「……」
コリンズからの報告を受けたジェイコブは考えている。
もう、そろそろかも知れない。
彼が狙っているのは、ナイトセイバーズそのものではない。
実はそのハードスーツの秘密なのだ。
あの機体の優秀さは、軍関係者も舌を巻くらしい。
実際、数々のブーマ騒動を解決しているのも、あのハードスーツによるところが多かった。

見たところ、彼女たちのスーツは完全にオーダーメイドのようだ。
女性に肢体に合わせて精密に作り込んであるらしく、奪ったところでブロンクスの連中には着こ
なせないだろう。
であるならば、あのスーツの運用ノウハウと、どこでどうやって作ったのかという情報が欲しい。

そしてシステム。
あれに組み込んであるプログラムはかなりのものだ。
市販のソフトウェアでないことは間違いない。
そのソフトも欲しかった。

そのために、盛んに彼女らとの合併話を持っていったのだ。
彼らにとってナイトセイバーズなどどうでもよい。
欲しいのは彼女たちの能力ではなく、彼女たち以外のものだった。
スーツを脱いでしまえば、ブロンクスの方が勝っている。
彼はそう考えていた。

* - * - * - * - * - * - * - * - * - *

シリアは腕からも膝からも力が抜け、身体がぐにゃぐにゃだった。
マッキーが腰を抱えてくれているので、辛うじて湯から顔を出している。
吐く息が熱かった。
心とは裏腹に、肉体が満足している。
思いも寄らぬところを弟に犯された。
それだけでなく気をやってしまった。
恐らくマッキーは、その自分の姿をけだものの目で見ていたのだろう。
そう思うとやりきれなく、また情けなく思うのだった。

マッキーは人形のように意志を失ってしまった姉の裸体を操り、その両手をバスタブに掛け
させた。
シリアは何をされるのかわかっていたのかも知れない。
それでいて、抵抗もせず弟のなすがままになっていた。
マッキーはシリアの腰を少し持ち上げ、目の前に晒した。
少し開いた尻たぶは、まだ痙攣している。
さっきまでマッキーのペニスを埋め込まれていたのがウソみたいに、アヌスは小さく窄まっていた。
その閉じた口から、白い濁液が少し滲んでいる。
ヒクヒクするそこを見ていると、またしてもマッキーは獣欲が甦ってくる。
見る見るうちに肉棒に芯が入り、半勃ちだったそこはぐんぐんと硬さを増していった。
弟は躊躇なく姉の媚肉にそれを押しつけた。

シリアは敏感な膣に、マッキーの熱い肉塊を感じていた。
さきほどのアナルセックスの余韻で、まだ彼女の裸体はピンクに染まっている。
震えている媚肉に、若いペニスが沈められていった。
濡れて柔軟性に富んでいたはずの膣が、太いものをくわえて薄い肉皮をひろげられながら、深々と
それを飲み込んでいった。

「んんっ……んん〜〜っ……あっ、あう、そんな深い……ああ……」

灼けるような熱を持った襞は、嬉々として潜り込んできた弟のペニスをさらに奥まで導いていく。
弟は落ち着いて腰を送り、とうとう奥まで押し込んだ。
その腰がシリアの柔らかいヒップにあたると、姉は軽く悲鳴を上げた。

「ああっ……だめよ、ああ……こんなこと、いけない、あううう……」

ここまで犯されて、まだシリアには弟としているという嫌悪感と背徳がある。
近親相姦という恐ろしいことは、何としてもやめさせねばならないという思いがあった。
しかしそれを打ち砕くように、弟の肉棒は姉の膣内を擦り、抉っていく。
充分すぎるほどの蜜が分泌され、マッキーのペニスを覆い、その滑りを助けていた。
そのぬめった襞の感触や、熱くうねる膣道の狭さときつさに、マッキーは腰を振らずにはいられ
ない。

「だめ、ああ、マッキー……ひっ……あ、ああ、そんな……ぐうっ、ふ、深いわ、ああっ……ぬ、
抜いてえ、お願い……ああっ」

熟した女の肉孔が、ねっとりと少年の性器を包む。
数回、マッキーに突き込まれると、シリアは早くも甘く熱い吐息を洩らし、ゆるやかに下半身を
うねらせはじめた。
いけないと思う心が、余計にシリアの肉を灼け焦がし、ぞくぞくするような痺れを膣から脳髄に
まで忍ばせていく。
もう声もなく姉の媚肉を責めつける弟に、シリアはか細い声で訴え続ける。

「あはっ……だめよ……いけないわ、ああ……こ、こんな……はああっ……くあっ……そ、そんな
深くまで突いちゃあ、あひっ……」

姉の必死の懇願も、語尾が肉の疼きで震えている。
そんなものに説得力は感じず、弟はシリアの身体をむさぼった。
突き込むと揺れる乳房をきつく揉み、腫れ上がっているクリトリスをねじるように虐め、ひくつく
アヌスには親指を突っ込んだ。
その、どの行為にもシリアは甲高い悲鳴と喘ぎで応え、強烈なまでの反応を見せつけた。
シリアは、思わずこぼれそうになるよがり声を懸命こ噛み殺していた。

(ああっ……さっきあんなに出したのに、もうこんなに硬いなんて……中が擦れて、あうう、
どうにかなっちゃう……)

少年の闇雲な突き込みを受け身で堪えていた美女は、いつしかその稚拙な責めを優しく受け止め、
自らもさらに深い快楽を得ようと動き出していた。
マッキーの肉棒を覆う襞は、その硬いものをむさぼるような収縮を見せていた。

