魔王と救世主 - 10-7
まるで、ゲームをするかのような口調で、魔王は明るく問いかけた。
互いに剣で差し違えるしか無いだろうが、上手くやらなければ相手を苦しめる上に、失敗する可能性もある。
確実に互いの息の根を止めるには、慎重にことを進めなければならないと、彼は妙な緊張感を覚えている。
だが、救世主は静かに体を起こすと、寝台の上に姿勢を正して魔王と向かい合った。
「それについて、一つ提案がある」
「うん?」
「救世主の能力の一つに、剣を使わずに魔王を倒す魔法がある」
二人で終わらせることを選んでから、ずっと考えていた方法。
「俺の命と引き換えに、お前を……倒す、魔法だ」
『殺す』……そう直接的な言葉を使うにはやはり躊躇いがあって、セナは慎重に言葉を選んでしまう。
「セナ……」
「成功どころか、試すことができないから……失敗するかもしれないが……お前の体を傷つけるよりは、ずっといい」
折角、救世主らしい特権が与えられているのならば、使わない手は無い。
「だからもう、お前は、俺を道連れにするなんて、思わなくていい」
聖母のように微笑む救世主に、魔王は子供のように泣きそうな顔で首を振り、視線を逸らした。
どんなに優しくされても、やはり罪悪感はある。
「お前を巻き込むのは、確かだ」
「違う。お前が俺を殺すわけじゃない。俺が、お前を倒すんだ」
ただ、結果として、共に終焉を迎える、というだけで。
セナドールが、罪悪感に捕らわれる必要など、何一つないと、セナは言葉を重ねる。
その必死な様子に、セナドールは苦笑交じりの笑みを浮かべる。
「……お互い様、というわけか」
「……そうだな」
セナドールはセナを手放せず、セナはセナドールから離れられない。
互いの利害が、一致した結果だ。
相手を欲しているのは、己だけではない。
「だが……俺が魔王でなければ……お前をこんな目に合わせなくてすんだのにな」
「お前が魔王でなければ、きっと、出会えなかった。俺は、一生、幸せを知らずに終わっていた」
相変わらず苦しげに眉を寄せるセナドールに対し、セナは諭すように言葉を紡ぐ。
その悟ったような言葉に、魔王は意地の悪い笑みを浮かべて見返した。
「さっきは、出会わなければ良かったとか言ってたくせに」
「……あれは……お前が酷いことを言うからだ……」
あの時の気持ちを思い出すと、胸が痛む。
「悪かった。セナ。泣くな」
「大丈夫だ。泣いてない」
不安げに抱き締めてくる青年の体を抱きとめて、セナは笑みを浮かべて返した。
もう、不安に視界が涙で滲むことは無いだろう。
先に来る未来を想えば、もう、何も怖いことなど、一つもなかった。
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