スペースバンパイア1−2
 

 ここは”右手法”だ。迷いやすい迷路は、壁に右手をつけて進むイメージで、右の壁伝いに進んでいく。するといつの間にかステージ全体を回ることになるし、出口も見つけやすい。すくなくとも、同じところをぐるぐる回る心配はなくなる。右側に何もなければ、左の扉のところに戻れるというわけだ。

 僕は右の扉をタッチして先に進んだ。電気がついておらず、真っ暗だ。いよいよ怪しい。自動で後ろの扉が閉まると、本当に真っ暗闇になった。まずい、失敗したかな…?

 ブゥ…ウン…

 周囲の壁に電源が入り、通路全体が明るくなった。人が来ると電気が来る仕掛けか。「…!?」こ、これは…!?

 目の前は壁だった。左右も壁だ。後ろは扉である。つまり、僕の周囲数十センチ四方、壁に囲まれてしまっていた。罠だ。とっさにそう思い、後ろの自動ドアに手をかけるも、これは一方通行らしく、いくら触れても開かなかった。

 ブーン! 周囲に電子的なブート音がした。驚いて振り返ると、まるでホログラムのように目の前に女があらわれた。”それ”はあっという間に実体化し、スタイル抜群の全裸の美女の姿となった。これは幻影なんかじゃない、本物の敵だ。にわかに緊張感が走るも、突然の展開に出遅れてしまった。

 美しい顔立ちの女は大きな瞳でじっと僕を見つめている。西洋風の、それでいて東洋的な凛とした美しさまで兼ね備えた美女は、薄笑いを浮かべて大きく呼吸しながら、僕を見つめ、黙って立っていた。胸が大きく、腰がくびれている。そこから下は見えなかった。

 もちろん、彼女にも足はあるようだ。そこまでちゃんと実体化している。が、僕の視線は彼女の腰から下に行くことはなかった。否それどころか、僕よりわずかに背が低いだけの美女と見つめあいながら、その視線から一瞬たりとも目をそらすことができなくなっていたのだった。黒い瞳の奥が宇宙空間で、吸い込まれていく感覚に陥る。見つめあえばあうほど引き込まれていって、もはや彼女以外が見えなくなっていた。

 まずい、この感覚は間違いなく魅了攻撃だ。しかも…バンパイアのような有無を言わせぬ魔力によるのではなく、もっと別の直接的な力が働いている感じだ。詳しくは分からないが、何らかの超能力のような、つまり僕の魔力で防ぎきれない吸い込む力が働いていて、僕はもうそこから逃れられなくなっていたのだ。

 思い出したぞ。昔映画か何かでみたことがある。スタイル抜群の美しい容貌、宇宙船のようなステージ、無言で性的に誘い続ける瞳…コイツはバンパイアだ。しかも、宇宙をまたにかけて異性の精気を吸い取って永遠の命を得るスペースバンパイアってやつだ。エイリアンの一種で、星にまぎれて精気を吸い続け、滅ぼしてしまう恐ろしい敵である。宇宙探査員が地球にこいつを持ち帰って、町中ゾンビになったっていう設定だったはず。

 そう、だ…この女と目を合わせた瞬間、その瞳に釘づけになり、見つめあえば見つめあうほどどんどん引き込まれ、吸い寄せられてしまう。全裸のセクシーな女の怪物である。心奪われ、朦朧とした中で彼女と唇を合わせた瞬間、精気を抜き取られてしまう。そのあとは枯渇し、ミイラだかゾンビだかになって干からびてしまう。

 あんなミイラになるのはイヤだ。僕は何とかして彼女から目をそらそうとしたが、もはや自分の体が言うことを聞かず、顔を背けることができなくなっていた。一瞬でも目が合ってしまえば、もう逃れることができないのだった。

 やっぱり罠だった。周囲が壁の狭い空間に閉じ込められ、一方通行の自動ドアに気をとられている隙に、背後に突然スペースバンパイアが現れる。どうしたって戦慄して後ろを向き、次の瞬間には彼女を見てしまうではないか。目が合うのはもはや必然だった。

 スペースバンパイアは肩で息をしながら乳房を強調し、じっと僕の目の奥まで見つめ続けている。魔法がかけられたときのような、彼女の魅力に心底ほれ込むようなことはなかった。頭の中に魅力的な姿がめぐったり、心が犯されたりというわけではない。深層心理が警鐘を鳴らしてもお構いなく精神に侵食する魅了魔法とは明らかに違うものだった。

 意識はたしかに朦朧とし、思考は鈍る。しかしそれは、魔法にかかるというよりもむしろ、催眠状態に陥るというほうが近かった。このまま見つめあっていればどんどん吸い込まれてしまうことも頭で理解できる。しかし分かっているのに、見えない力が働いて、彼女から目をそらすことができないでいるのだった。

 ついに体が勝手に動き始めた。視覚以外、五感が働いていない。何も聞こえないし、自分が足を一歩前へ進めた感覚も、足の裏にくっつく床の感触もなくなっていた。あとは、目の前にいるスペースバンパイアのほうにただただフラフラと吸い寄せられていくばかりであった。

