■domine-domine seil:10 艦長の悪夢(と俺の初夢) 04

 ――説教ですね。
 ていうかイロイロダメだろ!
 頭痛のしてきた俺の横で、肩こりによさそうとか虫も殺さないような顔でのたまう提督。整形外科? 的に良くても心臓に悪スギだ。艦長は血圧が高めらしい。健康診断で引っかかったって言ってたぞ。なんかあったらどうするんだ。
 不適切な行動でなくても見せるとかだめです!!
 と、くどくど言いたかったのだが、俺と提督――あるべきパーツが足りないので気付くのに時間がかかる。もしかしたら俺と一緒でなければスルーされるかも――を見かけると挨拶しに来てくれるので、彼らと話している間にブリッジに着いてしまった。結局それ以上追求することもできず時間が流れ、その日の業務は終了。
 クラインはアレに簡単なマッサージなどを覚えさせたらしい。株が分かれても経験は引き継がれるので、彼の育てたアレは皆、体をさするのがとても上手いとか。誰に誉められたのかは気になるが、どうせ工廠関係者なので忘れよう。奴らのことなど考えたくない。
 俺は迎え酒さながらにコーヒーをあおって、ため息をついた。
 アレだけでも俺には大ダメージだったのだ。暗く沈むような悲しみや苦しみではないが、何故今年最初のまとまった睡眠に、苛まれねばならんのだ。しかもナニすっきりしてる俺。寝不足だろ、だらりとしろよ。
 正直一直線で売っている俺だが、本能にまで正直なのはどうなんだ。
 想像するのは勝手だってあの人は言ったが、早速夢にみるとかどーよ。
 只の変態です。良いトシこいて熱くなり過ぎて鼻血出してました。
 提督が密かに蟲──触手生物? を愛でてるなんて、俺には耐えられません。彼が一人でしてるってよぎっただけでも、今までも俺は、そんな些細な思考で寝付けなくなってしまってたというのに。


 なんてことだ。
 触手と戯れるクラインの姿が、俺を絡め取って離さない。
 あの清楚な身体で受け入れるのか。
「ちょ、そのへんは撫でなくていいから」
 最初はじゃれあったりとかで。
「あーもーエロいコトするなよ……ぶっちゃけ最近なんか疲れ気味でさ〜……しばらく何も考えたくないっていうか……ちょっと頭とか、撫でてほしいかも……うん……そんなかんじで」
 なんて言って猫みたいな顔するんだろうな。
「俺もさわっていい? 相変わらずつるつるふにゃふにゃしてんね……ひゃ、耳のトコはいいから、あ……でもなんか……してほしいかも……」
 俺にも見せない弛んだ顔で、甘えちゃったりする。
「……そーゆーの……好……き……」
 とろんとした目で突っ伏す。俺ならもう押し倒してしまうタイミングだ。
「して欲しい……いっぱい……して」
 そんな事を言って、はらりとパジャマを脱いで……いや、脱がないのか? ココは触手たちにうねうね脱がされる方が感じるのか?
「あっ……っや、……えと……嫌じゃない。大丈夫……いいから……」
 とかって、あの調子で優しいんだろうな。
 粘液まみれで縛られて、それでもペットが可愛くて、きもちよくて……喘ぐの我慢して微笑んだりきっとする。
「……あ」
 防音でも声を上げるのに抵抗がある人だ。もの言わぬ生き物が相手なら尚更だろう。涙目で口元を押さえて、身体を震わせる。淡く綺麗な肌に、赤く筋を残して、触手たちは彼に従う。
「声でそう……塞いで」
 触手は再びクラインの細い手首を括り、唇を犯す。素直にひらいた口のなかを辿り、言葉を奪い舌をとらえる。
「……んっ……んく……」
 彼の求めに応じて、異形は儚い身体をひらいていくんだ。
「……っ……!」
 息苦しさに解放させて、速くて浅い呼吸を繰り返す。半開きの口からはあはあと甘く熱い息を、とろけそうな瞳からは涙が。それさえも触手たちの糧で、好きに啜らせるんだ。好きな相手には撫でられたがるあの人だから、慰めるみたいに拭ってもらうのだろう。心も気持ちいいハズだ。
「……ぁ、っあ……」
 そうして奥に引き入れる。
 貫かれた感触で、白く放ってしまって、そこをまた啜られて、塞ぐ事も忘れて喘いでしまうのか。
「ふあ……ぁ……う」
 ぬめぬめと這い寄るなアレが、薄い腹を内側から撫でる。人間の男のように限られた長さではないから、ご主人様と体積が許す限りどこまででも、潜り込んでいく。
「……ぁ、もう、駄目……っいやっダメじゃない、……してほし……」
 触手に持ち上げられた身体が淫らに揺れる。優しく揺り動かされて、粘液がしたたり落ちる。半透明の触手たちから、繋がった身体の縁から、熱くたぎった先から、しどけない唇から。
 シーツと、剥がされて捨てられたパジャマを汚していく。
「俺が……だめっていっても……やめないで」
 促して、
「おまえが……大丈夫なトコまででいいから……」
 いたわって、
「最後まで……」
 懇願する。
 触手は一度出し切ってもまだ動けるのか、力のはいらない身体を撫で続けた。覚醒と喪失を繰り返しながら、彼は異形を優しげな視線で撫で、終わらない夜にまどろむ。
 千人の兵士を奮い立たせるあの声で、力無き子猫のように啼く。
 おぞましい筈の痴態に、俺は魅入られる。
 人形のような身体に、纏わりつく異形。それを愛でる主のように、少し透けて見える柔らかな色は、美しくさえみえた。
 背中に生えた白い翼が千切れていく。
 今や水たまりのようにシーツを彩る飛沫と同じ。尽きることなく舞い落ちて、俺の心を撫でる。
 悪くない。
 もっとみていたい。
 快感に心まで侵される恋人を。
 犯し尽くされ壊れかけ、それでも暖かく、俺には誰よりも狂おしく愛おしい。


 退役したら官能小説でも書こうか……と思い上がりそうな想像、いや妄想力だ。
 全然程々じゃない夢見っぷりに、俺はしばらく、提督の顔をマトモにみることができなかった。


 以前副長からきいた話によると、新年にみる夢は初夢、といいなにやら暗示めいたものであるとかないとか。
 俺はこれからも、あの人に翻弄され続けるということか。
 悪くないけど。
 理性やら血液やら、いつまで保つのかチョット心配だ。

 (1stup→110107fri)


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