「だから、なんで嫌がるんだよ」
決して薄くない布団の上、あおむけに寝転がったランサーは腹の上に跨ったアーチャーの腰を掴んだ。逃げられないように。
アーチャーはもちろん身を捩ったがそれは、なんの結果も生みださないむなしい抵抗にしかならなかった。
「この馬鹿力め……!」
「鍛えてたからな。じゃなくてよ。だから、なんで嫌がるんだ? 恥ずかしいからか?」
その言葉にとっさにはおっただけの黒いシャツの前をかき合わせるアーチャー。スラックスはとっくに引き下ろされて、膝頭のあたりでゆるくまとわりついている。裾が長いせいでみっともないことにはならないが、それでも恥じ入る格好であることには変わりない。
だが、アーチャーは眉を寄せて首を振った。
「それもある、が……」
「あるが?」
「…………」
「…………」
「…………」
「やはり体勢を変えよう」
「待て」
「裾を引っ張るなたわけ!」
「おまえが逃げようとするからだろ」
ぐ、と言葉を呑むアーチャー。離す気はないとばかりに力をこめるランサーの手を押さえると、逃げんわ、と何度も繰り返す。このままでは一張羅を破かれかねない。概念武装を纏えばいいことだがそれを思いつく余裕はいまのアーチャーの脳にはなかった。
は、とため息をついてアーチャーは体から力を抜く。するとランサーもわずかに、ほんのわずかにだが力を抜いた。
そこで逃げようと思わないのがアーチャー。
律儀にも身なりを整えて、耳を赤くしながらぽつぽつと話しだす。
「その―――――なんだ。君と私では、体格に差があるだろう」
「ああ、まあな」
「体重も、私の方が重い」
「で?」
そこで、アーチャーは黙った。ぼそぼそと、聞こえないほどの声でなにかを口にする。
「は?」
聞こえない、とランサーは聞き返す。サーヴァントの聴力を持ってしても聞き取れないほどの小声は、わざとかと思わせた。わざとそうして焦らしているのだと。さっきの意趣返しかと。
「あ? あ、こら、ランサー、何故また服を引っ張、こら、やめんか!」
だから無言のまま裾を引っ張った。アーチャーは焦ってまた大声を上げる。やめんか、と何度も繰り返す。ぺちりと手の甲を叩かれて、ちえ、とランサーはしぶしぶ手を離した。
「いまさら恥ずかしがる間柄じゃないだろ。理由を言え、理由を。はっきりと、大きな声で、オレに聞こえるように、だ」
でなきゃ納得しねえぞと駄々っこのようにふくれるランサーに、アーチャーは目を閉じて唸ると、口を開いた。
「……だろう?」
「聞こえねえ」
「だから、負担がかかるだろうと言うのだよ」
「なにに」
「君にだ」
「はあ?」
なんのことだと目を丸くするランサーに、だから嫌だったのだという顔つきでアーチャーは吐き捨てた。
「私のように鍛えた体の、重いものが常に上に乗れば君の腰に負担がかかる。動いたりすればなおさらだ。だから」
そのつづきはまたぼそぼそと途切れてしまう。ランサーはぽかんと目を見開いて、それから噴きだした。
「な!」
のけぞって笑いだしたランサーに、アーチャーが驚愕の声を上げる。気でも触れたかと額に当てようとした手が掴まれて、
「もう逃がさねえ」
そう言われたときには遅かった。
「ひ、卑怯者が……!」
「卑怯なのはおまえだろ。つか、反則だぞいまの」
「は、反則?」
「どもるな。落ちつけ。あとな」
ぐ、と腰を突き上げられアーチャーは思わず素っ頓狂な声を上げる。急激な浮遊感。力強い突き上げに目を白黒させているアーチャーに、ランサーは片目をつぶると、飄々と告げたのだった。
「オレの腰を侮るなよ」
ぽかん。
呆然、として。
数瞬遅れてから詠唱を始めようとした唇は、上半身だけを器用に起こしてきたランサーの唇によって停止させられたのだった。



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