「ち、ちくしょう!」

この日も、神楽と奈落の傀儡が犬夜叉たちを襲撃したものの、見事な連携プレイで撃退された。
犬夜叉の鉄砕牙、珊瑚の飛来骨、弥勒の護符に風穴、そしてかごめの矢で攻撃されると、どうしても押されがちになって
しまう。飛来骨で追い立てられ、かごめに射られると、神楽も防戦一方になる。
飛来骨は風を起こして軌道を狂わせることもできるが、破魔矢の方はそうもいかない。
風がまったく効かないのだ。
そっちに気を取られていると、飛来骨に襲われることになる。
一方の奈落の方も、犬夜叉と弥勒の攻勢に遭っては分が悪い。
風穴は瘴気を起こして封じることも出来るが、威力は落ちるとは言え護符も無力ではない。
まして無鉄砲無分別の犬夜叉がつっかけてくるのだから油断が出来ぬ。

「散魂鉄爪!」

一瞬の隙を突き、犬夜叉が鋭爪を振るうと、奈落は胴体を抉られて倒れ伏せる。
身体はたちまち溶解し、残ったのは狒狒の面と木の傀儡だ。
長い奈落の髪が一本巻かれている。
神楽は傀儡が倒されたことを知ると、あっさりと逃げに入った。

「ち、ちくしょう!」

ぽーんと空に跳ね上がると、あっというまに風に乗った。

「待ちやがれ!」

犬夜叉の叫びに、神楽は憎々しげに応えた。

「覚えてなよ!」

すぐにその姿は薄くなり、見えなくなった。

「ふたりとも大丈夫!?」
「平気に決まってんだろ」

かごめが駆け寄ると、犬夜叉は刀を収めた。

「法師さま、奈落は……」
「……」

弥勒は手にした木人形を見せた。

*
**
*

奈落の城。
からん、と音がして傀儡が転がった。

「……」

それを見つめる奈落の視線が冷たい。

「やはり駄目だったな」

「…今度は私も行く」

白い童女−神無が言った。

「……」
「だめなの?」
「…いや、構わん。だが…」
「え?」
「なんでもない」

*
**
*

犬夜叉とかごめは、村へ続く道を歩いている。
またぞろ、かごめが21世紀の現代に戻り、必要な日用品等を補給してきたというわけだ。
かごめは自転車を押しており、そのカゴには七宝が鎮座していた。
一方、犬夜叉はと言えば、ナップザックを背負わされてぶつぶつ言いながらついてきている。

「…ったく。急にあっちへ帰るって言ったかと思えば、こんな大荷物持って来やがって」

犬夜叉のぼやきを聞くと、七宝がくるりと後ろを向いてぽつりと言った。

「なんじゃ、だらしない。普段、かごめをかついでる時はそんなこと言わんくせにのう」
「んだと、てめえ。じゃおまえが持ってけ」
「おらはまだ子どもじゃ」
「け。都合のいいときだけ子どもになりやがってよ」

かごめはツンと澄まして応じる。

「いいのよ、七宝ちゃん。放っときましょ」

そして、押している自転車を止めると犬夜叉の方に振り向いて言った。

「それともあたしが持って行こうか? あんたが七宝ちゃん背負ってけばそうしたげるけど」
「甘やかさねぇで歩かせりゃいいんだよ」
「ぶつぶつぶつぶつ、うっさいのよ、ホント」

再び歩き出したかごめに犬夜叉が聞いた。

「なあ、かごめ、これ何なんだよ。いつもより重てぇんじゃねえか?」
「そうかもね」
「またかごめが住んでるとこの食べ物なんじゃろ?」

七宝が嬉しそうにかごめを見て言う。

「うん。それもあるし」

かごめが答えると、犬夜叉が続けて聞く。

「どーせまた『しけんべんきょー』の本とかもあるんだろ」
「もちろん。模試が近いんだもん」
「…なんだよ『もし』ってのは。ワケわかんねぇ」
「そりゃそうでしょ」

かごめがフフッと笑う。

「それとね」

軽くため息をついて付け足した。

「…珊瑚ちゃんのため……」
*
**
*

かごめの心配の種が川辺にいた。
背中まである漆黒の髪。
色白な顔に黒くて大きな瞳が印象的だ。
一見、勝ち気な目つきだが、笑うと一気にあどけなくなる。
質素だが清潔な着物を纏ったその姿は、若々しい体つきを覆い隠しているが、腰つきや胸元はすでに十分女らしさを
漂わせていた。盥に山盛りの洗濯物を抱えている。

