性霊の棲家1

 

 「こちらです。」

 大家に紹介された部屋は結構広かった。玄関はキッチンと繋がっている。隣には風呂とトイレが一つの部屋に入っていて、妙に広い。キッチンは6畳、風呂トイレは8畳みたいだ。その奥には和室が2部屋ある。6畳と8畳。和室の隣、つまり風呂場の奥に、洋間がある。8畳分だ。といっても押入れやら何やらがあるから、8畳の部屋は実質6畳分である。さらに奥には、広々としたベランダがある。洗濯機と物干し場を置いてもまだ余る。

 はっきり言って、運が良かった。部屋もさる事ながら、そもそもこんな所に住めるようになった事。つまり今年から大学一年生になった事。どこも受からないと言われ、関東地方の大学には悉く落ち、一浪が決定かと思われた矢先だった。場所は恥ずかしいから言わないけど地方の大学の文学部。二次試験でやっと受かった。たしかにあまりいい大学とは言えない。いやはっきり言って三流以下だ。寒いばかりで回りはなんにも無い。一番近くのコンビニまでバイクで30分位かかる。それ以外にめぼしい施設は無い。今度入学する大学以外には。この大学、田舎で土地が有り余っている中にこじんまりと建てられ、知名度はほとんど無い。とても小さな施設だ。まあそんな大学でさえ、やっと受かったのだ。それほど僕は頭が悪かった事になる。うーむ。

 このアパートはずいぶん昔に建てられたものだ。大学と提携してて、やはり学校側も人気が無いのが分かっているらしく、せめてアパートを豪華にそして安くして、人を集めようとしているらしい。築30年以上経っていると思われる外観が、大学の徒労を物語っているみたいだ。もちろん、内装はリニューアル済みで、小奇麗である。中だけ見ればとても古いアパートだとは思えない。

 素人が言うのもなんだが、やっぱり大学側はツメが甘いように見える。文学部というだけあって、女子が多いのは分かるが、それでも普通は男女で棟を分けるものである。だがここは男も女も一緒なのだ。大家に紹介される時偶然隣人を見かけた。女の子だった。そういう訳で両隣は、…いやこのアパートのほとんどが女子の入居なのかも知れない。そういう所が人気の無さに繋がっているんじゃないの?それ以前に、遊ぶ所が周りにないのが致命的だけどさ。きっと男子用の棟を建てるだけの金がないんだろう。

 さて。

 なんだかんだ言っても、僕はこの部屋が気に入った。何よりも広々とした施設が嬉しい。一人で住むにはもったいない位だ。

 「あの、家賃の方はいくらになっているんですか?」

 こういう事は初めにキッチリして置いた方がいい。遠慮なく大家さんに聞いた。

 「共益費込みで月2万円です。」

 「ええっ!」

 それはいくら何でも安い。安過ぎる。何かの聞き間違いかとも思ったが、やっぱり月2万円なのだという。バイク駐車代が1万で計3万円。まだ不動産屋には行っていないが、このあたりでも月5万円は普通だろうと覚悟していたのだった。だって広い部屋が3部屋もあってその上キッチン風呂トイレ付きだぞ?いくら大学から補助が出ているからって、それでやって行けるのかな。

 実家からは遠過ぎるので一人暮らしをせざるをえない。やっぱり人情としてできるだけ大学に近くて、できるだけ広くて、できるだけ綺麗で、できるだけ安い所がいいに決まってる。そういう訳で大学が紹介している提携アパート、といってもここ一軒だけだが、そこを当たってみたのだった。

 僕は二つ返事で入居する事にした。契約書を渡され、後日契約する時までにしっかり目を通して置くように言われた。甲乙がどうとか、ペットはダメとか、うるさくするなとか、出て行く時は元通りにしろだとか、一度契約したら3ヶ月は住まなくちゃダメだとか、その他色々書いてあったが、まあどこにでもあるような普通の契約書だった。

 …もっと状況をよく調べて置くべきだったが。

 下見をしてから数日後、親を連れて再びアパートを訪れた。そこで契約を済ませた。大家の話では、大学と提携し、経費の半分以上を学校が負担してくれるから、この値段でも大丈夫なのだという。そんな学校あるのかねえ。半信半疑だったが僕がここに住みたいと言ったので親は入居の契約をしたのだった。

