■domine-domine seil:1b 提督とプライベート

「……」
「……」
「……」
「……提督……」
「……」
「……」
「……なに」
「……いえ、……」
「……」
「……」
 絡めていた脚が緩む。
「……痛かった?」
「……いえ……」
 ソレで空気が少し変わる。
「ごめん、痛いよな」
「いえ、お気になさらず」
 熱く尖った波が平坦に。そんな感じだ。
「気になるし」
「しかし」
「……変なところでプライド持ち出すなー」
「……申し訳ありません……」
 そんなこといわれても、自分より華奢な恋人にこんな事、とも思ってしまうのがかなしい男のプライドかもしれない。
「気にするなっていわれても気にするし言ってもらった方が」
 と、エッケルベルグをみる。
「お前に腹上? 死されても困る」
 死ぬとかいやだ、とつぶやかれると続きに勤しみたくなる次第だ。可愛い。
「こんな事で圧死とかない」
 そう言って頬が微かに膨らんだ気がした。可愛い。
「しかし」
 可愛いからこそ、口にするのを憚るし、
「っ……」
 思わず己の口をふさぐクラインに益々煽られてしまう。
「調節など出来ないのでしょう」
「そんな、こと、」
 ないけど、と懸命に返事をする。吐息が混ざっていて総てを忘れさせたくなる。
 自分としては何もかも忘れてしまって欲しいのだ。
「……っ……ジョス」
 まって、といわれるともっと性急に動いてしまいたくもなるし。そういう事がしたい。していましたい。
「あなたに」
 自分も息を上げながら告げる。
「別のことを……考えながら、こうし、て、欲しくないのです」
「ジョス、」
 この人はいつもそうだ。激しく喘ぐ代わりに俺の名を呼ぶ。そんなそぶりをみせない努力をしているがわかる。もしかしたら無自覚なのか? それはそれでそそるな、と思う。
 クラインはとても慎ましい。
 抱き締めて、名前を何度も呼ばれて、息苦しさのなかでやっぱりそうなんだと思う。
 自分では奔放だと思っているが違うなんて可愛いじゃないか。
 ソレはソレとして気遣われるのはやはり悔しいので、痛くないのか聞かれたくなくてキスをした。普段より少し抵抗があって、味はとても背徳的だった。柔らかく解けていく毎に、あまく、溺れていく。
 圧迫感が減っていることにも気付いたが、抗議することは出来なかった。自分の方が、なにもわからなくなる。名前だった言葉も解けてしまった彼に蕩けてしまう。没頭していく。わすれて、いく。


「ジョス」
「……」
 我に返ると、恋人の惚けた顔があった。でも、自分よりは理性的だろう。慌てて落ち着いた風を装うが、出来てはいない筈だ。そんなエッケルベルグをみて、クラインはふわりとした笑みを浮かべた。
「大丈夫か?」
「と、当然です」
「え、なにその断言」
「……どういう意味ですか」
「そんな素で返されるとか全然気持ち良くなかったって事かと」
「そんなわけないでしょう!」
 と、言ってしまってからからかわれていると気付く。
「…………」
 盛大にため息をつく。
 頼むから、たまには甘過ぎて胸焼けするくらいのピロートークとかして欲しい。イヤしたいし。
「提督」
「この状態で提督っていうの禁止」
「あなたというひとは……」
 と、緩く抱き締めて体重を掛ける。ちょっとつぶれろ、とか思ってしまう。
 火照った顔は、絶対に他のクルーにはみせられないような様相──再度、激しく滅茶苦茶にしてしまいたい──なのに、なんという悪魔だ。魔人なんだけど本当に。ソレが困る。
「重い」
「そんな命令はきけません」
 緩く押し返そうとする腕を無視する。
 しなやかな感触も、微かに伝わる指の細さも清楚で愛おしい。
 マイペースさで巧妙に仕舞われている照れ屋というか慎ましさがたまらないわけだが、ここでこの態度はどうなんだろう、とガックリくる。翻弄されるのは仕方ないのか。これが魔人≠ニ呼ばれるこの人を腕に抱くということなのか。そういうのはもっとこう壮大な感じのシチュエーションで使うべきじゃないだろうか、ソレはソレであってはならないことだが。
 格好つかなくて良いから、このままが良い。この関係が変わっては欲しくない。
「ジョス」
「はい」
「もう一回できたらいいのにな」
「……そうですね」
 諦めながら、そっと身体を離す。時間だし、過剰に疲れる事はさせられない。話し合って決めたわけじゃないが、ソレも、この距離に込められている。こうしているだけでも、問題だという奴はいるだろう。だから、多くは望み過ぎないのが良い。
「別に俺気が散ってるとかないよ」
「何ですか藪から棒に」
「脚緩めるとかそういうの」
 生々しい。
 思わず赤面してしまう。何故今蒸し返す。もう一回押し倒したらどうするつもりなんだ。
 殊更にそそくさと背を向け着替えを掴む。自覚がないのも程々にして欲しい。
「俺のせいで痛くないかなーって思ってるけどソレってお前のことずっとかんがえてるわけだし」
 人の気もしらないでと言いそうになって、言わなくて良かったとおもった。

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