■red-tint 01

 件名:ちょっと修行に出てきます

 狙ってるワケでもないのに、可愛い、じわりと面白いなんて言われる自分の文面――だけどソレだって最近は錆び付いているんじゃないかと気を揉んでいる――が、簡素に近況を告げている。そして暫く消えますまた会おうで終わっている。
 そんなことしてもなんにもならないのは分かりきったことだった。
 だけどこのメールを送ってしまいたかった。


 もう長い事、着信をみていない
 開店休業な携帯に、時々あるのは家族の名前
 誘われたSNSも正直もうやめたい

 自分がいては毎日忙しいコミュが盛り下がるんじゃないか
 思うところあってバイトを辞めたこと
 ダウナーなハナシなんか書けないし
 いまは他人の生活をみるのが辛かった
 そんな自分がたまらなく嫌だった
 だったらまた自分を磨けばいいんだけど
 今は飛べない

 昔からだって飛べなかった
 ただ地面に着く前に次の足を出して、繰り返して、飛んでいるフリをしているだけだ
 せめてそこにいるくらいは赦される人間になりたいと懸命に過ごしてきた
 でも何も残らなかった
 ダメだった自分を棄てる為に、関わるものは全部捨ててきた
 もう古い知人はいないし──もし時々自分を思い出してくれるなら嬉しいけど
 写真にも写らないようにしてたからアルバムだってない
 今も、写メなんて無くなればいいのにと思っている

 友達は損得や能力の差なんて考えない
 それはもう気付いた

 会えば昨日も会ってたみたいに話せる
 約束しなくても切れないって、思ってくれてる

 問題があるのは
 自信を持てない自分で
 他人の気持ちを信じられない自分だ

 繰り返しても同じことなのに

 また同じことしようとしている

 強くなって帰って来る
 あなたをあてにしなくてもいいように
 借りっぱなしにならないように
 役に立つ人間になって帰ってくる

 逃げ出してるのは自分の方なのに
 むしろ一方的に切られたって、仲良かったのに急にいなくなったって、その前のその前も人づてに
 ソレ聞いて嬉しくて、罪深い
 今更謝る事なんて出来ないけど、悪かったって思ってる

 寂しいから構ってなんて言えなかった
 いっそ家出するだの
 死んでやるだの
 書いた方が自分にとっては幸せだろう

 そうやって喚かないでいられるだけマシだってずっと思ってきたけど
 そうじゃない
 いっそハデにぶちまけて取り押さえられてどこかに放り込まれた方が良かったかもしれない
 そうすればコイツはどうしようもなく病気だから治療が必要だなんてスカッと矯正されるかもしれない

 なんという病んだ考えと思うが
 改めて足を運ぶ気力は無かった
 めんどくさい患者だと思ってイヤイヤ相手してもらうならもういい

 かわいそうだから構ってもらうのはもういい

 ウザいけど無視するのも寝覚め悪いし
 いっそどっか行ってくれないかな

 そんな風に思われてるかも
 ただの妄想
 信じろ
 ダメな頃もあったけど、抜け出した
 呪文ももう効かない
 疑心暗鬼でおかしくなりそうだ
 ソレで修行しようと思ったが

 正直今は磨り減ってしまっている
 長いことプレイしたつもりになって祀っていたゲームも、折角時間が出来たのに、インストールする気にならない
 妹よスマヌ
 次の休みにゲーセンにでも行こうと言ってくれたのはありがたいが
 今はソレもどっかの夢みたいに聞こえる

 夢は馬鹿馬鹿しい
 他人の夢がみえたところで何の役にも立たないし

 気は進まないけど
 外に出ようと思った
 とりあえず、書店にでも行くか

 電車の中は冷房が効きすぎていて寒かった
 それなのに隣の男は汗をかいていた
 何だかんだ言われそうな
 アレな外見だけど
 風呂には入っているようだ
 確かにダメな奴もいるけれど
 そうじゃない人間だっている
 せめてそこにいることくらいは許して欲しい
 悪目立ちしないにはどうすればいいかを考えて、毎日どの手で吊革を持てばいいか迷ってる昆虫がここにいるんだよ
 ずっと苦しかった
 張り合うつもりなんかない
 気に入られなくていいから、傷付けないでほしかった、それだけ
 子供だった自分のこと思い出した
 今だって大して変わらないが
 それにしても可愛いバッヂつけてんな
 あのピンのやつは多分プライズじゃないし
 ああいうのショップで買えるのかね
 隣のあんちゃんのリュックみて和んで、いらんこと考えて腹立てて勝手に惨めになって疲れて、また眠くなってきた
 目覚ましはいらないし
 万が一乗り越したって困らない

 寝てしまえ、と目をつぶる
 こういうときに寝るのはめちゃくちゃ気持ちいい
 眠いときに寝られるのは幸せなことだ
 例えそれが逃げ出したがっている自分が飛び込んだ場所だとしても
 泥みたいに眠るのは心地よかった


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