スペースバンパイア1−1


 古めかしい古城を歩く。ひたすら歩く。上に行ったり下に行ったり、地下にもぐったりしながら、迷路のような場内を歩き回った。進めば進むほど、上下する頻度が徐々に上がっていくみたいだった。やはり城の中心部に向かって歩いているのだな。思ったよりも広大な城の中で、不気味な薄暗い廊下や階段を、ロウソクの光だけを頼りにさまよい続けるのだった。

 古城にふさわしく、ここに出てくる敵はアンデッドモンスターだ。バンパイア系の敵というわけだ。普通のバンパイアは、あの赤い瞳を見なければさほど苦戦せずに勝てるようにはなっている。中級のキョンシーにも負けないくらいの実力になった。しかし、やはりバンパイアの中でひときわ妖しく可憐なブライドには、やはり苦戦を強いられてしまう。

 ごくまれに、地下3階に下りることがある。普通は2階までなのだが、通り道が地下3階という場合があるのだ。そういう時は、できるだけ別の道を探すことにしている。地下3階に下りると、たいていバンパイア・ブライドが潜んでいて、あっという間に魔性の淫気に毒されて吸い寄せられてしまうのだ。まだ彼女に勝てるレベルではない。これまで地下3階を回避し、どうしても降りなければいけない時は決死の覚悟で戦いに臨んで、何とか運良く勝ってきただけの話だ。

 それに、どうしても通り抜けなければならない場合はめったになく、遠回りにはなるけれども別の道がある。つまり地下3階は近道だけれども強力な敵がいるトラップのようなものであり、これを避ければ遠回りにはなるが倒せるモンスターが出現するというわけだ。それなら、一回でも射精したら負けなのだから、できるだけ安全なほうに行ったほうがいいに決まっている。

 思うに、バンパイアがここでの一番弱い敵であり、その倍近くの強さの敵がキョンシーなのだろう。バンパイア2人分というわけだ。もちろん、これから先もっと巨乳のキョンシーが出現することになるはずで、その実力は計り知れないが、これまで遭遇してきた中級のキョンシーは、大体実力的に同じくらいだった。僕の実力といえば、このキョンシーを倒せる程度のレベルにすぎない。

 バンパイア・ブライドは、おそらく中級キョンシー3人分以上の実力があるだろう。とても敵う相手ではない。これまで3回ほどブライドと戦ったが、勝てたのが不思議なくらいだ。ようするに僕のレベルがまだまだぜんぜん足りないということになる。

 これまでのステージと決定的に違うのは、やはりこの強い不安感だろう。これまでなら、ある程度レベルが上がってから先に進めるようになっていて、強敵が現れても、どうにかバランスのとれた戦いができ、何とか勝ち進んできたのだった。もちろん、少しでも気を抜けば、この世界の女たちの甘い肉体に気持ちよくなって、いつ射精してもおかしくはなかったが。苦戦はしたものの、勝ち目がない戦いというのはあまりなかった。

 ようするに、僕はこれまでずっと、自分のいる位置にふさわしい強さになっていたし、敵も自分のレベルにあった相手だった。ギリギリ敵のほうが強いことも多かったけれども、ちゃんと戦って選択を誤らなければ、ちょうどよい修行となるのだった。

 だが、この古城ステージは少し違う。どうしても、自分のレベルにくらべて、先に進みすぎている印象を拭いきれないのだ。もっとレベルを上げないと、これから先の敵には太刀打ちできない気がする。一旦戻って、たくさんのアンデッドモンスターを倒して、レベルを高めてから進みなおすべきかもしれない。

 それにしてもどうして、ここへきてこんな不安に襲われるのだろう。…もちろんそれは分かっている。アンデッドモンスターがあまりに強力で、妖しい魅力と魔力を持っているからだ。生身の男ではまったく歯が立たないような相手と戦っているんだ。とくにバンパイア・ブライドは、戦闘シーンや魔性の香りを思い出しただけでカウパーがどんどん滲み出るほど、強力すぎる敵だ。次は本当に負けてしまうかもしれないという、強い不安がどうしてもつきまとってしまうのだ。

 だが、それだけではない気もする。この特殊ステージでは、エンカウント率もさほど高くなく、何よりも集団戦がほとんどなかったのだ。これまでは、先に進めば3人バージョンとなり、敵の種類が変わっても組み合わせ次第で複数の女敵を相手に戦ってきたのだった。1人相手よりも、当然複数相手の方が苦戦はするが、その代わりに勝ったときに稼げる経験値も高い。その意味で、これまではレベルを上げやすい環境でもあったのだ。

