■septet-rain 05

 あつらえたみたいにぴったりで、その用意周到さが益々変態じみていて、殺したかった。できるならそうしてる、今すぐ。そうするくらい大した労力がいらない奴らだったからこそ、今まで2秒でボロ雑巾にしてた。
 ソレで、そのボロ雑巾の恨み、がコレか。ユイは視線の気持ち悪さに耐えながら奥歯を噛み締めた。
 ボタンどころか袖まで引き千切って、帰りはどうやって帰れと、とも思う。裸で歩けって事か、と内心ぼやく。この衣装で放り出されるのはもっと嫌だ。とかそんなこと考えて現実逃避。今もベトベトした手が這い回っていて、好き勝手に引っ張られて関節が痛い。連中はユイを無理矢理着替えさせて、そしてそのまま押し開こうと夢中だ。
「やめてくれ!! その子に酷いことしないでく」
 最後まで言い終わらないうちにブーツが顎にヒットする。頭を棚にぶつけながら、彼が転がる。
「……!」
 思わず睨み付けたらその瞬間に押し込まれた。
「ぅ、……っ」
 慣らしてもいないのに、強引に入り込んだソレは大した体積ではないものの、酷く堪えた。
「反抗的な態度」
 小さなソレが震え出す異様な音に翻弄されながら、構えそうになった姿勢を戻す。そして次は膝が崩れ落ちないように。
「俺らに手、出したらお兄さん殺すよ?」
「おとなしく遊び相手してくれたら生かしといてやる、とは言ったが無傷とまでは約束してねえだろ」
「おっと、もう立ってられないのかよ。他愛ないねえ」
「……っぁ……」
「小生意気なガキだと思ってたがカワイイね……まだ、何にも生えてないんだ」
 ぐにぐにと摘ままれる。
「さ、……」
 触るなと言おうとして飲み込む。
「おい」
 震え方が乱暴になって、肩まで突っ伏す。悪趣味な肘まである黒い革手袋の手で、空しく床を引っ掻いてしまう。
「何て言うんだっけ?」
 惨めな有り様の脚の間から手を離し男の手が大きく反った背中を撫でる。剥き出しの肌が痛々しくも艶かしい。
「……にゃ……ぁ」
「そうそう上手だ、そらご褒美だ」
 野太い声が嘲笑って、出力を更に上げた。
「にゃ、っ……ぁ……ぁ」
 まだ幼げな器官から、白い飛沫が落ちる。大人の男から玩ばれるには小さすぎる隙間から垂れるコードにも雫が絡んで床を濡らす。
「なんだ、色気も生気も無い人形だって思ってたけど結構色っぽ」
 悩ましい姿を晒して軽く放心状態のユイに揶揄の言葉。
「ナカイキ出来るんだ、遊び甲斐ありそうだねー」
「好き勝手された分好きに突きまくってやるよ」
「俺の鼻の分、たっぷり鳴けよ猫ちゃん」
 ふわふわしたアクセサリをチラつかせて生唾を飲み込む。
 ネコの耳と尻尾。粗野な手には不釣り合いに可愛らしくもふざけたソレは、勿論普通のアクセサリではなかった。
 着けた所を想像しながら、熱く膨らみつつある下半身を誇示する。そして、傷痕のある背中から覆い被さるように抱き締めて、うなじを舐める。
 仲間は獣じみた光景を眺め、出力を最大にした。
「ひあ」
 男の体の下で、本物のネコのように反った姿勢で、華奢な身体が震える。
「ちげーだろ」
「オラちゃんとモニタ見ろよ。興奮すっからよ」
 目をつぶる彼をまた蹴飛ばす。
「いやだ、もうダメだこんなこと」
 彼の悲壮な呟きが聞こえる。爪のない指をカメラごとPPテープで固定され、嵌められた手錠の手首から血が滲んでいるのがちらりと視界に入る。
 ユイは霞む目で上目使いに正面の男を見据えた。
「にゃふ……にゃ、にゃぁ……ん」
 作ったわけでない喘ぎ混じりに鳴き声をあげると、彼らは蔑みつつ喝采した。場には淫蕩な熱が溜まっていく。


