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エイリアン1


 ドンドンドン!

 「あけてー!」

 ドンドンドンドン!

 うーん、うるさいなあ。そんなに激しくノックしなくったって。もう少し寝ていたいよ…。

 ドンドンドン!

 …しょうがないなあ。

 僕は布団から出て、自分の部屋のドアに向かった。ちらりと時計を見る。まだ7時じゃないか。日曜日だし。

 がちゃっ

 「…やっと起きたのね。」

 僕の目の前にいるのは、2つ年上の姉だった。父と母はセントラル・シティーに働きに出ていて、年に数回は帰って来るけど、ほとんど帰って来ないので、この家には僕と姉の二人で暮らしている。仕送りが毎月あるし、姉も働いているので、お金の心配は今の所していない。

 「…なんか用?」僕は不機嫌に姉のミーヤに言った。

 「なんか用じゃないわよ。大変な事が起こったみたいよ。ちょっと居間に来てよ。」

 「う〜ん。」まだ眠いのでもったりと返事をする。「じゃあちょっと着替える」

 「いいから来なさいよ!」姉は強引に僕の手を引っ張って居間に連れて来てしまった。

 「引き続きニュースをお伝えします。先程から繰り返している様に…」テレビでは初老のアナウンサーが原稿を読み上げている。

 「…昨夜未明から、全国各地で謎の光が降り注ぎ、行方不明者が続出しています。シティー・エセスの民家では、光の束が上方から落ちて来て、その直後から一人暮らしの若者が行方不明になっております。近所の人が光の後に駆けつけた所、家具やその他の物はそのままで、そこに住んでいたタダキチ・ピレネーさん(26)だけが忽然と姿を消したという事です。」

 …。なんかヘンなニュースだな。

 「…あっ。只今新しいニュースが入って来ました。離島のチャザー村で先程件の怪光線が発生、道を歩いていた50代の女性が光線を浴びて倒れ、意識不明の重態に陥ったというニュースが入って来ました。」

 チャザー村!?僕達の住んでいる所だ!

 「えっと、何?あ、ハイ。…只今また新たな情報が入りました。怪光線を浴びて病院に運ばれた女性は、チャザー村に住むナターリさん(56)だという情報が入りました。」

 ナターリさんって、あの口うるさいオバハンか。…重体だと?

 「セントラル・シティーのザボン市長は、先程大統領官邸に入り、ロー大統領と会談し、早急に対応する事にしました。…。あ、いま新しい情報が入りました。ナターリさんと一緒にいた息子のエルボ君(20)はナターリさんとともに怪光線を浴び、通行人の目の前で忽然と姿を消したということです。」

 …。これは一体…!

 「…。」姉もテレビに釘付けになっている。何が起こっているのかまったく把握できないが、只ならぬ事態になっている事だけは感じ取る事ができた。

 「先程お伝えしましたように、全国各地で怪光線が発生、光線を浴びた人々は意識不明の重体か死亡するという事件が続発しております。政府とセントラル・シティーでは原因解明と対策を急いでいます。」

 どういう事だ?昨日から怪光線が空から降って来て、それを浴びた人間は死んでしまう、って事か?

 「これよりザボン市長の緊急会見が放映されます。」画面が変わり、大統領官邸の内部が映し出された。

 「全国の皆さん!ザボンです。昨夜未明より発生している怪光線についてお知らせします。昨夜より、天空から直径約3メートルにわたる怪光線があちこちに突然降り注ぎ、これに当たった者は2時間程度で死亡しています。政府はこの怪光線の正体を只今突き止めようとしておりますが、まだ原因は分かっていません。市民の皆さん、これより政府は戒厳令を敷きます。家から絶対に出ないで下さい!また、扉やカーテンを完全に閉め、光が家の中に入らないようにして下さい。現時点では、光線を浴びなければ安全のようです。すぐに家に避難し、カーテンを閉めて下さい!新しい情報が入り次第、また会見します。」

 …大変な事になった。僕達は急いで窓を閉め、カーテンや扉を閉め、外から光が差し込まないように家中を走り回った。何がなんだか、訳が分からないが、とにかく言う通りにして置いた方がいい。

 家中を締め切って、僕と姉は再びテレビの前に座った。

 「快光線についての続報です。怪光線の特徴は、いつ降り注ぐか分からない事、どこから降り注いでいるのか不明な事。光線を浴びると、若い男性以外は心肺に異常をきたし、間もなく死亡する事。不可解な事に、若い男性が浴びると消えてしまい、行方不明になります。なぜそうなるのかも分かりません。政府は先程戒厳令を決定し、施行しました。外から光が漏れないようにし、決して外に出ないで下さい!繰り返します、政府は先程…」

