ユリのやつはだいぶ出来上がってきた。
でもまあ、まだ目が据わるところまでは行っていない。
白い肌がほんのり赤く染まってから強くなるのがこの女である。
こいつが本当に酔ってくると、口調が命令形になってくる。
あたしの言うことなんかさっぱり聞かなくなる。
そこまでいくことは滅多にないけどね。

今のユリはほろ酔い加減てところね。
ちょうど自白剤とかを使われて誘導尋問に引っかかりやすくなってるような状態。
ふふん、おあつらえ向きじゃないのよ。

「ほれユリ、今度はあんたよ」
「わーってるわよ」

まずい。
呂律が怪しい。
少し回ってきてる。
飲ませすぎたか。
ユリは少し焦点が合わない目で言った。
それでも黒い瞳が綺麗なのはちょっとジェラシー。

「じゃあねえ、あたしもお尻〜〜」
「はあぁぁ?」

何をほざいとるのだ、このアマは。

「だから、その……あたしも、お尻をやられた時の話をね……」

ユリは少し言いづらそうにうつむいて話した。
だいぶアルコールを摂取して酔いは回っているはずだが、まだ羞恥心はあるらしい。
この期に及んで何をぶりっ子しておるのだ、こやつは。

もっとも、あたしだってお尻をどうこうされた話をするのはけっこう思い切りが必要
ではあった。
世間体を人一倍気にするユリは余計にそうなんだろう。
それでもその時の話をする、というのだから、ユリのやつもお尻にひとかたならぬ
興味があるに違いない。
ユリの弱点になるな、うひひ。
そんなあたしの思惑に気づかないのか、ユリは訥々と話し出した。

「んーーと、あれはどこだったかな。ほら、変な宗教団体の……」
「宗教団体? ……もしかしてカースターラ? カマンツェラの?」
「そうそう、カースターラ!」

カースターラ事件。
なるべくなら思い出したくもない騒乱である。
あたしらが担当した事件の中でも、もっとも陰惨なものだった。

うちらはWWWAのCCによって厄介なヤマばかり押しつけられている。
同時に、こっちが起こした事後騒動についてもCCが大抵無罪判決をしてくれている。
だからどっちもどっちな気はするが、何のことはない、面倒な事件を解決させて、
その後始末だけはしてもらってるだけのことだ。
別に負い目を感じることはない。

その数ある厄介ごとの中でも、特に面倒なのが宗教絡みの事件なのだ。
あたしもユリも不信心者というか、信仰心はまるでないから、この手の事件は苦手
である。

神なんかいるわけはない。
神がいないからこそ不細工と二枚目が存在するのだし、金持ちと貧乏人がいるのだ。
すべてに平等な神さんなんてものが本当にいたら、この世に問題など何も起こって
いないだろう。
うちらは失業する。

なのにこの世界には警察やあたしらだけではとても捌ききれないほどの事件や事故が
毎日発生し、日に数万、数十万という人が死んでいる。
神なんてものがいない何よりの証拠だ。
なのに信者の人たちは大まじめに神さんを信じ、拝んでいる。
まあ拝んだり祈ったりするだけならまだいいが、多額のお布施までするというのが
理解できない。
そんな余分なカネがあるならこっちに回して欲しい。
あたしが有意義に使って、経済活動を活発にさせたげるから。
その方がよほど人類社会のためである。

しかも教団の幹部連中は信心など持っておらず、信者を食い物にしているやつが多い。
金儲け教というやつだ。
中には真面目に信仰している人もいるが、少数派である。
言ってみれば詐欺行為に近いはずだ。
そんなこんなで、生臭教団でも真面目な教団でも、あたしと感性をともにすることは
不可能に近い。
これは何もうちらが特例というわけではなく、WWWAのトラコンたちはみな同じ
見解を持っているはずである。
強面の多い犯罪トラコンなどは特にそうだろう(うちらは犯罪トラコンの中では
例外的な美形コンビなのよ)。
さらに、怪しげな宗教団体でも、ほとんどの信者は真面目でおとなしいフツーの人
である。
そういう人たちが混じっていると、あたしらもやりにくいのだ。

そういう理由もあるし、一方で宗教絡みの事件には専門知識が必要であるとの観点
から、宗教問題担当トラコンというのも出来ている。
ただ、宗教トラコンの人たちというのは各宗教関係者の気持ちを理解するために、
それぞれ深く信仰というものを研究している。
相手の話をよく聞いて解決に導くことを主としているのだ。
穏やかな人が多いのである。

従って、同じ宗教絡みの事件でも、原理主義狂信者たちが巻き起こすようなテロ
などの過激な事件は、やはり荒事担当の犯罪トラコンに回ってくるのである。
もっとも、この場合は相手が宗教者であろうが何であろうが、犯罪者であることに
変わりはなく、こっちも遠慮なく暴れられる。
で、このカースターラ教団事件もそれだったのだ。

最初はまったくどうってことない話だった。
動物虐待である。
それもペットではない。
そこらの野良犬やカラスを怪しい連中が持ち帰っているという。
きっと自宅にでも連れ込んで虐めている違いないという、甚だ思い込みの強い、かつ
証拠のない事件だ。
こんなもんじゃ警察は相手にするわけもなく、もちろんWWWAだって受けるはずは
ない。

なのに受けちまったのだ、CCは。
しかも担当官にうちらを指名してきた。
裏町の、仕事のない私立探偵じゃあるまいし、何が哀しゅうて野良犬探しなんぞせにゃ
ならんのだ。
ケダモノ並みの仕事である。
どうせなら、もっとやりがいのあるのをこなしたいとぼやくあたしらに、グーリー
主任は冴えない顔色で言った。

「私は犬探しであることを期待するよ。君らの望む事件にはしたくない」だと。

ぐぐぐ。
だが主任の言葉も一理ある。
CCがあたしらを指名したということは、たかが犬探しなどという単純な事件で終わ
らない公算が極めて大きいということなのだ。
野良犬の尻を追いかけるというくだらない事件か、とんでもない厄介ごとになるかの
どっちかだ。
いずれにしても、うちらにとっては頭の痛い事件になりそうだった。

そしてやってきたのが蛇座宙域にある惑星カマンツェラなのだ。
ゴツゴツした岩だらけの星で、あちこちから硫化水素が噴き出している。
人が住めないわけではないが、無理に済まなくても良さそうな惑星である。
土埃がひどいから、ちょっと歩いただけでもシャワーが恋しくなるほど。
けど、ここには5億からの人が移住している。

なぜかというと、ここは良質なウラン鉱石を産出することがわかったからだ。
産出どころではない。カマンツェラという星ごとウラン鉱床のようなものらしい。
そこに目を付けた星系首都星のダーマンダレ政府が、ここに一大ウランプラントを
設けたのである。
原子力燃料公社の試掘、採掘はもちろんのこと、民間企業体による原子力燃料や
原子力エンジン開発、製造の工場群が寄り集まってきたのだ。
岩山ばかりで住みにくいし、いたるところに致死量以上の放射能が計測されている
のだけど、なんとかやりくりして技術者やその家族などが住み着いている。
そんな星での出来事である。

長くなるから経緯は端折るが、あたしの緻密な頭脳とユリの執念深さで小さな糸口を
見つけた。
どうも絡んでいるのは、さる宗教団体らしいってことがわかったのだ。
これがカースターラ教団である。
それがわかった時点で、うちらは一端お船に戻って、本部のCCからデータを引っ
張り出した。
まずは敵について知らねばならない。
データベースから呼び出した資料によると、この教団はカマンツェラ土着ともいえる
古い宗教らしい。

「そうだったわねぇ。だいたいご神体だってあんなものだったしぃ」

ユリはそう言ってグラスにコニャックを注いだ。
もう氷も入れてない。

ユリの言う「あんなご神体」というのは、なんと性器だったのだ。
カースターラの連中が毎日飽きもせず手を合わせて拝んでいるのがチンチンだとは、
情けなくて涙が出てくる。
もうそれだけで淫祠邪教の雰囲気がぷんぷんしてくるが、それは誤解らしい。
本部の宗教トラコンに聞いたところによると、男のチンポや女のアソコなどをご神体に
掲げた土着信仰というのは案外多いようなのだ。
特に変わったことではないらしい。