もはやシリアの肉欲は抑えることができないところまで引き上げられている。
度重なる弟との禁じられた情交に、成熟した女体は否応なく歓喜しつつあった。
こみ上げてくる肉の情感に戸惑いを感じる間もなく、美貌の姉は一気に燃え上がった。
シリアの尻が絶え間なく律動し、マッキーのリズムに合わせ始めている。

「だめ、マッキー……ああ、もう、奥が、ああ熱くて……」

姉の声のトーンが変わった。弟は勢い込むように言った。

「そんなにいいのかい、姉さん」
「いや、あうう……」

いやと言いながら、どんどん身体は欲張りになっていく。
シリアは心が震えた。
欲しくなっている。
弟が、いや弟の肉棒が欲しくてたまらなくなっているのだ。
切なげな吐息と、うねりだした腰で、姉の身体がすっかりとろけてきたことを知ったマッキー
は、さらにペニスに力が籠もるのがわかる。
それは直にシリアにも通じた。

「いやあっ、ああ、ま、またおっきくなってる……か、硬くて痛いわ、あああ……んんっ、ふ、
太くなってきてるう……」

露わになってきた姉の性反応に我慢できず、マッキーはシリアの顔をムリヤリ後ろに向かせ、
その口に吸い付いた。

「あむっ、むうっ……んんん……ん、ぷあっ」

シリアは何とか弟の唇を払い除けると、潤んだ瞳で彼を見て言った。

「だめよ、マッキー……わ、私はあなたの姉なのよ、んんむっ」

諌める姉の声よりも、薄紅の柔らかい唇や、その下に覗く真珠色の美しい歯に弟は気を奪われる。
シリアに全部言わせないうちに、またその唇を奪った。

「は、はむ……ん、ん、んじゅじゅ……ちゅっ……は、あむむ……んんっ、んくっ……」

顔を振り、歯を食いしばって咥内への侵入を拒もうとするシリアに、マッキーは腰を鋭く突いて
攻撃する。
カリが膣を抉り子宮まで届かされる感覚で、シリアの神経が媚肉に行くところを逃さない。

緩んだ口をこじ開け、舌を内部に潜り込ませた。
姉の咥内は温かく、信じがたいほどに柔らかだった。
ここでペニスをねぶられれば、たちまち射精してしまうのは無理もないだろう。
ねっとりとした歯茎や頬の裏の粘膜の感触もたまらない。
マッキーは、薄甘い感じのする姉の唾液をたっぷりと味わった。

「んん……んむう……ちゅ、ちゅっ……じゅっ……んっ……んんっ、んちゅ……」

弟の舌に咥内を蹂躙され、シリアは口まで征服された。
奥の方で縮こまっていた舌を引きずり出され、思うさま吸われると、ぞくぞくするような震えが
走った。
今ではもう、すっかりマッキーの口に操られ、舌を絡ませ、唾液を交換している。
唇も舌も痺れるほどにきつく吸われ、マッキーの唾液を大量に飲まされた頃になると、シリアの
抵抗は完全に失せていた。
なるべく深くまでお互いの口を味わうために、顔を傾けて口づけしていた姉弟は、ようやく口を
離した。
その時の、シリアの熱い視線を受け、弟は猛然と腰を律動させた。
マッキーのペニスの熱で灼け焦がされたシリアの官能が決壊する。
もう拒絶の言葉は出なかった。
その美しい唇から出てくるのは、熱い喘ぎと肉の疼きを訴えるよがり声になっていた。

「くうう、あうっ、いいっ……」
「姉さん、もう一回言って!」
「いいっ……くっ、す、すごいっ……」

とうとう姉に快楽の言葉を口にさせた。
これで姉を征服した気になれる。

一方、支配された姉の方はそれどころではない。
あちこちに燃え広がる甘美な炎が、シリアの精神まで凌辱していく。

「あうう、いっ……いいっ……あ、ううんっ、奥で、ああ、ごりごりしてるっ……」

マッキーが思い切り腰を打ち込むと、ようやくシリアの子宮にまで届く。
あの時の暴漢のように、常に子宮口を虐められる快感はなかったが、弟が必死になってそこまで
入ろうとして責めてくる光景を思い浮かべると昂奮が抑えられない。
弟の動きに応え、シリアも大きく腰を回転させていく。
女の方からの責めに驚嘆したマッキーは、仕返しとばかりに根元まで埋め込んだ肉棒をぐりぐりと
押しつけながら逆回転させた。
ペニスにへばりつく膣襞が引き裂かれそうな感覚に、シリアは背中を仰け反らせて喘いだ。

「くああっ、それ、すごいっ……ああ、いいっ……ど、どうしてこんなに……はううっ……か、
かき回されてるっ……」

自分が回す方向と逆にマッキーが腰を回すと、そのねじれが凄まじいばかりの摩擦感を呼び、
シリアの媚肉を痺れさせた。
これまで感じたことのないほどの深い快感に、美女は大きく口を開けてよがり喘いだ。
擦れすぎて擦り切れそうだったが、どろどろの蜜が際限なくシリアの奥から滲みでて、それを
防ぐ。
それでも抉れ感は充分で、姉弟そろって終演を迎えつつあった。

シリアもマッキーも、音がするほどに奥歯を噛みしめて崩壊を防いでいた。
それでも姉の膣と子宮は、激しいほどの弟の責め込みに降伏寸前であり、弟のペニスも姉の
襞と蜜に亀頭と尿道口を侵され、暴発直前だった。
中でぶるぶる痙攣してきた弟を感じ、さすがにシリアも気づいた。

「だ、だめ、マッキーっ!! な、中に出しちゃだめよ!」
「ど、どうして!? 僕、姉さんの中に出したい!」
「何を言うの!? そんな恐ろしいこと……ああ、絶対だめだったらっ、ああっ!!」