 政府が戒厳令を敷いたのは正しい。外に出れば危険だし、今全国民がパニックに陥っている筈だから、外に出ていては都市も危ない。

 「現在入っている情報によりますと、怪光線は全国にわたってランダムに発生し、行方不明者1500人、死亡26000人、重体3500人となっております。ただしこの情報は公式の発表であり、届出のあった目撃情報のみです。実際にはもっと多数が被害に遭っているものと思われます。」

 26000人が死亡!この国の人口は30万人だから、10%近くが死んでいるという事か。

 いや。これはきっと何かの間違いだ。あるいはテレビ局のジョークか何かじゃないのか?ドッキリとか。

 僕はそう信じたかった。チャンネルをひねり、ドラマや歌番組に切り替えてみようと思った。だが、どこを回しても、アナウンサーが怪光線の事について話したり、先程発表されたザボンの会見の映像が繰り返されたりしている。ドッキリにしても、政府が関わる筈もない。ザボン市長も見慣れているから見間違いもない。間違いなく映像に映し出されているのはザボンだ。

 僕は半ばパニックになっていた。すっかり目が覚めてしまった。

 「新しい情報が入りました。怪光線は、この国だけでなく、隣国のパール公国でも引き起こされている模様です。交易国のマイヤー共和国からの通信が途絶えており、現地の情報はまだ分かっていません。」

 …。まさか、この光線は世界中で発生しているというのか?

 「…このニール連邦だけじゃなくて、パールもマイヤーもおかしくなってるみたいね。って事は多分ランゲルドも…。ラドン全体で怪光線が…」姉が震えている。

 そんな!この国、ニール連邦だけじゃなくて、この星全体でおかしな光が発生しているのか。交易のないランゲルド帝国やアマーズ自治区、カイラー中立地帯に至るまで、世界中で大勢の人間が死んでいるのか。一体、この星ラドンはどうなってしまうんだ!

 それから数時間が経過した。新情報といえば、犠牲者の数が増加するばかり。テレビを見ながら、これからどうなってしまうのか恐怖に包まれていた。

 そうだ、父さんと母さんは大丈夫だろうか。電話をかけてみる。…。呼び出し音が鳴らない。恐らく、大勢の人が無事確認の為に電話していて、混線してるんだろう。電話での確認は無理だ。かといって直接今セントラル・シティーに行く事もできない。無事を祈るしかなさそうだ。

 その時だった。

 ”ビャーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!”

 とてつもない光が家の回りを包み込んだ。カーテンを閉めていたが、その隙間から強烈な光が差し込んで来た!

 「うわああああっ!」僕も姉も周りが見えなくなった。ひどい耳鳴りがする。

 僕はその場に倒れ込み、身動きが取れなくなった。僕達は光を浴びてしまったのか?

 体が動かない。段々気が遠くなって来る。死にたくない…

 …。

 …。

 …。

 長い間暗闇をさまよっていたような、宙に浮くような、不思議な感覚。

 …。

 …。

 …。。。。

 気が付くと、僕は自分の部屋のベッドで寝ていた。

 ゆっくりと起き上がってみる。…。体はなんともない。普通に呼吸もできるし、心臓も動いている。僕は生きている。

 部屋から出てみる。姉さんは無事だろうか。居間に出てみる。誰もいない。テレビもついていない。

 僕の部屋の隣にあるミーヤの部屋に行く。ドアをノックする。

 「だっ、誰?」よかった、姉は無事のようだ。

 「僕だよ、ヴェルスだよ。」「ヴェルス!?ヴェルスなの?」

 がちゃっ。姉が出てきた。

 「あなた、今までどこ行ってたのよ!」「どこって…。それより、姉さんは無事だね?さっきの光を浴びて、なんともなかったんだね?」「…。」「あの光は一体なんだったんだ。」

 「…。あんた何言ってんの?」「いや、何って、さっき僕達はテレビを見ていて、怪光線の直撃を受けて…。それで僕は気を失ってしまったけど、気が付いたら部屋に居たんだ。」「さっきも何も、怪光線の直撃はないわよ。」「えっだって…」