男性器はもちろん子作り、子孫繁栄を願ってのことだ。
一方の女性器は五穀豊穣を祈願するものらしい。
だから発展途上の地方惑星のお土産品で、チンチンの形をした人形やこけし、女性器を
形取ったお菓子が売られていたりする。
まあ、チンチンはともかく女性器の方はさすがにまずいらしいから、けっこう形が抽象
化されてはいるけどね。
とにかく、そんな具合で、特に珍しいというものではないのだ。
それはわかったが、そんな教団が野良犬さらってどうなるのだ。
この辺がさっぱりわからなかった。

こういう時は潜入捜査しかない。
政府によっては、身分を偽っての囮捜査や潜入捜査を禁じている星もあるのだが、
そこはWWWA。
犯罪トラコンである。
咎められることはない。
ほとんどフリーパスでそういった法律は無視できる。
治外法権なのだ。

その代わり、捜査結果は必ず該当政府に報告する義務はあるし、被害が出たなら
相応の賠償は行う。
というわけで、うちらは比較的よく潜入や囮は使う。
これはあたしたちだけでなくて、どのトラコンも使う策だけどね。
だって有効だもん。
過去の捜査でも、身分を明かして堂々と活動するよりも、むしろカバーを使って潜り
込んだ方が多いくらいだ。
今回のカバーは、もちろんカースターラ信者である。

この教団に限らないが、外部に開かれていない組織でも、信者は比較的容易に内部に
入れることが多い。
ここもそうだった。
だから、カマンツェラの国家警察に相談して協力を要請した。
その結果、警察がカースターラに放っていた諜報員を通じて、信者として潜入する
ことが出来た。
何のことはない、国家警察もこの教団に疑惑の目を向けていたのである。
ただ話を聞いてみると、テロだの破壊活動だのといった物騒なことではなく、脱税
容疑らしい。
宗教法人は基本的に法人税は免税となっているが、その分、少しでもいかがわしい
活動があれば即刻取り消される。
カースターラにも胡散臭い噂はあったので、警察と税務局が共同捜査していたところ
らしい。
それに乗って一緒に潜り込ませてもらったのだ。

今回潜入したのはユリである。
機転の効かない女だから不安だし、こいつは極力危ない橋は渡らないやつなので本人も
嫌がったが、ユリじゃないとだめな理由があったのだ。

カースターラはとにかく戒律が厳しいらしく、それは着衣にも及んでいる。
派手な服はダメなのだ。
それだけならともかく、髪は黒だというのである。
あたしは確かに赤毛である。
しかしそれは生まれつきであって、別に染めているわけではない。
しかもいじってもいけないという。
髪をいじるというのは、カラーを入れたりカールさせたり、あるいはパーマかけては
だめだってことらしい。

ええい、うっさい!
あたしはくせっ毛だけど、これはこれで気に入ってんのよ。
赤毛も含めて。
それをどうこう言われたくないわい。
あたしは、信者の髪の色や服にまで注文つけるような神さんなんぞ相手にする気はない。
ぷんぷん。

そういうわけで、結局ユリを行かせることになった。
あたしは嫌がるユリを足蹴にして送り出してやった。
ふん、いつもいつもあたしばっか危ない目に遭ってんだから、たまにはあんたが行けば
いいのよ。
不承不承、教団本部に向かったユリを見ながら、そこはかとなく厭な予感はしたんだけ
どね……。

「すぐ捕まったんだっけ」
「そ。も、ホントすぐ。門を潜ったらいきなりよ」

実はその時点で内通者、つまり警察の送り込んだ諜報員は正体がバレて捕まっていた
らしい。
というより殺されていたのだ。
その諜報員がこっちと連絡をとっているところを見られたらしいのだ。
たちまちバレて拷問を受け、最後には精神崩壊起こすまで自白剤を使われて、うちらの
ことを吐いたのだ。

これは責められない。
いかに強靱な精神力を持ってしても拷問に耐えきることは難しいし、ましてクスリを
使われてた日にゃ、どうしようもないだろう。
だからユリが乗り込んだ時には、もうやつらは手ぐすね引いて待っていたのだ。
ユリのやつは、有無も言わされないで祭壇まで引きずられていったのだそうだ。

「陰湿っていうか、こう、じめっとした雰囲気だったわよ。奥の間に祭壇があって、
そこに通じる道に絨毯が敷いてあるのよ。で、その両脇にずらっと教団の幹部たちが
居並んでる」
「なんか、悪の秘密結社って感じだわね」
「うん、ホントそんな感じよ」

ユリはあたしを指差してコクンと頷いた。

「んで、その中央、祭壇の前に教祖がいるのね。ケイも見たでしょ、あの爺さん」

あたしが駆け付けた時はもう粗方片づいていて、見たのは瀕死のジジイだったんだ
けどね。
尖った頭が禿げていて、その分、汚らしい髭が伸び放題だった。
鼠色(グレーなんて言葉は使いたくないね)のきちゃない法衣(らしい)を着てた
不潔そうな爺よ。

「爺さんは訳のわからないことをむにゃむにゃ言って、信者たちを睥睨してるわけよ。
それはいいんだけども、教主の真後ろにあるご神体、あれが気になってさ」
「……やっぱ、その、男と女のアレがあったん?」
「そう。それがさぁ、生々しいのよ。なんであそこまでリアルに作るかなってくらい」
「へえ」
「もう、それ見た途端、目の前が暗くなってきたわよ。だって何されるか想像つく
じゃない」

つく。
そのシチュエーションなら、まず間違いなく「凌辱」だろう。
淫祠邪教として名高い怪しい教団。
ご丁寧なことにご神体は性器そのものだ。
これも捕まったユリが教団員に聞いたことだが、男性器や女性器をご神体にしている
ものの、子孫繁栄だの五穀豊穣だのという殊勝なことを祈願していたわけではないのだ。
もっと邪で反社会的な野望があったのである。
そこにスパイと思しき女が囚われたのだ。
最後には殺すとしても、その前におのれの薄汚い欲望に奉仕させようとするに違いない。
捕まったのがブス……もとい、お顔のご不自由な方ならともかく、美貌を誇るラブリー・
エンゼルである。
あたしが捕まれば文句なく散々犯されるだろう。
まあユリも、そう悪い外見じゃないから、これは同じ運命になるはずだ。

ひいき目なしで見ても、ユリの白く肌理の細かい肌は魅力的だ。
愛くるしい顔立ちに長く美しい黒髪。
あたしは自分の髪が好きだけど、時々ユリの漆黒の美髪が羨ましくなることがある。
腰のない髪はサラサラだ。
ただ、手入れはかなり面倒だからあたしには無理だけど。

それにスタイル。
168センチで51キロ。
バスト88、ウェスト54、ヒップ90の均整がとれたプロポーションはそそるはずだ。
ま、あたしよりバストもおヒップも小さめだけど、その分すらりとした肢体になって
いる。
あたしが隣にいれば霞んでしまうだろうが、こうしてひとりで立ってる分には美人で
通用するだろう。
口を開かなければバカだとバレることもないだろうし。

「教祖の爺さんの長々とした演説が終わると、信者がざわざわとあたしの回りに
集まってくるのよ。若いハンサムに囲まれるのには慣れてるけど、じょーだんじゃ
ないわってレベルのイモ兄ちゃんや脂ぎったオヤジばっかよ。寒気がしたわ」
「……」

何が「慣れてる」だ。
ユリが二枚目に迫られてるところなど見たことないわい。

「このままじゃ犯られると思ったけど、どうしようもないじゃない。あたし後ろ手に
電磁錠かけられてるし、足首縛られてるし。もうちょっと足首が動けば、ブーツの
ナイフが使えたんだけど」

あたしらはこういう風に敵手に落ちることも想定して、様々な隠し武器を携帯している。
ブラッディ・カードなんかも、そうといえばそうだ。
これはブラの中やベルトの裏に隠してる。
あたしは他にもブーツの踵に小型レイガンを隠し持っているし、ユリは手袋の中に
苦無(くない)を仕込んでいる。
こいつは投げナイフのようなもので、大昔にニンジャが使ったものらしい。
ナイフのように使う他、スコップのようにして穴を掘ったり、手裏剣のように投げ
ることも出来る。
また、壁を登る時の登器として使ったり、高所や離れた場所へ行く際にロープをつけて
渡すことも出来る万能武器なんだそうだ。

