※微妙に
37.5℃の触媒の続きっぽいです。
key to my heart
自分がドアを見詰めていたことに気付けたのは、マックスが声を掛けてきたときだった。
「レイなら大丈夫ね」
遠慮がちな、でもこちらを気遣い安心させようとしているのが分かる、力強い声。
マックスを振り返って、その揺るがない青い瞳と眼差しをかわし、ふん、とカイは鼻白んだ。
俺があの中国人を心配しているとでも思ったのだろうか。
本当に奴が気になっているのは自分のクセに。
「キョウジュもついてるし、すぐに完成するネ」
違った……気にしているのは、もっと別のことか。
ここアメリカは彼にとって第二の故郷でありながら、彼に優しくない。
そのことを気に病んでいるのは、端から見ても明らかだった。
母親に拒絶されて身も世もなく泣き出す彼を目の当たりにしたのは、そう遠くない昔。
まだ、他人を気に掛ける余裕なんてないはずだ。
だったら俺のことも放っておいてほしい。
「カイ? 練習、行かないノ?」
すでに木ノ宮とアントニオは外で喧しく馴れ合っている。
外に向かうドアを指差しながら、マックスの視線が窓の方を向いた。
金色の髪が揺れて陽射しに反射する隙に、カイはふいと、マックスに背を向ける。
取り乱した様子もなく、努めて普段と同じ態度でいるのが、気に障った。
他人よりも自分の目的を優先し、邪魔なものは排除する。
それが最も合理的で効率的なやり方だ。
自分よりも優先順位の高いものを持っていては、いつか潰れる。
それは愚かな人間のすることだと思っていた。
目に入った内側のドア。
がたがたと動き回る人の気配。
「……」
別に気にしてなんかない。
ただ、根を詰めすぎるとまた熱を出すんじゃないかと……。
一瞬、思っただけだ。
だからどうするということはないけれど。
「カイ?」
訝し気に呼び掛ける声に促され、カイは無言で外の扉に向かった。
他人のために力を尽くすことも、他人の顔色を伺って行動することも、自分には相容れない。
ただ自分の負担にならないくらいの些細な問題なら、気まぐれに手を差し伸べても構わないかもしれないと、思い始めただけで。
「待ってヨ、ボクも行く。ねぇ、一緒に練習しても……」
ちらりと背後に視線を延べれば、きょとんと開かれた大きな瞳がことばを止めた。
自分でも不必要に睨みつけてしまった自覚はあって、カイは無表情で無意識の行動を理由を考えていた。
恐れるでもなく、すぐに破顔したマックスは、足を止めたカイに嬉しそうに走り寄ってくる。
ここまでカイに対して警戒心を持たない人間も珍しかった。
隣に並んだ金髪から目を逸らし、カイは歩き出す。
「ドライガー、どんなのが出来るんだろうネ。楽しみだなァ」
ひょこひょこと付いて来るマックスは、他人事を自分のことのようにわくわくと目を輝かせながら話す。
ただカイも、一介のベイブレーダーとして、新しいベイの仕上がりには興味があった。
それは純粋な興味であり、嬉しいとか楽しいとかいう感情は差し挟まる余地がない。
マックスが言っているのは多分、そういうことも含まれてはいるだろうが、新しいベイが出来る。
→レイは嬉しい。キョウジュも嬉しい。→ボクも嬉しい。とか、余計な感情もあるのだろう。
自分は新しく改良を施されたベイブレードに興味があるだけだと、ドアの向こうが気になったのもきっとそのせいなんだと、そう言い聞かせながらカイは目を細める。
「そうだな」
小さく呟いたカイの相槌を聞き逃さなかったマックスは、嬉しそうに頷いた。