「ふう」

シリアはバイザーを上げると、軽く一息ついた。
綺麗な額から頬に伝う汗が心地よかった。

他の三人の訓練や体力数値測定が終わり、彼女たちを帰宅させてからが彼女の訓練時間であった。
ウォーミングアップ、基礎体力値測定とその記録、シミュレータを使っての模擬戦。
三時間ほどのメニューをこなし、ようやく終わる気になった。

ヘルメットを取ると、知性的な美貌が現れてきた。
ぴちぴちした若さはないが、その分落ち着いた魅力をもっった美人である。
腰のホールドを外すと、カチリと小さな金属音がしてロックが外れ、上半身の前半分が静かに前へ
ずれていく。
途端に外気が流れ込み、汗にまみれたシリアの身体は涼やかな冷気を感じる。
シリアは前にずれた上半身部に手をかけ、脚を下半身部から抜いていく。
すらりとした長く綺麗な脚が武骨なハードスーツから抜け出た。
身体にぴったりと密着したインナーウェアは、シリアの肢体を素直に表現していた。

「……」

ふとシリアは自分の身体を眺めた。
まだ筋肉が落ちたわけではないが、若い頃に比べて少し胸や腰、腿に肉が乗った気がする。
しなやかさや柔らかさは増したように思うが、ほんの少し筋肉の力強さが失せた感じがあった。
もう若くないのだから、身体に脂肪が乗り、筋肉が落ちるのはやむを得ないと諦めてはいる。
むしろ普通の女性なら、ヒップは太腿はともかく、バストが膨らむのは歓迎すべき事柄だが、
彼女はそうではない。
体重が代わらなくとも、筋肉は徐々に落ちていき、脂肪が取って代わる。
女としては成熟していくが、戦士としてはその価値が低下するのだ。

とはいえ、まだシリアは25歳である。
女性の平均寿命が、とうとう90歳の大台に乗ったこの時代に於いて、まだ人生の1/3にも
なっていなかった。
女性としては、これからである。
しかし彼女は、女性としての生き方に興味がなかった。
興味がないというよりは、彼女にはまだすべきことがあり、そのためには「女」を捨ててかから
ねばならないのである。
シリアの年齢から、さらに筋力をつけることは難しかろうが、せめて低下するのを出来るだけ
遅らせたいと思っていた。

シリアは軽く頭を振り、ウェアを脱ぎ始めた。
下着をとってから着用するから、インナースーツの下は裸である。
背のジッパーを降ろし、腕を交差させてウェアを引き下ろそうとした時に、シリアは気づいた。
慌てて周囲をキョロキョロと見回し、感じた視線の正体を探す。

「あそこ……!」

ネネのハードスーツのカメラが点灯している。
すぐに上着をヘッドギア・カメラに被せると、ウェアのままトレーニング・ルームを飛び
出した。
隣のサブ・ルームへ向かおうとすると、ドアがバタンと乱暴に開き、大慌てで少年が逃げて
行った。

「マッキー! 待ちなさい、こらっ!!」

マッキーは振り向きもしないで、文字通り脱兎の如く廊下を駆け抜けていった。
シリアはすぐに追いかけることを諦め、カメラをコントロールして覗きをしていた不肖の弟を
嘆いた。

「あの子ったら……」

* - * - * - * - * - * - * - * - * - * - * - *

彼らの組織は、潰れるか否かの瀬戸際に立たされていた。
仕事が少なかったわけではない。
むしろ需要に追いつかないほどなのだが、彼らの元へ依頼が来ることが少なかった。
それは主に、仕事の手際や料金設定など、本質的な部分に要因があったのだが、彼らはそのこと
に気づいていない。
いや、気づいているのかも知れないが、認めたくなかった。
彼ら自身の欠陥が分かったところで、今さらどうなるものではないと思ったからだ。
ならばどうすればいいのか。
方法はひとつしかなかった。
リーダー格の男が言った。

「ではひとりずつ検討しよう。まずはこいつ、プリシラ・アサギリだ」

ジェイコブが示した写真にはひとりの女性が写っている。
やや吊り上がった目や口元が勝ち気そうだが、素材が良いのか、そう悪い印象はない。
不敵な面構えなのに、妙に親しみが持てる不思議な雰囲気を持っていた。

「……プリスか。こいつはやっかいだぞ、連中の中でもっとも好戦的だし、実際、攻撃能力も
高い」

レイバンをかけた痩せぎすの男が、そう言って難色を示した。
それを聞いた三人目の男は、「へっ」と鼻を鳴らした。

「黒島よ、別にやつらをどうこうするわけじゃねえだろう」
「……」

この男がいちばん残忍そうなイメージだった。
がっちりとした体つきだが、常に唇を歪めている。
目つきに表情がないというか、無機的なものすら感じられた。
銀髪とガラス玉のような瞳の組み合わせは、まるで蝋人形を思わせた。
その蝋人形が言った。