 その耳には返し針が付いているというデタラメな代物だった。
 澄んだ声が、僅かに艶の混ざる吐息が、壊れそうに震える。
 激痛に耐える訓練は受けていたものの、皮の薄い所に糸を通されるとか、呻かずにいられなかった。武骨な男の手が意外に器用なのが皮肉だ。淫猥なベルトに縛られた華奢な腰に線が出来る。引き抜いた糸と、同じ色だ。


「に゙ゃっ……あ゙」
 頬に伝った血の筋を舐め取って、一人が嘲う。
「あ゙」
 縫われた尻尾を引かれると死ぬほど痛いし。多分先をinするやつの方がマシ。どっちも悪趣味だけど。
 猫語で喋れという意味不明な要求を、自棄的にこなしたユイだったが、思いの他彼らの性線を刺激したようだった。
 入れられたままの異物を指で圧され、無理矢理に押し上げられる。汚れた快感で狂ったようになる。
 別の指で舌を挟み擦られると、昏い痺れが脳を蕩かして、自分はホントウにサカリのついたネコかもしれないと思えてきた。
 撫で擦られるだけでこんなになってしまう自分の身体はどうしようもないと、ユイは悔しさと痛みの中で、弱いことは惨めだと改めて思い知った。


 あんなものは、入れられた事がない。
 絶対入らないって思った。黒くて歪で寒気がした。
 苦しくて、
「っ……! ……っ、っ」
 自分の体が自分じゃないみたいになって、そいつらは俺をみて笑って、でもたぎってた。
「……ぁ、……っ……」
「気持ちイイなぁーオラ鳴けよエロ猫ちゃん」
 破れそうだと思った、内側から裂けてしまう。痛い。いたい、それから、
「……にゃ……ぁ、……」
 ソレ以上奥になんて無理なのに、男の手が俺の情けない尻を叩く。
「ゔあ」
 くるしい、痛い、いたいだけ、他になにもないっておもいたい。
 こんな格好したくないっておもっても、体が勝手に震えて、跳ねた。
 嫌。


 漆黒の髪と揃いの毛色をした柔らかな耳と尻尾は、いたいけで可愛らしい。いかにもおとなしそうな少女によく似合っていた。しかし、衝撃に揺れる尻尾は強引に縫い止められたものであり、固まりかけた血に濡れたカチューシャも、少女を責め立てる為の玩具だ。
「っぁ、にゃっ……かはっ……」
 儚げに身体をひきつらせ、壊れそうに啼く。
「だめだ……こんなのは、ひどい」
 彼は、凄惨な光景に啜り泣く。
 妖しい黒い光沢と淫らな革に飾られてしまった少女はあんなに小さいのに。膨らみのない胸をねじるように摘まみ、擦りあげて、挙げ句噛み付く。白く柔らかな肌は傷だらけで、男達の汗と体液で汚されている。
「……君、……こんなの嘘だやめてくれやめてくれ」
 あの子は女の子ですらない。捩じ込む場所なんて無い筈なのに、彼らは少女のようなユイの身体を突き挿した。不道徳で醜悪な樹脂の塊で、可愛いお腹が、きっと破れてしまいそうなのに、滑らかな太股を、お尻を、叩いて揺らす。肌に食い込んだ針に赤い線を描かされたまま、更に白い線で汚される。痙攣の度に揺れる作り物の尻尾はとても、可愛らしいがその下にあるのは凶悪な戯れ。
「ぅ、ぁ、っ……ひゃ、……に……ゃっ」
 一瞬、初めて受け取った封筒を見詰める、微かにはにかんだ顔を思い出す。あの愛らしくもどこか寂しげな姿が、こんなことで汚されるなんて。
「もう……やめてくれ……やめてくれよ……やめてくれ」
 そして、恐怖や嫌悪、痛みとは別のナニカが澱のように、心の奥に積もりつつある事にも、静かに絶叫した。
 赦されない。


