Taraxacum sp.

 おいボウズ
 見ない顔だな
 あのあんちゃん達の歌 聴けるなんて ツイてるな

 なんて 競馬新聞持ったおっさんに言われた。
 夜が早いからこの時間でももう寒い。
 あまり長いと腰掛けた植え込みが冷たくなるかも。
 って思って俺は馬鹿馬鹿しくなって嫌な笑い方をした。
 待つっていうのは、来るっていう前提で考えるものだ。


「ねえレージくん、いいものあげよっか」
 女の声はいきなり降って湧いた。あの位置だとここからパンツ丸見えだ。なんつー女だと思いながら返事する。
「あげるよ」
 俺が、そっちを見ないようにしてるのに気付いて、嬉しそうに笑う。その下だってみせてもいいって言われたけど、断った。チョット前なら、飛びついたかも。でも今はナシ。
 結構いい人。笑ったのは、気をつかった俺を褒めてる意味。からかおうっていうんじゃない。
 女って2コ違うだけでこんなオトナなんだろうか。私立の可愛い制服に、でかい胸、めちゃくちゃ薄くだけど化粧もしてる。靴もスニーカーじゃなくて革靴だ。黒のハイソが似合ってる。
 しゃべり方はチャラいけど、なんか誰にでも姉さんみたいに振る舞える。えらそうなんじゃなくてな。困ってるやつはほっとけなくて、自分が損をしても気にしない。だからこの前みたいに危ない目に遭うんだろうな。
 男に囲まれて、後ろに女の子庇ってるから、妹かと思ったら全然しらない子だった。
「レージくん元気ない?」
「んなことねーよ」
「そう? じゃわたしもう行くね」
 お礼はカラダで、なんて半分本気半分冗談で言って、それ以来、顔みると寄ってくる。
 周りの男の羨ましそうな視線は気分がいいけど、みられたら困るしな。会いたいような会いたくないような気がする。
「待てよ」
「なに? 今からは遊べないよ来週なら……あっ箱にカエル来る日ある! 一緒行く?」
 スケジュールを指で送って、声が大きく弾む。俺はクラブとか興味ない。出会いなんか間に合ってるし、音楽とかしらない。
「ちげーよ」
 階段を上りかけだったのを止めて俺を見る。
「なんだよコレ」
 ただ渡されてもわけ分かんねえ。
「ん? Absのチケット。てかタダなんだけどね。近くいると次いつやるか書いてるのくれるから、貰うとラッキーみたいな」
「ふーん……」
「あ、リアクションうすっ。無くてもみれるけど、数バリ少ないから持ってる子あんまいないんだよ」
 そんなこといわれてもな。路上ライブとか興味ねえし。
「それでね、それ持って見に行って、当日歌、歌だよきけたら、歌。チョー願い事叶うんだって」
 ライブで歌聴くなんて当たり前の事で願い事叶うとか、何で女ってそんななんだ。
「友と行こうと思ってたんだけどその日都合悪くて……集中講座なんだよね」
 さり気なく真面目だ。
「だからレージくんに」
 言いながら階段を一つ飛ばしで走る。
「ヤバ、時間ねえ、好きな子とでも行ってね、じゃね」


 何がどうなってんだ。
 ギター持ってスコアスタンド立てて、何で歌う以外の選択肢があるんだよ。
 だいたい、願い事なんか、叶うわけねーし。
 ハーフなのかクウォーターなのか、向かって左側の歌ってる方の目に気付いて、緑色にブルーでかなしくなった。