口では否定しながら、シリアの膣はマッキーの射精を望んでいた。
膣口はきつく優しく収縮し、ペニスの根元を締め上げる。
膣内の襞が躍りかかるように肉棒を包み込み、熱く痙攣して精液を欲していた。

「でっ、でも、姉さんの中、すごくてもう……」
「いやっ、ああ、中には出さないで……抜いてお願いっ」

マッキーはどうあっても中に出したくなった。
男の声が少年の頭に虚ろに響く。

−これからはただの女だと思って犯っちまえばいいんだ。

−孕ませるつもりで思い切り犯りゃいいさ。

この美しい姉を自分の精液で孕ませる。
なんと背徳的で甘美な行為だろう。
マッキーの腰が速度を増した。
胎内で弟の肉棒が不規則に痙攣し始めたのを感じ、姉は絶叫した。

「お願い、マッキーっ! だめよ、そんな、ああっ……中はだめっ……に、妊娠したらどう
するのぉっ……」

「妊娠」という言葉を聞いて、マッキーの回路が焼き切れた。
妊娠を嫌がりながらも、腰は本能の赴くままに振り続けている淫らな姉。
乱れた美女の膣に少年は硬い肉を打ち込み続けた。
痺れるような愉悦に酔いながら、火照りきった肉孔に律動を加え、さらなる快楽を得ようとする。
シリアは割れそうなくらいにバスタブに爪を立てていた。

「うあああ、だめぇっ……そ、そんな激しくっ……くぅあっ、が、我慢できないっ……」

シリアの肉が限界に来たように小刻みに震え出す。
熱くぬめった襞が擦られ続け、子宮を小突かれ、徐々に子壷が下降してくる。
それを絶望的に感じながらも、シリアはよがり声を上げ続けた。

「いいっ……出さないで、マッキー、ああっ……あ、もう、だめっ……ああ、いく、いって
しまうわ……」
「いって、姉さん! ぼ、僕も、もう……」
「出しちゃだめぇ……いいっ……あ、いく、いきそうなのよ、マッキー……だ、だめえ!!」

落雷を受けたかのように、汗まみれの裸身をびくびくっと大きく震えさせ、シリアは絶頂に
到達した。
その強烈な締めつけに応じ、マッキーも思い切り射精してのけた。
下降していた子宮口を突き破り、喉にまで届きそうな激しい射精で、シリアは続けざまに気を
やった。

「うっはあああっっ、いくうっ!!」

張り詰めたように立派な臀部をぶるるっと激しく震わせ、射精する弟のペニスを締め上げる。
数度の激しい射精にも満足しないのか、まだ残っているだろうとばかりに尻たぶと括約筋で
弟の肉棒を締め上げる。
その感触に、マッキーは呻いてさらに腰を振った。
搾り取られるように、残滓の精液まで姉の膣に放っていた。
シリアは喘ぎすぎて掠れ気味の声を震わせ、その官能を伝えた。

「……すごい、出てる……ああ、妊娠してしまう……お、奥まで届いて、ああ……マッキー
のがいっぱい……」

マッキーが抜こうとするのを押さえ込むように、肉襞が絡みつく。
赤く染まった肢体が弓なりになって震えていた。

「ま、まだ出てる……孕んだら……ああ、どうすればいいの……んんん……熱いのが、ああ……」

狭い尿道を押しのけるように噴き出した精液が、姉の胎内を満たしていった。
シリアの膣や子宮で、彼の放った元気のいい精虫が動き回っているだろう。
それを夢想すると、マッキーは姉の肉体に対する悪魔的な欲望と満足感、そして打ちのめされる
ような罪悪感に責め苛まれた。

* - * - * - * - * - * - * - * - * - *

「……仕事?」

シリアは目の前の三人にぼんやりと言った。

「誰が受けたの? ……私は聞いてないわよ」
「情報屋から連絡があったのよ。昨日、シリアと連絡が取れなかったからって、あたしのところへ」
「……」

その時分は、シャワールームでマッキーに犯されていた頃だ。
部屋でフォーンが鳴っていても気づかなかったろう。
浴室にも連動して通知するシステムになっていたはずだが、マッキーがあらかじめ外してしまっ
た可能性もある。
何も言えなかった。

「それにしても、受けるかどうかは……」
「シリアの許可がいるってんだろ? だけど、急ぎだったらしいんだよ。その場で返事をしな
きゃならなくてさ」
「それに、最近あんまり受けてなかったじゃない? あたしたちもちょっと仕事したかったし」
「……」

そう言われるとひとこともない。
いよいよチームを解散しなければならないかも知れない。
シリアは消え入りそうな声で訊いた。

「……報酬は?」
「500万。まあ、高くはないけどな」
「……いいわ。やりましょう」

シリアはこれを最後にするつもりだった。
あとは三人に任せ、自分は身を引く。
ネネが遠慮がちに口を挟んだ。

「シリア……、マッキーは?」
「マッキー……」
「まだ調子悪そう?」
「……」

リンナがネネの方をちらりと見て援護射撃する。

「今度はマッキーにも出てもらいたいの。相手は軌道衛星からのデータを受信してるらしいわ。
ヘタに攻撃衛星でも使われたら事だから」
「でもマッキーは……」
「何も現場に出ろとは言わないわ。前みたいに、指揮車でバックアップしてくれれば……」

そう言われれば断れない。
シリアは渋々うなずいた。

* - * - * - * - * - * - * - * - * - *

部屋を出ると、リンナがプリスの脇腹を突っついた。

「あんた、振り込みまだよ」
「わ、わかってるよ。70万だろ?」
「何言ってるの、120万よ!」
「ちょ、話が違うぜ」
「いいこと?」

リンナは腰に手を当てて言った。

「あたしは220万出してんのよ。ネネだって160万。なんであんたが70万なのよ」
「……」
「落ち着いて考えたら、あんたがいちばん収入多いはずじゃないのよ」
「い、いやだから、新しいリード買って、バイクをチューンしたら……」
「全部あんたの都合じゃないのよ! バイクはレーヴェンのとこでしょ? 支払いを待って貰い
なさいよ。あたしからも話してあげるから」