そしてふたりとも共通で、ブーツの爪先にナイフを仕込んでいる。
縛られた時なんかに使ったり、もちろん蹴りの際に使うこともある。
セラミック製だから、金属探知式のセンサーには引っかからない。
ユリも武器は全部取り上げられたが、このセラミックナイフだけは誤魔化せたようだ。
しかし、あの格好ではどうにもならんだろう。
ユリはこの時点で諦めたらしい。

もう凌辱劇は避けられそうにない。
実のところ、敵に捕まって凌辱されたりとか、性的な拷問を受けたりということは、
今までもないわけではない。
スマートな仕事がウリのうちらだが、なにぶん相棒がドジだから運悪く囚われる
こともあるのだ。
うまく逃げ延びることもあるが、どうにもならず強姦されることだってある。
それはもちろんショックな出来事ではあるし屈辱的だが、そのせいでトラウマに
なったり仕事を辞めると喚くほど、うちらはガキじゃない。
これでも犯罪トラコンだ。
プロなのだ。
プロなら危険は付き物だし、ドジれば非道い目に遭うのは覚悟の上である。
それがイヤならおとなしく事務員でもしてればいいのだ。
あたしもユリもそういう考え方である。

無論、ただ犯られるだけじゃあストレスはたまるが、解決した際にその分きっちりと
「お礼」はさせてもらっている。
それくらいの鬱憤晴らしはなくちゃね。
そしてこれは危険負担補償費ということで特別ボーナスの対象にもなるのだ。
ま、それくらいじゃないとやってられないけど。
当然、そういうことを知っているのは主任だけ。
あとはCCのデータに入るだけで、知り得る人は他にいない。
銀河連合もWWWAも、そういう意味でのプライバシーはきちんと守ってくれる。
当たり前なんだけどね。

ユリはおぞましそうな表情で話を続けた。

「なんとか情報収集だけでもしようと思って、あれこれ聞いたのよ。時間稼ぎにも
なるしね。教祖も幹部たちも、どうせあたしは犯したあと始末すると思ってるのか、
聞いたことはベラベラ何でも喋ってくれたわよ。でも、せっかくあたしが時間稼い
でるのに、あんたは全然来てくんないし」
「仕方ないでしょ。あの時点じゃ、まだあんたが捕まってるなんて、こっちは誰も
知らなかったんだから! 定期連絡が来る時間までは動きようがないわ」

ふたりが離れて動く場合、4時間置きに連絡を取り合うことにしている。
何もなければないこともあるが、あたしは几帳面だから一応きっちりと連絡する。
けどユリは横着だから、なんもない時はホントに連絡とってこないことがあるのだ。
普段がこうだから、たまたま今回連絡がなくても、「ああ、またか」と思っちゃう
のは仕方ないじゃない!
ユリもそう思ったのか、少しトーンを落として言った。

「まあ、そっちはここのことはわかんないでしょうけどね。まして連絡員が殺され
てた、なんて」
「そうなのよ。あたしがあんたに異変が起こったってわかったのは、連絡員からの
通信が途絶えたって警察から知らせがあったからなんだもの」

それでも小一時間くらい長引かせたが、それが限界だったようだ。
突然、教祖が右手を上に掲げて祭壇に向かって祈ると、幹部たちも一斉にそれに
倣った。
あとはユリが何を言おうが無視だったらしい。

「いよいよか、と思ったわよ。お祈りが終わると、信者たちがあたしを捧げ持って
祭壇まで運んだわ。ジタバタしたけどまるで無駄だった。そうして長方形の箱の上
に乗せられて縛られたのよ」

ユリには、辱められるくらいなら舌を噛んで死ぬという発想はない。
そんなやつなら、あたしはとっくにコンビを解消している。
もちろんあたしも、自分からチャンスを捨てて死ぬなんて卑怯なことはしない。

「両手両脚は恥ずかしいくらいに拡げられて、そのまんま固定された。服は着てた
けど、大股開きは恥ずかしいわよ。男たちはあたしをジロジロ見てるし。すると
教祖のジジイが近づいてきた。当然、最初はこの爺さんがやるんだろうな、いや
だなと思ってたら、教祖はあたしをちらっと見ただけで、そのまんま部屋から退場
しちゃったの」
「へ? どゆこと? あんたの身体に興味なかったのかしらね? あたしよりズンドー
だしね」
「失礼ね、どこがズンドーよ! ……そうじゃないってわかったのはもっと先だけ
どね。とにかく教祖がいなくなったんで少しホッとした。もしかしたら犯られない
で済むかもって。でも……」
「甘かったわけね」

ユリはお腹か頭でも痛いような顔で首肯した。
教祖が立ち去ると、部屋にいた幹部たちも大半が引きずられるようにして出ていった
らしい。
だけど残った数人の幹部たちがユリの身体を貪ったのだ。

「それまで頭巾かぶっててよく表情がわかんなかったけど、衣装をとったそいつら、
まるでケダモノよ。あたしを見る目が異常だったもん」
「で、そのまますぐ?」
「ううん。まず服を脱がされた。というより破かれた。ヒートナイフでざっくりとね。
ブラもパンツも。だけど、手袋とブーツだけはそのまんまだったわ。なんでか聞いたら、
その方が昂奮するって。あいつら筋金入りの変態だったわけよ」

うーーん、ブーツ・フェチとか手袋フェチか?
それともあれか、丸裸より何か一部にでも着衣があった方が昂奮するとかいうやつか。
あたしはユリが大の字に縛られ、バストも大事なところも露わにしている姿を想像した。
白い雪肌にレモンイエローのブーツだけ。
ううむ、これはけっこうそそるものがあるかも知れない。
変態さんの気持ちも少しわかるかな。

「その中の中年のオヤジ、こいつがリーダーっぽかったんだけども、そいつがあたしの
胸をむぎゅっと鷲掴みにしてきたのよ」
「そんで?」
「いやだったから悲鳴あげたわよ、「やめてよ!」って。当然、聞いちゃくれないけど。
でもそれだけだった」
「はあ? おっぱい掴んだだけ?」
「そう。まるでバストの柔らかさを確かめてる感じでさあ。なんか品定めしてる
みたいでいやな感じだった。しばらく片手でおっぱい掴んだりぐにゅっと揉んだりした
と思ったら、また手を離したのよ」

よくわからん連中である。
その後は、数人で縛られたユリの回りを取り囲み、その裸をじーっと見ていたらしい。
飢えた狼の群に放り出された子羊のような、その時のユリの姿をあたしは想像する。
黒い棺桶のような箱の上に緊縛されたユリ。
黒のバックと対照的な、深い乳白色をしたユリの肌が映える。
すべすべしているけど、弾力性のある肉体だ。
あたしよりは多少小振りのバストだが、それでも仰向けになっても扁平しない張りが
ある。
幾分小さめの乳首が可愛らしい。

ユリは胸よりお尻の方が大きいから、こうして仰向けにされると、体重に潰されて
お尻がむちっと脇にはみ出る。
そこがまたなんとも妖しい。
また脚がいい。
あたしも格好のいい美脚ではあるが、色が白い分、ユリの方がすらっとして見える。
すんなりと素直に伸びた脚だけど、それでいてむちむちした弾力がある。
痴漢が見たらほっとかない太腿なんだろうな。

ユリはその裸身をずーっと見られていたらしい。
見られたというよりは、観察している感じだったという。
ユリが何を言おうが一切無視で、ただ黙ってじーっと見ていたんだそうだ。

「いやでいやでしょうがなかったわよ。あれ視姦てやつ? とにかく見てるだけで
なにもしてこないんだから」
「あによ、あんた何かして欲しかったわけ?」
「じょーだんじゃないわ! 犯られないで済めばそれに越したことはないでしょ。
痴漢みたいに触られんのもいやよ」

ユリはキッと吐き捨てるように言った。
それから少しうつむいて、小声で言う。

「……でもさあ、なんか変な気持ちになってきたことも確か」

それは……わかる。
ような気がする。もう、どうにもならないピンチ。
凌辱されるのが100%確実で、救援も間に合いそうもないって時。
こういう場合は、さっさとやられちゃった方が気が楽なのだ。
その時間だけ、石にでもなったような気持ちで耐える。
それでいい。