「なにも直接やつらと事を構える必要はねえんだ。そんな面倒なことはお断りだぜ」
「……そうなのか、ジェイコブ」

リーダーは軽く目を閉じて答える。

「まあ、そうだ。そんなことが出来るくらいなら、さっさと叩きつぶしているさ」
「ということは……」
「コリンズの言う通り、使える手段は何でもやってやる。殺しでも脅迫でもな」
「しかしな」

黒島がサングラスをずり上げながら顔をしかめた。

「確かに、仕事以外ではやつらも生身の女だ。とはいえ、いずれも一騎当千の手練れだぞ。
闇討ちするにしたってタダじゃ済むまい」
「まあな。特にプリスはな」

銀髪も素直にうなずいた。
そして、机にある4枚の写真の一枚を指した。
真っ黒な髪をバンダナでまとめている妙齢の女だ。
瞳も黒で、日系の血が濃いようだ。

「この女……リンナ山崎も面倒だ。運動能力はやつらの中でもいちばんだし、格闘戦ならプリス
をも凌ぐ」
「だから、直接にはやつらには手を出さん」
「ほう」
「何か弱みを握るんだ。何でもいい、身内でも友人でも」

それを聞いた黒島は、プリスとリンナの写真を抜き出した。

「なら、このふたりは除外だ。いずれも家族はない、天涯孤独だ」

プリスは第二次関東大震災で、リンナはブーマ犯罪に巻き込まれて、いずれも家族を失っている。

「ともに恋人らしい男もおらん。仲の良い友人くらいはいるだろうが、どこまでのつき合いか
わからんしな。ナイト・セイバーズの連中がいちばん親しいくらいじゃないのか」

ということは、プリスやリンナの知人を楯にして恐喝するというのは無理だろう。
ナイト・セイバーズのメンバーに手を出すのと同じことだからだ。
コリンズが三枚目の写真を突きだした。

「じゃあ、こいつか?」

三人の中ではもっとも幼い感じのする女性の写真だった。
プリスやリンナより小柄で、体力的にも劣るように見える。
ちらとその写真を見て黒島が言う。

「ネネ・ノマノーヴァか。メンバーの中ではいちばん何とかなりそうな気はするがな」
「ならこいつにするか。こんな女ならバラすなり攫うなり、どうにでも出来そうだ」
「それがそうもいかんのだ」
「なぜ?」
「こいつの両親は健在でな、しかもかなりの資産家だ」

ネネはナイト・セイバーズの中で唯一、両親が健在だ。
しかも父親が会社経営者であり、富裕層に属している。
ということは、両親を襲おうにもその家はガードが固いということだ。

「じゃ本人にしようぜ。攫っちまえば……」
「だからそれもダメだ。この女、表の仕事は警官だ。それも、よりによってADポリスだぞ。
ポリ公なんぞ誘拐したり、よもやバラしでもしようもんなら、サツは激怒して徹底捜査するぞ」
「すると……」

ジェイコブは最後の一枚を手にした。

「この女か? いやしかし、シリアはまずいだろう」

その一葉には、ナイト・セイバーズのリーダーであるシリア・スティングレイが焼き付いている。
メンバーの中ではいちばん落ち着いた雰囲気を備えている女性だ。
ショートボブでしっとりしたイメージだが、それでいて戦闘能力はプリスやリンナに劣らない。

「ある意味、プリスよりやっかいだ。冷徹でしたたかな面もあるというし、何しろ隙がない」
「八方塞がりだな」
「じゃ、どうすんだよ」

いささか気の短いところのあるコリンズがいらついて言った。
この男がキレるのはいつものことなのか、他のふたりは気にもせず話を続けた。

「こいつも家族なしか、黒島」
「いや、確か弟がいたはずだ」
「弟?」
「マッキー・スティングレイ、18歳。まだハイスクールに通ってるはずだ。ただな、こいつも
ナイト・セイバーズの一員だ」
「なに、そうなのか? やつら、女だけじゃなかったのか?」
「いや、実戦部隊はその四人だけだ。弟はバックアップや、装備の調達や開発、整備担当だ」

コリンズは椅子をギッと鳴らして立ち上がった。

「ならそいつにしようぜ。もうあれこれ考えるのは面倒だ」
「ま、待て。いいのか、ジェイコブ」
「そうだな……。どうする気だ、コリンズ。何か策はあるか?」
「一応な。任せてもらおう」