 契約を済ませて、3月の終わり頃になり、いよいよ引越しだ。入学手続きもとっくに済ませ、引越しも業者が全部やってくれて、後は入学式を待つばかり。最近では引越し先の家具等の設置も業者がやってくれる。その他のめどい事は全部親がやってくれていた。僕は只整った部屋に入居し、そのまま生活し始めるだけだった。

 夕方洋間のベッドで雑誌を読んでいると、大家が尋ねて来た。

 「ほんとはいけない事なんだけど、安いんだから大目に見てよ。」そう言って話を切り出して来た。

 「最近は入居者がめっきり減っちゃってねえ。みんな駅に近い所に住んじゃうのよ。ま、駅の方が少しは拓けてるし、今の子は車とかがあるから学校に近くなくてもいいみたいだし。今では入居者はあなたと、二階の端の3年生の大沢君と、その下の石川さんだけ。」

 「え、でもこないだ隣に誰か女の人が住んでたみたいですが。」

 「いいえ。隣はずっと空き部屋だよ。…あの…」

 「何でしょう?」

 「別に嫌だったら出て行っても、3か月分の6万円払ってくれればそれでいいんだけどね、実は…」

 「?」

 「ここの入居者が減ったのは、変な噂が立ったからなのよ。」

 「噂、ですか。」

 「今から15年前、就職難であぶれた女の子が彼に振られて、やけになって自殺しちゃったの。」

 「なるほど、それをネタに『出る』という噂が立ったんですね。安心して下さい、僕そういうの信じませんから。」そんな話、どこにでもあるありふれた噂だ。でもこの大家もちょっとずるい。確かそういう噂は入居者に契約前に教えていなければ違反の筈。それで入居者が嫌がっても、契約後では、3か月分は払わなくちゃならない。それがこのオバハンの狙いだったんか。

 自慢じゃないが、僕は幽霊なんていないと思っている。もちろん見た事もない。そんなのを信じても意味がない。結局、思い込みが激しいと見間違いとか幻覚まで見るという。それに尾ひれが付いて幽霊話になるんだ。くだらない。

 「それが…」

 「まさか、本当だなんて言わないで下さいよ。」

 「いや、あたしは見た事ないんだけど、今まで何度も自殺があるのよ、このアパート。それも女子ばかり。いやだねえ、若い娘が、親よりも先に死んじまうなんてさ。」

 「何度も、…ですか。」

 「ま、幽霊がどうとかいう噂を信じないでいてくれるのはありがたいけどさ。でも老婆心を出すけど、あんた、何があっても死ぬなんて考えるんじゃないよ。人生は長いんだから。親が悲しむんだから。」

 「ええもちろん、分かってますよ。」

 「じゃあ、あたしの家はこのアパートのある山を下りた麓にあるから、何かあったらいつでも電話しておいで。遊びに来てもいいからね。」

 「はい。ありがとうございます。」

 そんなこんなで、大家は帰って行った。もう外は暗くなっていた。幽霊は信じないが自殺が多いというのはちょっと気になるな。当然この部屋でも誰か死んでるんだろうな。気持ちのいいものではない、たしかに。が、気にしなければ生活に支障はないだろう。恐らく自殺が多いのは、こんな大学で将来を悲観する人が多かった…って、僕もその大学にこれから通うんじゃないか! うぅ…、ちょっと気が滅入って来た。

 コンビニの弁当を温めて平らげ、テレビをつけ、ベッドに横になった。幽霊、か。はは、まさかね…。テレビは、さすがに地方だ、関東にいた頃の華やかな放送はない。テレビ番組表の雑誌を買ってくればよかった。ちっとも面白くない。雑誌ももう隅々読んで、飽きた。もう寝るか。引越し初日で疲れてるし。何もしてないけど。テレビを消し、戸締りをして、ベッドに包まった。

 一つ気になる。こないだ見かけた隣の女子学生。入居者のほとんどが女子、という訳ではなかった。僕と、男子学生、女子学生。10戸あるこのアパートで一階に住んでいるのは僕と女子学生一人、その上の階に男子学生が一人。計三人しか住んでいない。なんか寂しいな。じゃあ、こないだ見かけた女の子は何だったんだろう?もしかしたら、別の下見だったかもしれない。あまり気にしないようにしよう。おやすみなさい…。

 こうして、僕の初めての一人暮らしが始まった。その始まりは、あまりにも衝撃的だったのだが…。

 繰り返すが僕は幽霊なんか信じちゃいない。いや、信じていなかった。ここに入居するまでは。幽霊なんか、という思いは、いきなり初日の夜に、打ち砕かれる事になった。信じられない、そういう恐怖体験がその日の夜から始まったのだった。

 アパートの玄関が見える。中に入ってみる。中は広々していて、花柄の家具や赤い服等が見える。部屋を間違えたかな。が、ずんずん奥へ進む。洋間の奥に進む。…洋間の奥?

