少女遊戯・五重塔編


 

 階段を上った。

 「うわあ…」そこは、通常の迷路とはまったく違う、とてつもなく広い空間であった。

 それまでずっと、息の詰まる迷路であった。ずっと廊下を歩いているような道が続いていて、正直、閉塞感があるのは確かだった。…相当慣れてしまっていたが。

 しかしこうやって、久しぶりに広大な空間に出てみると、強烈な開放感と、めまいのするような迫力に圧倒されてしまう。

 天井がはるかに高い。2,30メートルはあるだろうか。

 全体がぼんやり光っていて、天井まで青白くほのかに輝いている。迷路のような仕切りはなく、フロア全体がだだっ広い広大な部屋になっている。

 しかし何よりも目を引くのは、その広大な空間の中央にそびえ立っている、巨大な塔であった。

 フロア全体を照らすほのかな光は、この塔から発せられたものであった。

 「…塔の中に…塔があるのか…」

 そう、このフロアは特殊で、塔の中の一ステージに、これまた巨大な塔が入っているのである。

 広さは、フロアの半分以上を占めている。高さは、ほとんど天井に届きそうな勢いだ。

 よく見ると、塔のてっぺんから細い柱のようなものが伸びていて、天井と繋がっている。おそらくは、あそこにハシゴがあって、上に行かれるようになっているのであろう。

 やっぱりこの塔に入らなければならないわけか。

 念のために走って周囲を確かめてみたが、やはりこのフロアは塔以外には何もないみたいだ。すべてはこの塔の中にあると確信せざるを得なかった。

 塔の入り口に立つ。ここは一体どんな女敵が出没するのだろうか。

 「ふっふっふ。よくぞここまでたどり着いたものだ。」「!」

 上を見上げると、最上階部分にスピーカーがあって、そこから女性の声が聞こえてきたのだった。

 オレンジ色の声は、どこか聞き覚えがある。なつかしいような、いやな感じのような。。。

 「ここに来るまで一体何人の女をイかせてきたのやら。その間一度も、その女の肉に負けて射精しなかったのはほめてやろう。」

 「あっ! 思い出した! その声は…姉さん!?」

 間違いない、小さい頃から僕を精神的にも肉体的にも性的にもいじめてきた、実の姉の声であった。

 「我が弟ながら、よくぞここまで成長した。ふっふふふ…」

 姉さんは、僕より7歳年上で、数年前、さんざん男をとっかえひっかえし何股もかけたあげく、ぽっと出てきた金持ちの男に乗り換えて結婚してしまった。それから一度も会っていなかった。

 弟から見ても、背が高くスタイルが良く美人であるが、とにかく性格に難があって、さんざん苦労したのであった。

 「久しぶりね。」「姉さん…」なつかしい思いもあるが、このステージに姉さんがいること自体、とってもいやな感じだ。まさかと思うが、姉さんと戦わなくてはならないということなのだろうか。

 「あんたの大好きな姉さんとの久しぶりの対面なのよ。何か言いたいことはないの?」

 「…毎日のように洗面台で頭を洗っては髪の毛で排水溝を詰まらせるのはやめてくれないか。」「うっさい!」

 「…バウムクーヘンを一枚一枚剥がして食べるのはやめてくれないか。」「師ね!」

 とにかく姉さんは、小さい頃から僕を人間扱いしてこなかった。僕は彼女の奴隷であり、おもちゃであり、ストレス解消のための道具にすぎなかった。今思い出しても腹が立つ。

 「アンタだって、中学生の頃、風呂上がりの私の体を見て夜な夜なオナニーのオカズにしてたくせに。」「う゛…」

 「そ、それは姉さんがパンツ一丁でうろつくから…」「すでに大人になったぴちぴちギャルの姿を記憶にとどめて姉ちゃん姉ちゃんいいながら自分の部屋でちんちんをしごいていたのは誰かしら?」「くっそ…」

 恥ずかしいことを思い出させやがって。

 「あと、私と友達の4人で写っている水着写真がなくなっちゃったと思ったらアンタの部屋になぜかあったのよね。」「うぐっ…」

 「で、誰で抜いてたの? もちろん私よねえ。」「いや、むしろ加奈さんが中心…」「あ゛あ゛!?」「いえ。。。姉さんです。」「そうでしょうそうでしょう。ほっほっほ。うい奴じゃ。」

 くっそ。逆らえん。

 とにかく、その恥ずかしい過去は中高生の時限定で、そのあと姉さんの結婚があり、多くの男が無残にも泣かされた現実を知って、激しく幻滅し、それ以降彼女のことは半ば忘れたも同然であった。