* - * - * - * - * - * - * - * - * - * - * - *

東京都。
外国人が畏敬と疑問の入り交じった口調で「MEGA TOKYO」と敬称するこの都市は、膨れあがる
だけ膨れあがっていた。

20世紀、あれだけ一極集中の弊害を指摘されながらも、結局この国は東京にあらゆるものが
集中していった。
21世紀初頭に襲ってきた大不況を乗り越えるため、政府や企業の力を強めていくしかなかった
のだ。
その結果、政治や経済だけでなく、文化や情報面でも巨人となった。
東京はまさに日本そのものであり、日本イコール東京となっていった。
日本という国で、唯一の勝ち組が東京という都市だったのである。

当然、東京のみが発展し巨大化し続ける状況に批判は強かった。
2025年に起こった第二次関東大震災が東京直下だったこともあり、「それ見たことか」と
いう嘲りが支配した。
ところが日本は、そして東京はその試練をいともあっさりと乗り越えて見せたのだ。

地震規模としては日本史上最大で、M8.3、旧山手市街地で震度7の烈震だった。
震源が浅かったこともあり、東京だけでなく、旧首都圏エリアは文字通り壊滅的な被害を受けた。
死者行方不明者は98万7303人。
重軽傷者は実に300万人を突破していた。
それまでの地震に対する備え、耐震、免震を基本的に考え直さなければならないところまで追い
込まれていた。
それでも、日本を見守る諸外国が驚き、呆気にとられたのは、その復興の早さだった。

もともと日本という国は、地震に限らず、災害慣れしている。
地震の多い国であり、台風も頻繁に襲来し、火山国でもある。
冬には雪害、夏には日照りや洪水と、実に忙しない国なのだ。
それだけに、この国は歴史的に復興、復旧慣れしていると言えた。
第一次関東大震災も、阪神大震災も、東海大地震も、そして今回の第二次関東大震災も物とは
しなかった。

もちろん、直接・間接的な被害は天文学的なものだった。
だがその一方、復興のための新しい産業が興り、技術も開発されていく。
このバイタリティ、国民的ポテンシャルだけは、他のどの国も真似が出来なかった。
その「日本的」とも言える再開発は、またしても新東京を、各種産業の集積する一大都市に仕上げ
ていった。
肥大する産業、過密になる人口も受け入れ、むしろそのこと自体をパワーの源としているフシ
もあった。

もちろん、2032年のこの年も復興はまだ続いている。
東京都や政府の力の入れ具合により、どうしても復旧する地区の差が出てくるからだ。
その不平等さに対する市民の怒りは、やがてデモへ、そして暴動へと発展していった。
それだけでも大問題だが、さらにブーマによる犯罪も鰻登りに増加していった。

ブーマ(Boomer)。
中国や韓国、台湾といったアジアの新興工業国に追い上げられ、電化製品だけでなく、お家芸の
自動車まで脅かされていた日本が、起死回生の切り札として世界市場に問うた製品である。
政府のPCBC−亜人創造計画により産み出された人造人間。
日本の工業技術、品質の高さが証明された結果だが、それ以上にゲノムの存在が大きかった。
多国籍企業体であるゲノムが、ブーマ開発・製造の拠点を日本に置いたことが決定打だったのだ。

それまで、それなりに技術が進んでいたロボット、あるいはアンドロイドやサイボーグといった
擬人と、決定的に異なっていたのは、前者が主に金属パーツを中心に使っていたことに対し、
ブーマは非金属部位を積極的に取り入れたことだった。
骨格も炭素材を用い、人造筋肉の開発による軽量化で、ロボットたちとは比較にならぬほどの
なめらかかつ自然な動きが可能になっていた。

さらに大きかったのは生体素子核AIを備え、人間には及ばぬながら、ある程度の思考能力を
持ったことだ。
経験を重ね学習することによりデータを積み重ね、より思考を高めていくことが可能だ。
これにより、使う人間があれこれ細かい命令を入力しなくとも、ブーマが各自で判断し、作業が
出来ることになったのである。

2020年代初頭には、既に基本型は完成していたが、それが震災の復旧作業への需要急増が、
一気に普及を後押しした。
もともと、原発の炉心など危険が多すぎて作業環境が著しく悪く、人間の手に余る場所での作業
前提とした作業機械であった。
基本形が人型であることから、様々な用途で使われることとなった。
もはやこの時代では、工事現場にブーマがいるのは当たり前であり、港湾や工場での力仕事も
もちろんブーマの仕事だ。
価格が非常に高価なのは否めないが、故障が少なく給料もいらない。
ブーマを使える仕事であれば、出来るだけブーマを使う、という逆転現象すら発生していた。
そのブーマたちが、2030年代に入るや否や、突如、人間に牙を剥き始めたのである。

原因不明の暴走を起こしたり、あるいは人間によって故意に犯罪行為に使われるケースも目立
ってきていた。
何しろブーマは頑丈で、パワーも人間とは比較にならない。
おまけに手先も人間並みで、銃や刃物など、人間の武器も一通り扱えてしまう。
こうなると、もう一般警察の手に余るようになり、対ブーマ専用警察とも言えるADポリス
まで創設されたものの、如何せん発生事件数が多すぎてフォローしきれないのが実状である。