「たまらんな……エロいガキだな」
「ヤらせろよ、これ以上拡がったら気持ちよくなくなんだろ」
「じゃあ、誰からいく? 俺入れた瞬間出しそうw」
「俺パス。ガキのクセしてカワイイ面してっけどな……こんだけグッチョグチョに犯したらなんか前みてーに首折れたりとかさ、メチャメチャ細っこいしよ」
「マジかー!? 勿体ねーじゃあお前後からイれさしてっつっても無いかんな」
「全くだ、こういうお人形さんみたいな澄ました嬢サマ犯しまくるから愉しいんだろうが」
 いや、今は牝猫か、と付け足す。
「ほーらネコちゃんミルクいっぱい飲もうね」
 出来るわけなくてこぼしたら背中を踏まれた。吐き戻したアレに無様に顔を突っ込んでしまう。
「あぅ」
 えづいて呻く姿にすら熱い視線が絡む。
「ヤバいわガマンできねーわ。壊しちゃってイイ?」
「コレ、二本いけそうじゃね?」
「マジかよお前らホントケダモノだなーカンペキ鬼畜、だわ」
 荒い息がかかる。気持ち悪い。
「死んだらネクロ屋に売ってあげるね」
「うっわソレガチでゲスいな……うあ、っぁース、ゲーな……ヤバくね……コレきもちいわ」
「ひーっ……ひひ……いぃ。いいね、ギッチギチで、狭くてサイコー」
「ああ……気持、ちイイな、っう、ぅ……こんだけしてよ、裂けてねーし……スケベな身体してんなーネコちゃあん」
「このまま屍姦してーハクセイして俺にくれよあーたまんね。死ぬわ俺この子コロして俺もう……うぐ、うひっ、し、死死っ……絞り、取られへへ」
「あっテメーナニ勝手に出してんだ」
 がっくりと落ちた首をみて息をあげ、歪んだ口許を更に歪める。
「っ出る……出るコレまだ出る……ぁー………」
「あーあネコちゃんトんじゃったじゃないの」
「お前のが濃すぎるからだよ、かわれ」
 詰られても、カクカクと腰を動かしつつ笑う男。
「うは」
 こぼれた涎が赤い痕のある肌を汚す。そして意識の無い身体を無理矢理に捩って唇を開かせる。下と同じように強引に滑らせ、存分に流し込む。こうなれば思い通りだ。唾液を飲ませる行為に没頭し、折られた鼻の痛みを忘れる。
「あー出る出るコレホント気持ちー」
「クソってめーアホかっ……こ、なっらら俺も」
「は、はへ、へっへ……っへ」
「……く……ぅ、……」


 二人掛かりで押し込まれて、何回気絶したかわからなかった。
 ソレでも飽き足らなくて最後は、腕をねじ込まれた。


「ひ、ぐ」
 親指を内側に倒し、揃えた指を緩く前後させる。
 そして一気に突き挿れる。
「  」


「ぁ……あ゙」
 ショックで失神して、だらしなく弛緩した身体が、次の痛みで覚醒する。
「……なんて顔しやがるんだ、マジ今殺していいか?」
「だめだ。ちゃんとローター出せよ、あと2秒かかったら俺の番だかんな」
「死なしたらユルんじまうだろ、こんな上物滅多にヤれねえんだ」
 もっと壊してからだ、と熱い息を吐く。
「あー……コーフンしてきたわー」
 逆の手を長い一物に伸ばし、緩急を付けて動かす。粘膜に被われた拳も、その中で握りを固く弛く繰り返し、感触を楽しむ。びくびくと震えながらも、確かな反応があるのが悦しい。傷付けずにとっておいた顔が、壊れかけていてさえ可愛らしいのもたぎる。
「……ホント、オラもっと鳴けよ、っと、あったあった、ホントーやべーガキだなー……誰かんトコで調教でもされてんかね」
「早く取り出せよ、いーからかわれ」