時間を掛けられて言葉で責められたり、この時のユリみたいにただ見られるとか、
そういうのはイヤ。
じわじわ、ねちねちやられるのがいちばん堪える。
この時やつらは、ユリが騒ごうが喚こうが、一言も口を利かなかったらしい。
全裸で大の字という恥ずかしい姿で縛られたユリを四方から見つめていただけ。
ううう、これは確かにいやだなあ。

だって好きでもない男に、大事なところとか絶対見せたくないところをジロジロ
観察されるのよ。
こんな恥ずかしくて悔しいことってないわ。
そりゃあうちらは、他の担当官たちより露出の多いスタイルよ。
それは認める。
だけど、それとこれとは別だわ。
すべてを見せてもいいのは、あたしが認めた男だけだわ。
それにしたって、そんなにじっくりとアソコやお尻の、その、穴まで見られたいとは
思わない。
絶対に。
なのにカースターラの連中は、ユリの股間に息がかかるほど顔を寄せてアソコも肛門も
見たのよ。

「ほんと、マジで気が狂いそうになったわよ。もう恥ずかしいとか屈辱だとか、そう
いう気持ちまで吹っ飛んでいった。ムラムラと怒りが湧いてきてさ」

そりゃそうだろう。
あたしなら無差別にブラッディ・カードを投げつけちゃる。
もっとも、縛られてちゃどうにもなんないけど。
その時点で、ユリは自分の身体の変化に気づいてきたのだという。

「なんていうの、こう……、火照ってきたっていうか……」
「あんた変態? 見られて昂奮するわけぇ?」
「うっさいわねえ。当事者じゃないのに、あんたにわかるわけないわ。……最初はさ、
怒りで顔も青ざめてたと思うのよ。ぷるぷる震えてたのがわかったもの。なのに、
20分も30分も黙ったまんまじーーっと見られ続けてご覧なさいよ。おかしな気分
にもなるわ」
「……」
「こっちが何言っても無視。黙って見てるだけ。それもあたしの腋とか大事なとこ
とかお尻の間とか、とにかく恥ずかしいとこばっか観察してんのよ。もう胸が張り
裂けそうなくらいだったわよ。でも、それがどうにもならないとわかると、今度は
何だかむずむずするような、切ないような気持ちになって……」

こいつ、自分では違うと言ったけど、やっぱ見られると燃える質なんだ。
キレると何するかわかんないし、気の強さではあたしとタメ張れるくらいだけど、
その分マゾっ気があるんだと思う。
精神力はそれなりに強いと思うけど、それが崩れると脆い子なんだわ、きっと。
カースターラがそのユリの本質を見抜いてこういう精神攻撃をやったのなら、これは
お見事だけども、多分そこまで考えちゃいないわね。
単にやつらが変態だったってだけ。
ユリはたまたまそれに感応したってことなんだろう。

冷や汗とも脂汗ともつかない、気持ちの悪い汗が滲んで、お尻のあたりがもぞもぞして
きたんだそうだ。
で、そいつらはユリの身体に変化が出てきたところを見計らって、一斉に攻撃に出た。
数人の男たちがユリに手を出した来たのだ。

「あっと思った時は何本もの腕があたしの身体をまさぐってるわけ。背中やお尻の下
にも潜り込んできて、いやだったから体重かけていれさせまいとしたんだけど、ほら
汗で滑ってぬるって入っちゃうんだ」

ユリには、その時何人の男に嬲られたかわからなかったそうだ。
あたしらは常に、敵が今どれだけいるのか無意識のうちに勘定する性質がある。
これはWWWAの厳しい訓練で自然に身に付いたこと。
ユリもそうなんだけど、その時はそんな精神的余裕がなかったんだろうな。
無理もない、いやらしい視線でジロジロ凝視されて発狂しそうなくらい恥ずかしい
ところを、いきなり手が伸びて身体をいじくられたんだから。

男の武骨な手がユリの形のいい乳房をまさぐりだす。
むっちりした太腿やすべすべの(この子の肌はホントにすべすべなのだ。それだけは
あたしも認める)ふくらはぎを揉みほぐされる。
気性の激しいユリが(あたしの方が気が強いと思ってる人が多いけど、そんなことない。
ユリはキレる時はキレるからね。
キレたらあたしより怖い)、そんなことされて黙ってるわけがない。
屈辱と羞恥、それに激しい怒りで顔を真っ赤にして「やめて、触らないで!」と叫び、
不自由な裸体を必死に動かして拒絶する。
それでも男たちは相変わらず無口のまま、ユリの身体にまとわりつく。

「もう頭に来るっていうか、恥ずかしいっていうか。でも、連中うまいのよ。あれは
相当、数をこなして女をああするのに慣れてる感じだったわ」
「あんたがスケベだからじゃないのぉ? 誰に触られても感じるとか」
「やめてよ、寒気がするっ。あばた面のカッペ野郎や脂オヤジに触られて誰が気持ち
いいのよ」

ユリはそいつらの顔を思い出したか、おぞましそうにぶるぶるっと震えた。

「でもさぁ、シチュが異常だったじゃない。ケイもそうだけど、あたしも過去に何回
かはああいう目に遭ったことはあるでしょ。スケベったらしい拷問されたりムリヤリ
犯されたりとか。だけど、カースターラん時みたいに、しつこいほど視姦されてから
大勢にレイプされる、なんて狂ったパターンは初めてだったもん」
「まあね。んで、うまいってどんなことされたの?」
「んーー、やってることは特別変わってるわけじゃないけど、なんつーかタイミングが
いいっていうかなあ。ポイントを弁えてるっていうか、そんな感じ。あたしがいやがっ
て顔を仰け反らしたり伏せたりすると、うなじや首筋に唇を押しつけてきたり、舌で
舐めるのね。顎から首にかけて熱っぽくキスしてきたり。おっぱいの方も、下の方を
柔らかく揉み上げたり、窪んでる乳首をぐりぐりして無理に立たせようとしたり」
「……」

こいつ、案外表現力あるな。
なんかあたしも変な気になってくる。

他にも、だんだんと火照ってきたほっぺにキスしたり、耳たぶに軽く歯を立てたり、
なめらかなお腹をゆっくりと撫でたり、すらっと伸びた長い脚を触ったり。
ただ触るだけじゃなくって、撫で回したり、皮を軽くつまみ上げるように揉んだり
とか、バリエーション豊富にやってくるらしい。
それでいてユリの大切なところには触らない。
ここが連中のあくどいとこだ。

ユリのアソコの毛は案外薄いのだが、その生え際あたりまでしか触ってこないらしい。
腿の付け根とか土手のところとか、そういうのは念入りに舐めたり揉んだりするみたい
だけど、肝心のところには触れない。
それでだんだんとユリが焦れったくなってきて、声を噛み殺したり身体をよじったり
すると、今度はたまに秘裂やクリットにちょんと触れるんだそうだ。
それも、いかにも偶然触った、みたいな雰囲気で。
ユリの方はもう、熾き火がくすぶるように性感が灼けてきていたから、ちょっと
かすったように触られただけで下半身がビクン!と痙攣しちゃうらしかった。

「そいつらに身体をいじられてこんな気分になるなんてもう、くやしくてくやしくて」
「だろうね」
「でも、女って、そういうのどうしようもないじゃん。だから……」
「もう犯られてもいいって思ってきたの?」
「ていうか……。なんか、こう、もっと、その、いじって欲しいっていうか」

ユリは真っ赤である。
恥ずかしいのだろう。
それでも話すのはやめそうにない。
これまでの話や、今までの経験でわかるが、この子はけっこうこういう風に虐められ
るのが燃えるんだろうな。
そのことをカースターラのやつらが見抜いたのかどうかはわからないけど。
それでも、ああいう具合に責められたら、ユリじゃなくても情感が盛り上がって
きちゃうだろうなあ。
あたしもあんま自信ない。

その時のユリは、もう唇を噛むことも出来なかったらしい。
口を半開きにしてはぁはぁと熱い吐息を洩らしているのがわかったそうだ。
呻きだか喘ぎだか、自分でも判別できなかったんだな。