すぐそばに立っているのは弥勒である。

「珊瑚、もういい加減に機嫌を直しませんか」
「……」

例によって弥勒が村の女に手を出した疑惑を持たれている。
村のある農家の葬儀に呼ばれ、供養したのだが、その通夜の際に何かあったらしい。
その夜、喪主の未亡人と一緒にどこかへ消えたのだ。
弥勒は当然のように無罪を主張したが、何せ今までが今までである。
珊瑚にプロポーズらしき言葉をかけたにも関わらず、一向に女癖が改まらない。

確かに婚儀を挙げたわけでも結納を交わしたわけでもない。
それどころか恋人と呼べるのかどうかすら自信がない有り様だ。
従って、浮気と呼べるものではないのかも知れないが、女心とそういうものではないだろう。

「珊瑚、私は何も悪いことは……」
「ええ、してないでしょうね! 法師さまにとっては、別に「悪いこと」じゃないんでしょうし!」

珊瑚はキッと弥勒を睨むと、叩きつけるように言ってのけた。

「……」

とりつく島もない感じである。
弥勒は首をすくめて軽くため息をつく。

「珊瑚ちゃーん」
「あ、帰ってきた…」

かごめの声が聞こえると、珊瑚はようやく表情を和やかにした。

「お帰り、早かったね」
「うん、荷物持ってきただけだし」

犬夜叉がどさりとナップザックを放り投げると、かごめは慌てたように言った。

「ちょっと、乱暴に扱わないでよ!」

かごめは荷物に駆け寄ると中をあらためた。

「缶がへこんだじゃないのよー、まったく。これ、川で冷やしといて」

そういうと段ボールの箱から缶飲料をいくつも取り出した。
七宝が目を輝かせて聞いた。

「かごめ、『じゅーす』じゃな」
「うん、ジュースもあるわよ」
「ったく、人使いの荒い…」
「あんた、人じゃなくて半妖でしょ」

ぶつくさ言う犬夜叉と大喜びの七宝が箱から缶飲料を取り出していると、珊瑚も駆け寄って手伝った。
流れをせき止めて、石で囲んだ臨時の冷蔵庫を作っている様を見ながら、かごめは弥勒に歩み寄る。

「で? 珊瑚ちゃん、まだ……」
「はあ…。かごめさまからも何とか言ってくださいよ」
「でもねー。原因は法師さまだしねー。自業自得ってやつ?」
「だからそれは誤解ですって。私は何も……」
「ふうぅぅぅ〜〜ん」
「なんです、その言い方は」
「べっつにぃ」

かごめはザックから洗剤を取り出すと珊瑚に歩み寄った。

「珊瑚ちゃん、お洗濯しよ」
「あ、そうだね、忘れてた」

洗濯物で満載の盥を持って川辺にしゃがみ込んだ。
洗濯板も二枚ある。
それまで洗濯などは母任せで、手洗いどころか洗濯機さえまともに使ったことのなかったかごめだが、この世界で暮らすうちに
洗濯板で洗うことにもすっかり慣れた。
洗剤のパッケージを見て解説を読む。

「えーと……。『針葉樹の樹液からできた環境にやさしくて、そして大変良く汚れが落ちて、しかも何にでも使える
純植物性の洗剤です。石けん以上に環境にやさしく、それでいてプロも愛用しています』か」

この時代で合成洗剤を使う者はいないだろうから、かごめたちが少々使ったところで問題はないはずだ。
しかしそれだけに、豊かな自然で溢れている16世紀の日本を汚染したくない、という気持ちがかごめにはある。