その、人類の恐怖になりつつあったブーマに、敢然と立ち向かう集団があった。
ブーマ事件で、ADポリスの捜査に納得がいかない者たちからの依頼。
あるいは、警察が介入できない民事の事件。
ブーマに対する復讐から要人警護に至るまで、ブーマが絡む問題を請け負う仕事人たちである。
無論、民間の警備会社もこの手の依頼を受けてはいるものの、何しろ相手は強力無比のブーマ
である。
彼らに対抗するには、それなりの装備が必要となり、それを満たすガード会社はごく僅かなのだ。
そこで、非合法ではあるものの、強力な武装でブーマに立ち向かう陰の組織が存在する。
ナイト・セイバーズもそのひとつであった。

そのナイト・セイバーズのリーダーであるシリア・スティングレイは、テナントビルを持ち、
その中でランジェリー・ショップを経営している。
父親の遺産は、このビルの建設費の半分と、彼女たちの装備品でほとんど使ってしまっている。
テナントからの収入とショップの売り上げで、ビルのローンと生活費を捻出していた。
シリアは商才があるのか、経営は順調で、返済や生活にまったく問題はなかった。
居住しているのも、このビルの一角である。

呼び鈴が鳴った。
無機質な電子音はイヤだと姉が言うので、マッキーは音声を野鳥のものに改造している。
名前は知らないが、鈴のような声だった。
それが繰り返し鳴っている。

「はいはいっと」

シリアは浴室である。
マッキーは急いで自分の部屋から出ると、玄関先へ向かった。
ドアカメラで見てみると、DFSのようである。
DFSとはデリバリー・フード・サービスの略称で、要するに食事の宅配サービスである。

この時代、日用品の買い物はほとんど宅配で済ませることが出来るのである。
大震災以降、市街地の治安が悪いということもあり、各種デリバリーサービスは大繁盛のよう
だった。
シリアもこれを利用しており、主に食材を取り寄せていた。
もちろん調理済みのものも頼めるのだが、食事は手作りでというのが彼女の信念である。
両親を早く亡くした弟のためにも、せめて料理くらいは作ってやりたいという姉の気持ちでも
ある。

マッキーが玄関ガードの端末を操作し、カードの掲示を求めた。
システムは、ほどなく表示された身分証明カードが本物であることを保証している。
少年は電磁ロックを外した。
ドアチェーンをしていなかったことが後で悔やまれた。

マッキーの声を待たず、ロックの外れる音がするといきなり男が侵入してきた。
確かにDFSの帽子と制服を着用していたが、いつもの販売員ではなかった。

「……!!」

賊だと覚ったマッキーは慌てて逃げようと試みたが、男に襟首掴まれて転倒してしまった。
マッキーは大声で叫んだ。

「姉さん、逃げて!!」
「黙れ、ガキ!」
「うぐっ」

シャワー室のシリアに急を告げようとしたマッキーに、暴漢は殴りかかった。
後ろを見せて逃げようとする少年の背中に肘打ちを落とし、たまらずうずくまったところを
蹴り上げた。
男の足がマッキーの顎を捉え、少年の身体は軽々と壁まで飛んで叩きつけられた。

「マッキー、なに? どうかしたの?」

音が籠もっているシャワー室では、はっきりと声が聞き取れない。
それでも異変を感じ、シリアはすぐに浴室から出て顔を出した。

「……」

廊下には誰もいなかった。弟の声は切迫していたように思えたが、そこここには姿が見えない。
シリアは身体にバスタオルを巻き付け、そろりと外へ出た。
辺りを見回すと、リビングのドアが開き、灯りが洩れている。

「マッキー、ここ? ……あっ!!」

弟はそこにいたが、後ろから左腕で羽交い締めにされている。
どうやら招かれざる客が来たようだ。
その男の右手には拳銃が握られていた。
宅配員に化けた強盗らしい。

「……弟を離して」

シリアは無防備であることに加え、銃を持っていなかった。
寝室に戻れば、バッグに護身用の拳銃があるが、取りに戻る余裕はなさそうだ。

ネオ東京では……というより、日本では2028年から、護身用の銃所持が認められるように
なっている。
増える一方の犯罪に対し、警察の処理能力はとうに限界点に達していた。
中でも、不法に流入してくる銃器による凶悪犯罪が後を絶たず、身を守る術のない市民たちから
激烈な突き上げを受け、犯罪防止や撲滅に対する決定的な方策もなかった以上、認めざるを得な
かったのだ。
銃器所持には厳格な審査があり、時間もかかるが、日本国籍を持ち、過去の犯罪歴が規定以下で
あれば誰でも持つことが可能になったのである。