* - * - * - * - * - * - * - * - * - *

新東京には、復興完了区と未定区がある。
復興完了区は震災前の行政および経済の中心地ある旧千代田、港、中央区の第5区がそれである。
ここは被害の度合いに関わらず、最優先で復旧が行われた。
そして、比較的被害の少なかった旧豊島、目黒、品川なども早い時期に手が入った。
しかし、旧新宿、渋谷、荒川と言った、人口密度が高く、道も建造物も入り組んでいたせいで甚大
な被害が出た地域は復興未定区とされ、未だに目処も立っていない。

政府やゲノムの本音としては、予算が無制限にあるわけではない以上、ちょうど良い機会だから
仕切り直しで区画整理からやり直したいのだろう。
目下その辺りはほとんどスラム街となっており、治安も極めて悪い。
常時警官を貼り付ける余裕もなく、治安警察もサジを投げた格好になっていた。
今回の仕事はそんな荒廃地に呼び出された。

シリアたち四人はハードスーツに着替え、待ちかまえていると半身のスーツ姿の男が三人現れた。

「お出でなすったぜ」

プリスが不敵に笑う。
シリアの声がぽつりとつぶやいた。

「ブロンクス……」

向こうもプリスたちに気づいたようだ。
四人の姿を認めると、足早に近づいてきた。
リーダーのジェイコブが鷹揚に口を開いた。

「これはこれは、名だたるナイトセイバーズのお嬢さん方じゃないかね。わざわざお呼び出し
いただくとは思わなかったが、改まって何か用かね?」
「……なんで呼び出されたか分からないとは言わせないわよ」

凛としたリンナの声に、たじろいだのはブロンクスだけではない。
シリアも「えっ」という顔でリンナを見た。
ジェイコブは肩をすくめた。

「残念だがわからんね。それともこないだの件をお受けいただけるのかな? 我々と合併すると……」
「ざけんな!!」
「……」
「いちいち説明なんかしない。その理由はおまえらがいちばんよくわかってるはずだ」
「ほう、そうか」

ジェイコブの右隣にいた男が一歩前に出てきた。
彼らのハードスーツは鎧に近いタイプで、ハーフ・タイプと呼ばれているものだ。
フルカバーで完全装甲のハードスーツに比べて格段に着心地が良いのが特徴である。
顔は肌が外気に触れているし、他の装甲も密着しているわけではないので、湿気や蒸れ、痒み
などといった生理的不快感がだいぶ軽減するのだ。

もうひとつの利点は、フルメタルに比べて安価なのだ。
価格にして30〜50%くらい安い。
胴体はすっかり装甲板で覆っているが、腕は肘から下だけ、脚も膝から下だけである。
肩や肘、膝といった関節部はもちろん金属パーツで保護しているが、腿や二の腕は露出している。

そして顔は剥き出しで何も着けていない。
頭部保護のためにヘッドギアを被る者もいるが、ブロンクスの面々は何もなかった。
これは、その方が快適だということもあるが、自分たちはこの程度の軽装甲で充分なのだという
自信と虚栄の現れでもある。
コリンズはニヤニヤしながら進み出た。

「俺はまた、シリアさんが解散でも申し出るのかと思ったぜ」

そう言って、わざと素顔をシリアに晒して見せた。
彼女は息を飲んでコリンズを見た。
間違いない。
あの時は目出し帽を被っていてわからなかったが、こいつがあの暴漢だ。

「……」

シリアの脳裏に白く燃える怒りが陽炎のように漂ってくる。
しかしそれは、燻るだけで燃え上がるまで行かなかった。
そして、いつしか狼煙のように消え去ってしまった。

この男に、いいように身体を嬲られたこと、そしてマッキーに凌辱された姿を見られたことが
シリアの心に重くのしかかっている。
それをこの場で口にされたら困るという恐れより、コリンズに大事なものを踏みにじられたと
いうショックの方が大きかった。
こうしてプリスたちがいる手前なんとか我慢しているが、もしひとりでコリンズに出くわしたら、
後ろを見せて逃げていたかも知れない。
ジェイコブが言った。

「それならどうする? 決闘でもしようってのか?」

イリーガル・アーマーズ同士で紛争が起こった場合、間違っても当局に通報するということはない。
依頼された仕事を解決した後、事後処理を任せる意味でADポリスを呼ぶのはともかく、基本的
には警察を呼ぶことはしない。
依頼相手も警察に任せられない事情があるから彼らに発注している面もある。
これは、いわば暗黙のルールで、ともに非合法活動をしているのだから、密告したり、警察沙汰
にすることはないのだ。
仮にこの原則を破って警察に援助を求めれば、IA仲間の物笑いになるし、相互関係は一気に
崩れ、その世界で食っていくことは事実上不可能になる。
そこで、このような対立が生まれた場合は、双方のみで解決することが普通だ。
無論、話し合いになることもあるが、こうして武力でぶつかることも珍しくない。

「話し合っても無駄かな」
「笑わせないで!」

吐き捨てるように言うと、リンナのスーツが宙高く跳ねた。

* - * - * - * - * - * - * - * - * - *

敵味方3機同士のハードスーツが激闘を繰り広げる中、ナイトセイバーズの1機が戦闘区域から
少し外れた場所へ抜け出した。
バックパックのバーニアを併用し、ぴょんぴょんと軽快に跳ねてそこまで来ると、プリスは歩いて
クルマに近づく。
指揮車にはマッキーが詰めているはずだ。
胴体に大きく「Silky Dools」と店の名前の入ったワゴンを改装した指揮車の後部
ドアを開けると、少年が俯いて座っていた。