 しかしこの古城にきてからというもの、バンパイアもキョンシーもブライドも、たいてい単独で出現している。苦戦して勝ったとしても、そりゃあ前のステージに比べれば”単価”は高いけれども、やはり一回の戦闘でたくさん経験値を稼ぐというわけには行かない。セックスは本来一対一が原則とはいえ、SBRPGなら強くならなければいけないんだ。強くなりにくい環境に立たされて、大してレベルを上げられないまま、どんどん先にばかり進んでしまっているのが現状だ。その結果大きな不安に駆られているのである。

 この不安と戦い、分不相応な敵とも戦わなければいけないというのが、この特殊ステージの難易度をいやがおうにも高めている。これをも僕は乗り越えなければいけないわけか。厳しい世界だ。

 僕は地下3階を注意深く避けながら、主にキョンシーと戦いつつ先に進むのだった。ウロウロ戻ってみても、おそらく期待通りのレベルにはなれないだろうから、もっと先に進んで、もしかしたら集団戦になるかもしれない場所までたどり着き、苦戦はするだろうけど勝ち進んで、そこでレベルを上げるようにしよう。覚悟を決めたら、不安が少し和らいだ。

 …鉄の扉が目の前に立ちふさがった。こうして仕切りがしてある場合、たいていはその先は状況が変わる。敵の人数が増えたり、新手の敵になったり。これまでは、十分とはいえないまでも、意を決して先に進んでも大丈夫な程度の実力があったが、今はやはり違う。この位置でも苦戦に苦戦を重ね、勝ち目があまりない敵も残しながら、なおも先に進む扉があるという状況だ。もしかしたらブライドが3人とか登場するのかもしれない。1人でも辛うじて運良く勝ってきた程度、しかも彼女を避けて通り、3回しか戦闘しなかった状態で、一度に3人相手は絶対に無理だ。

 僕は扉の前でしばらく立ち止まり、悩んでいた。先に進むべきか、それとも引き返すべきか。きっと引き返しても大してレベルが上がらない。それは分かっているから、先に進むしかない。でも、進んだら負けてしまうかもしれない。強い葛藤に犯されていた。

 時間さえかければ、一人ずつを倒しても少しずつレベルを上げることはできる。しかしモタモタしているわけにもいかない。いったいどうしたら…

 …。

 …やっぱり、先に進もう。こういう苦境の時こそ、自分を信じて進むしかない。堅実なのも大事だけれども、時には分不相応な冒険も必要だ。着実な成功ばかり求めていれば、結局大事をなせない。チャンスは四六時中あるわけではなく、自分の実力などにお構いなしに不意にやってくるものだ。そこで堅実な歩みしかしなければ、大切なチャンスを逃すことになる。

 よし、覚悟が決まった。先に進むぞ。僕は鉄の扉に手をかけた。手を触れただけでつなぎ目がほのかに光り、重々しい音を立てて横に開いていく。

 「こ…これは…!?」目の前に広がっていたのは、それまでの中世風の古城ではなく、近未来のメカメカな通路だった。金属の壁、そこを走る電流とランプ。ときおり出てくるビープ音。近未来SFチックな廊下になっていた。「古い城の中にこんな進んだ通路が組み込まれているのか…。」

 やっぱりこの先は危険な敵が待ち構えているな。風景が一変するということは、なにか新手の敵が出てくる可能性が高い。これまでのパターンからして間違いないだろう。しかもいきなり宇宙船の中のようなメカニックな風景だから、サイバーな敵なのかも知れない。

 それにしても…ここはアンデッドステージのはず。つまりヴァンパイア系の敵が出てくるんだ。それなのに、なんで通路が機械でできてるんだ。不老不死の存在なら、過去も未来も関係ないはずだが…

 ここに赤マントの吸精鬼が出てきてもかなり場違いな感じがするだろうに。あるいは未来の超科学武器を使った敵とかいう設定なのかな。なんにしても警戒するにこしたことはない。

 さっきまで薄暗い石の通路だっただけに、いきなり明るい機械通路はギャップが激しい。まぶしい感じがする。通路は奥まで続いていて、小さくメカの扉が見える。まっすぐだ。あの扉に向かえばいいんだな。とりあえず敵の姿はない。僕はいつ誰が出てくるか分からない不安と警戒を怠らないようにして、ひたすらまっすぐ突き進んだ。

 扉に触れると、自動で開く。その奥もあいかわらず宇宙船の中のように近未来的である。と、通路が左右に分かれている。扉を抜けた先はT字路のようになっていて、左右に同じような自動ドアがある。右の扉に行くか、左の扉に行くか。その選択を迫られている。今のところ敵の気配はないが、そろそろ出現しそうだ。

 さて、どっちに進もうか?

−選択肢−
スペースバンパイア1−2 右の扉へ
スペースバンパイア1−3 左の扉へ


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