魔王と救世主 - 1-1
昔々、あるところに、一人の青年がおりました。
青年は、大きな王国に属する小さな村の長の次男坊で、彼の家族には厳しいが暖かい父と優しい母、兄と妹がおりました。
青年は、体を動かすことが大好きでした。
そのため、家にじっとしていることが出来ず、いつも勉強時間に家を抜け出しては、父親の手を焼かせていました。
しかし、性根は優しく、村民達の畑仕事や牧場の世話に好んで手を貸したため、皆から大変好かれておりました。
青年もまた、自分の家族や、優しい村の人々をとても愛していました。
ある時、国中を大飢饉が襲いました。
何年も不作が続き、穀物も、家畜も、どんどん数を減らしていきました。
小さな村の長は、貧困する村民の税を減らし、村民も互いに助け合って何とか日々を乗り切っていました。
しかし、村が属する国の王は、税を減らすことを良しとしませんでした。
いつまで経っても税を納めない村に痺れを切らした国王は、小さな村に兵を差し向けました。
青年は、父と兄に庇われ、母と妹を連れて兵から逃げ回りました。しかし、途中で二人と離れ離れになってしまいました。
慌てて探した彼が、漸く彼女達を見つけたとき、優しかった母も、まだ少女だった妹も、無残な姿で冷たい地面に横たわっていました。
抱き上げて、どんなに名前を呼んでも、返事はありません。
それだけではありません。
元々、50人ほどしか居ない小さな村です。
兵など持たぬ村は、あっという間に火の海にされ、穀物も、家畜も、全て国に奪われてしまいました。
最後まで抵抗を続けた村民達は、わずかばかりの子供と女性を残し、皆殺されてしまいました。
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