「聞こえなかったの? マッキーを離しなさい」

シリアは何とか隙を窺おうとしている。
マッキーさえ人質にいなければ、格闘戦でもそこらのチンピラ相手なら負けるとは思っていない。
ハードスーツを着るための訓練は、そのまま体術につながっているのである。

「へえ、こんな美人の姉貴がいるのかい。幸せもんだな、ガキが」
「うっ、うるさいっ、手を離せ!」

無駄と知りつつ、マッキーは身体をよじって抵抗する。
その程度の抵抗はどうということはなかったが、面倒だと思ったのか、男は銃床でマッキーの頭
をこづいた。
シリアが悲鳴に近い声を上げた。

「やめて! 弟には何もしないで!」
「そうして欲しけりゃ、おとなしくするように言いな」
「……マッキー、逆らわないで、すぐ助けてあげるわ」

シリアは唇を噛んでそう言った。
男はそんなシリアをじろじろ眺めている。
視線を感じてシリアは思わず胸元を押さえた。
マッキーのことに必死で忘れていたが、自分はシャワーから出たばかりだった。
下着すらつける間もなく、身体にタオルを巻いたまま駆け付けたのだ。
男のいやらしい視線で、自分の無防備さに気づかされた。
「着替えさせて」と言う前に、暴漢が言った。

「ねえちゃん、あんたいい身体してんな」
「……」

シリアが無言だったので、男はマッキーに言う。

「なあ、おまえだってそう思うだろう? いくら血がつながっていようが、あれだけの美人だ。
おまえだって欲情しないわけがない。そうだろう」

たまらず、シリアとマッキーが同時に叫んだ。

「弟を侮辱しないで!」
「姉さんをバカにするな!」
「ほっ、ほう」

強盗はびっくりしたような、それでいて小馬鹿にしたような声を出した。
思ったより、双方が相手思いらしい。
両親がいないということもあろうが、今時珍しい。
だが、こうした関係の方が、より羞恥を煽ることが出来るし、いったん壊れてしまえばとことん
堕ちるだろう。
男にとっては願ったり叶ったりだった。

「お金が目的なんでしょう。あるだけあげるからマッキーを離して。出てって」
「くれるならもらっておくがね、それより……」

男はちらりとマッキーを見てからシリアに言った。

「ここは綺麗なお姉さんのストリップショーと行こうか。裸になりな」
「な……」

愕然とした姉弟をニヤリとして見ながら、男は続けた。

「さっさとその巻いたタオルを取りな。弟だって見たくてうずうずしてるぜ。なあ、おい」
「やっ、やめろ! 姉さん、こんなやつの言うこときいちゃダメだ!」
「やかましい、黙ってろ、このガキ! おとなしく見られねえってんなら、いまぶち殺して
やってもいいんだぜ」

男が銃口をマッキーのこめかみにあてがい、今にもトリガーを引こうとするのを、シリアは
必死に止めた。

「だめ、やめてっ!」
「やめて欲しいなら、どうすりゃいいかわかってんだろう、ええ?」
「……」

もう手立てはなかった。
こんな男に肌を晒すなど、いや、それ以上にマッキーに見せるのはたまらなかった。
しかしマッキーの命には代えられない。
シリアは、短い時間だが激しく葛藤し、そして諦めたようにバスタオルに手を掛けた。
一瞬躊躇したが、決心すると思い切ってタオルを落とした。

「ひょう、これはこれは……」

男は野卑な声を出して感嘆した。
軽くウェーブのかかった黒髪はショートボブだったが、それが年齢相応に色気を醸し出している。
短い髪からポタポタと露が垂れているのも扇情的に写った。

若い頃からハードスーツを着るために鍛えた裸身は、無駄な贅肉というものがまったくついて
いない。
それで肉付きがよく、締まるところは締まっている。
ちょうど年齢的に、筋肉が落ち始め、それが脂肪に変わるあたりで、全身にほのかな脂が乗って
いる見事な肢体であった。
風呂上がりということもあろうが、全身が薄くけぶるようなオーラに包まれている。
元は真っ白だったろう素肌が、ほのかにピンク色に染まっていた。
男は、思わず目的を忘れそうになるほどだったが、マッキーの方も状況を見失うほどに動揺して
いた。

(ああ……姉さん……)

若いのに覗き趣味もあるマッキーは、ナイトセイバーズの他のメンバーだけでなく、姉である
シリアもその対象にしていた。
無理もない。これだけの肉体が身近にいるのだから。
見てはいけないと思いつつも、姉の裸体から目が離せなかった。
夢にまで見た美しい姉の全裸姿なのだ。