「『北米の針葉樹からできている純植物性で、成分はバイオ分解されます』ね。よし、これならいいでしょ」
「かごめちゃん、難しい字をすらすら読めるよね」

珊瑚は感心したように言うが、時代が違うのだから同じ日本語とは言え、読めたり読めなかったりするのは当たり前である。
実際、かごめにしたって、この時代の筆記体中心の文章はほとんど読めなかったりする。

「珊瑚ちゃんだってあたしの知らないこといっぱい知ってるし、どっちもどっち」

生活の知恵という点では、不便なこの時代の方が豊富であろう。
ふたりは仲良く並んで洗濯し始めた。

「んーー、いい香り…。あたし『せんざい』の匂いって好き」

珊瑚が深呼吸するように胸いっぱいに吸い込む。清廉な、いかにも清潔そうな香りがお気に入りなのだ。
かごめが洗濯物の中からひょいと白いものを取り出した。

「あ…これ珊瑚ちゃんのだ」

珊瑚が少し顔を赤らめてかごめからそのブラジャーを受け取った。
こしこしとそれを洗う珊瑚を見て、かごめがうらやましそうに言った。

「珊瑚ちゃん、胸大きいよねー」
「な、なに言うのよ、突然…」

確か珊瑚にあげたのは70のCだったはずである。
一方のかごめは70のAがそろそろきついかな、という大きさだ。
年齢差は1歳あるが、この差にはため息をつきたくなる。

「この下着も好きだな…」

やはりサラシで巻くのは苦しいし、身につけるのも面倒だ。
その点こいつは、つけても苦しくないし、扱いも楽だし、何よりずっと清潔である。

「でも、寝るときちょっと苦しいかな」
「え、寝る時!?」

かごめがびっくりしたように訊いた。

「珊瑚ちゃん、寝る時もブラしてるの?」
「あ、うん…。しなくていいの?」
「普通はね…。ま、まあ、してもいいんだけど」
「そうなんだ。考えてみればサラシも寝る時は外すもんね」

かごめはちょっとホッとする。
どの時代でも女の子同士の会話などこんなものなんだ。
妖怪退治屋という、現代では考えられない職の娘でも、現代の中学生でも、交わす内容は他愛もないものだ。
四魂の欠片を追う旅も、奈落たちとの闘いも忘れ、たまにはこういう時があってもいいはずだ。

「ちょっと薄いから、洗うとき気を使うけど。特にこの『しょーつ』なんか」

今、珊瑚が洗っているのはショーツだ。
なるべく運動性に富んでいて丈夫なものを選んだつもりだが、それでも化学繊維だから、この時代の麻だの木綿だのより
薄いのは当然だ。
その時、ふと何かに気づいたように珊瑚が振り向いた。

*
**
*

「犬夜叉、何を言っているのか聞こえますか」
「うっせえな、よく聞こえねぇんだよ」
「おまえは鼻も耳も利くはずでしょう」
「だったら直接聞いてくりゃいいだろが。珊瑚は敵じぇねぇだろ」
「そうできればとっくにしてますよ」

法師は軽く顔を振る。

「犬夜叉、静かに」
「なんでい」
「……」

かごめと珊瑚が白い下着を手にしてきゃっきゃと騒いでいる。

「ふたりがきれいな下着を洗っているでしょう。静かに見守ってやらないと」
「バカか、おまえ」
「ああ、珊瑚があの下着をつけているところを見たいものです」
「……」

犬夜叉が呆れたような、蔑んだような目で弥勒を見ると、突然、石礫が飛んできた。

「どわっっ」
「なに見てんのよ!」
「へんたーい!」

蜘蛛の子を散らすように逃げ去ったふたりを見て、かごめは荒々しく鼻から息を吐く。

「ったく、あれだから法師さま信用されないのよ」
「……」

怒ったような、それでいてどこか哀しそうな顔で弥勒たちを見送っていた珊瑚の肩を叩いてかごめが言った。

「まあまあ。珊瑚ちゃん、今日はさ、パァッとやろ。ね?」
「ぱぁっと?」

*
**
*

「はあっ……ああっ……」
「あんんっ……すごい、こんなの初めてぇ…」
「やは…やあ、いく……すご…いっちゃう!」

部屋に生々しい女の喘ぎ声が染み入ってくる。
部屋の主は、それを聞くともなく聞いている。

「……」

片膝を立て、長煙管を吸い付けているのは妖女・神楽である。
絶え間なく聞こえる女の呻き声は、もう一刻以上に渡って流れていた。
神楽が、カンと煙草盆に煙管を打ち付けて吸い殻を捨てた時、唐突に女の声が消えた。
そして。