「喘ぐのを我慢するのがつらくなってきたあたりだったな、今度は今まで放っておか
れたところをいきなり責められたの」
「放っておかれたところ?」

わかっているがユリの口から言わせてやろうと思った。
ちょっと意地悪になってるな、あたし。

「だっ、だから……」
「……」
「お、オマンコよ」

さすがである。
理性と羞恥が邪魔をして、あたしにはとても口に出せないことをこの女は言えるのだ。
もっとも、これだけ酒が入ってなきゃ、ユリだって間違っても口にはしないけどね。

ユリがもうカッカと燃え上がってきたことはわかったみたいで、やつらは一斉に手を
引いた。
その中のひとりだけがユリに近づき、その両腿を抱え持った。

「その時まで全然気づかなかったんだけど、あたしったらいつのまにか拘束解かれて
たのよ」
「はああ? 相っ変わらず鈍いわねぇ」
「違うわよ! あんな状況なら仕方ないわ。あっちこっちいじったり揉んだりしてる
時に解いてたんだろなあ」

でもユリには逆らおうって気はなかったらしい。
それより何より、その切ないのを何とかして欲しくてしようがない、と。
そうだろなあ。アソコだけ放っておかれて、他は散々愛撫されてたわけだから。

「そいつがあたしの腿を抱えて股間に入り込んできても抵抗できなかったよ。早く
何とかして欲しくって」
「……」
「そん時、どれだけおぞましかったか理解はしてたんだ。だけどどうにもなんな
かった」

そういうことは確かにある。
男は知らんけど、女には確かにあるのだ、そういうのが。
それを淫乱だ浮気性だと言ってしまうのは簡単だけど、あたしは性的というよりは
生理的なものに近いと思う。
ユリが続ける。

「で、あたしも男のそこに目が行くわけよ。もうあいつのはやる気満々で勃起してた。
それが近づいてきたとき、恥ずかしいけど期待してたな」
「……」
「なのにさ!」
「へ?」
「なのにそいつ、アソコじゃなくってお尻を犯してきたのよ!」
「そりゃお気の毒に。変態さんにあたったわけね」
「ううん、そうじゃなくて理由はあったらしいけど。でもさ、いきなりお尻よ。
ゲイでもないのにお尻を犯られたんだから!」

ユリは憤慨して見せたが、もうその時はお尻でもどこでもよかったんじゃないかな。
とにかく男に貫かれないとどうにもならない、と。
ペニスがお尻の穴に押し当てられても、ユリは悲鳴も出さなかったそうだ。
女の矜持として、積極的にだけはなるまいと、それが限度だったみたい。
太いそれがユリの小さなアヌスを貫いていった。
裂かれるほどに痛かったはずだけど、そうでもなかったみたい。

「どうしてかは自分でもわかんない。前にそこでやった時は、身体がお尻から引き
裂かれそうだったけど……」
「今度はさ、めいっぱい感じさせられてたってこともあるんじゃない?」
「あると思う」

ユリは素直に頷いた。
話している時は冷静である。

「それに、恥ずかしいけどだいぶ濡れてたから、それがお尻の方に……」

愛液が垂れてアヌスにも届き、それが潤滑油になったんだろう。
それでもやっぱ少しは痛いし、本能的に身体がずり上がって逃げようとしたみたい
だけど、男はユリに覆い被さってそれを許さない。
きゅっと締まったユリの腰を掴み、ぐぐっと腰を押しつける。
ここでいきなり奥までずぶっとやったら、いかに鈍いユリでも激痛で泣き叫ぶだろう
し、だいいち肛門が裂けて血まみれになることもある。
だけどそいつは性技に長けてたらしく、押しては引き、また押すといった具合に、
決して無理はしなかったみたい。
さすがに淫祠邪教の幹部ということか。
時間をかけてユリのそこに捻り込み、とうとう根元まで挿入された。

「苦しくてさ。いつもそう思うけど、あれは息苦しいね。なんかお腹の中まで男に
占領されてるみたいで」

ユリに無理がないと見ると、そいつは腰を使ってきた。
腰骨がミシミシと軋み、内臓が押し上げられて口から出そうだったとユリは言った。

「いやって言ったのに、そいつはへらへらしながら突き込んできたのよ。奥まで
突かれるたびに、ペニスのおっきさとか熱さがお腹でわかる感じ。お尻や腸の中
の粘膜がどうにかなりそうだった。ずぶって入れられると肛門がめくれ込まれて、
抜かれるとめくり上げられるのが実感としてわかるんだもの」

痛い上にペニスの熱が伝わるようで熱い。
その熱が背中を通って頭にまで届く。
恥ずかしいとか、悔しいとかいう気持ちが白く灼けていってしまう。
いっぱいに拡げられたお尻の穴から、痺れるような妖しい快感が湧いてくる。
ユリは思わず声が出たそうだ。

−ああ、あああ……いや、あむ……。
−イヤなわけがなかろう、この淫売が。こんなに感じおって。
−違う、ああああ……お、お尻が変になるぅ……。

男は、苦痛と快感の挾間で苦悶するユリの白くて大きなお尻を遠慮なく突きまくった。
両者の腰が密着して、ユリの尻たぶが潰れるくらいに打ち込んでいる。
ユリの腰は火が着きそうなくらいに熱くなっていた。
男が突き込むと、それに合わせてアヌスが締まる。
粘膜までがペニスに絡みついていった。

−ああっ、あああっ。
−いきそうなのか。よかろう、いけ。
−い、いやよ、ああっ……お、お尻でなんか、あううう……。

いやと言っても、ユリの声が切羽詰まっているのは、その場にいた全員にわかった。
男はユリの腰を掴み、いっそう激しく腰を使った。
激しい勢いでユリのアヌスに男のペニスが抜き差しされている。
その様子を、残った男たちがじっくり観察していた。
その視線を感じ取り、ユリが一気に高ぶっていく。

−いっ、いやああっ、ああっ……あ、あああ、もっ、もう!
−いけよ。
−ああおっ、あああっ……!!

男は、ユリのアヌスの痙攣を感じ取ってから射精した。
ユリは生々しい快楽の喘ぎを絞り出し、ぶるるるっと大きく腰を痙攣させた。

「い、いったの……?」

ユリはコクンと頷いた。
恥ずかしいのだろう、顔は少し逸らして、あたしの方は見ていない。

「正直言って、お尻でいったのは初めて」
「……」
「なんか、すごかった。一瞬で身体が燃え尽きるみたいな感じで」

信じられなかったとユリは言った。
そんなところでセックスすること自体いやなのに、それで自分が絶頂まで味わって
しまうというのがわからなかった。
しかし気をやったのは事実で、射精を受けてからも、しばらくはお尻の痙攣が止まら
なかったという。
男が小馬鹿にしたように言った。

−恥ずかしいやつめ、ケツの穴でいくとはな。
−……。
−そんなに気に入ったのなら、もっとしてやるぜ。
−い、いや……許して、ああっ!

それを合図に男たちが襲いかかった。
連中は次々とユリのアヌスを犯していった。
お尻で輪姦されるのは、さすがにユリも初めてだったらしい。
泣いて頼んでも男たちはやめなかった。
次から次へとユリの肛門を犯し、腸内で射精を続けた。

ユリも逆らえなかった。
すっかりアナルセックスを仕込まれてしまったのだ。
犯す男が4人目あたりになると、口の締まりがなくなってよだれが垂れていた。
5人目からは、はっきりと「いく」とまで口にした。
催促するように尻を振っていた。
一通り全員に犯されると、男たちはようやくユリを解放した。
ユリはこれだけ犯されたのに−お腹がゴロゴロいうくらい、腸内に射精を受け続けた
のに、まだ腰の奥が火照っていた。

「それで気づいたんだけど、お尻ばっか犯られて前は放っておかれたでしょ?
それでもアソコは濡れてくるのね」

それはわかる。
あたしもさっきの話で出てきたバティルスの時、そうだったから。

「それでわかったの。お尻もよかったけど、やっぱアソコじゃないとダメなんだ」

ユリがもぞもぞし始めると、男たちはまた寄って集ってユリをレイプしたのだそうだ。
しかも、またお尻である。
もうユリは羞恥も屈辱も何もかも吹き飛んでしまい、自ら「オマンコを犯して」と叫ん
だそうである。
お尻ばかり責められ、そこは触りもしない。
そりゃあ、気も狂いそうになるだろう。
それでも男どもはユリのそこには決して触れず、ただお尻を犯したのだ。
結局、もう一巡お尻だけを犯され、ユリが失神するとまた縛って部屋を出たのだという。