 「怪光線は三ヶ月前のあの日一日で収まったじゃない。」

 「?」

 「?」

 どうなってるのか全然分からない。まるで話が噛み合わない。

 「ねえヴェルス、何よりもあなたが無事でよかったわ。一体三ヶ月の間どこに行ってたのよ。」

 「さっ、三ヶ月だって!?」「私が気がついたら、もうあなたは居なくなっていた。光線を浴びて消えてしまったと思ってた。」「だって僕達は今さっき居間でテレビを見ていて、光線を浴びて…。そのまま気を失って…。」

 「…。あの光線で、ラドンはすっかり変わってしまった。大勢の人が死んだ。あるいは消えてしまった。ヴェルス、あなたも同じように消えてしまって、三ヶ月したら戻って来た。」「!」「政府は崩壊したわ。今は臨時の自治会が運営してるの。」

 「そうか、あのおかしな光線を浴びて、確か、若い男以外は死んでしまい、若い男は行方不明になった。僕も同じように光線を浴びて、三ヶ月間消えていたんだ。光線から三ヶ月経って、僕はなぜか自分の部屋のベッドに戻されていた。僕自身はその間の記憶もない。時空を超えたみたいに、三ヵ月後の世界に飛ばされてしまったみたいだ。」

 「…。そうだったの。じゃあ、この三ヶ月間のでき事は知らないのね。」

 「一体何があったんだ?世界はどうなってしまったんだ。」

 「分かったわ。私達が今知っている範囲で、どうなったか順々に教えてあげる。」

 姉の話は信じがたいものだった。

 三ヶ月前、ラドン暦1532年6月14日、午前零時を境に怪光線が発生し始めた。怪光線は、初めの内はまばらに、あちこちでちょっとずつ天から降り注ぐだけだった。同日明け方、事態が深刻である事に気がついた人々が騒ぎ始め、ニュースが流れるようになる。午前8時、政府から戒厳令が敷かれ、非常事態に陥った。

 午前12時、それは起こった。ラドン全体を包み込むようにして、巨大な怪光線が全世界を覆った。怪光線を浴びた人類は、ほとんど絶滅に近かった。人工衛星が捕らえた情報だと、怪光線は宇宙から飛ばされて来たみたいだ。現代科学では説明できない自然現象ではないかと言われている。宇宙にはまだ謎が多い。ラドンの科学の最先端でも、人工衛星を飛ばすのがやっとだから、そのさらに外側の事はあまりよく分からないんだ。

 怪光線は若い男女以外のほとんどの人間を殺した。

 「いいえ、もっとはっきり言いましょう、受胎能力のある10〜20代の女性と、精通している10〜20代の男性以外は、老人も子供も倒れてしまったのよ。そして男の方は消滅し、女の方には何にも影響がなかった。」

 「そうか、だから姉さんは無事だったんだね。」「…。」

 その巨大な怪光線以降、光が降り注ぐ事はなくなった。この恐ろしい現象は14日を境にぴたりとやんだ。

 だが、人類への影響は計り知れなかった。世界は一変した。ニール連邦もパールもランゲルドも、世界中の政府が機能を停止した。ザボン市長もロー大統領も光を浴びて死んでしまった。強烈な光の帯がラドンを突き抜けた時、多くの人が光を避けていたが無駄だった。地下に居ようと、カーテンを閉め切ろうと、つまり直接光に当たらなくても、光が通れば死んでしまうのだった。

 「只、すべての人間が光の影響を受けた訳ではないの。偶然だと思うんだけど、光を受けてなんともなかった人もいるわ。老若男女、ごく少数だけど、生き残った人、消えなかった人も居た。これで、人類は大部分が若い女で構成される事になったの。」

 残された人々は寄り集まって事態の収集に向けて動き出した。機能を停止した政府の代わりに、自治会を設けて臨時の活動を始めた。ある程度復興し、食料の確保が確実だと分かった後で、怪光線の謎とラドンの現状調査に乗り出した。ある程度の事が分かって来たが、調査を始めて一ヵ月位しか経っていないから、詳しい事はまだよく分かっていない。

 臨時政府の調査では、ラドンの全人口は1万人以下。そのうち9000人以上が若い女性。残りの大部分が老人で、子供はほとんど居なかった。若い男はゼロ。

 「僕を入れれば一人、という訳か。」

 「あくまでこれは一ヶ月程度の調査結果。ランゲルド地方とかについてはまだほとんど調査できてはいないわ。だから、自治会が数えていない生き残りの男が世界のどこかにいるかも知れない。ヴェルス、あなたのように突然帰ってくる子もいるかも知れない。」