 そこで目が覚めた。夢だったのだ。が、ずいぶんリアルだ。部屋の奥を見てみる。壁がある。うん、壁だ。その先はないな。変な夢。

 まだ夜中のようだ。眠かったので、もう一眠りする事にしよう。

 洋間の奥には、小さな洋間。大きな鏡台が置いてある。鏡台だけで部屋の半分を取っている位大きい鏡。鏡の前に座ってみる。座ってみて自分を見る。なんだかぼやっとして自分の顔が見えない。いきなり鏡が赤く染まる。ブチッと何かが切れた音。息が苦しい!

 …また目を覚ました。どうなってるんだ。疲れてんのかなあ。えーい、まだ寝るぜ!きっと初日で緊張してんだろう。そんな事に負ける俺様じゃねえ!受験勉強してる振りして居眠りしてた位の睡眠技術は伊達じゃねえ。…自慢できねえな。

 洋間には赤い絨毯。いや、…白い絨毯。一部だけが赤い。赤い所の上に浮いている人影。人影の首に縄。窓から差し込む満月。え?「首をつって、…いるの?」そう聞いてみた。何故か冷静だった。でも首吊りの女は、息苦しい風貌をまるで見せず、何事もないかのようにキレイな顔をしている。普通窒息死したら、顔が膨れ上がり、紫になり、爛れ、見るも無残に変わり果てる筈。が、髪はキレイに整えられ腰まで伸びていて、赤い服が似合う美人が宙に浮いている。涙が溢れて来た。

 何故?そう聞いてみた。女はこちらを見て優しく微笑んだ。…なぜ?もう一度聞いてみる。何故「なぜ」と聞くのか、その理由も分からないままに。

 女は宙に浮いたまま、赤いボディコンに手を掛けた。するり、と服が下に落ちる。服の背中は白い。血だ。体の前面は血で染まり、下の絨毯も血だらけだったのだ。でも少しも恐くなかった。代わりに言いようのない悲しみと怒りが込み上げて来た。なぜだ!と叫んでそのままベッドに飛び込んだ。そのまま仰向けになると洋間の片隅で首を吊っていた筈の女が、全裸で、僕の真上に横になりながら浮かんでいた。さっきまで血だらけだった女は傷一つなく僕を見下ろしている。

 浮いていた女は、そのままゆっくりと降りて来る。僕は両手を上に上げ彼女の体を抱きかかえる。僕も裸みたいだ。ぎゅっ。抱きしめた瞬間、言い知れぬ快感が全身を襲い、そのまま射精しそうになった。

 いけない!

 そう思いながらすでにペニスに精液がこみ上げ、ビクビクと脈打ちながらイってしまった。たしかに気持ちよかった。でも悲しかった。

 また目が覚めた。もう何度目だろう。いい加減イライラして来る。が、思い出した。僕は夢精していたのだった。この年になって夢精かよ。明かりをつけ、パジャマを脱いで、パンツを取り替える事にした。時計を何気なく見ると午前二時まであと少しというあたりだった。

 パンツを穿くのを忘れて、さっきの夢の事を思い出していた。というより、何故か着替える気力がなかった。あまり寒いとも思わない。裸のまま、この夢の不思議さについて考えていた。

 あれって、どう考えても首吊り自殺の現場だよなあ。絨毯は新品に取り替えられていて、もちろん血のシミなどある筈も無い。普通だったらそんな現場を見たら悲鳴を上げて腰を抜かしてる所だ。

 が、夢の中での僕は冷静だった。しかし奇妙だった。たしかに僕は死体に話しかけていた。そして訳もなく悲しく、そして腹立たしかった。何故だろう?しかもそのままベッドにいきなりダイビングしてる。訳が分からない。それで首を吊った筈の美人と裸で抱き合ってそのまま夢精、である。意味不明。

