lucis lacrima - 春祭14
溶けてしまいそうだ。
熱に浮かされた頭で、クロエは思う。
溶けてしまえばいい。
突き上げる欲望のままに、シラナギは思う。
この体も、心も、何もかも溶け合って一つになる錯覚を覚えながら、しかし二人は皮膚という決して溶けない薄皮一枚の隔たりを挟んで存在する。
互いに互いの体を抱きながら、二人は高みを極める。
このまま、この体も心も一緒に昇りきって蒸発してしまえばいい。
そんなありもしない幻想を抱きながら、二人は無言で口付けを交わした。
「もう、祭は終わったのかな」
余韻の中、クロエは呟く。
答えを聞くまでも無い。もう、街明かりは大分と消えてしまっているだろう。
残っているのは、きっと酒場等の祭好きな荒れくれ者の多い場所ぐらいだ。
尤も、酒場などは毎晩お祭り騒ぎなのだが。
「来年も、花見できるといいな」
最愛の片割れと、片割れの大切な人と……そして、自分の大切な人と。
「次は寝過ごさないようにしないとな」
「……精進するよ」
髪を撫でる男の言葉に、苦い顔で答える。
それに笑みを浮かべて、シラナギはシーツを手繰り寄せてクロエごと抱き込んだ。
「折角交代してもらったんだ。体を休めておけ」
疲れることをしたのは何処のどいつだ、と胸のうちで呟きながら、クロエは掛けられたシーツに顔を埋める。
疲れた体は思考を闇へと導く。
そうして、温もりを共有しながら、二人は束の間の安らぎに身を委ねた。
ヒラヒラ、月明かりに照らされて春の花が舞い踊る。
儚いが故に美しいその片鱗は、音も無く闇色の地面へと墜ちていく。
そうして、安らぎの時間は静かに過ぎていった。
end.
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