 スペースバンパイアは腕を開いて僕を受け入れる。僕は彼女の背中に腕を回し、そのぷるんとした唇にむしゃぶりついた。ああ…ついにキスをしてしまった。催眠状態なら、一方では自分の意識や思考が残っている。キスをする直前に目を閉じたため、その意識がはっきりした。まともに思考できる状態でありながら、しかし自分の本来の意思に反した行動をとってしまう…これが催眠や超能力の恐ろしいところだ。

 次の瞬間、僕の目はふたたび大きく見開かれた。すぐに離れないといけないと思った次の瞬間、放電が始まった。彼女のスベスベの腕が僕の背中に回ってガッチリ密着し、離れなくなっている。

 バリバリバリバリ! 正体不明の放電が僕と彼女を包み込み、狭い部屋に一瞬で充満する。すると自分の腕を彼女の背中からはがそうとしても、また彼女の体から離れようとしても、磁石のようにぴったりくっついてしまっていて、決して引き剥がすことができなかった。

 放電はプレジャーボルトではない。が、僕の心を落ち着かせ、安心させるような、安らぎの力を秘めていた。バリバリと轟音を立てる、この青白い光の帯は、僕とスペースバンパイアの混じりあった生命エネルギーが具現化したものだった。彼女の体から放出され、僕の体にはいったエネルギーは、僕のエネルギーを体外に引き出していく。同時に磁石のような効果を発揮し、肉体を密着させてはがれないようにするパワーもあった。そうやって僕の体から強制的に削りだした精気は、どんどんスペースバンパイアの体内に取り込まれていく。そしてまた彼女の体からドレイン光線が放出されていく…そのくり返しだった。

 彼女のエネルギーが僕の体内を駆け巡ると、じわりとした性感の疼きと、それ以上の安心感・脱力感を誘う。精気を奪われているのだから力が抜け、生きんとするストレスも削り取られるために、心地よい安堵の感覚に包まれてしまうのだろうか。こうしてすべてをスペースバンパイアにゆだねてしまうことになる。

 キスをしている僕の口から、ひときわ激しく青白い光が放出され、スペースバンパイアの口に流れていった。彼女は僕の頬をスベスベの手のひらで撫でさすりながら、舌をねじ込んで、激しく吸引してくる。

 放電はまず僕の精神的な壁を壊し、安らぎの中で脱力するよう仕向けていた。そして、完全に抵抗を奪い終わると、激しくキスをしながらますます激しくドレイン攻撃を仕掛けてくる。

 はじめの2、3秒は僕を脱力させるばかりで、性感神経は安堵のうちに眠っていたのだが、キスが激しくなってくるにつれ、彼女の顔がグリグリ動くようになって、とたんに全身の性感神経が強く刺激され始めた。といっても、PVのような直接的な刺激ではなく、体の奥からどんどんこみ上げてくるような、性欲の強い疼きを引き出すタイプのものだった。股間の奥がずんと重くなるような、そこからくすぐったい感覚が全身めがけて一気に噴出してくるような、甘い刺激だった。

 スベスベの女体が密着している部分はとくにくすぐったい。彼女は触れた場所ならどこからでも精力を吸収することができる。つまり、抱き合っているだけで感じてしまい、徐々に精力を奪われ、やがて射精にいたってしまうのだ。たとえペニスに触れていなくても、やがては脈打ってしまうだろう。

 ペニスは大きく反り返ってスペースバンパイアと密着している。だが、ペニス部分がオンナ表面にわずかに当たっているだけで、挿入どころかそれ以上スマタも、体を蠢かせることもしてはこなかった。それなのに、その部分からのドレイン効果で、股間がお尻の奥まで強いくすぐったさに包まれてしまっているありさまだ。女体のスベスベやわらかい感触が心地よいだけではなかった。

 …といっても、吸収しやすくするためだろう、股間に当たる女性器部分から、もじゃもじゃした毛の感触がいっさいなく、つるぷにのやわらかさが押しつけられている。つまりスペースバンパイアはパイパンだったのだ。ドレイン能力に加えて、このことが精力消費に大きく一役買っているのは間違いない。

 スペースバンパイアはペニスへの刺激をメインに攻撃してはこない。むしろいまは、もっぱらキスだけで僕をミイラに仕立て上げようとしている。体の奥から込み上げる鈍い性感の束は口へと押し上げられ、彼女の唇へと吸い上げられていく。セックスをしているときのような直接的な快感はそれほど大きくはないが、じわじわと熱くなっていく全身が、心地よく脱力を促しつづける。このまますべてを奪われてもいいような気さえしてきた。

 肩も足の裏も、直接さすられるような刺激がないのにジワジワ痺れるような心地よさに包み込まれている。反撃をしようにももはや指一本動かす力さえ出せなかった。

 彼女と唇を合わせてから10秒も経っていない。しかし股間の奥が強く疼き、突然あふれ出してきた。百戦錬磨で相当高い精力を誇っていた僕だったが、それもものの何秒かですべて奪われてしまっていた。

