっていった。
← →
第三章へ
戻る