「マッキー、見ないで……」

弟の生唾を飲む音が聞こえてきそうで、シリアは激しく顔を振って言った。
右腕で胸を、左手で股間を隠すのが精一杯だった。
男がいつ「手を外せ」というかとビクビクしていたが、幸いそこまでは命令してこなかった。
シリアがホッとしたのもつかの間、暴漢はとんでもないことを言い出した。

「いや、見事なヌードだな。どうだ、おまえもそう思うだろうが」
「……」

マッキーは反論できなかった。
顔を伏せることもできなかったのだ。
少年は自分の身体の変化に気づき、もぞもぞと蠢き始めた。
姉にも暴漢にも気づかれたくないと思ったのだが、男はニヤニヤしながらマッキーの腿を押さ
えた。

「な、なにを……」
「それはこっちが言いたいな。おまえ、なんだこれは」
「あっ」

マッキーは思わず腰を引いた。
男の手が少年の股間に触れたのだ。
男にそんなところを触られたくないというよりも、その部分が変化したことが恥ずかしかった。
男は「くくく」と喉の奥で嗤いながら、少年の股間をいじった。

「おまえ、姉貴のヌードを見て興奮しやがったのか」
「そ、それは……」
「恥ずかしがるこたあないぜ。あんな女体を見せられれば、男だったら誰だってそうなるさ。
それが姉だろうが母親だろうが、変わりはないだろうよ」

顔を真っ赤にして身体をひねり、手から逃れようするマッキーをからかうように男が言った。
男は、銃を突きつけられているため、思うように抵抗できない少年のズボンのファスナーに手を
かけた。
何をするつもりなのかと呆気にとられているシリアやマッキーを後目に、男はそこを開けた。

「ああっ」

マッキーはその恥ずかしさに叫んだ。
ファスナーからまろびでたのは、勃起したペニスだった。
姉の肉体を見てそうなってしまったものだ。
それが、姉に申し訳なく、また自分にとっても恥ずかしいことだった。
こみ上げてくる屈辱の涙を堪えつつ、これ以上脱がされないことを願った。

男や姉は、少し濡れているトランクスに気づかないでいてくれるだろうか。
マッキーは死にたくなるような羞恥を、シリアは居たたまれない居心地の悪さを感じつつ、早く
この暴虐の時が過ぎ去るのを待つしかなかった。
だが、悪夢はすぐに襲ってきた。男がトランクスの前のホックを外したのである。

「あ!」

マッキーが腰を引くより早く、その若い性器はトランクスを突き破るような勢いで表に露出して
しまった。
少年は悔しさと恥ずかしさ、そして申し訳なさで涙を流した。
姉はそんな弟を見ていられず、自分も胸と股間を隠したまま顔を逸らせていた。

「おい、姉ちゃんよ」
「……」
「弟がこんなにおっ立てて苦しそうだぜ。なんとかしてやれや」
「だったら、さっさと出てって」
「話を逸らすなよ。可愛い弟がこんなになってんだ。姉として何とも思わんのか?」

シリアは、訳がわからないという風に男を見た。
毅然としたいつもの彼女ではない。どことなくおどおどしていた。

「ど、どういうことよ……」
「可愛い子ぶるなよ。どうすりゃいいかわかるだろう」

そこで男はマッキーを立ち上がらせた。
その腰を少し後ろから押し、わざと股間を突き出すような格好にさせている。
シリアは寒気がした。
まさかこの男、私にマッキーの……。

暴漢はシリアが恐れていた通りのことを口にした。

「弟を口で慰めてやれと言ってんだよ」
「!!」
「わからんのか? 弟のチンポをくわえろと言ってんだ」

ためらうシリアに男は苛立ったように鋭く言った。

「早くしろ、このアマ! ぐずぐずしやがると弟に鉛弾喰らわせてやるぞ!」
「わ、わかったから、やめて!」

トリガーに掛けた男の指に力が籠もるのを見て、シリアは絶叫に近い悲鳴で応えた。
のろのろと近づいては来たものの、それでもまだ躊躇している美女の首根っこを掴み、跪かせる。
そしてそのまま弟の股間にシリアの顔を押しつけて激しく言った。

「やれ! こうしないとやれんのか!?」
「い、いやっ!!」

熱いものが顔に触れ、シリアは叫んだ。
まごうことなく弟のペニスなのだ。
それが自分の顔のこんなに近くにあることが信じられなかった。
じれったくなった男は、銃を仕舞うとナイフを出した。
こっちの方が直接的に脅迫できる。

その切っ先をマッキーの首筋に押し当てると、ぷくりと血の玉が膨れあがった。
シリアは自分がそうされているかのように顔を真っ青にして叫んだ。

「やめてっ! ああ、マッキーには手出ししないで……。わ、私は何をされても……」
「だったら言うことをきくんだよ」
「で、でも、これだけは……。弟のをするなんて許して……。それ以外なら何でも……」