「次に目が覚めた時に、あの爺さん−ヘクソンがいたのよ」

教祖の名をヘクソンという。
どう見ても70歳以下には思えない、本当にただのジジイである。
こいつが部屋に来て、ユリの腿を叩いた。

「それでハッと気が付くと、ヘクソンがあたしの股を覗いてんのよ! まったくあの
イカサマ教は、みんな覗き趣味なのよ!」
「……見られて感じるあんた向きじゃない」
「なんか言った?」
「いえいえ」

ユリはもう、腰が抜けるほどにアヌスを犯されたわけで、覗き魔のジジイを蹴飛ばす
元気はなかったらしい。
爺さんにされるがままで、身体をいじられた。
姿勢も仰向けからうつぶせにされた。
顔をシートに押しつけられ、お尻を高々と掲げるという恥ずかしい格好だ。
ヘクソンが膣に指を使い出すと、ユリはたまらず喘いだのだという。

「情けないけど、いっかい火が着いた女の身体ってそういうもんなのかもね。もろい
っていうか、簡単に感じてきちゃう」

いい加減いじって、ジジイの指がユリの蜜で濡れそぼる頃になると、ユリは愛撫に
合わせて腰をうねらせるようになっていた。
ヘクソンはそれを見ると法衣の前をはだけ、前をユリに見せた。
ユリは目も逸らせなかったという。
サイズはそれほど大きくはなく、並みだった。
それでも女の淫水を散々吸っていたのか、赤黒くグロテスクに光っていた。
それを見て、ユリは息が引きつりそうになった。
教祖が言った。

−どうだ、欲しいか、女。
−……。
−欲しいならくれてやる。言え。

ここでユリにもわかったのだそうだ。
なぜユリの肉体を自由にしておきながら、大事なところは犯さなかったのか。
お尻ばかり犯してユリの性感を高めていったのか。
すべてこのジジイにユリを最高の状態で捧げるためだったのだ。
なんでも、これがこの教団の神事だったらしい。
バカバカしい。

しかし当事者のユリはそれどころではない。
敵の思うつぼに身体は燃え上がっている。
口が勝手に動いた。

−……して……。
−はっきり言え。
−して……。
−どこにだ? また肛門を犯されたいか?

お尻があれほどいいとは思わなかったが、ユリには物足りなかったようだ。
はっきりと首を振って言った。

−違う……。
−どこだ、言え。
−お、オマンコ……。
−……。
−オマンコに、して……。もうおかしくなりそうなのよ、お尻ばっかで……。お願い
オマンコに……。

ヘクソンはユリの様子に満足したようで、熱くなっていたペニスを押しつけてきた。

−ああっ!!

膣が裂けるように割られて、きつく侵入される感覚がたまらない快感となる。
みっしりと膣を押し入ってくるペニスに、ユリは嬌声すら上げた。
とんでもない巨根を限界までその打ち込まれたような錯覚がある。
身動きのできないほどきつくギチギチに占有されている膣が、苦しげに軋む。
後背位で老人に犯される屈辱も、いつしか肉の悦楽に飲み込まれていく。
教祖の節くれ立った指が、荒々しくユリの柔らかい乳房を揉み込んでくる。
無造作に鷲掴みして、そのまま手綱のように後ろへ引かれたのだ。

「あんなことされたの初めてよ。でもすごかったなあ、おっぱい掴んでそんなこと
する、普通?」

膣の中に押し込んだまま、バストを掴んでこねくり回す。
それに飽き足らなくなると、今度は細腰に手を回して本格的に腰を使ってくる。
貫かれるというか穿たれるというか、とにかく老人とは思えぬほどの激しい突き
込みだったそうだ。

「とにかく相手は爺さんだからさ、なかなかいかないんだよ」
「そうだよね」
「んで、しつっこく責めてくるからさ……」
「ははあ、何度もいったんだね、あんた」
「……」

黙っちゃったけど、そうなんだろうな。
ヘクソンは他の老人みたいに、挿入してもなかなか射精までいかなかったんだけど、
そのくせペニスは固かったらしい。
そんなもので長時間ピストンされたら、そりゃあね……。

「もう腰をがっちり押さえ込まれてさ、身動きとれない状態で押し込まれて、奥
まで届かされたのよ。でもツボを心得てるっていうか、もう泣きそうになるような
ところばっか責めてくるの」
「……」
「身体がとろけるっていうか、ぐずぐずになっちゃうくらいの快感でさ。もう相手
にされるがままよ。たまんなくなっちゃって、「もう、おかしくなる」とか「気持ち
いい」とか、「いっちゃう」って、恥ずかしいことを何度も言わされたし」
「……」
「あたしが何回かなあ、3回くらいいってから、やっと射精したんだけど、それが
またすごい量でさ。あんまり粘ってなくて水っぽかったんだけど、量だけは多くて。
それもわざわざいちばん深いところで射精するんだもん」

こいつ、言ってないが、ヘクソンにフェラもさせられたんだろうな。
じゃなくちゃ、そいつの精液が粘るかどうかなんてわかんないもの。
うむむ、あのジジイに口まで犯されて、咥内射精されたのかあ。
ぶるぶる、いやだいやだ。

「勢いもすごくて、子宮が痛いくらいだったわよ」
「何回くらいやったの? さすがにジジイだから一回か?」
「二回。数は少なかったけど、とにかく長くて」

とか言ってるが、ユリも充分以上に感じさせられたんだろう。

二度の射精が終えると、ユリの両脚を宙づりにしてしまったのだという。
これは後でわかったんだけど、ユリを妊娠させるつもりだったらしい。
あたしたちが助けに行かなければ、ユリは妊娠するまでヘクソンに毎日犯され続ける
運命だったのだ。

ユリからの連絡途絶がが8時間を越えると、あたしとムギは、強硬手段に出た。
もちろん正面突破である。
カマンツェラ政府は知らんが、うちらWWWAにはこいつらに遠慮する理由はない。
なら最初っからそうしろと思うかも知れないけど、強行突破の強制捜査はカマンツェラ
の警察と政府の双方から止められていたんである。
しかしこういう事態になれば話は別だ。

それでも多少は遠慮して潜入した。
ムギに先行させて内側から鍵を開けさせたのである。
ムギは大抵の電子ロックを解除できるし、歩いても足音がしないから、こうした任務は
打ってつけである。
そうして中に入ったあたしは、いきなり教祖の部屋に出くわしてしまった。
さすがに普段の行いがいいと違う。
これがユリなら三日たっても教祖を見つけられなかったろう。

ヘクソンは、あたしたちがWWWAのトラコンだとわかると、意外なほどにあっさり
自供した。
この星の警察ならともかく、トラコンは相手が悪い。
こいつ、完全にイカれていたのである。

例の事件もユリへのレイプも同根だったのだ。こ
の星の滅亡を予言していたヘクソンは、ノアの方舟を作ろうとしていたらしい。
つまり、選ばれた動物や人間たちだけが逃げだそうという卑怯未練な考えだ。
犬だの猫だのが攫われていたのは、そいつらを交尾させて子供を作っていたのだ。
人間も同じで、ユリはその生贄だったわけだ。

これだけでも問題だが、さらに非道いのは、ヘクソンが気に入ったものだけ生き延び
ていたことだ。
実はユリの前にも生贄はいたらしい。
その子も出来た。
もちろんヘクソンの子である。
しかし、前の女以上のいい女が居た場合、あっさりとその前の女と子供は殺して
しまったのだ。
そしてまた新たに子供を作る。
これを繰り返していたらしい。
これは動物も同じで、より可愛かったり賢い犬がいれば、前に交尾させた犬も出来た
子犬も容赦なく殺していた。
おまけに、殺した人間や動物たちは、すべて首を切って培養液で保存していたのだ!