 会いたくなかったなあ。。。

 ともあれ、姉さんは結婚してから何年も経っていて、おばちゃんとまではいかないが、相当妙齢になっているはず。たぶん子供もそこそこ大きくなっているだろう。

 そんなのと戦わないといけないのかな。近親相姦だし。今までのどの敵よりも戦いにくい。ものすごくイヤなんですけど。

 「何よそのいやそうな顔は。」「イヤなんですけど。」「安心しなさい。今の私は若返って、21歳のぴちぴちレディよ。30代の人妻が持つ色気と熟練テクニックに、若い肉体がプラスされ、完璧なんだから。」「性格は?」「頃すぞ!」

 中身は変わっていないらしい。いよいよイヤなんですけど。

 「じゃあ、姉弟のよしみということで、何も戦いとかなしに僕を上に上げてください。」「はあ? 寝言は寝ても言うな。お前はここで果てるのだ!」「え〜…」

 とてつもなくイヤなんですけど。

 「見てのとおり、このステージは五重塔になっている。上に行きたくば、この塔を上り、私のところまでたどり着かなければならないッ!」

 たしかに、この塔は5階建て。鉄筋ビルではあるが、ところどころ和風の装飾がある。まさしく五重塔と呼ぶにふさわしい。

 「それぞれの階は二部屋になっていて、すべての部屋を通らなければ最上階にたどり着けないようになっているわ。そして…」

 ん? 5階建ての塔で、内部はそれぞれ二部屋ずつになっているのか。ッてことは、全部で10部屋ある計算になるな。

 「それぞれの階には、強力な私の配下の女たちが待機している。あなたはその女たちと戦い、勝った場合のみ先に進むことが許される。」

 なるほど。だいたいの構造は分かった。それぞれの階に姉さんの配下の敵が待ち構えていて、そこで組み手をし、勝った場合に上に上るわけだな。

 「一部屋目は一対一の戦い。二部屋目は一対複数の戦いとなる。一人でも強力な性豪なのに、複数となればまず勝ち目はないわ。しかもそれが4種類もいるんだからね!」

 まさに少女遊戯というわけか。上に上り詰めるチャレンジャーだ。普通なら戦慄を覚えるところだが、これまでも幾多の女たちを倒してきたんだ。勝ち目がないわけじゃあない。

 「さあ、この最上階を越えて先に進みたければ、私の配下の屈強な戦士達を乗り越えなさい!」「いいだろう。性戦士として、この卑猥な五重塔を乗り越えてみせる。」「ふっ。試練の誘惑塔が、あなたの快楽の園となるのよ。せいぜい踏ん張ってご覧なさいな。いっぱい悦ばせて、あんたのプライドもガマンもすべて打ち砕いてみせるわ!」

 正直、姉さんと戦うのは気が引けるが、先に進むにはそれしか方法がないみたいだ、やるしかない。

 「じゃあ、私は最上階で待っているわ。特別な趣向も用意してある。…最後に、イク前のまともな精神の弟に聞いておく。何か伝えておくことはない?」

 「伝えておくことだと?」

 「この異世界に、私は若い肉体をもって飛ばされているの。私が眠って夢を見ているという形でね。それは一方では、かりそめの姿であり、私が眠りから覚めて現実に戻れば、その時の記憶はすべてなくなってしまう。」「?」

 「つまり、この私は、『ないと・めあ』が用意したニセモノの肉体ではなく、まぎれもなく本物の姉そのものと言うこと。」「!!」

 「体も心もまぎれもなく本物よ。ただし、レベルとテクニックと年齢は現実よりもずっと強化されているけどね。」そうか、顔見知りの人がこの世界に来るということは、ニセモノの体ではなく、本当にその人の肉体が飛ばされてくるんだ。

 ただ、その人が世界の構造を瞬時に理解し、僕に戦いを挑んでくる反面、夢から覚めて元の現実世界に戻ったら、その記憶はなくなってしまう。

 じゃあ、やっぱりこの姉さんは、本当に若返った姉さんそのものなんだな。現実世界の縛りがなく、『ないと・めあ』の配下となっているから、相手がたとえ弟でも、あるいはたとえ僕を現実世界で嫌っている女性であっても、容赦なくセックスバトルを挑んでくるんだ。

 「最後に伝えておきたいことがあれば、聞いておいてあげるわ。そのメッセージだけは、夢の記憶に残しておいてあげる。」

 「…バームクーヘンを食べる時に一枚一枚剥がすのはやめてくれないか。」「…絶対射精させてやる!!」

 ブツ。スピーカーから音声が途切れた。そして入り口の扉が開いた。数日前まで体も言葉も愛し合っていた男にいきなり電話で「結婚するからもう会わないでね」とか平気で言うような女に、いまさらメッセージなんてあるものか。身内ながらそれだけは今でも許せない。

 記憶はなくなるとはいえ、やっぱりここでキッチリけりをつけて、日頃の行いを反省させてやる。


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