 ま、どうせ夢だ。昨日の夕方大家にあんなことを言われてちょっと気になっていたから、夢に見たんだろう。ばかばかしい。

 下着とパジャマを着て、再び布団にもぐった。

 でも大家さんは、首吊り自殺だったとは言ってないぞ。

 あ、でも、それは僕の思い込みなんだろう。そう思って電気を消した。

 …。どうも寝苦しい。寒い地方の筈なのに、暖房ももちろんつけていないのに、体が熱い。ほとんど考える事なく、半分眠りながらパジャマの上着を脱ぎ捨て。ズボンを脱ぎ捨て。Tシャツを脱ぎ捨て。…流石にパンツはねえ。

 その時だった。急に体が緊張し、まるで何かに全体が押されているかのように動かなくなった。金縛りだ!疲れてるんだなあ。金縛りは、疲れがひどいために頭だけ覚醒して、体は眠っている状態である。ほっとけばすぐに取れる筈だった。

 だが、どうも普通の金縛りではない感じがする。肩を中心にして体中に何かが重くのしかかっている感じ。指一本動かせない。息苦しい。

 耳元で、何かが囁いている。若い女の声のようだ。甘い囁きに、体がゾクゾクする。が、何を言っているのかは分からない。幻聴か。たしかに聞こえるが、おそらく疲れのために勝手に脳みそが幻聴を判断してるだけだろう。間違っても幽霊なんかじゃない。間違っても…。

 だが、僕の幽霊不信もここまでだった。

 甘い囁きは、ますます強くなって行く。脳がしびれる感じだ。その内モソモソと、僕の左側の布団が動いた。何かが布団に入って来る。体は動かないままだ!左の耳をくすぐりながら僕のベッドに入り込んで来る何者かは、布団を引っ張り、盛り上げながら僕に近づいて来る。そして…。

 「うっ!」

 僕の左側に何かが当たった。柔らかくてスベスベしている。甘い声で、吐息も混じりながら、はっきり女の声を聞いた。そして仰向けに寝ている僕の首に柔らかい腕が巻きついて来た。僕の左胸にはふくよかなおっぱいの感触が押し付けられ、僕の足を太ももの感触が這い回る。

 「はう!っくう…」

 女の肌なんて初めてだ。体が動かないまま、「それ」の肌の攻撃に僕は感じまくってしまう。さらに「それ」は体を密着させて来た。そのままするりと僕の上に乗って来る。体重を感じない。だがはっきりと僕の目に「それ」の顔が見えた。夢に出て来た若い女、それもかなりの美人だった。腰まで伸びた柔らかく綺麗な髪、切れ長の目だが整った顔立ち、柔らかそうな唇、スベスベの頬、優しそうな微笑。甘い香り。

 女は僕の上に乗ったままゆっくりと体を前後させ、その肌をこすり付けて来た。女の胸が僕の胸を愛撫し、太ももが僕の足に絡みついて来る!僕は女に感じさせられながら耐え難い恐怖に襲われていた。ガクガクと震えている。依然として体の自由は利かない。

 今度ははっきりと、女の甘い囁きが聞き取れた。

 「…恐がらないで…」

 そう言うと女は僕のパンツを器用に下ろし、太ももで僕のペニスを挟み込んだ。ペニスは既にはちきれんばかりに膨張していた。そのままスリスリと足をこすり付けて来る。

 「はああ!」

 恐怖心が段々薄れて行くのが分かる。代わりにペニスを中心として、体中に襲い掛かってくる快感がどんどん増大して行く。むしろ快感によって恐怖心が押さえつけられているみたいだ!

 ついに恐怖心がほとんどなくなってしまった。只快感だけが僕を支配していた。何でもいい、このまま気持ちよくなりたい。

 そう念じると一気に体の自由が戻った。金縛りが解けたんだ。そのまま彼女の背中に腕を回す。背中もスベスベしていて心地よい。そのまま彼女の唇を求めた。彼女はそれに応じ、柔らかい口が僕の口を覆い尽くす。甘い香りと唾液の味。柔らかい舌がチロチロと僕の口の中を掻き回して来る。

 女は腰を上下させて来た。太ももに挟み込まれたペニスが、女の足でしごかれている!シコシコシコ…。ああ!このまま出してしまいたい!足が気持ちいい!

 女はギュッとももを締めて来た。一気に射精感が込み上げる。キスをしたまま、彼女の背中に手を回して強く抱きしめたまま、僕は発射の準備段階に入った。

 「むぐっ!うぐぐ…むぐううううう!」

 どぴゅううううう!