「プリスさん……」
「ちょっといいか?」

マッキーがぎこちなく頷くと、シリアは内部に入り、ハッチを閉じた。
そしてフルフェイスのギアを外すと、立ったまま少年に言った。

「モニター見てるか?」
「ええ……」
「シリアの動きはどうだ?」
「……」

悪い。
心ここに非ずといった動きである。
普段、あんな動きをプリスたちがしていたら叱咤されるか、心配されるだろう。
虚ろに画面を見やるマッキーに、プリスは穏やかに言った。

「おまえ、どうしてシリアがああなってるのか知ってるんだろ?」
「!!」

マッキーはビクリとした。
動揺をプリスに知られないだろうかとヒヤヒヤもした。

プリスの方は、事情を半分もわかっていない。
シリアがコリンズに凌辱された「らしい」、それをマッキーも見せられた「らしい」。
みんな「らしい」で確証はないのだ。
それらは事実であったのだが、そんなことは彼女は知らないし信じたくもなかった。
まして、マッキー自身がシリアを何度も凌辱し、今も続けていることなど知りようもない。
ただ、この姉弟に何か重大なことがあったらしく、それはブロンクス絡みだということを察知
しているだけである。

プリスらにとってはそれで充分であり、実際にコリンズが何をしたのかはどうでもいいことで
あった。
あとはシリアとマッキーが、この件にどうケリをつけるのか。
自分たちはそれをサポートするだけだ。
プリスはそう割り切っている。
だから彼女がマッキーに言ったことは、カマを掛けているようなものなのだ。

だが、少年は乗ってきた。
マッキーにも、いてもたってもいられない焦燥は確かにあったのだ。
どうしようもない劣情をもよおし、姉の肉体を求めることの浅ましさとおぞましさ。
何とか我慢した時のやるせなさに切なさ。
そしてシリアを押し倒し、獣欲の捌け口としたことへの罪深さ、姉への申し訳なさ。
それらが交錯し、少年の心は千々に乱れているのだ。
いつでもシリアの身体を貪りたいという性欲もあるが、もうこんな爛れた関係は終わらせたいと
いう純情さの方が強かった。
それでもシリアを襲っていたのは、マッキーの男としてのどうにもならない本能のせいだ。

「見なよ」
「……」

プリスに促されて再びモニタを見ると、リンナやネネが奮戦している。
シリアがあの状態だし、プリスはここにいるので、普段は後方支援のネネも一線で戦っている。
それでも肉弾戦は不得手だから、どうしてもリンナに比重がかかってくる。
しかしリンナはそんなものはハンディだとも思ってないらしく、活き活きと跳躍し、相手を
叩き伏せていた。
シリアはプリスがいないことにも気づかないようだが、それでもリンナとネネが敵と渡り合っ
ているのを見て、前線に飛び出していった。
プリスの手が少年の肩にかかる。

「シリアのやつ、元気ないけど頑張ってるだろ?」
「……」
「ネネだって、今日は普段と違って前に出て戦ってる。なんでかわかるかい?」

ナイトセイバーズ中、最も好戦的で荒っぽい女性ロックシンガーが優しく言った。

「……」
「あとはおまえの問題だぜ、マッキー。今、あんたはどうすべきなのか。そいつを考えな」
「……」

* - * - * - * - * - * - * - * - * - *

苦手な接近戦だが、ネネもマニピュレータに仕込まれたレーザーを乱射して戦っていた。
ハードスーツや装甲服でも、高級機の場合、鏡面装甲が使われていることが多く、これだと
レーザーやメーザーが効かない。
ヒートガンならいけるが、熱線砲装備のスーツは彼女たちにはない。
ブロンクスの面々は、自分たちでパーツを買って組み上げているようで、全体としては安物
だったが、装甲にはそれなりに気を使っているようだった。

鏡面装甲には物理攻撃が効く。
とはいえ、装甲は装甲だから殴りつけてどうなるものではない。
だからプリスの装備しているレールガンが役に立つのだが、そのプリスはまだ戻っていない。

「んもう、プリスったらまだなの?!」

ネネが不満を口にしながらレーザーを放つ。
光線は黒島の腕の装甲に弾かれて拡散していった。

既にジェイコブは倒されている。
死んではいないが、リンナのナックルボンバーをまともに右胸に喰らって失神していた。
コリンズはシリアと格闘戦を展開していた。

エネルギー残量が少ない。
ネネの顔が青ざめていった時、リンナの肘打ちが黒島の首筋に入っていった。

「……!!」

間一髪で避けた黒島だったが、生じた隙をネネに突かれた。
ネネはレーザーを3秒間のホールドにして、舐めるように黒島に向けて撃ったのである。
通常のレーザー射撃はコンマ1秒乃至コンマ3秒程度しかエネルギーを放射しない。
撃ちっ放しではたちまち使い切るし、何より銃身がその熱に保たないのだ。
ただ、何かを焼き切ったり、分厚い装甲に対する時などは秒単位にホールドする場合はある。
それを使ったのだ。
ネネは残量すべてをその射撃で使い切った。
ホールド3秒も、銃身が耐えるギリギリである。

撫でるように黒島の装甲上にレーザ光が走り、それが非装甲の二の腕に到達した時、魂消る
ような絶叫が起こった。
黒島はゴロゴロと地面を転がり、苦痛に耐えた。
腕を3センチほどレーザーで斬り込まれたのだ。
そこにリンナが駆け寄り、腕を捻り上げて抵抗を収めた。

