魔王と救世主 - 11-2

 散々啼かされ、立ち上がれないほど性を食い尽くされたセナは、ベッドの上でセナドールに作らせたスープを啜りながら、そういえば、と朝見た夢の内容を思い出す。

 そして、ベッドの傍らにテーブルを持ってきて、同じように食事をしているセナドールに向けて、口を開いた。

「今日、変な夢見た」

「夢?」

「うん……僕が救世主で、セナドールが魔王の夢」

 その言葉に、赤毛の青年は紫色の瞳を驚きに揺らす。

「…………俺もだ」

 そして、搾り出すように呟いた。

 部屋に下りる沈黙。

 それは、二人が見た夢が同じ内容であると語っているような、少し重いもので。

「変な偶然だね」

「まぁ、昨日、親父達にあんな話を聞いたからかもしれないな」


 20年以上も前に実際にあったという、魔王と救世主の話。

 伝説として語り継がれているそれを、セナドールの両親は近くで全てを見ていたらしい。

 今、セナドールは彼らと別れセナと二人で暮らしているが、同じ村に住んでいるため、毎日のように顔を合わせ食事に誘われる。昨晩も、そうして遊びに行ったのだ。

 そして、名前の由来と共に全ての事実を聞いた。

 セナドールは、魔王の名前からつけられたものであること。偶然にも、救世主の名前は『セナ』であるということ。

 因みに、セナドールと同居しているセナの名前は、彼らが住んでいる村に貢献した一人の魔物の名前から取ったのだと、名付け親である村長に聞いている。

 もう20年以上姿を見せていない魔物を、称える意味で。
 最後に現れた時に一緒に連れていた、魔物と同じ名前の神父と、生まれたばかりのセナの毛色が良く似ていたというのも、この名前を付けた理由の一つらしい。

 その村に貢献した魔物こそが魔王で、神父が救世主だったというのは、セナドールの両親と、話を聞いた子供達しか知らない話だ。


「……もしかしたら、僕達、生まれ変わりだったりして」

 冗談交じりで笑うセナに、セナドールは呆れ顔で首を左右に振る。

「んなわけあるか。偶然だよ、偶然」

 僅かに残ったスープを飲み干し、セナドールは立ち上がる。

 慌てて同じように飲み干したセナの器を受け取ると、彼は立ち上がれない最愛の青年の頭に手を乗せ、優しく笑った。

「畑、見てくる。日が沈むまでには戻るから、ゆっくり休んでろよ」

 夜を楽しみにしてる。紫の目を眇めて笑う淫魔に、美しい獲物は心底呆れた顔で肩を落とした。

「無茶言わないでよ……もう、今夜はムリだって……」

 そう言いつつも、結局流されるんだろうな、とセナは半ば諦めながら、ベッドの上から青年の背中に手を横に振る。恋に落ちたら負け、とはよく言ったものだ。

 ふいに、扉を出て行くその背中に不安を覚えたセナは、気付けば口を開いていた。

「セナドール!」

 自分でも驚くほどの大声で、赤毛の青年を呼び止める。

 赤毛を揺らして、振り返る紫の瞳。

 なのに、その顔に夢で見た魔王の影がチラついて、セナは溺れそうな不安の中で喘ぐように、問いかけていた。

「ずっと、傍に居てくれるよね?」

 泣きそうなその表情に、セナドールは夢で見た救世主の顔を重ねながら、安心させるように微笑む。

 そして、力強く頷いた。

「安心しろ。死んでも、離さねぇよ」


 そうして、魔王と救世主と同じ名を持つ若い二人の青年達は、幸せの中で笑い合った。


end...


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