 彼女の足の間から勢いよく射精した。いつもより長く射精し続けている。ドクドクドクドクドクドク…。

 ひとしきり射精が終わると、僕は脱力してしまった。久々に満足の行く射精だった。やっぱり自分の手よりも女の体の方が気持ちよくイク事ができる。訳が分からないまま僕は女を抱き締めていた。彼女の耳元に、よかったよ、と囁いた。

 「あたしはまだよ。」

 そう言うと女は僕の体から離れ、布団の中に潜って行った。下の方に移動して行く。そして僕のペニスを柔らかい手が握り締めた。

 「んあっ!」

 射精したばかりだというのに僕はまた感じてしまった。柔らかくてしっとりした女の手がじかに僕のペニスを握っている!そのまま上下にしごき始める。始めはゆっくりと、そして次第に早くなって行く!

 「ああ!はうっ!いやっ!ふぐ!あ!…イイッ!」

 僕のペニスは女の手でまた膨張してしまった。疲れているのに不思議とまたやりたくなって来た。

 女が起き上がった。布団が捲れる。そこで初めてまじまじと女を見る事になった。全身が真っ白だ。スタイルはかなりいい。巨乳だった。そのくせ腰や腕などは細い。見とれてしまった。

 女は前かがみになると、僕のペニスに腰をあてがった。ま、まさか…!

 ぐにゅっ!

 いきなり女は腰を落とした。生暖かい感触がペニスを襲う!つぶされてしまいそうな圧力が掛かっている。それなのに柔らかで心地よい。

 「ぐああ!」

 夜中だということも忘れて、僕は声を張り上げてしまった!セックスの経験はない。初めてのオンナの感触に僕はなすすべがなかった。考える暇もなく、いきなりオンナの中に出してしまった!

 だが、そんな僕などお構いなしに女は、…いやはっきり言おう、女の幽霊は、騎乗位で体を上下させる。きつくて柔らかい感触で、ペニスがすばやくしごかれている!射精している途中で体を動かして来た為、射精が休まる事はない。

 「はぎゃああ!」

 もう何も考えられなかった。頭の中が真っ白になった。既に夢精して一回、太ももで一回出しているから、もう出ない筈だった。が、今、ものすごい勢いで精液を放出している。全身が快感で覆い尽くされている。不思議と疲れていなかったし、痛くもならなかった。只気持ちいいだけだ。

 もうほとんど時間の感覚もなかったが、随分長かったような、短かったような、不思議なひと時だった。いつセックスが終わったかさえも覚えていない。かろうじて、ひとしきり射精させられた後眠りに落ちた事を覚えている。

 目が覚めたら午後を回っていた。随分爆睡していたんだなあ。のろのろと布団から出る。寒い。そうだ、昨日の夜暑かったからパジャマを脱いだんだっけ。風邪を引きそうだった。急いで服を着る。入学式は明日だ。今日寝すぎちゃったから徹夜でもしないとだめだな。早起きなんてできそうもない。

 …。…あれは…。あれは、一体、何だった、のだろう?知らない女と、幽霊と、僕はセックスしてしまった。信じたくなかったがたしかに覚えている。夢を見た事。布団の中に潜り込んで来て僕を犯した美女。何度も射精した事。

 夢、かも知れない。

 そうだ、エッチな夢を始めに見ていた。いつの間にか眠ってしまって、そのエッチな夢、淫夢の続きを見ただけかも知れない!そうだ、きっとそうに違いない。なあんだ、考えてみれば単純な話だ。やっぱり幽霊なんて…。いないよな?

 バイクでコンビニに行って、雑誌やら漫画やらを買い込み、今日一日ゆっくりする事にした。うーむ、相変わらずのダメ人間ぶり。

 食事を済ませてテレビ番組表を眺める。うん、地方だ。ローカルな番組ばかり。たまに関東でもやっているものも放送するが、東京で放送したものを後から放送する類のものらしい。…やっぱりつまんない。人によればローカル番組はそれなりの醍醐味みたいのもあるんだそうだが…。ちょっと僕には理解できない。

 しょうがない、漫画でも見るか。

 ドーン!

 いきなり隣の部屋から壁を叩く音がした。僕はびっくりして、壁の方を見やった。何の変化もない。壁に近づいてみる。隣は誰もいない筈。壁の向こうからは物音一つない。何だったんだ?

 また和室に寝っころがって、漫画を読む。ギャグ系が好きだ。所々笑える所がある。

 「あはははは…」

 どうーーん!!
 
 

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