「ぎゃあああっ!」

つい、と神楽が顔を上げる。

「……またかい」

神楽が立ち上がる間もなく、部屋の障子戸が開いた。
顔を覗かせたのは奈落だ。

「神楽」
「……」
「…始末しておけ」
「ちょっと」

神楽が問い詰める前に、奈落はぴしゃりと戸を閉めた。
やれやれという風に神楽は肩をすくめた。

「…まったくねぇ。何を考えているのやら」

神楽は渋々、奈落の指示に従うべく部屋を出た。

*
**
*

「きゃはははっ」

その夜。
楓の家は大騒ぎであった。
かごめが持ってきた缶飲料の大半が軽アルコール飲料、つまりは酒だったのだ。
かごめは珊瑚の気晴らしになれば、と飲みやすいお酒を持ってきたのである。

「あーーーっ、これ、おいしー」
「でしょー。あ、でも珊瑚ちゃん、だいじょぶ? 確か…」
「え? あ、へーき、へーき。あたし軽い方だしねー」

と言って、珊瑚は軽くお腹をさすった。
何のことかいうと生理である。
珊瑚は昨日あたりからその周期に入っているはずだった。
珊瑚がどことなく不機嫌で、弥勒の浮気にカリカリしているのもそれが多分に影響しているのかも知れない。

かごめも珊瑚もアルコールで顔が染まっている。
実のところ、どちらも初めてアルコールを口にしたのであるが、ピッチはどんどん上がるばかりだ。
持参したのがカクテル系のものだったこともあるが、その甘い口当たりでほとんど抵抗なく飲めてしまう。
一緒にジュースを飲んでいる七宝が、すっかり酔っているふたりを見て不思議そうに聞いた。

「かごめ、それは酒なのか?」
「そーよー、七宝ちゃん」
「でも甘くておいしいよ、七宝」

くいくいと煽り、のどを動かす珊瑚を見て子狐が言った。

「お、おらも飲めるのか?」
「だーーめ。いちおーお酒なんだしーー」

かごめは七宝にコーラを押しつけ、カクテルはもぎ取った。

「そういうかごめさまも、もうそろそろ…」

それまで、女ふたりの盛り上がりっぷりに圧倒され続けていた弥勒がようやく口を挟んだ。

「かごめさまとて、まだ大人とは言い難いおなごのはず。そう飲まれては…」
「いーのよーー、だいたいこの時代、お酒は20歳以上じゃなきゃだめって法律ないんでしょー?」
「い、いや……そういう問題ではなくて、ですね…」

そこに珊瑚が割り込んだ。

「なによ、さっきから。法師さま、かごめちゃんのことばっか気にしてー」
「そういうわけでは…」
「じゃ、どういうわけよ」

完全に目が据わっている。
ぎりぎりと音がしそうなほどの視線で法師を睨んでいる。
さすがに弥勒もたじろいだ。

「…いいわよ、どうせあたしなんか。法師さまはかごめちゃんの方が大事なんでしょっ」
「だから、そうではないと言うに…。かごめさまも何とか言ってくださ…」

言いかけて弥勒の口が止まる。
かごめの方もまずいくらいに出来上がってしまっていた。

「なーんだー、そうだったんだ、法師さま」

と言って、弥勒に顔を近づけた。

「そうならそう言ってくれればいいのにー」
「ちょ、ちょっとかごめちゃん!」

さらに近づくふたりの顔を見て、珊瑚が大まじめに慌てた。
それを見てかごめが爆笑する。

「じょーだんよ、じょーだん! きゃはは、マジなんだもん、珊瑚ちゃん」
「かごめさま、悪ふざけもほどほどに……犬夜叉、おまえからも言ってください…って、あれ」

弥勒が犬夜叉に助けを求めようとしたものの、当の半妖は目を回してダウンしている。

「犬夜叉?」

不審そうに犬夜叉の様子を見る弥勒に、かごめが「あはははっ」と笑って言う。

「だめ、だめ。犬夜叉ったら、一口飲んだだけでアレだもの」
「ったく弱いったらないねー、半妖なのにさーー」

さっきまでかごめに突っかかろうとしていた珊瑚も、いつのまにかかごめと一緒になって犬夜叉を笑っている。
どうにもならんと思った弥勒は、無駄と知りつつふたりを止めた。