それを聞かされて、ヘクソンの後ろを改めて見たあたしは気絶しそうになったわ。
だってそこには、瓶詰めにされた人や動物の生首がゴロゴロしてたのよ!
ジジイはそれを誇らしそうに説明しながら、常軌を逸した笑い声を上げていた。
完全に狂っていたんだろう。
最後にとんでもないことを言ってのけた。
自分の予言が当たりそうもなったので(当然である)、自らその予言を実行しようと
していたのだ。
各地に散った狂信的な信者たちに命じて、一斉に自爆テロをやらかすつもりだった
らしい。

おまけに、逃げ出すのは自分と、選ばれた優良種たちだけで、残りの信者は見捨てる
とまで言った。
殉死こそ信教である、と恍惚とした表情で口にしやがった。
これだから宗教はキライなのよ!
あたしとユリがキレる前に信者がキレた。
そりゃそうだろう。
助かるのは教主だけであとは死ねと言ってるのだから。

突如、部屋に白煙弾が投げ込まれ、呪詛の叫びを上げた信徒たちがなだれ込んで
きたのである。
撒かれたガスは睡眠作用があったようで、迂闊にもあたしらは気を失っていた。
それでも無事だったの。
もう連中は、ヘクソン憎しであたしらのことなんか構ってる気はなかったみたい。
命拾いしたわ。

部屋の祭壇の近くでジジイは倒れていた。
スケベ教祖のヘクソンは瀕死みたいだった。
裏切られたと知った幹部連から、殴る蹴るの袋叩きにされたのだ。
腕や足首は妙な方向に曲がっている。
折れているのだろう。苦しそうに呼吸をすると、わずかに胸が浮き沈みし、微かに
耳障りな音がする。
肋骨も何本かいかれてるらしい。

しかしあたしは、死体の二歩手前みたいな爺さんを見ても、助けようなんて気は少し
も起こらなかった。
ムラムラとやり場のない怒りが……いや、この爺さんに向けるしかない怒りがこみ
上げていた。
激怒っていたのだ。
あたしは無言のまま腰のホルスターからブラスターを抜いた。
そこにユリの白い手がかかる。

「ダメ」

あたしはカッとして叫んだ。

「なんでよ! こんなジジイはさっさとぶっ殺した方が宇宙のためじゃないの!
だいたい、あんただって散々非道いことを……」
「されたわよ!!」

あたしの叫びに、より大きいユリの叫び声が重なった。

「あたしだって……あたしだって殺してやりたいわよ! 八つ裂きにしたって飽き
足らない!!」

怒ってる。
怒ってるんだ、この子。
マジで。

もともと白かった貌がいっそう青白くなっている。
薄桃色の唇からすっかり血の気が引いて色がなくなっていた。
その唇も肩も小刻みに震えている。
罪もない女の子たち、そして生ませた子供たちに施した悪魔の所業。
人間以外の動物にも同じことをやっていた。
それもこれも、みんなヘクソンの邪な欲望と狂った野望、妄想のためだ。
ユリは、自分がひどく辱められたことよりも、そのことににはらわたが煮えくりかえ
っているのだろう。
それはあたしもまったく同感である。

「でも……じゃあ、どうすんの」
「罪を贖わせるのよ」
「……」
「こいつを銀河連合の司法裁判所に突き出すの。裁判にかけて罪を償わせるのよ、
罰を与えるの。こいつのやったことの1/10も立証されたら間違いなく極刑よ。
そうならなかったら……」
「……」

あたしはユリの気迫に圧倒されていた。
息を飲んで相棒を見る。

「そうならなかったら、あたしがこの手でぶち殺してやる!」

わかったよ、ユリ。
あんたがその覚悟ならあたしも言うことはない。
心配するな、その時はあたしも手伝うよ。
トラコンを辞めてでもヘクソンを殺るんだ、一緒にね。
あたしはユリの昂奮を収めるように、その肩に手を置いた。
ユリは振り返って小さく微笑んだ。
その時である。

それまで脇でおとなしくあたしたちの側にいたムギが、ビクンと顔を宙に向けた。
次の瞬間、ズズンと、鈍く籠もったような音が響いた。
ハッとしてあたしらは顔を合わせた。

「自爆装置……!」
「やばっ!!」

幹部が捨て台詞で言っていた自爆装置。
あれを起動したに違いない。
「あっ」と思う間もなく、第二第三の爆発音が轟いた。
だんだんと近くなってきている。
逃げないとあたしらもヤバイ。
あたしとユリが死にかかってるヘクソンのもとへ走ると、うちらと祭壇の真ん中
あたりの天井が大きな爆発とともに崩れてきた。

「あぶなっ!!」

あたしはユリの腕を掴んで強引に引っ張り寄せた。
間一髪で、降ってくる梁から逃れる。
それでもユリはヘクソンを連れ帰ろうと進んでいく。
ムギがこっちを見て「みぎゃ」と鳴く。
「早く逃げないとこの建物はまずい」とでも言っているんだろう。

「もうだめ、ユリっ! 諦めな!」
「いやよ! 絶対に連れて……」

そこでまた小爆発が起こった。
どうもでかい爆弾を仕掛けたわけじゃなく、小さいのをいくつもセットしてあるらしい。
おかげで即死になる可能性は低いが、あといくつ爆発するのかわかったもんじゃない。

「我が侭言うんじゃないの! あたしの言うこと、お聞き!」

ここであんな悪党にこだわって一緒に死ぬなんて絶対お断りだわ。
ユリの横っ面ひっぱたいて目を覚まさせてやろうと思った時、今度は祭壇の方が爆発
した。

「きゃああ!」
「あっ」

ユリが祭壇を指差して叫んだ。
大理石で彫り出したご神体がグラリと傾いた。
ペニスを象った偶像が、教祖の顔のあたりにゆっくりと降ってきた。
あたしたちが思わず顔を背けると、今度は女性器の方が倒れてきたらしい。
意外にはっきりとした音が「ぐちゃっ」と響いた。

恐る恐る目を開けると、もうもうと砂埃が立ちこめる祭壇の奥で、頭を男性器に、
腰骨のあたりを女性器に潰されたヘクソンがいた。
もうあれはヘクソンではない。
ぐちゃぐちゃに潰れたヘクソンの死体だ。
あれだけ拘った性器に潰されて死んだのだ、悔いはないだろう。

ヘクソンだったものをしばらく見つめ、踏ん切りがついたのか、ユリもこっちを
見ていた。
あたしたちは必死に走り、ラブリーエンゼルに向かった。
途中、何人かの信者に出会ったが、放心状態で抵抗する気もないらしい。
あたしらは構わず先に行った。
あたしたちの先に立って疾走していたムギが、いちはやく船に辿り着き、中に飛び
込んでエンジンを掛けた。
すぐにあたしらも追いつき、乗り込んでドアを閉めるとシートに滑り込んだ。
操船はユリの仕事だ。
ユリはシートベルトを締めもせず、離陸準備に入った。
あたしは隣のシートで情報収集に余念がない。
するとサブコンソールで地表をチェックしていたムギが騒ぎ出した。
あたしはイライラして叱責する。

「なんなの、ムギ!」

ムギは、二本の触手でコンソールの画面とレーダースコープを指してみぎゃみぎゃ
言っている。
覗いてみると、スコープにパッ、パッと光点が灯っていった。

「? なにこれ?」

あたしがそうつぶやくと、ムギが焦れったそうにコンソールを操作した。
コンソール脇のモニタに、ざっとグラフが出てきた。
見ると、放射線測定計のようだ。
あっと思ったあたしは、そのデータをコンソールに打ち込んで、デーダースコープ
と対比してみた。
ぴったりと重なる。つまりこれは……。

「核爆発!?」
「なんですって!?」

あたしの絶叫にユリが勢いよく振り向いた。
そういえば連中が得意そうに言っていた。
原発や採掘施設、燃料プラントなどは、いつでも自爆テロを起こせると。
なんの間違いか知らないが、そいつらが一斉にテロりやがったに違いない。
慌ててカマンツェラのMAPを読み込んで重ね合わせると、見事なくらいに放射能
関連施設に該当しているではないか。
そう言うと、ユリは青くなって叫んだ。