身体を許してもいい、とまで言っているシリアに対し、男は冷たく言った。

「何でもするってんなら言われた通りにしろ。弟にフェラしてやれ」
「……」

たまらずマッキーが声を励まして姉に言った。

「だ、だめだ姉さん! こんなやつの言うことなんか、痛っ……」
「マッキーっ!!」

決死の覚悟で姉を止めようとする弟の首に、容赦のない刃物が刺さっていく。
男はひどく冷静なまま、マッキーの首に刃を立てていた。
切っ先が5ミリほど首に刺さり、血の玉は崩れて垂れ落ちてきた。
シリアは気が狂いそうになり、絶叫する。

「わ、わかったからっ……わかったからナイフを抜いてっ!!」

マッキーの首からナイフの刃が遠ざかったのを確認してから、シリアは膝立ちのまま弟にずり
寄っていく。
うなだれているシリアに男が言った。

「ほら、こいつを弟にかけとけ」

渡されたのは電磁ロックの手錠だった。
後ろ手に拘束するように言われ、シリアはマッキーに小声で謝りながら、言われた通りに手錠
した。
そして意を決してマッキーのものを右手で握った。
男はその光景を面白そうに見物して言った。

「まだ皮が剥けきってないみたいだぜ。先っちょを剥いてやんな」
「……」

シリアは顔を逸らしながら男の言うことに従った。
細い指でしごいてやると、ずるりという感じで包皮が剥けた。
途端にむっとするような青い性臭は強まってくる。
シリアは目を固くつむりながら、信じられない思いでそれを手にしていた。

熱かった。
それに硬い。
子供だ子供だと思っていたマッキーのものだとは、とても思えなかった。
しかし、シリアの指の動きに合わせたように洩れてくる声は、紛れもなく弟のものだ。

姉にペニスを握られているマッキーの方も、信じられぬ思いで受け止めていた。

(ああ……姉さんの手が僕のものを……)

いけないと思いつつ、よりいっそうペニスの芯が硬くなっていくのがわかる。
ビクビクと痙攣している様子や、ダダ漏れになっているカウパー氏液が姉にバレるのではないか
と恐れたが、すぐにそんな気持ちは薄くなった。
シリアの柔らかい、そして少し冷たい指先の感触がたまらなかったのだ。
シリアは弟のものをしごく自分に嫌悪感を感じながらも、少しずつ手の動きを増していく。
こうして、このままマッキーが達してくれれば、この男も満足するかも知れないと思ったからだ。
しかし、そんなシリアの思いなどお見通しだとばかりに、男が厳しい声で言う。

「おい、いつまでしごいてやがんだ。俺はフェラしてやれと言ったんだぜ」
「……」
「それと、そうやってツラを背けてるんじゃねえ。ちゃんと弟の顔を見ながらやるんだぞ」

もうこうなっては、早く終わらせるしかない。
マッキーのペニスも、本人の自制とは別のところにあり、どうにもならないだろう。
とにかく射精させるしかないのだ。
シリアは覚悟を決めて口を開け、マッキーのものを含んだ。

「うはっ……!」

姉の咥内の感触がペニスに伝わり、弟は呻いた。
温かくねとついた粘膜の感触がたまらなかった。
シリアの唇がマッキーの肉棒の周囲をなぞっていく。
もうそれだけで放ってしまいそうだった。

一方のシリアは、汚辱をムリヤリ飲み込むようにして、その行為に耐えていた。
こうなってしまったのは仕方ないとして、舌は使いたくなかった。
弟に性技を尽くすなど、ケダモノの行為である。
なんとかこうして、唇でしごくだけでいかせてやればいい。

だが男は許さない。
じっくりと美しい姉が弟に施す口唇奉仕を観察し、指導するのだ。

「いつまでそうやってんだ、舌を使って愛撫するんだよ。カマトトぶってんじゃねえぞ、知ら
ないわけでもあるまい」
「……」

もう恥も外聞もない。
出来るだけ早くマッキーに射精させるのだ。
シリアは悲しそうに眉を顰め、愛撫し始めた。
舌で弟の亀頭部を舐め回すようにしごき、くすぐる。
さらにペニスの筋に沿うように唾液を塗りつけていく。

「ううっ……あっ……」

シリアの愛撫が本格的になっていくと、マッキーは堪えきれずに快楽の声を洩らし始めた。
姉が自分のものを舐めていること自体信じがたいが、それ以上に、シリアの唇や舌がもたらす
甘美な快感は、我を忘れるほどだった。
徐々に劣情に押し流されていくようで恐ろしかった。

シリアは早く済ませようと、口だけでなく指でもマッキーのそこを愛撫して回った。
舌でねぶるようにペニスを舐め回すと同時に、口から出た部分のを指が優しくさすっていく。
亀頭部を吸い上げられ、それと一緒に根元をくすぐられると失禁しそうになるほどの快感が
得られた。
射精してしまいそうになるのを何とか我慢する。
それでも粘りのある透明な汁が溢れてくるのを止めようがない。