 大人が酒飲んで突っ伏すのは、TVとかだと大体演歌とか流れてるシーンで、俺は、それってきっと上手いからだと思った。音痴な演歌歌手はいない。
 アイドルの歌とか、雰囲気で盛り上がれる。ちょっと素人っぽいのがいいとか、クラスの誰かが語ってた。
 俺は今、コイツが下手だったら良かったのにと思ってて、人間の形したデッキみたいなやつに、何の恨みもないのにムカついてる。
 音楽なんか興味ねえけど、好きな子誘って手をつないで聴いたら願い事が叶う気がするかもな。
 なんでもっと笑っちまうくらい下手じゃないんだ。
 つーかコイツ、本当に人間なのか。全く音を外さない。音源で聴いてるみたいだ。
「はいそこのアタマ赤い子口パクじゃないよ」
 俺は思わず横を向いた。近くにいた高校生にいいなと言われた。全然よくない。
 間奏に入るMCはアチコチネジが飛んでいた。
「テメーガキをおちょくるなっつってんだろ、つーか黙って歌え」
「ガキってシツレーだろ、せめてジャリボーイとかはいお詫びして訂正」
 せっかくの曲が台無しだと思うんだが周りはウケてる。余計わけわからん。それに結局俺はネタにされてるし。
 まさか俺の心の声が聞こえたのか?
 そんなわけないか。もしかしたら一人つまんなそうな顔で聞いてるからかもな。生意気だと思ってるかもしれない。余裕ヅラで人をおちょくることに命かけてそうな奴らだ。ギラついたw ガキがいるって内心イラっときてるかもな。まあ慣れてるしいいけど。
 見た目は頭オカシイMCに近い。目を閉じたら一つの音なのに、全然揃ってない。共通点はブーツくらいか。底が厚そうでアレで踏んだら痛いだろう。
 目の色に気付いてさっきはヘコんだけど──似てねえ! 面影なんかない、変なやつ、左側のニット帽はいかにもクラブにいそうなゾロゾロしたZIPジャケット、腰ばきしてるっぽいデニムがまたやる気なさそうで立ったまま寝てそうな雰囲気だ。因みに髪は黒い。同じでたまるか。ざまあ。
 右側の奴はケンカが強い。フライトジャケットとギターのスキマからインナーが見えるが、その下は滅茶苦茶ガタイが良さそうだし。暢気に歌ってるようにみえていつもアンテナ張ってるみたいな雰囲気だ。もっと普通にしてればモテそうなのに、言動がナシだ。あとまあ顔とかスタイル良いし別にミリタリー系はいいけど、迷彩(しかも変な色)カーゴパンツと頭のバンダナは何だろう。ガイアかよ。俺がオカシイと思うんだからかなりダメだ。ゼッタイにモテない。
「お前さ、なんでコッチ来んだよ」
 わざとらしく目を閉じてピックを弾く。アコギでもピック使うのか。
「黙って弾きたまえ」
「うるせーテメーの肘が邪魔なんだよ!」
「そりゃお互い様だ」
 左側のニット帽が左利きで右側のバンダナが右利きだからだ。バカかコイツら。
「だからコッチ立てっつってんだろ」
「お前が移動しろ」
 罵り合いながら、間奏を終え、背中合わせになる。
「「ちっ……今回だけは折れてやるよ」」


 サビはもうききたくなかった。
 でも声は勝手に入ってきて、ギターは俺を泣かそうと弾ける。
 なんてバカなんだろう。譲るって言って、同じ場所に戻ってる。
「テメー何ナチュラルに裏切ってんだ殺すぞ」
「それはコッチのセリフだ終わったらうたわす」
 拍手しながらギャラリーが笑ってる。
 死ね死ね言いながら2秒で音合わせて次の曲に入る。


