飢えていた。
だから、そうなったのだと思う。結果を招いたのだと思う、互いに。
床に押しつけられて息を吐く。頭を押さえつけられたかと思うと体を反転させられ、眼球にくちづけられた。驚きの声は漏れなかった、ただ喘ぎだけが漏れる。ランサーのどこか辛そうな息が、ところどころ触れ合う肌が、熱かった。
引きはがそうと試みなかったわけではない。あまりにも苦しかったから。
倒錯したその快感が、あまりにも。
「―――――ッ」
一度だけ突っ張るように腕を伸ばして胸元に当て、その体を押し返した。わずかな接触だけでも鼓動が駆け上るように早まっていく。
苦しい。苦しい。苦しい。
欲しい。
奪われるように振り払われたのが先か、求めたのが先か。わからない。気づけばつながっていた。
鋼色の柔い器官に熱い肉が触れる。ひく、と喉が鳴る。悦びのようにも嗚咽のようにも取れるそれ。目の端を伝ったのが、涙か唾液か、わからない。どちらでもいい。どちらにしても、単なる体液だ。
啜られてしまえばもうわからない。
あまりにも体温が上がりすぎてこのまま燃え尽きてしまうのではないかと錯覚する。ぬめった舌が立てる濡れた音が体のあちこちに火をつけて、それを助長する。
「ラ、ンサー、」
答えはない。
相手は犬のように荒く息をついて無心に右目を舐めている。舐めしゃぶっている。
溶かされる。とっさにそんなことを考えて身をすくめた。だが、すぐに快楽に体の方が溶けてしまい、耐えられなくなって蕩けた。力が入るところといったら指先だけで、そこさえもわなないて上手く動かない。
不意に体が引きはがされ、懸命についていこうと指先が縋る。宙を泳ぐ。ランサーは口元をぐいとおざなりに拭うとまた無言のまま舌を出して熱い息と共に接続してきた。
指先が強張る。投げだされ、もはや膝での圧迫からも逃れていた足が死に際の魚のように跳ねた。
ああ、と息もたえだえに呻くとどこかもわからない場所に爪を立てる。見えない。なにも見えない。―――――そのうち暗闇にちかちか星のような色とりどりのものが見え始めた。
踊る、踊る。
体中に震えが走った。くらくらくら、と眩暈。ここがどこか、自分が誰か、上か下か、右か左か、わからない。わからない。わからない。
わかるのは、熱い息と舌の感触。あとは指先、爪先までをいっぱいに満たす激しい快楽だけだ。
おそろしいほどの快楽だけ。
濡れた音が過剰に耳を犯す。
突然、ぽんと空中に投げだされた感覚に襲われた。
声もなく悲鳴を上げる。落下していく。体は絶頂へと駆け上っていくのに、意識は下へ下へと落下していくのだ。
必死になっていつのまにか外れていた手を伸ばせば長い指先が触れた。ぎゅうと握りしめれば強く握り返してくる。遠く、己の名を呼ぶ声が聞こえた。
焦点が合って、視界が元に戻ってくる。どうやら意識を少し飛ばしていたらしい。
下半身はわずかに濡れていたが、衣服を汚すことはなかった。吐きださずに絶頂に達したのかと思うと耳が熱くなる。ため息をつけば、横からその唇を奪われた。
舌を絡めあうだけで、狂おしいほどの快楽が沸き起こってくる。しかし。
あの、眼球を舐められたのみで達した快楽には遠く及ばないと気づいて、その歪みに笑いだしたくなった。
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