「ふ、ふたりとも、もうその辺で…」
「う・る・さ・い!」
「はあ……」

声を揃えて宴会続行を望むかごめと珊瑚に、さすがの法師もお手上げである。
家の主の楓はといえば、呆れ果てて、とっくに隣室に籠もっている。
困った恋人を持つ女ふたりの宴会は、いつ果てることもなく夜通し続いた。

*
**
*

奈落は考えている。
これで何人の女を潰したことだろうか。
人間の女など何人殺したところで痛痒など感じない。
そもそも奈落は人間の女になど興味はなかった。
唯一の例外は桔梗だが、これは潜在意識下にある鬼蜘蛛の心情であり、少なくとも表面上あの女は自分の敵としてしか
認識していない。

それでも、今回だけは女が必要だった。
が、奈落の希望に合う者はなかなか現れなかった。
傍らで、皮肉そうな目で彼を見ている神楽が言った。

「いったい全体どうしたってのさ。あんた、そんなに女好きだったかい?」
「そう思うか?」
「思わないから訊いてるんじゃないか」
「……」

奈落は黙って杯を口に持っていく。
かごめたちと違って、アルコールの影響が身体に出ることはない。
ただ酒を飲むと、体内細胞が活性化する。

「で、次の女は?」
「またかい」

神楽はため息をつく。

「いくら連れて来たって、みんなあんたが駄目にしちまうじゃないか」
「いい女を連れて来ないからだ」
「いい女ってな、どういうんだい」
「何度も言っているだろう」

第一に身体の丈夫な女。
次に性的に敏感な女。
そしてもうひとつが若い女というものである。
神楽が拐かしてきたのは、都でも評判の太夫や夜鷹、小町と呼ばれる器量好しの娘、近在で噂になるほどの美しい人妻
など、思いつく限り贅沢な選択をした女ばかりだったのだ。

「その条件に叶った女ばかりだと思うけどね」
「まだ足らん」
「……何を企んでいるのやら」

ちら、と奈落は神楽を眺めた。
そしてあることを思いついた。
よくよく考えれば、目の前の女、つまり神楽もその条件に合っている可能性はあるのだ。

「……」
「…なんだい、その目つきは」

身体が丈夫なのは間違いない。
人間ではないが、それに拘る必要はなかった。
性感に関しては、さすがに奈落もわからない。
嬲ってみればわかるだろうが、神楽は男女ともにいける口らしいから、恐らく鋭敏であろう。
若さも十分だ。
そこまで思いを巡らせて、奈落はその考えが無益であることを知った。
神楽では駄目だという決定的な理由があるのだ。

「きさまらはもう少し頼りになれば、こんな苦労はせずに済むのだ」
「どういうこったい」
「いいから、さっさと次を探して来い」
「ちっ……」

神楽は忌々しげに奈落を見ると、諦めたように立ち上がった。

「まったく、犬夜叉たちのこともあるってのに…」

わざとらしく後ろ手でぴしゃりと戸を閉めた神楽を見送っていた奈落は、今、女が言った言葉で天命を受けた。

「……そうか」

奈落は「くくく」とのどで笑った。
打ってつけの人材がいるではないか。
今出ていった神楽を呼び戻そうとして気づいた。
神楽や神無では返り討ちに遭う可能性もある。
ここはいちばん、自ら出る。
なに、殺さずとも良いのだから。