 今気付いたけど、スコアスタンドなんか意味ねえじゃん。一回もめくってないし、口は開いてても何も言ってない。次に何を演るのか、ギターのコードだけで決めてる。


「いい声してるよなァ」
 競馬新聞のおっさんがカップ酒を開けた。用意してたのかよ。
「若い奴の歌う歌ぁ何言ってんだか分かんねえけどな〜」
 ツマミは板チョコだった。コイツも冗談みたいに生きてるのか。
「いっつもケンカすんのな」
 間奏の多い曲だった。こういうのは楽器の音を聴かせる為の時間だってマニアは言うが俺にはよくわかんねえ。普通の奴は歌多い方が嬉しいだろ。
「歌いに来て、あーポリさんに挨拶してたから、許可証も律儀に持ってんだぜ、そんで歌わずにしょうもな〜いことで殴り合いするんだよ」
 バカでバカで、どうしようもない、俺も若い頃はそうだった、絡んでくるペースかと思ったら、革鞄に手を入れ、ニヤリとして新品を一枚くれた。ミラー伍長かよ。板チョコの見た目で軽く受け取ったが、バーコードが49じゃない。どっかで見たことあるレタリングの文字。ハイエンドなやつだ。いいのかよ。おっさんの割に食う前手はウェットティッシュで拭いてたり、良い子ちゃんの幼稚園児みたいで変だった。よく見ると、いい加減に羽織ったコートの中身、崩してるがオーダースーツだ。親父が着てるみたいな。
「わかんないけど聞いちゃうんだよなァ」
 おっさんは立ち上がって、後ろに人がいないことを確認しながら、コートの埃を払った。
「全くナニ食ったらあんな声、あんな音、出せんだろうね」
 多分、音域ってやつが広いんだ。そりゃいい音出るのは、アンプ?
「おっさん」
「なんだい」
 競馬新聞を脇に挟んで、歩き出す。
「ありがとな」
「彼女と食いな」
 空容器を持って、ほろ酔いで機嫌良くコートの裾が揺れた。
 全部食うのはもったいない。溶けないようにポケットじゃなくて、でも直に置きたくないから時間潰しに持ってきた雑誌に挟む。一口かじったチョコはうまかった。それに、苦く香りがよくて、さらっと甘く溶けたのが悲しかった。
 流れてるサビは英語で、おっさんに妙なシンパシーを感じたりもしたけど。手持ち無沙汰に目を閉じる──なんか緑なものはみたくない気分だし──と言葉が脳みそに刺さって、俺は黙って呻いた。
 そこだけ、簡単な、チューガクセイでもわかる単語が並んでた、これは愛で甘い味とか。
 なんとなく振り返ると、おっさんはゴミ箱に空容器を投げ入れて、無意味にガッツポーズしてタクシー乗り場に向かった。駅の西改札も見える。出てくる人もまだいる。いるだけで、俺には関係ない。


 ため息をついて、座り直した。ポケットの中で指先がチケットに触れた。ただのコピー用紙だからペラペラでかなりヨレヨレになってる筈だ。まゆちゃんがチェックしてくれてなければ、とっくに洗濯してた筈だ。願い事とか興味ねえし。


 おっさんじゃなくても、こいつらの歌は よくわかんねえ。なんか、キメてるんじゃないのか、なんて思うくらい何いってんだか。俺もわからなかった。
 CDでも買って何回も聴けば分かるかもしれないが、興味ねえし。
 でも、勝手に頭に入って来る声とギター。何回も何回も花が踏まれる詞。何で今日はケンカしないんだ。何で下手じゃないんだ。いて欲しいって、
 俺だっていて欲しいよ。
 道にも咲く花、どんなって色々あるのに、俺にはタンポポしか浮かばなかった。小さくて、金色の髪みたいな。
 それしか考えられないから、
 他は浮かばない。
 俺だってずっといたい。


 次の曲のイントロで、バンダナが俺をみて口笛を吹いた。気のせいだろう。コンサートとかでそんな錯覚あるっていうし。
 でもなあ。なんか、ちょっと笑った顔したような気がする。
 また難解な歌、コイツら、理系学バンってやつだろうか。
 車とか海とか死にそうな色ついた景色とか、暢気に気取った大学生が好きそうだ。
 考えてるとニット帽と目が合った。何か言いたそうなってか、人をからかうときの準備中、みたいな。
 綺麗な声出しながら、次の瞬間、バンダナを睨んで、あとは涼しい顔で変わらず歌う。
 バンダナがニット帽の脚を目立たないようにだけど蹴飛ばしたからだ。小さくだけど痛い筈だ。
 それなのに、間奏になっても、奴らは罵り合わなかった。
 こうやってカッコつけて聴かせてれば、客、もっと来んだろ。女とか絶対喜びそうだし。
 悲しくなる程優しい音で、チョコレートが苦いみたいにアイスが溶ける、みたいにな。
 チョコの入った雑誌を引き寄せて座り直すのに少し腰を浮かす。
 ライトを消さないバカがロータリーを巡って、一瞬明るく、影が濃く長くなった。
 いつの間にか、俺の影に重なる位置に、1人増えてる。
 願い事なんか興味ない。
 ないけど俺は振り返って、廻ってきたバカのライトを浴びて目が眩んで閉じて開いた。そして視界は色んなものに妄想してこじつけて浮かべてた姿を影の中から拾い出した。


