lucis lacrima - 春祭13
「……、……どうなっても知らんぞ」
獲物の罠に嵌った獣が墜ちる。
激しい口付けを交わしながら後ろの秘孔に、青年の中心から滴る蜜を絡めた指をねじ込む。性急に指を増やしてかき回すと、慣れた襞は喜びに悶えて蠢いた。
「……あ、ぁ……イイ……シラナギ……!」
腰を揺らして悦ぶクロエが、もっともっとと自ら動いて感じるポイントに埋め込まれた指先を導く。
いつも以上に卑しくも猥らで本能に忠実なその動きは、シラナギの暗い嗜虐心を満足させて精神的な快楽を齎す。
「随分と積極的だな」
「……!」
冷水を浴びせるような言葉に、我に返ったクロエが動揺し、顔をこわばらせる。
だが、直ぐに内部で指を動かされ、背筋に走る刺激に悶えた。
「……だめ……ゃ……」
「もっと溺れろ。激しくして欲しいんだろう?」
「ちが……ぁぁっ」
揶揄されてクロエは激しく首を左右に振る。許して、と。これ以上猥らな自分を自覚させないで欲しいと、泣いて許しを請う。
だが、シラナギは詰る手を緩めない。
「欲しくないのか?」
中から指を引き抜き、猛る己を後腔に宛がい問いかける。
入り口をひくつかせながら、そんな自分に絶望した表情でクロエは涙を零して首を左右に振った。
「や、ぁ……ひど……」
「クロエ」
優しい手付きで目尻を拭う男は、しかし欲しい物を与えてはくれず、あくまでもクロエの返事を待っている。
下肢を、腰を、優しく撫でてくれるのに、肝心の快楽は置き去りのままだ。
「シラナギ……、も……」
ポロポロと泣きじゃくるクロエは、片腕で目元を覆い隠し、空いた手で男の二の腕に爪を立てる。
男の酷な行いを批難するように。
「大丈夫だ。大丈夫だ、クロエ」
子供を宥めるように繰り返し、繰り返しそう言葉を紡ぐ男に、クロエは腕の隙間から男を見上げる。
疑いの眼差しで。その先の救いを求めるように。
「……欲しいか?」
漸く目を合わせた愛しい青年に、男は慈愛の笑みを浮かべて問う。
嗜虐的な部分の無いそれに安堵したクロエは、頷く事で答えた。
その頬に口付けて、シラナギは漸く彼の欲した刺激をその内に埋め込む。
指とは違う、広がる痛みとそれを上回る快感に、クロエは背筋を振るわせた。
「……ぅ……あ、ぁ……っ」
いつもと変わらない、だが虜になる締め付けに、シラナギも息を漏らす。
それを薄く開いた視界で確認し、クロエは満足げに唇を緩めた。
この瞬間が、溜まらなく好きだ。
快感を覚えているのは自分だけではないのだと。自分が、この男に快感を与えているのだと感じて、安堵と悦びを覚える。
「動くぞ」
小さく宣言した男は、クロエの首肯を確認するとゆっくりと腰を前後に動かす。
内部が馴染むのに合わせて徐々に動きを激しくしていけば、擦れる熱が二人の体温をも上げていく。
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