「待ちな!!」

お互いに息を切らせて戦っていた両者に声がかかった。
シリアとコリンズの目に、ハードスーツのプリス、そして装甲服を着用したマッキーの姿が
映った。
シリアの目が驚いたように見開かれた。

「マッキー……」

コリンズが冷やかすような声をあげた。

「おうおう、弟の登場かい。随分と勇ましい格好してるじゃねえか。なんだい、今度はその
格好で姉貴を……」
「やめて!!」

シリアが絶叫する。
コリンズは喉の奥を鳴らしていやらしげに嗤っていた。

「どうするんだい、ボク? おじさんにかかってくるってのかい?」

男の声を無視し、マッキーはPtoP(パースン・トゥ・パースン。個人通話)でシリアに
語りかけた。

『姉さん……』
『マッキー、あなた……』
『……僕がやる』
『やるって、あなた……』
『もう……もうあんなことはしたくない』
『……』
『こんなことになったのも僕のせいなんだ。だから僕がケリをつける。そしたら……』

それまで真剣かつ緊張で折れそうだった弟の声が、急に柔らかくなった。

『そしたら、また以前みたいに姉さんと暮らしていけると思う』
『マッキー……』

プリスは何も言わず、まるで後見人のようにマッキーの後ろに佇んでいた。
リンナとネネは、気を失っていたジェイコブを引きずり、腕を怪我した黒島の応急手当を
終えてから、ふたりをロックした。
右手首と左足首、左手首と右足首を電磁錠で固定したのだ。

後処理を終えてふたりが駆け付けると、コリンズと装甲服のマッキーが激突していた。
マッキーの装甲服は、どちらかというと後方支援タイプで、要するにサポート用だ。
もちろん格闘戦も出来るが、電子装備を多数積んでいるため、あまり殴り合いには向いていない。
それでも、大口径レーザーライフルと爆裂弾装填のショットガンを両手に持って、強敵に対峙
している。

「ちっ……」

コリンズは、簡単に片づくと思っていた少年が、思ったより善戦していることに舌打ちした。
見たところ、鈍重そうな装甲服で大した装備もしていない。
取り柄はフルメタルの重装甲くらいだし、何しろ乗っているのはあの気弱そうなガキだ。
どうにでもなると思っていたのに、案外と射撃の腕は確かだし、思ったよりびびってもいない。
面倒だと思ったコリンズは、背中のバックパックから大ぶりのハンドガンを取り出した。
それをマッキーに向けると、ためらうことなくトリガーを引いた。

「あっ!!」

「バッ」と、一風変わった射撃音が轟くと、マッキーは右の腿あたりを抑えてうずくまった。

「マッキー!」

驚いたプリスが少年に駆け寄る。
それまで彼女は、いや、彼女とシリアは少年とコリンズの一騎打ちを見守っていたのだ。
マッキーが殺されそうにでもならない限り手出しはしないつもりだったが、撃たれた少年の
様子が変だった。

「マッキー、大丈夫かい!? あっ……」

腿を押さえるマッキーの手をどかして、撃たれた箇所を確認したプリスは血の気が引いた。
右腿の真ん中あたりの装甲がグズグズに崩れているではないか。
プリスが慌てて弾痕をまさぐると、崩れ落ちた金属装甲とともに、短い針が無数に零れてきた。
ブルーのハードスーツを着た女は、青白い憤怒の炎を滾らせながらコリンズを見据えた。

「てめえ……ニードルガンを……」

短針銃。
俗にニードルガンと呼ばれるこの武器は、現在違法とされている。
国内法だけでなく、ほとんどの国で使用不可であり、戦争の国際条約でもあるハーグ陸戦協定
でも、使用は固く禁じられている。
平時での通常使用どころか、戦時でも禁止されているその理由は、この銃で撃たれたら最後、
筋肉組織どころか骨までグズグズに崩壊させられるからだ。
その針を喰らった筋肉や骨は、二度と再生しない。
銃弾一発で、長さ5ミリ、直径わずか0.02ミリの極細硬針が5000本も発射される。
致命傷を与えられなくとも、身体に打ち込まれた針をすべて抜き取るのはかなり難しいとされて
いるせいもある。

ニードルガンの原理は、5000本の硬質短針を高初速で撃ち出すというものだ。
打ち出すエネルギー源は、炸薬か圧縮ガスが使われるが、炸薬はカートリッジが必要になるため、
ガス射出にするのがほとんどである。
弾頭として使われる短針は工業用ダイヤモンドを原料とする。
要するに、地上でもっとも硬い針を、一点に集中して無数に打ち出し、目標物を破壊するのだ。
それを使われると、よほど厚い金属装甲でない限り、防ぐのはほぼ不可能なのだ。
相手を撃破するために使う武器だから、それはそれでいいのだが、短針銃が問題なのは、装甲を
貫いてしまうと、その強力なエネルギーに圧された硬質短針が肉体に刺さってくる点にある。
大口径銃を対人用に使うことと同様に、短針銃の使用も、こうした理由で禁じられていた。

プリスたちIAの連中でも、この原則は守っている。
こういう原則を犯した場合に限って、ポリスに突き出されても文句は言えないことになっていた。

「てめえ、そんなもの使いやがって……」
「要は勝ちゃいいのさ。そんな甘っちょろいこと言うようだから女はダメなんだ」
「ふざけるな、覚悟しやがれ!」
「待って、プリスさん!」