*
**
*

楓の村。
すでに夜は明け、日は高い。
珊瑚はずきずき痛む頭を抱えていた。
飲酒自体が初めてなのだから、もちろん二日酔いも初めてである。
ほとんどサシで飲んだ相手のかごめはまだ布団の中で唸っている。
珊瑚はようやく起き上がり、冷たい井戸水で顔を洗うと少しは気分がマシになった。
まだ少々ふらつく脚を励まし、外を歩く。気分晴らしにと、近くの雑木林へ散歩に出たのである。
春先、朝の大気はまだ涼しかった。
まぶしい太陽を見上げると、まだ頭が少しクラクラする。

「…ん?」

その逆光の中、きらりと光った人影が現れると、それが珊瑚の前に音もなく降り立った。
長い黒髪。
物憂いような、それでいて人を斬る鋭さを持った目。
着崩した着流し姿。
見覚えのあるその男は…。

「きさま……奈落!」
「……」

奈落は黙って狒狒の面を外した。
珊瑚はハッとする。

「本物!?」

傀儡ではない。
珊瑚はとっさに手を背にやる。

「…しまった」

飛来骨はない。
本拠地に仲間と滞在しているという安心感、体調不良ということもあった。
そして前日、神楽たちを撃退していたという油断もあり、今、武器はなかった。

「くっ…」

ここは中国の古典的兵法三六番目しかない。
村まで戻れば弥勒たちもいる。
振り返り、走り去ろうとする珊瑚の前に弥勒が瞬間移動する。

「……」

目の前に忽然と出現した奈落に立ちすくむ珊瑚。
体調が優れないこともあり、彼女らしからぬ感情に囚われる。
無言で立ちつくす奈落に、圧倒的な力量の差を感じ、竦んでしまったのである。
少女の怯えを見てとったのか、奈落は薄く笑うとすっと近づき、珊瑚の耳元で囁いた。

「我が城へ来い」
「え……?」

珊瑚が驚く暇もなく、奈落の拳が彼女の鳩尾にめり込んだ。
珊瑚は大きく瞳を見開き、次の瞬間には崩れ落ちた。

「他愛もない……」

奈落は、自分の腕の中で意識を失っている娘を見やった。
色白で、顔かたちの整った女だ。
長い髪もさらさらと触り心地が良い。
しかし、普段着の地味な着物姿のせいか、神楽たちの攻撃を凌ぎ、撃退するような女にはとても見えない。

「ただの村娘にしか見えんな…ん?」

くん、と鼻を動かすと微かに酒薫がする。
なるほど、二日酔いで心身双方がまいっていたということか。
まあいい、好都合には違いない。
奈落は珊瑚を脇に抱えたまま、かき消すように姿をくらました。

自分の城に珊瑚を連れ去った奈落は、寝屋に少女を押し込んだ。
奈落はものも言わず、気を失った美少女を裸に剥き始めた。
これまで幾人もの人間の女を犯してきただけあって、面倒なはずの着物を脱がせるのも手慣れたものだ。
襦袢を剥がした下に、見慣れぬ白い肌着を上下に着けているのを見て不可解な顔をしたが、構わずそれは破り捨てた。

「う……」

珊瑚が眉を寄せて呻く。
そろそろ気がつくようだ。
奈落はおもむろに縄を取り出し、珊瑚の身体に掛けた。
これから奈落がこの少女に仕掛けることを思えば、激しく抵抗するだろうから、その自由を奪うためである。

もうひとつ、珊瑚に被虐と羞恥の味を覚え込ませるためでもあった。
最初から厳しい縛りをしても苦痛ばかりだろうから、今回は基本的なものに留めた。
胸を括り出させるべく、上下を二重に縛り込む。
両腕は後頭部に回して固定し、天井から吊す。
そして股を開かせる形にして脚を膝で縛って、これも天井に引っ掛けた。
珊瑚は、頭に組んだ両手首と両膝を括られた縄で固定されている。
布団の上についているのは尻の先だけ、という不安定な状態である。

「……」

奈落は、改めて拐かしてきた美少女を眺めた。
美しい肌をしていた。
白くて、それでいて透き通るような透明感がある。
白粉などはたいていなそうなのに、けばい神楽に劣らぬほど真っ白い皮膚であった。
触れてみると、すべすべしていて柔らかく、まさに羽二重と言えるだろう。
裸体を彩る真っ赤な縄がよく映えた。
若々しい乳房はまだ固そうだ。
一六歳という年齢を考えれば、これから熟するのだろう。
男に揉まれ、舐められ、愛撫されることを繰り返せば、張りがあり重い弾力のある豊かなふくらみに成長するに違いない。

