lucis lacrima - 7-15

「以上。各自準備に取り掛かれ」

 計画を纏め上げた後、総隊長の言葉に全員が起立、礼を残して部屋を去る。

 ただ、椅子に腰を落としたクロエと、彼に近づくシラナギだけが部屋に残った。

 それは、まるで数日前の神宮侵略直後にあった会議後の光景だった。

「なんで、俺が取り残されなきゃならないんだ」

 沈黙の中、搾り出すような声が響く。

 無力さと、もどかしさと、不安と、苛立ちと……さまざまなものがない交ぜになって、胸の内に重い塊を落とす。

「日中では動けないだろう」

 冷静な返答に、縋る様な黒い瞳が向けられる。

「夜、奇襲すれば……」

「反乱軍は、恐らく奇襲にも用心している筈だ。であれば、日中でも夜でもそう変わらない。

 神官の体調を考慮すれば、日中に動いた方が効果的だ」

 実力で成り上がった、前衛隊長の言葉は説得力もあり、正しいのは判る。

 だが、頭では理解していても、心が納得をしてくれない。

 子供のように項垂れる青年を見下ろし、前衛隊長は呟いた。

「怖いのだろう」

「怖い?」

「国の中枢でお前が力を使い、あの村のように闇に広く闇に喰われたらと警戒しているのだろう」

「…………暴走するかもしれないって?」

 女子供ばかりの小さな村は簡単に潰せて、自分達の住んでいる場所は壊されたくないとは、随分虫のいい話だ。

 だが、戦争とはそういうものだということを、クロエはこの8年程の間に嫌というほど教え込まれている。

 人間とはソウイウ生き物。

 結局は、自分が大切な物を守れれば、それでいいのだ。

 そう、自分の大切な物を守れれば……。

 黙りこんだ青年が不穏な事を考えていそうで、シラナギは彼の頭をクシャリと手荒に撫でた。

「安心しろ。お前の片割れは俺が必ず連れ戻してやる。

 俺を、信じろ」

 だから無茶はするな。

 シラナギの言葉はクロエを微笑ませる事には成功したが、彼の心を引きとめることは出来なかった。


  
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