「なんだこれ」
予想通りの反応に、ダンボールから出してきたみかんを菓子皿に積みながら答える。
「こたつだ」
「こたつ? ……ああ、これが」
「知っているのか?」
「おおまかにはな」
聖杯機能の恩恵だろうか?
青い髪に白い肌の男には似合わない知識。それを言うなら自分にだってそうだろうが。考えながらみかんを皿に積む。どんどんどんどん積む。
「―――――っと」
と、ぐらりそれがかたむいて、反射的に手が伸びる。受け止める、その前に白い手が崩落を阻止した。
見上げてみれば笑う男の顔。思わず笑い返す。さすが、と嘆息した。
「さすが最速のサーヴァントだ」
「こんなことで誉められてもな」
もっともだ。それでも男は機嫌良さそうにみかんの山を適当な高さに直すと、首をかしげる。
「こたつにみかんはニホンの冬の象徴だってな。虎の姉ちゃんに聞いたぜ」
「ほう」
懐かしい面影が過ぎる。
藤村大河―――――過去から自分を支えてきてくれた人。まるで太陽のように周囲に笑顔を振りまき、ほがらかな気持ちにさせてくれた。部屋の隅にあるダンボールにあふれるほどの大量のみかんを持ってきてくれたのも彼女である。
まあ……少々やりすぎるところはあるが、善良な人間だ。
じっとみかんを見つめて思いを馳せていると、男が自分の名を呼んだ。
「アーチャー」
すでにこたつに入り、指先で手招いている。後ろ髪、しっぽがぴこぴこと機嫌を表すように左右に揺れていた。つい噴きだしそうになる。
「アーチャー?」
あったかくねえんだけど、とつぶやくのにああと答えて(震える声は押し殺した)コンセントとスイッチを入れてやる。
と、ほんのりあたたかくなったのに驚いたのか目を丸くした。
「すげえな、魔術みてえだ」
「言いすぎだ」
「そうかあ?」
こたつ板に頬をくっつけて男が間延びした口調で言う。そしてまぶたを閉じてしみじみと、
「現代ってのは一方では駄目になっちまった部分も多いが、その一方ではこんな風にいいもんも内包してるんだな」
ダンボールを閉じながら思う。この男の生きた時代のことを。
日々が戦いであり、気に入れば明日の敵とも酒を酌み交わしたという荒ぶる時代。そんな時代を生きた英雄からすればこの今の世はどう見えるだろう。なんとも、平和に見えるのだろうか。軟弱に見えるのだろうか。
まあ―――――男の方も今はそれ相応にだらけて見えるのだけど。
じっと見つめていると、まぶたがぱちりと開いて赤い目が現れた。真正面から見つめ返されついたじろぐと、
「おまえも入れよ、アーチャー」
「いや、私はまだやることが残って」
「いいから、入れって」
だだっこのように言われては仕方ない。
「……少しだけだぞ」
「ああ」
しぶしぶ足を入れる。と、中でがちりと絡め取られ、目を見開く。
「な、ランサー、貴様」
「ちょっとくらい付き合えよ。あとで手伝ってやるから」
「貴様の“ちょっと”は長すぎる!」
「いいだろ? なあ」
ぐっと言葉を呑む。この“なあ”に自分は弱い。甘えるように言われるのも、男くさく言われるのも。今はどちらかといえば……
「なあ?」
両方だ。卑怯だ。
「し、仕方ない」
だから足を解け、と言うと男はにんまりと笑ってこれもこたつの醍醐味だって聞いたぜ?などと言う。
……藤村大河め。


その後、ふと思いだした人食いこたつ映画の話をしてやると男はにわかに居心地が悪そうになって逃げようとした。ので、ほどけた足を絡め直して縛し、とくとくと話してやると少しはすっとした。
その。
その逆襲の逆襲としていろいろ不埒なことをされそうになったけれど―――――多少されたけれど、途中で男がのぼせたので、事なきを得たと言っておこう。
白い顔が真っ赤になっていた。
教訓。こたつの中に潜るのは危険。



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