「……あ…」

あまりに窮屈な姿勢に、珊瑚も息苦しくなって目を覚ました。

「え……ここ……」
「気がついたか?」

男の声に珊瑚がハッとする。
見ると、忘れられぬ男が正面にいた。

「おまえっ……奈落!」
「直に会うのはひさしぶりだな」

奈落が珊瑚とこうして話すのは、珊瑚と琥珀が殺されかけた時、つまり里が全滅した時以来だ。
その後は、神楽や神無、傀儡を使うだけで、奈落自ら襲うことはなかった。

「きさま……琥珀、琥珀はどこだ!」
「そういきり立つな」
「ふざけるな! ちゃんと答えろ!」
「弟のことより自分の心配をしたらどうだ?」
「…なんだと?」

そう言われて珊瑚はようやく自分の状態に気づいた。
息苦しいはずだ、全身をかっちりと縛られていたのだ。
おまけに全裸にされていた。
珊瑚は羞恥と屈辱で顔を真っ赤に染めて、目の前の敵を睨みつけた。

「その格好では迫力に欠けるな」
「き、きさま……どういうつもりだ」
「訊きたいか?」

ずい、と歩み寄る奈落に、珊瑚は女としての恐れを感じて後じさろうとする。
が、拘束されていて、腰をよじるのが精一杯だ。

「俺が言わずとも、すぐにおまえ自身の身体で理解することになるだろう」

奈落はそう言うと、跪き、膝をずって珊瑚に近づいた。

「ま、まさか……」

珊瑚は息を飲んだ。
まさか奈落は自分の身体が目的なのか? 
私を辱める気なのだろうか?

「い、いや……」

珊瑚は怯えた。
闘いで強敵を目前にした時とは根本的に異なる本能的な恐怖感だった。
思わず目を固く閉じ、顔を背ける。
奈落は珊瑚の後ろに回り込み、そのなめらかな背中を抱えるように座り込んだ。
唇を舌で湿して、少女の耳たぶを挟んで軽く捻り、軽く歯を立てて甘噛みした。

「ひっ」

もっと直接的に女の弱点である胸や股間に手を伸ばすものと思っていた珊瑚だったが、予想もしない耳への愛撫に、
固く緊張させていた身体がギクンとする。
それと同時に、奈落の唇が耳たぶに触れた瞬間、身体の奥に何かがジーンと痺れたのを感じた。
珊瑚はその感覚に戸惑う。
彼女の性感帯に刺激を受けた故の反応だが、珊瑚がそれに気づくには、性的に未熟すぎた。
珊瑚の反応を見て、奈落は続けて耳を愛撫した。

「くっ……やめろ、きさま……よせ!」

耳の付け根を舐め、耳全体を食べるように唇にはさみ、耳孔に舌を這わせた。
奈落に嬲られるという嫌悪感のせいか、それらの異様な感触はまだ快感として受け入れられはしなかった。
しかしゆっくりとではあるが確実に珊瑚の性感は掘り起こされていく。
珊瑚は身をよじって奈落の手指から逃れようとするが、もじもじと腰や腿をうねらせるくらいしか出来なかった。

続けて奈落は、後ろから大手を拡げて珊瑚の形の良い乳房を責めた。
大きな掌でふたつのふくらみを押し掴んで、親指と人差し指に力を込めて絞り上げる。
すると、若い娘の充実した固さのある弾力感が奈落の手に広がってくるのだった。

「やめっ! ああ、やめろ、この……ああっ……」

珊瑚が甲高い悲鳴を上げて身を揺するが、後ろから抱え込み、あぐらをかいた膝の上に乗せられては逃げることも出来ない。
奈落は親指と人差し指を巧みに使い、乳輪にめり込んでいた珊瑚の乳首を起き上がらせた。
そしてそれを指先で弾くように嬲ると、薄紅色の乳首がぷくんと膨れて硬くなってくる。
さらにその尖り始めた乳首を二本の指でこりこりとしごいてやると、珊瑚は今度こそはっきりとした性感を感じて、
きゅーんとした電気が全身を貫く。