シリアの方も、弟のペニスの先端がじんわりとぬめってきたことに気づいている。
少し苦い味と、若くて濃い牡の匂いがシリアの口中に広がった。

「んん……んむっ……んううう……」

少し眉間を寄せ、しかめた表情のシリアが、マッキーの興奮度を上昇させた。
姉に対して欲情してはいけないと思いつつ、抑えようのない動揺と淫猥な感情が、肉棒をビクビク
と震わせていた。

ちらりとシリアはマッキーの表情を窺う。
弟は顔を上気させ、歯を食いしばって、この淫虐に耐えている。
恐らく性的には快感を得ているはずだ。
しかし、姉の自分にこんなことをさせているという苦悩で苦しんでいるだろう。
そう考えると、シリアは不本意ながら、さらに愛撫に熱を入れ、弟を早く楽にさせたいと思うの
だった。

唇をきゅっと締め、カリのくびれ部分をくわえ込み、顔を揺らせて刺激を与える。
その間、舌先を尖らせて尿道口をちょんちょんとつついてもやった。
もっとも敏感な部分を同時に責められ、マッキーは情けない悲鳴を出した。

「うっ……ああ……」

出てしまいそうだと思ったマッキーは腰を引いたが、シリアはそれを許さず弟の腰に手を回して
抱え込んだ。
マッキーは意外そうに姉を見た。なんとか射精すまいと頑張っているのに、姉は何をしている
のか。
本当に暴漢の言う通りに、射精させようとしているのだろうか。

シリアはシリアで、なんとか早く終わろうと努力しているのに、なぜマッキーは我慢しようと
するのかわからなかった。
弟は、姉の前で射精する羞恥を避けたいと思い、姉は早く終わらせて、この汚辱の時間を乗り
きろうとしている。
噛み合わないふたつの思いは、それでも破局へ向かっていた。
豊富ではないが性経験のある25歳の女性と、18歳の性的に未熟な少年では勝負にならない。
とうとうマッキーは白旗を上げ始めた。

もう姉に腰を支えられなくとも逃げようとせず、むしろシリアの口を積極的に犯そうとするような
素振りさえ見せ始めたのだ。
もっとも、これでもマッキーの方は懸命の努力をしていた。
ともすれば、腰を動かしてピストン運動してしまいそうなのを必死に堪えていたのだ。

「んん、んく、んぶっ……んむ、んんっ……んっ、んく、んむむっ……」

美しい姉が、苦悶の表情を歪めて必死に口唇性交している光景が少年の目を刺激する。
艶っぽい呻き声は耳に忍び入り、中枢神経を冒しているかのようだ。
もう抑えが利かないところまで来ていた。
マッキーは屈辱を覚悟した。

シリアも弟が限界なのがわかった。
硬くなるだけ硬くなったペニスはびくびくと不規則な痙攣を続け、特に亀頭部がぶくりと膨れ
ていた。
とどめとばかりに、亀頭部を存分に舌でねぶると、今度は喉奥まで使って、弟の肉棒を根元
まで飲み込んでいた。

「んぐ! んぐう……じゅぶ、じゅぶ、んぶっ、んぶっ……」

小さめの口に、若くたくましい肉棒をめいっぱいくわえ、激しいくらいの前後運動を繰り返
した。
マッキーのペニスが唾液にまぶされ、シリアの口から何度も何度も出入りしていた。
亀頭部の先が、シリアの喉奥にあたり、絶妙な刺激を与え続けていた。
尾てい骨のあたりから盛り上がり、腰全体に広がっていた熱い快感は、射精欲となって少年の
ペニスに集中していた。
いよいよと見たシリアは、目を固くつむって動きを早めた。
途端にマッキーは呻いて頂点に達した。

「ねっ、ねえさんっ!!」
「ぷあっ、ああっ……!!」

カリを包んでいた舌が弾き飛ばされそうな勢いで射精されると、シリアは慌てて弟のペニスを
口から抜いた。
咥内に射精させることを避けるためだったが、代わりに顔が犠牲になった。

少年の若い精液が、シリアの美貌を汚した。
勢いよく放たれた白濁液は、シリアの顔面に達するとどろりと粘り着き、ゆっくりと滴って
いった。
眉間から鼻にかけて大量の精液を浴びたシリアは、半ば呆然とマッキーを見つめていた。
男臭いフェロモンがシリアの嗅覚から侵入し、脳髄にまで染み渡っていく。
弟の精液を浴びてしまったことよりも、ひさしぶりの男のエキスを受けたことが、知性的な
美女を混乱させていた。
姉弟の痴戯を見物していた男は、薄ら笑いを浮かべると立ち上がった。




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