 「…。」

 臨時政府は、ランドルゲやその他の国に連絡を取ろうとしたが、応答がなかった。そこですべての政府が崩壊したと判断し、すべての政府を解体する宣言を採択した。それ以降は、ニール共和国もランドルゲも消滅した訳だ。ここラドンには、もう名前のない暫定自治会政府しかないという事だ。

 「…という事は、戦争はなくなったんだね。」「そうね。ランドルゲ帝国もマイヤー共和国も消滅したんだから、”ランマ戦争”も自動消滅した。」

 そう、ランドルゲ帝国とマイヤー共和国は戦争をしていた。ニール連邦は、小規模だけど強い商業力を持つマイヤー共和国と同盟を結び、参戦は絶対にしないけれども物資面での援助をする事になっていた。父さんと母さんは物資を集める仕事をする為に首都のセントラル・シティーに出稼ぎに行っていたんだ。

 「…父さんと、母さんは…」

 「…。」姉の目が曇った。無言で下を向くだけだった。

 「…。そう、か。」

 「いいえ、今はまだ居所が分からないだけかも知れないじゃない。そうよ、きっと。」

 「そう、だね。今はとにかく信じるしかない。」

 暫定政府は元ニール連邦のセントラル・シティーに作られた。強制はしないが、ラドンの各地域で生き残った人達はできるだけセントラル・シティーに集まるように呼びかけられている。村人のほとんど(といっても十数人しか生き残らなかったが)はセントラル・シティーに移り住んだ。チャザー村は、ミーヤと幼馴染のフォルナ、それとシモーヌしかいないので、事実上消滅した事になる。

 シモーヌは僕の初恋の人だ。隣の島のヴィオスに引っ越していたけど、最近戻って来たのだという。

 「セントラル・シティーは少しずつ活気を取り戻しつつあるわ。パールからもマイヤーからも、ランドルゲからも移住して来る人が沢山いる。」

 「そうだったのか。」

 二人の間に沈黙が流れる。

 「じゃあ僕、父さんと母さんを探しに…。」「それはもう私が…セントラル・シティーに行って探して来たわ。」「…。そ、それじゃあ、他を探しに行かないと。ほら、物資を運ぶ仕事だったから、もしかしたらセントラル・シティーから離れてたかも知れないじゃない?マイヤーとかさ。」

 「だめよ。」「…どうしてさ。」「まだ話は終わってないわ。」「…。自治会ができて、これから復興しようってんだろ?それなら、つらいけど僕達も前向きに考えなくちゃ。復興を手伝いながら父さんと母さんを探すんだ。」

 「…さっきも言った通り、ラドンの人口は激減した。その生き残りのほとんどは若い女よ。彼女達は、二派に分かれたの。」「二派…」「一方が復興派。セントラル・シティーから立て直して、ラドンに活気を取り戻そうとしている。でも、別の考え方をとる人達も出てきた。それが”狩人”達よ。」

 「”狩人”だって?」

 「男女比率から言って圧倒的に女が多い世界。若い女ばかりの世界になってしまった。でもこの世は男と女で構成されていなければいけない。女しかいなかったら、人類は結局滅んでしまう。彼女達は、本当の復興はまず男を捜す事だ、って主張したの。復興を手伝う役割としての男と、パートナーとしてのオトコ、この二つの役割が欠かせないから、都市や商業の復興よりも人間の復興が必要だって。」

 「…。」

 「そういう考えの人が集まって、”狩人”という組織を作った。でもうまく纏まらなくて、組織として運営して行く事はできなかった。復興派は、男性探しも大切だけど、まずは食料とかの衣食住をちゃんとしないといけないって主張し、彼女達と対立した。狩人のメンバーには食糧配給を停止した。だから彼女達は組織化できなかった。」

 「そんな事があったのか。」

 「狩人達が組織化して、復興派と手を結んで協力して活動していれば、こんな事にはならなかった。狩人達は野党化してしまったわ。それが却って復興を妨げる事になってしまった。」

 姉の話だと、復興派と狩人派はまず何をすべきかでケンカになって、復興派が街から狩人派を追放してしまった。復興派からすれば街を建て直して基礎を固めてからでも男探しはできるし、その復興にはできるだけ多くの統率の取れた人間が必要だから、狩人派の自由を認めようとしなかったんだ。

 狩人派は、復興派の強圧的な態度に反発したけど、食糧を自給しなければならなくなって、実質的に街を離れる事になってしまった。彼女達は統一組織に纏まらずに、少数で徒党を組んで行動するようになった。

