■domine-domine seil:07 あの の記憶 06

 自力で推進する力を持たない、半可視の生物か。宇宙には、色んなものがいるんだな。
 俺は報告書をまとめながら、ぼんやりと輝く枝分かれしたサンゴのような姿を思い出した。宇宙ヒドラ、星の精の母体らしい。大変に稀少な存在で、確認されている個体数をきくと、まあ、件の団体が殺したらコロスと駄々をこねるのも仕方ないとさえ思い苦笑した。
 だが、俺はやはり、彼らの活動には疑問を禁じ得ない。保護に拘るあまり、頑な過ぎるのではないか。
 だから、常々救われながらも、件の生物が語ることはしないのではないか。俺は思った。
 宇宙を漂う比較的大型のプランクトン、ウミホタルか、クラゲのような。知性は高くなく、コンタクトがとれた記録はない。
 彼らのレポートにはあったが、多分違う。
 俺は提督の呟きを聞き逃さなかった。
 彼には言ったんだ。
 ありがとうって。
 なんでもないって俺に言ったのは、うわごとを聞かれた気まずさだけじゃないだろう。
 知られない方が、自由に泳げるからだろう。苦しい中でそんなことまで気をまわして、判断して、守る。
 細やかで、とても優しい心だ。
 そう思うと、俺は誇らしく、そして何故か、胸が痛んだ。
 彼こそ神の遣わした英雄だ奇跡だなんて、手のひらを返す彼らの態度にも、簡単に奇跡にしてしまう無神経さにも、酷く腹が立った。
 だが、提督の指示に、喧嘩腰になれという項目はなかった。
 貨物船団の責任者には大いに感謝された。実のところ上にせっつかれはしたがあんな化け物でも殺すのは寝覚めが、なんて今更。遅れたり破損したら全額軍の賠償責任だ、投資した分はたらけとか言ったの誰だ。俺やお飾りの提督じゃ若すぎるバカにしてるって、無理に艦長にコンタクト取ろうとしたのも知ってるんだぞ。
 しかし脅せという指示はない。
 もったいぶらずに最初からやれって、簡単に言ってくれる。
 生物が穏やかだったからすんなり行っただけだ。パイロットはギリギリまで被曝に耐えた、OPを始めとして他のIMG+持ちだって、顕現の影響は受ける。提督自身も、それを知っているから余分にフィードバックを受けるのを覚悟で制御を緩めなかったんだ。あんなに絞らなくても、汚染はされないLvだった。だけど少しでも矢面に立つNNを危険に晒したくなかった。相反する2つの事を同時に行うなんて至難の業だ。確かに神業と言って言い過ぎじゃない。だけど、クラインは神様じゃない。彼は人間だから、限界を超えれば傷付くし、痛みも感じる。
 相手の意を汲んで、こちらの意図を伝え、会話することだって出来る。
 当たり前に話をしただけのことだ。
 懸命に、困難に立ち向かっただけだ。


 奇跡で片付けるのか。
 本部からの労いにも、俺は型どおりの返答しか出来なかった。
 提督は便利な護符じゃない。
 救いだったのは、ブリッジの皆が彼を見舞ってやれと俺に言ってきた事だ。大勢で行くわけにいかないし、報告も兼ねて、とのことだ。
「それにエッケルベルグ大尉が一番仲いいですし」
 下世話な意図なしにそんな事を言われ、俺は何故か、少し、罪の意識を感じた。

 (1stup→170924sun) clap∬


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