「遅くなってごめん」


 気取った顔してさえずってろ、俺は何でもない風を装って、バンダナとニット帽がコッチを観察してるのに気付いた。でもいい。
 どうせガキだベタだ。勝手に笑ってろ。と思いながら言った。


「俺も………今来たとこ」


「ばーか」
 かっこつけんな、と囁かれた。一つしかない色の、瞳が少し笑ってて、見ろよ俺だけのあの強い光、アンタの眠たそうな目玉とは違ういいだろ綺麗だろさわらせてやらねえ。俺だけの。
 今だけでもいいって、思った。嘘だけど。


 やっぱりずっとがいい。


「なんか……お前らしくない趣味だな」
「嫌いか?」
 不良っぽいことは嫌いそうだし、こういうチャラついた奴らも好きじゃないのかも。
 俺はこうやって一緒にいられたら何でもいいけど。
「別に嫌いとかじゃねえよ」
 そう言って、前をじっとみて、何か考えてる顔。
 お前と一緒ならなんでもいい。なんて、絶対に言わない奴だって俺は知ってる。
 でも、そうだったらいいのにって思った。何も言わずに考えてること同じとか、そんなんだったらいいのに。
「でも日本語なのに全然わかんねえな〜」
 間奏の途中だったからか、小さな声で、顔を寄せられた。肩が当たる。腕がくっ付く。この柔らかさが誰でもない。お前だけ。
「ああ、俺もわかんねえ」
「はあ?」
 わかんねえよ。俺は笑った。同じは同じだし。
「まあ……わからなくても良いけど」
「だろ?」
 俺もそうなんだ。
「らがっつぉ☆……ぱるらじゃっぽねーぜ?」
「え?」
 ニット帽がはっきりこっちを見てる。
 とらわれそうな緑が混ざり合ったらどうなるんだろうか。ちょっと許せない。
「Can you speak Japanese?」
 にこっとしようとして出来なくて変な半笑いになる。
 バンダナに蹴られたからだ。
「なんてな☆ わかんなかったらザックリ通訳してやって、オイライタ語しか話せないし英語だとはらへったおまえくうみたいになるしヨロ」
 イタリア系か。なる程チャラついてるワケだ。
 ヘラヘラしてなきゃイケてるような気がするがダメか。ギャラリーに笑いかけながら、バンダナのつま先を踏んだ。ゴツいブーツで容赦なさすぎ。
「さてみなさん最近俺らオカルトになっちゃってますがウソですからDQN200人殺したとかありえません」


「あとね僕らお互い命狙ってますけど、それでこうやってなかなか歌わない訳ですけど」
 今までのよりはわかりやすい。ナイーブでプライド高そうな女を口説く歌だ。
「歌がきけたら願いが叶うって都市伝説ですから残念「パクってるしネタが古いオマケにテメーの話はクドい」
「いいじゃないですかサムライそこにしびれるあこがれる我は放つ光の白刃そんなオイラはサウスポー☆リスペクト澪たんハァハァ嘘デス残念あずにゃんは俺の嫁(はあと」
「……よくこのリフでラップができるな」
「球技大会で熱い視線タツヤもいいが俺ならタニグチ☆選択授業でラケット持ったらムダな期待(一部の)女子のテンション↑マスタースパーク☆やがて失望↓王子って呼ばないで☆」
「呼ぶか。テメーは玉子で充分だ!」
「点が一個多いからエラい! ちたまは我々のものですね大王サマ」