マッキーを介抱して、そのままコリンズに向かっていったプリスにマッキーが言った。
それに驚いたのか、コリンズも短針銃を構えたまま動かなかった。

「僕がいく」
「マッキー、おまえ……」
「マッキー……」

シリアとプリス、ふたりの女性がそれぞれの感慨を込めて少年の名を口にした。
コリンズは冷やかすように哄笑した。

「おうおう、勇ましいこって。今時、お涙頂戴なんて流行らねえぜ」
「……」

マッキーは無言でコリンズに駈けて行った。
勝算やアテがあるわけではなかった。
ここで引いたら、もう二度と自分は姉の前に立てないと、そう思っただけだ。

戦術も何もなく、闇雲に突っかかってくる少年に、コリンズは余裕を持って銃を向けた。
マッキーは手にした銃器を撃つこともなく、男は焦る様子も見せずニードルガンを撃ち放った。

「!!」

少年はほとんどカンで、飛んでくる短針を銃床で受けた。
針を喰らってハリネズミようになった硬質樹脂製の銃床を確かめることもなく、マッキーは
無意識にレーザーライフルを男に投げつけていた。
撃たずに投げてくるとは思わなかったらしく、コリンズは少々慌てた。
しかし、飛来する光線よりは遙かに遅いそれを見極め、短針銃を見舞った。
その瞬間、目も眩むような閃光と爆発音が辺りに響いた。
レーザーガンが暴発したのだ。

「ぐっ……」

破片は装甲で弾き返したので影響はなかったが、無警戒のところで突然強烈な光を受け、
コリンズは一瞬、視力を失った。
彼の撃ったニードルは、マッキーの投げつけたレーザーライフルの機関部に命中、そこにセット
されていたエネルギー・パックが暴発、爆発したのだった。

さらに別の攻撃が男を襲う。
身体が動かなくなったのだ。
正確には動きにくくなったというべきだろう。
コリンズは膝を折ったまま呻いていた。

「……」

シリアの陰で、ネネがジャミング・システムを起動していた。
捕らえたジェイコブや黒島のバックパックを調べ、その駆動システムと通信システムをつかんだ
ネネは、彼らの周波数を使って指向性の受信妨害電波を使ったのである。
原理的には単純で、ブロンクスの使用周波数にランダムでVLFノイズを送りつけたのだ。
これを受けた彼らのハーフスーツのシステムプログラムは混乱し、一時的に機能不全となる。
自動修復システムくらいは搭載しているだろうが、5分やそこらの時間は稼げるはずである。

「ち、ちくしょう、この……」

コリンズは唸って身体を起こそうとした。
システムはダウンしているようで、彼の四肢や胴には、着用している装甲の重さ60キロが
まともにかかってきた。
動けないことはないが、とても戦える状態ではない。
迫ってくる少年の装甲服を見て、初めてコリンズは恐怖の表情を浮かべた。

「ま、待て」

コリンズは猶予を願ったが、ルール違反の攻撃をしてくるような相手に躊躇は無用だ。
マッキーは後ろに引いた右腕を、姉と自分の仇に向けて思い切り繰り出した。

「ぐわっ」

辛うじてクリティカルヒットは逃れたものの、重装甲服のパンチを受け、コリンズは吹っ飛んだ。
彼のシステムが再起動するまでが勝負である。
しかしコリンズも一流のIAだった。
60キロもの負荷を受けながら、懸命にかかってくる少年と組み合っていた。
とはいえ、いかに格闘戦に不慣れとはいえ、装甲服と着込んだ少年とシステムが落ちている
自分では分が悪い。

無茶苦茶に手足を飛ばしてくるマッキーに辟易としたのか、コリンズは少年が落としたショット
ガンを拾った。
銃撃戦に持ち込もうというのだ。
マッキーは、大口径ライフルを構える男をものともせず、そのまま突っかかっていく。
コリンズは容赦なく引き金を引き、10番ゲージの一発弾を撃ちまくっていた。
マッキーは、その弾頭を装甲に喰らいながらも、コリンズに立ち向かった。
撃たれて死ぬかも知れない。
それでも構わないと少年は思った。
この仇敵を戦って倒すか、あるいは敗れて死ぬか。
そうでもしないと自分が許せそうになかった。

「マッキー……」

弟の形勢不利と見て、シリアが戦闘に加わろうと進み出すと、プリスに肩を掴まれた。

「プリス……」
「任せてやんな。ああでもしなくちゃ収まりがつかないんだよ、男なんて」

バイザーを上げていたプリスとリンナの表情には笑みすらあった。
もしマッキーが倒され、命に関わりそうな時は、死地に飛び出して助け出す。
それくらいの覚悟はこのふたりにもある。
同時に、余程のことがない限り我慢して、少年に託す覚悟も持っていた。

「……」

ネネはと言えば、シリアの後ろで踞っている。
腰をペタンと降ろし、頭を抱えて堪えていた。
見ていられないのだ。

戦いは終盤に入っていた。
コリンズもマッキーも、ノー・ガードで殴り合っている。
まだシステム異常らしく、コリンズの動きは鈍い。
マッキーも戦いは素人だから、殴り合いのコツもわからない。
ただ手を出し、脚で蹴りつけるだけだ。

「うぐっ……」

コリンズが、手にしたショットガンのストックでマッキーの横っ面を殴った。
もう銃弾はとっくに撃ち尽くしており、長銃も今では単なる棍棒に過ぎない。
コリンズも疲労していたが、マッキーはもっと疲れていた。
もともと体力のある方ではない。
銃床で殴打され、装甲服のヘルメットが吹っ飛んだ。
首付近にある留め金は打ち砕かれ、グラグラだったところを殴られたのだ。

「まずい……」

見ているプリスたちの方が手に汗を握っている。
自分で戦わないということは、これほど辛いことだとは思わなかった。

マッキーの動きが明らかに鈍っている。
殴打された衝撃もあり、体力的にも限界なのだろう。
マッキーの敗北を覚悟し、突入する腹を決めていたプリスとリンナの目に、驚愕すべき光景が
入ってきた。
マッキーは自らロックを外し、装甲服を外したのだ。
シリアらが「あっ」と思う間もなく、少年の身体から装甲板が外れていく。
もっと驚いたのはコリンズである。
マッキーが何を考えているのかさっぱりわからない。