 俺は、こんな事されても死ねなくて、ずっとこういうのが続くんだって何故か知ってて、わかったきになって、わからなくなった。
 嘘、だろうな。ソレでも昇らされて、苦しくて、痛くてやっぱり殺したかった。何一つ叶わない自分が、ゆるせなかった。


 握ったり、開いたりされる度に爪が擦れて体が恥ずかしい痙攣をした。別の奴の指輪が、本当にサイアクだった。
 次第に暗くなる視界に、涙が映る。それは、遠いところにあって、自分のものとは違った。己の眼球から流れ出るなら見ることは出来ない。
 もうやめてくれと絶叫するのも、自分の声じゃなかった。息をするのもやっとのユイには慟哭だって出来ない。
 あの人は──……
 もう声も出ないけれど、抉られ過ぎて擦り切れなくなったその声で彼を呼ぼうとして、誰なのか認識する事も出来なくなっていた。


 気が付いたら、アルフォンソの所にいた。
 同じ手厚いなら葬られた方がマシだったけど、そこはヤツの贔屓の病院で、俺は丁寧に手当てされていた。
 長い間意識がなかったみたいで、体が思うように付いてこない。
 戯れを言うヤツを押し退けて、俺は足を引きずって、包帯まみれの体で走った。
「お前が殺したがっていたアレは株まで処分しておいた」
 どうでもいい。
「名など知らん端根だったが、ちょっとおいたが過ぎる」
 そんなこと、勝手にやればいい。
 俺だってしらないそんなの。
 今は、いつの間にか降りだして包帯を絞める、雨に当たっても走らないといけない。
 なんでそうしたかはわからなかった。
 でも、あの人に会わなくちゃいけない。
 彼が無事な筈がない、殴られたりしていないだろうか、撃たれたり、そんなのは最悪の結末だ、浮かんだ考えを投げ棄てながら、走った。
 途中で何度も息を詰まらせて、いつかのように転びそうになりながら走って、不用心なドアを開ける。
 もっと現実は酷かった。
 明かりのない部屋の中で不自然に浮いた影が、放置されたカメラ──下らない記録を残そうとして、あと無理矢理に録らせてた──の幽かなLEDに照らされる。
 ドアに挟んであったらしい封筒が俺の足元に落ちた。
 中にはいつもの紙幣と、床に散乱した紙屑と同じウサギの便せんで出来た遺書。
 死んだときに書いたんだから遺書だろう。


 ごめんね、もう疲れたよ


 別人みたいな字で書いてあった。
 崩れて爛れたみたいなペンの痕をみながら、これが人間の絶望だってわかった。
 絶望して、あの人は死んで、俺は馬鹿を殺して生きる事にした。馬鹿みたいだ、俺も、彼も、だから。
 みんなきえればいい。


 雨の音がパラパラと聞こえて、違う雨はもっと、今は空が溢れるみたいな轟音で、これは彼の瞳だった部分から落ちる音だ。不自然に浮いた靴の端からも、落ちて、カメラにも壁にも、ウサギみたいにふわふわしたパンを貰ったあのソファにも、少しいる。
 白いものの色は涙みたいにあの人の目から零れるけど、アレは、あいつらと自分が床を汚したものと同じ白だ。あの人を喰いつくして、汚していく。それでも、蠢く白いものは彼の涙みたいにポタポタ落ちて、悲しみみたいに一つ一つが震えていた。


 彼女と話す[うつつ]と、脳の奥で霞んで白く汚れた虚ろに、雨音が被る。熱の湿り気が、あの日の粘ついた暑さを暴き立てるが、小さな手のひらに閉じられる。タマシイを持たないとされる彼女のひんやりとした柔らかさは、何と呼ぶべきなのか。重苦しく弾けて奏でる雨から庇うような鎮けさと温度に触れながら、ゆっくり沈み、ユイはそんなことを考えた。


「ユイ様」
 非合理的だと判断しながらも、彼女は寝顔に話し掛けた。
「私に人間の感情の機微は分かりませんが、ユイ様は不潔ではありません」
 そして、と窓を流れる水滴を眺めて続ける。
「他者を汚染していません」

(1stup→170306mon)


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