「コミックバンドか……?」
「違う……? ……と……思うけど」


「お前の方こそ」
 ニット帽がバンダナにぼやいた。
「よくそんなリフやれるなアコギでムダにLunatic」
「弘法筆を選ばずってな」
「坊主が屏風に上手に弾幕張りましたCheck it out!!」
 さらっと左手を流して目を閉じて、ニット帽が一歩下がる。
 デートの雰囲気ぶちこわしなこんな宇宙人みたいな奴ら、認めたくはないが、かっこいい。
 音楽のことなんてしらないけど、ニット帽がいったのはコレだ。mp3とかで聞くこういう曲は、こういうところ普通はエレキギターか、それかベースの音だ。だけどソレを、バンダナはアコギで弾いてしまう。
 ギターを主役にして、観客を煽る。十人そこらの人影だけど、俺にはライブにみえた。
 だけど誰も動かない。バンダナのギターが凄すぎるからだ。なんかわかんねえけど、聴いてる奴はそんな顔してる。わかってるとでも言いたげに、ニット帽は眠たそうに笑って、スキャットを被せた。
 確かに、何食ったらあんな音出せるのか。


「何か凄くね」
 わかんねえけど、と隣で俺と同じことを言う声。人間離れした存在感にも、俺の鼓膜は日寄らない。いつでもまっすぐこの声だけは拾える。
「今までこんなのきいたことなかった」
 悪くないって顔だ。
「俺も」
「じゃあなんでチケットなんて持ってんだ」
「秘密」
「なんだよソレ」
 笑われた。ずっと待ってた花が咲いたみたいだった。


 歌の中の女が手をつないで、2人で外に出た。最後の歌詞の余韻に拍手が重なる。
 ニット帽は大仰に礼をして何故か下を向いたまま、バンダナと肘で小突き合いながら旋律を浮かび上がらせた。
 なんか和風な感じのする、夕方みたいな、それか、だれもいない入道雲みたいな曲だった。
 電波単語は少なかったけど、やっぱりわからない。そばにいるようでいないのか。だけど、別にいい。例えば綺麗な夕焼けとか、熱すぎてゆらゆらする空気の向こうの雲とか、そんな二度とこない景色を並んでみたら、そりゃ横にいる奴と手を繋ぎたくなるだろ。デートに誘ったのが、斜め後ろから眺めてただけのクラスの女子でも、誘われてみたけど冴えない奴だった名前しか知らない男子でも。
 普通が好きに昇格するくらい。なら好きなら、
「よいこのみなさん、今日もご清聴ありがとうございます。ですがみなさんああよいこのみなさん我々の歌を聴いていただいてですね、ヒーローポイントが安易に増えるとかダメゼッタイ。6割くらい絶望が占拠」
「4割はいいのかよ」
「100%宣言したら公正取引委員会につれていかれて肥料にされる」
「されるか」
「まあそういう大人の事情によりましてですね、やはり夢の触媒は努力です増幅促進いま頑張ると同じものがもう1セット! ついてきたりはしませんが」
「わけわかんねえ4割はどこいった」
「大のレバーで流しました」
「そりゃトイレから手が出てきた時の対処だ!」


「まさかのWボケ?」
「あんまかんがえるな」


「だからまあたのまれなくてもいきてくだちいえーりんえーりん」
「おっぱい禁止!」
「ギャフン」
 なんだソレ。
 立てた旗をへし折るように、キメかけたところでイカれたことをいう。
 それで俺はふと思い付いた。
 コイツら、もしかして死ぬ程テレ屋なんじゃないか? だからふざけないと歌えない。

 なんだ
 お前らだってガキじゃん
 タバコ吸えるからってアニキ面すんな

 ギターケースの横に置かれたキャビンを見て考えてやめた。
 コインと一緒にダンゴムシ入れるとか。高確率でキレて追いかけてくる。おもしろそうだ。
 とか、仕返ししようと思ったけど、こうして、いるほうが大事だ。二人で。
「なあ腹減らね?」
「……減った」
「これやるよ」
 俺はチョコレートを折った。二つに。

 (1stup→130324sun) clap∬

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 (200911fri)


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