 ペニスが脈打ち始める。イク時の強い快感が伴っている。ビクンビクンとペニスが反応し、スペースバンパイアの下腹部の肉に当たって蠢いているのが分かった。間違いなく僕はイッてしまっている。

 しかし精液が出る気配はなかった。ペニスが脈打っているだけで、体液が放出されない。それどころか、カウパー一滴たりともにじんではいなかった。それもそのはず、精力の凝縮である精液はすべて生命エネルギーに変換され、口から放出されて、スペースバンパイアに吸い取られてしまっていたのだから。だから、僕はイキながら射精できず、その分のエネルギーは口から飛び出していて、射精しつくして脈打ちが止まることもなければ、玉袋内部が枯渇して出せなくなったり痛みが出てきたりということもない。

 つまり僕は、たえずペニスを脈打たせたまま、全身の生命エネルギーを吸い取られ続けることになるわけだ。脈打ちが始まってから、全身を貫く快感は格段に強烈なものとなった。イクときの気持ちよさが加わったため、生命エネルギーが奪われるスピードが一気に速くなる。全身の心地よい吸収は威力をはるかに増して、加速度的に奪われていった。

 実際、脈打ちのスピードは速くなる一方だった。あまりに気持ちよければ脈の速さが倍近くになって、強烈なくすぐったさが股間から全身に広がるものだが、それ以上のスピードでいまペニスが脈打ち続け、どんどん早くなっていっているのだ。イク快感が多くのエネルギーを放出させる結果となり、その快感が肉体にフィードバックされて一層強い射精感に繋がる。精液は出ないが、僕はイキ続け、さらに快感が強まる循環に陥っている。

 連続してイッているというだけではない。それだけなら一定の快感が持続するだけだろう。イッている途中でさらに絶頂を迎え、快感が倍増しているのだ。それもどんどん重なって絶頂し続けるから、脈打ちのスピードも加速度的に速くなり、それだけ加速度的にエネルギーがドレインされていく。奪われるほうは快感に我を忘れてイキ続け、喜んでエネルギーを提供するし、スペースバンパイアのほうも長くキスすればするほど一度に大量のエネルギーを奪うことができて効率的だ。

 電気ドリルのようなスピードでペニスが脈打ち、おかしくなってしまうのではないかと思い始めたころ、突然スペースバンパイアは唇を離した。完全に脱力しきっていた僕はその勢いだけで仰向けにゆっくり倒れた。気づかなかったが、天井が鏡になっていた。その一瞬、おそろしい姿を見た。映画でみた時のような、茶褐色のミイラが、せつない目で見上げている。全精気を吸い尽くされ、枯渇した自分の姿だった。

 渇いた体が仰向けに倒れる。その瞬間全身にひびが入った。ああ、このままくだけてしまうのか…キスをしてわずか30秒、回数に直して数百回は絶頂していただろう。その心地よさは、通常の射精では絶対に味わえない最高の天国だった。このまま壊れても悔いはない、かもな。

 …あれ…!??

 こんな姿になってどうして、まだ意識がしっかりしているのだろう。よく見ると、ヒビの生えたミイラの体が修復を始めている。肉が見る見る盛り上がり、僕はだんだん元の姿に戻り始めている。力も戻ってきた。

 すぐそばで妖しい笑みを浮かべながらスペースバンパイアが見下ろしている。思ったとおりパイパンだった。

 ああ、そうか…ここは異世界だから、僕がここで死ぬことはありえないんだった…。物理的なダメージは自動で修復される。エネルギーが枯渇しても元に戻るんだ。しかも…ここでのゲームはイッたら負けで、その後永遠にこの世界をさまようことになる。ミイラになっている場合じゃないというわけか。ということは、そのあとはつまり…

 体が元に戻った瞬間、激しい性欲がこみ上げてきた。そのタイミングを待っていたスペースバンパイアは、僕に跨っていきなりペニスをオンナにあてがった。すかさずパイパンオンナの中に飲み込んでいく。

 「ここでのドレインはキスの威力をはるかにしのぐのよ。覚悟してね。」また放電が始まる。今度は直接ペニスから強烈にエネルギーを吸引するため、じめっとした精液が超スピードの脈打ちとともにオンナに放出されていく。たしかに吸収能力はキスをはるかに上回っていた。通常ならキスだけで全精力を奪いつくせる実力があるから、めったに挿入には持ち込まないんだ。

 こんどは、僕の体がミイラになることはなかった。肉体が改造され、いくら出しても精力を奪われても、一瞬で回復する体になったからだった。したがって、さっきのような重複絶頂がもっと早いペースで、しかも何十秒どころではなく永久に訪れ続け、スペースバンパイアの体で気持ちよくなり続けることになるのだ。

 スペースバンパイアは激しく精を吸引しながら、さらに快感を与えて大量の精を吸い取ろうと、妖しい腰をくねらせ上下させる。形のいいくびれた腰がひねられ、下腹部が動きをなまめかしいものにしていく。大きな乳房がたえず揺れ続け、その瞳が僕を魅了し続けた。

 僕は飽きることのないスペースバンパイアとの密室を愉しみながら、何も考えられなくなっていった。

###ゲームオーバー###

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