体力が尽きかけていることを覚ったマッキーは、必要最低限の装甲だけ残し、あとは捨てたの
である。
男が隙を見せた一瞬がチャンスである。
その好機はすぐに訪れた。
コリンズがさらにショットガンを振るい、マッキーの首を狙ってきたのである。
彼としては一気に勝負をつけるつもりだったのだろう。
左腕に残した装甲板で辛うじてその攻撃を受けた少年は、右脚脛に残った装甲部分でコリンズの
股間を蹴り上げた。

「ぐはっっ!!」

如何に装甲で守られているとはいえ、急所は堪える。
さらに股間部は、腿の付け根部分のジョイントもあるため、無闇に厚くすることは出来ないの
である。
股間そのものはバイクサポーターをつけてかなりのショックにも耐えられるが、足の付け根は
可動部分だけに、装甲をつけることが出来ない。
マッキーはそこを狙った。
目論見通り、少年のキックは急所を捉えたが、同時にコリンズも銃を振り回しており、銃口部分
がマッキーの頬付近に命中した。
殴られた少年は、仰向けになって後ろへ吹っ飛んでいった。

「マッキーっ!!」

シリアが叫び、もう我慢できないとばかりに駈け出した。
プリスとリンナも息を飲んで走った。
ネネはバイザーを降ろし、顔を見せないようにして疾走していた。

リンナが確認するまでもなく、コリンズは気絶していた。
股間をまともに蹴られて泡を吹いている。
が、死んではいまい。
倒れている少年を、シリアとプリスが抱え起こしていた。

「マッキー! マッキー、しっかりして!」

姉が涙をボロボロ零しながら懸命に言葉を掛ける。
錯乱状態の姉に代わり、プリスがマッキーの身体をチェックした。
アームを取り、素手で少年の首に触れると、頸動脈が元気良く動いているのが感じられる。
装甲を外し、剥き出しになった部分に触る。
装甲の隙間に手を入れ、関節部分も確かめた。
幸い、骨折などの重度傷害はないようだ。
顔を見ると、左頬が少し切れて出血している。
青黒くもなっていた。
コリンズのぶん回していたショットガンの銃口部分が当たったのだろう。
歯でも折れていなければいいが。

「う……うん……」

少年が顔をしかめて息を吹き返した。
そして、訳が分からないという風に、自分を心配そうに取り囲んでいる女性たちを見た。

「姉さん……。それにプリスさん、リンナさん……。どうしたんです?」
「平気なの、マッキー!?」

シリアの後ろで、今にも泣き出さんばかりに見守っていたネネが問いかけた。

「あ、ネネさんも……。平気って、何がです?」
「マッキー……、あなた憶えてないの?」

シリアが唖然として言った。
姉の言葉を聞くと、少年は「痛たた」と言って後頭部付近を撫でた。

「どうしたんだろ、僕?」
「マッキー……」

リンナが呆れたような声を出したが、プリスは敏感に察知した。
マッキーは、姉に気づかれないようにか、ごく控えめにウィンクしてきている。
「ははん」とプリスはわかった。
まだ気づかないらしいリンナに、「鈍いやつ」と小声で吐き捨てて、少年に言った。

「どうしたマッキー。ん? おまえ頭打ったのか、コブが出来てるぜ」

プリスが後頭部のコブを撫でると、少し痛そうに顔を歪ませながらも、少年ははっきりとうな
ずいた。

「あーー、なんか頭打ったみたい。脳震盪っぽいや、まだ朦朧としてる」

不審に思った姉が再度話し掛けた。

「マッキー、ほんとに何も憶えてないの?」
「だから何を? だいたい僕、なんでこんなとこでひっくり返ってんのかな……。あれ、装甲服
まで着てるし。仕事あったんだっけ?」

プリスがうんうんと頷いて少年の背中を叩いた。

「そうか、脳震盪か。ふーん、それで記憶が飛んでるんだな」
「記憶が……?」

シリアが呆気にとられたような顔でプリスを見た。
医学知識など皆無のプリスだが、ここはハッタリで乗り切るしかないだろう。

「頭打ったもんで、一時的に記憶が飛んでるんじゃないの? 別に珍しいことじゃないさ。
そのうち戻るかも知れないし……」

それはそれで困る。
シリアがそう思っていると、プリスは言った。

「ま、別に戻らなくてもいいだろ」
「……」
「完全に忘れてるわけじゃない。こうしてあたしらのこともわかってるし、何の問題もないさ」

そこまで言われて、ようやく鈍い女も気づいたようである。
リンナが畳みかけるように口を挟んだ。

「そ、そうよそうよ。どうせなくなったのはここしばらくの記憶だけでしょうし……っ!」

プリスが睨んでリンナの足を踏んだ。
そこまで言ったら、せっかくの芝居がバレるかも知れないではないか。
つくづく腹芸の通用しない女である。
一所懸命に言い繕うとするプリスとリンナに和やかな視線を送り、少年は立ち上がった。
すぐにシリアとネネが介助した。

「ホントに大丈夫なの、マッキー……」

消え入りそうなネネの声に、少年は出来るだけ元気良く応えた。

「大丈夫ですよ、ネネさん。これくらい……」

マッキーはそう言って頬を流れる血を拭い、ついでに口に溜まった血を吐き捨てた。
歯は折れなかったが切れてはいるらしい。
それを見て、ネネは慌ててハンカチを差し出した。
笑顔でそれを受け取る少年を見てプリスは、彼女たちの弟が一段ステップを昇ったことを
実感するのだった。



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