「こ、この辺にまずい施設はないの!? やつらに狙われそうな……」
「ま、待って」

あたしは大急ぎで確認した。
げげげ、こっから5キロ先に大規模な核燃料再生施設があるではないか!
フュエル・ロッドを取り扱ってる、第一級の危険作業工場だ。
ムギが騒ぐ。
その施設から異常高温を観測したらしい。
緊急排気しているんだろう。

「まずいユリ、大至急脱出!」
「そ、そんなこと言ったって」
「いいからすぐ! あんた死にたいの!?」
「わかったわよ!!」

ユリはヤケクソのように喚くと、緊急離陸した。
正規の手続きなんか踏んでられない。
ユリはろくに加速しないまま飛び上がると、今度は最大加速で離脱を図った。

「ぐええええええええ……!!」

あたしとムギはシートベルトを締める間もなかった。
ユリのバカが、こっちの対ショック対G防護が出来ないまま遠慮なく思いっ切り
加速したもんで、あたしは圧死するかと思った。
5Gから7Gもの圧力が全身にかかる。
ぐおおおお、あたしの美しいバストがつぶれる、スタイルが崩れるじゃないかあ。
あんたはどうでもいいような肢体だろうけど、あたしのはうつくしーのよ。
その上、華奢なんだから、あんたを基準に考えないでよ!などと文句を言う余裕も
なく、あたしは必死にシートとムギにしがみついていた。

「どっはああ!!」

前からのGで身体が潰されそうになってる最中、今度は後ろから突き飛ばされる
ような衝撃を受けた。
さっきの核燃料プラントが大爆発−つまり熱核爆発を起こしたのである。
至近弾などのショックを拡散、吸収するように出来ているうちらのお船でこれだから、
相当でかい爆発だったのだろう。
もう教団施設は跡形もないだろうな。
してみると、ユリのあのキチガイじみた全力噴射航行がなかったら、あたしらも
吹っ飛んでいたかも知れないってことか。
間一髪だったんだ。

とにもかくにもカマンツェラの衛星軌道まで脱出したあたしらは、すぐに連合宇宙軍に
連絡をとって、事の次第を伝えた。
同時に、近隣の在住惑星に緊急信号を送って救援を要請した。
あたしらの救援ではない。
カマンツェラの人たちを助け出すためである。

幸い、連合宇宙軍のパトロール艦隊が側にいて、すぐに駆け付けてくれた。
さらに星系内に駐留している警備艦隊も動員しての脱出作戦が展開された。
のだが、結果的には間に合わなかった。
偶然だとは思うが、カースターラの連中の自爆テロ目標は的を射ていたらしく、
その工場、施設の被害だけでなく、人口密集地や地盤の弱いところがかなりやられた
のだ。

カマンツェラは硫化水素などの毒ガスや、数千から数万レントゲンの放射能をばら
まかれたことになる。
そのせいで救助活動が思うようにいかなかったらしい。
あたしらももちろん手伝ったが、汚染地帯には入れない。
耐ANBCパワードスーツの数は限られているから、地表に船が降りて助け出せる
数は知れている。
また助け出しても、すでに致死量以上の放射線を浴びて手遅れ状態の人も多かった
らしい。

結局、総人口5億人に対して、救助できたのは僅か12万人だった。
あの状態で12万も助け出せれば大したものだと思うのだけど、5億に対して12万
だからなあ……。
おまけに、救援活動を行なった艦隊の一部にも被害が出て、1000人近くの殉職者
が出たらしい。
むむむむ。

被害としては、惑星カマンツェラは可住惑星としては放棄。
50年後に、どれだけ放射能が薄れたのか調査するそうである。
つまり、無尽蔵なウラン鉱石の塊を目の前にして指をくわえているだけになる。
そこに住んでいた人たちのうち、99.976%が死亡(がーん)。
12万人の生存者のうち、多量の放射線を浴びたため放射能障害が出たり、後日、
白血病やガンなどの重病に罹る可能性の高い人が9万7千人(……)。
救援活動を行なった連合宇宙軍や各惑星の駐留あるいは警備艦隊から、喪失艦19隻、
死者985名。
被害総額……い、言いたくない。

だ、だけど、これはあたしらの責任じゃない!
すべてカースターラが悪いのであって、うちらに断じて責任はないのである。
そりゃあ本部の自爆装置ことととか、自爆テロのことを失念していたというのはある。
だけど、あの極限状態でそこまで気を回せと言われても困る。
あの時は、主犯のヘクソンを連れ帰ることと、爆発後はこっちが生きて帰ることしか
考えてなかったのだ。そのことを責められる人はいないと思う。
後日行われたCCの査定でも、あたしらはシロと判定された。

「……」
「……」

話し終わって、ユリもあたしも虚しさに気づいた。
こんなことしてても何も改善しないのだ。
あたしは叫んだ。

「ああ、もう、他にすることないの!?」

ユリがひときわ醒めた口調で言う。

「ないわよ。お酒飲んで携帯食料食べて、あとは寝てるくらいしかないのよ」
「だいたい、なんだってあたしらがこんな目に遭うのよ!」

いきり立つあたしを見て、ユリが呆れたように言った。

「あんたのせいじゃないのよ」
「あたし!? あたしが何したのよ!」
「あんたがよく確認もしないでミサイルなんか撃つから……」

そういえば、あたしらがなんでこのホテルに缶詰になってるか言わなかったよね。
実は今、ひと仕事終えたあとなのだ。
単純な仕事で、この星−マウザルを本拠としている宇宙海賊退治。
そこでいろいろあって、やつらが隠れていた雷雲の中にミサイル叩き込んだら、
一緒にWCS−気象制御システムまで壊しちゃったわけ。

もともと陸地が圧倒的に少ない上に雨ばかり降っているこの星は、WCSの助けが
ないと陸地が水没してしまう。
そのWCSをやっちゃったということは、元通り雨ばかり降って、せっかく護岸工事
したり埋め立てて作った陸地がまた沈んじゃうってこと。
で、今そうなってる……。

このホテルはこの星でもっとも海抜の高いところに建っている。
しかしそこですら、もう15階から下は完全に海没しているのよ。
うちらは最上階−67階にいるからどうにかなっているが、このまま雨が降り続いた
ら一週間は保たないらしい。

当然、WWWAに救援要請は出したけど、報告を受けた主任は表情を消していた。
海賊を始末したと聞いた時は、「当然だ」とでも言いたげに頷いた。
ついでにWCSを壊しちゃったことを言うと、今度はさぁっと顔から血の気が引いた。
おまけに、そのせいで陸地が海に沈みかけてると言ったら、今度は真っ赤になった。
主任が俯いたまま肩を痙攣させているのを見て、脱出手段がないことを恐る恐る言って
みた。
そしたら主任は、とろけそうな笑顔を浮かべて、「ちょうどいい。せっかく観光星に
行っているのだから、未消化分の休暇を使うといい」と抜かした。

冗談じゃない、今まではともかく、今は観光なんか出来る状態にないと言ってやったら
「そうしたのは誰のせいかね?」と来た。
ぐむむむ。
言えない。
何も言い返せない。
だいたい、なんであたしばっか矢面に立ってるんだ。
そう思ってユリを見たら、案の定あの卑怯者はモニタカメラに入らないようにこそこそ
してやがった。
心の底からずっこいやつである。

結局、救援には来てくれることになった。
しかし、もっとも速くそこへ着くのは隣の星系にある鉱物採取衛星のカーゴらしい。
WWWAが救援依頼すると、人道的救出ということで快諾してくれたらしいが、来るの
はカーゴ、貨物船である。
つまりあたしらに、普段は鉱石積んでる土埃だらけ泥汚れだらけの貨物船に乗って
帰れってのよ!
それも、最速でも5〜6日かかると言う。
ギリギリじゃないか。
何かトラブって遅れたらあたしらはどーなるんだ!
そう言ったら主任はしゃあしゃあと、「君らの悪運の強さは折り紙付きじゃないか。
あれだけのことしてきて無罪、無罪で通ってきたんだから」とほざいた。
バカのユリは「当たってる」と呟いてクスクス笑っていやがる。
その原因の半分以上はあんたなのよ!
ああ、それにしてもあと一週間もこの天然お気楽女とふたりっきりで過ごすのかあ。
あたしの守護天使はどこ行ったあ。
って、あたしは神さまなんか信じてないけど。



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