魔王と救世主 - 10-8

 寝台の上で重なる、暖かい体。

 互いを抱き締める、力強い腕。


「セナ」

「セナドール」


 笑みを浮かべながら、自分を呼ぶ声。

 吐息さえ飲み込む、甘く深い口付け。


「……ずっと、傍に居てくれ」


 離れないように、行く先で見失わないように。


「安心しろ。死んでも、離さない」


 黄泉の扉を潜ったとしても、決して離さないから。


 片方の手で互いの手を握り締め、別の腕で互いの体を抱き締め合う。


 密着した体に安堵し、セナは意を決して口を開く。


「……始めるぞ」

「あぁ」


 セナは、瞼を閉じて、己の中に組み込まれた救世主の魔法を発動する。

 呪文などない。ただ、念じるだけでいい。


「……ッ」


 一瞬、頭の中で何かが弾けて、苦痛が襲う。

 向かい合う相手の顔を見れば、同じように眉を寄せている表情が見える。

 だが、視線が合うと、苦痛に苛まれながらも笑みが浮かんでしまう。

 握り合う手に、腕に、力が篭り、お互いを確認し合う。


 大丈夫。

 ちゃんと、傍に居る。


 激しい苦痛は次第に薄れて、同時に意識も遠くなっていって。

 聴覚が消え、視界が暗くなり、世界が遠くなって。


 旅立ちだ。


 何となく、思った。


 今居る世界から遠く離れ、二人で旅立つのだ。


 気が付けば、抱き締めあった体の温もりさえ、感じなくなっている。


 それでも、固く握り合った手の感覚だけは、いつまでも残っていて。


 迫り来る闇にも、恐怖は微塵も感じなかった。


 そして。


 最期の、意識、
  が、
   き え
    て



 次 ニ 目覚メタ
  時ニ

 目ノ 前
   デ

彼ガ

  笑ッ  テ
   イ マス

  ヨ ウ


   ニ


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