lucis lacrima - 7-16

 会議の後、出兵の準備へ向かうシラナギと別れ、真っ直ぐにルグスの部屋にむかったクロエは、彼に、突撃が決まった事。そして、自分達は命令があるまで待機だと告げた。

 短いがとても重いその話を聞き終えると、良く出来た部下は静かに嗤った。

「で、隊長はどうするの?」

「……俺も、神宮に潜り込みたい」

「でも、待機命令が出たんでしょ?
 下手に他の部隊に合流しても、バレちゃうよ?」

「…………」

 尤もな意見に、クロエは黙る。

 方法は、きっと色々ある。ただ、どれもリスクを伴うだけで。

 リスクは最小限に抑えなければならないが、彼の中では、行かないという選択肢は何処にもなかった。

 それを理解しているのか、ルグスは言葉を続ける。

「やるとしたら、他の隊長達とは別の場所から進入するか……物陰に隠れて、突入真っ最中にこっそり合流するか、かな」

「物陰か……」

 進入経路は複数ある。神宮を囲む塀に設けられた扉の各所、及び、緊急用の地下経路、そして、何も無い壁を打ち壊して入る経路。

 恐らく、誰にも気付かれず別の進入経路を作るのは不可能に近いだろう。

 であれば、木の陰等に隠れて機会を伺い、進入するのが一番良い気がする。

 総隊長を含む数部隊が国王の元に警護へ向かい、残りはほぼ全て神宮へ向かう予定だ。突入は3部隊。各所に少人数で分けて突入する。

 残りは周囲で待機し、逃げ出した反乱軍を捕獲する。

 クロエ達は、そのどれにも割り振られていなかった。

 文字通り、戦力外である。

 そして、紛れ込んで突入するのは、本当に、兵が突入するそのタイミングのみだ。

 しかも、隊長が居ない場所を選び、上手く合流しなければならない。

「やれる?」

「何とかするしかないだろう」

 幸い、敏捷さには自身のある二人だ。隊長さえ何とかすれば、他の兵に見付かったところで、疑問に思われるだけで済んでいくだろう。

 突入の最中にそれを気にかけ、自らの隊長に報告する兵などまずいない。

 報告されたところで、既に自分達は神宮内で行動しているから、捕まえて連れ戻すだけの労力など他の隊長達は割かないはずだ。

 妙に自分に突っかかる、総隊長ならどうなるか判らないが。

 だが、今のクロエには、そんなことは些細な問題でしかない。

 それよりも、早く片割れと合流しなくてはいけないと言う、妙に焦燥感のある言いようのない不安を何とかしたい。

「入るなら、兵舎の扉か、壁だな」

 木が多く、身を隠しやすい兵舎と神宮を繋ぐ扉。

 もしくは、同様に木で身を隠しやすい、兵舎と神宮を隔たる壁の何処か、だ。

「各隊長の配置を見て、後は決めよう」

 今ある情報だけでは、隊長が何処に配置されているか皆目検討が付かない。

 クロエには、その情報は流れてきていない。

 シラナギに聞いたとしても、教えてもらえないような気がする。

 結局のところ、足を運んで、様子を見ながら合流するしかない。

「上手くいくといいねぇ」

 そうぼやいた部下の言葉は、まるで散歩の前のように能天気でクロエを呆れさせたが、同時に肩の緊張を解してくれたのだった。


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