 彼女達は野や山に出没し、復興派の女性を襲っては食料等を奪う野党になってしまった。その一方で彼女達は、偶然に生き残った可能性がある『射精可能な男』を捜しているというのだ。男探しを狩に例えて、彼女達は自分を狩人と呼んでいる。

 もちろん狩人派かどうかなんで見た目では分からないから、街に入ろうと思えば入れる。復興派に転向する事もできる。でも狩人派のままで街に暮らす事はできない。街で生活するからには、復興の為に働かなければいけないからだ。

 「だから、ヴェルス…。あなたは外に出てはいけない。外へ出て、狩人派に見つかったら、多分その場で…」「その場で?捕まって牢屋に入れられるとか?」「牢獄を運営できる程組織化してはいないわ。単独で行動するか、多くても三人一組で行動する小規模集団だもの。」

 「じゃあ…」「所でヴェルス、おなかすいてない?」「え…、あ、ああ。」「じゃあ久しぶりにお姉さんが手料理をご馳走するわ。」「ありがとう。でも僕にとっては久しぶりじゃないんだよね。」「そっか。そうよね。でも私は三ヶ月ぶりだよ。」「うん。」

 ミーヤは台所に向かった。暫くして…

 「じゃじゃ〜ん♪」「おおおお!」

 姉さんにとっては3ヶ月ぶりだからだろう、いつになく豪華な料理が食卓に出された。

 「さ、召し上がれ。」「いただきます。」「どんどん食べてね。」

 …。たしかに空腹だった。僕は勢いよく姉さんの手料理を平らげてしまった。

 「食べたら少し休んでいてね。」

 「ありがとう。それにしても凄いね姉さん。復興派として街で働いてると結構いい給料が出てるんじゃないの?」「…。」

 1時間近く経過した。

 「そうね、ヴェルス。あなたはこれからは家の近くで薪割りでもして貰おうかしら。その薪を私が売りに行って、食料に換えて来る。それで暫く生活しましょう。」「姉さん、僕は…」「外はたしかに危ないけど、あなたが蒙る危険に比べれば私の方がましよ。だから私が売り子になる。あなたは狩人に見つからないように隠れていて。」

 「…、分かったよ、狩人派と復興派が和解する時まで、僕は隠れてるよ。所で姉さん、どうして姉さんはチャザー村から離れなかったの?どうしてセントラル・シティーに住んでいないの?」

 「…。狩人派と復興派が和解する事はないわ。」「えっ…」「私はチャザー村から『離れなかった』んじゃない。チャザー村に『戻って来た』のよ。セントラル・シティーからね。」「…!」

 「そうそう、さっきあなた、狩人派に見つかったらどうなるかって聞いてたわよね。」「…姉さん?」「自治会の正式発表では男はゼロとなっているけど、本当は結構見つかってるのよね。復興派が食料を独占するのなら、狩人派は男を独占する。復興派なんかに子種は残してあげない。狩人派は、たしかに男を捕まえて置く事はできないけど、その場で楽しむ事はできるわ。」

 「一体何を言って…」「狩人派は、その名の通り男を狩るの。男を見つけたらその場で犯し尽くす。何度射精させても、自分達が性的に満足するまで決して離さないわ。そうやって絞り尽くして、体力を奪ってあげる。解放されても、また別のグループに見つかったらそのグループに精液を搾り取られる。今の所誰も男は町に辿り着けない。その前にセックスのし過ぎでショック死するからね。まぁ万が一男がセントラル・シティーに辿り着けたとしても、街に着く頃にはすっかり腎虚か、少なくても女性恐怖症に陥ってる訳。とても復興派とセックスなんかできないでしょうね。」

 姉がじりじりと近づいて来る。僕は訳の分からない恐怖感から、後ずさって行く。

 「だからね、ヴェルス。あなたに外に出て貰っては困るの。死なないにしても街に着いて、またここに戻って来る頃には絞り尽くされて変わり果ててるって事ですもの。折角見つけたんだから、私達だけで楽しまなくちゃ。」

 「……!!」ひざに力が入らなくなり、僕はその場に崩れ落ちるようにしてしりもちをついた。体の自由が利かない!

 「よかった。ちゃんと薬が効いてくれたのね。もう抵抗できないわよ。」「さっきの食事の中に…!」「大丈夫よ、腎虚になるまでセックスしたりなんかしないから。私と、フォルナとシモーヌ、この三人でかわいがってあげる。これから先ずっとずっと…」「ま、まさか!」

 「そうよ。私達三人は、狩人派なの!」
 

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