「くぅっ……ああっ! …よせ……ああ、いやあ!」

珊瑚の反応の良さに気をよくした奈落は、少女の乳房を持ち上げると、思い切り首を曲げてその先を舐め上げた。

「ひぁぁっ!」

珊瑚はのどから悲鳴を絞り出すと、その身体を奈落の上でびくりと飛び跳ねるように震わせた。
珊瑚は自分の反応に唖然とする。
今の今まで、乳房を、そして乳首を舐められることが、こんな鮮烈な感覚だとは知らなかったのである。
そんなことをされたのは生まれて初めてだったし、想像もしなかった。
もちろん聞いた知識としてはあったが、実体験としてはまったく知らなかったのである。
奈落は唇で乳首をはさみ、顔を揺すって嬲る。
心地よいとしか表現出来ない感覚が身体の奥から電撃的にわき上がり、珊瑚は思わず呻く。
奈落が舌で乳首を転がしたり、舌先で突っついてやると、珊瑚は背後の奈落にもたれかかるように仰け反った。

「なんだ、感じてきたのか」
「……」

珊瑚は恥ずかしさで、それこそ全身が火照るように赤くなる。
里のみんなの仇であり、弟を誑かしている憎い敵。
しかも今は自分を辱めようとしている相手によって、自分がどのような感覚を覚えているのかを知覚すると、珊瑚は消
えてしまいたいような羞恥と屈辱に襲われる。

「くく、そんなに感じるのか。敏感なんだな、おまえ」
「く……うるさ、ああっ…」

右の乳房の乳輪をなぞるように舐め、左の胸乳をゆっくりと大きく揉み上げると、
白いふくらみが波打ち、頭を抱えるようにして縛り上げられた両腕がびくびくと引きつるように蠢く。
珊瑚は首筋まで赤くしながら、必死に唇を噛んで、奈落の責めの結果を声に出すまいと堪えている。

「んう……んんっ……く…」

奈落は、少女の乳房が適度な弾力を帯びてくるまで揉みほぐした。
そしてふと珊瑚の股間に目をやると、いつしかそこがじんわりと湿ってきていることを知るのだった。

「あ……」

突然背中の支えとともにねちっこい愛撫の手も止んで、珊瑚はホッとしたような物足りないような声を出した。
そして慌てて奈落の行方を目で追う。
その奈落は珊瑚の正面に回り込み、腹這いになって彼女の股間を覗き込んでいた。

「どっ、どこ見てるのよ!」

珊瑚は嫌がって何とか腿を閉じようとするが、かっちり縛り上げられていて動きがとれない。
もじもじ尻を動かしたが、それでどうなるものでもなかった。
珊瑚は目を閉じると思い切り顔を捻り、奈落から背けた。
かぁっと珊瑚の裸体が赤くなる。
今、奈落の目が珊瑚のどこを見ているのかが痛いほどわかるのだ。
実際、奈落は息がかかるほどに珊瑚の股に顔を寄せていた。

「あっ…」

奈落は、はりつめている太腿の付け根にある鼠渓部を人差し指でなぞってやると、珊瑚はぴくんと身体を震わせた。
さっきまでの耳や乳房を責められた時とはまた違った官能を感じ、軽い悲鳴が口を割る。

「ほう、こんなところも感じるか」
「う、うるさいっ」

ことさら珊瑚を辱めるような言葉をかける奈落に、挑みかかるような視線を浴びせるが、続けて股間を責められると、
途端にくじけてしまうのだった。
じっくり見てみると、やはり珊瑚は濡れていた。奈落はその媚肉の割れ目に淫らな責めを加えていく。

「んんっ……あっ…」

とうとう珊瑚がもっとも恐れていた箇所への攻撃が始まった。
割れ目の両方の襞に指を這わせ上下になぞっていると、ゆっくりとではあるが襞が蠢き開いていく。
そして合わせ目に指の先を置いて、割るように指を震わせると、みるみるうちに花弁が緩んできた。

「あ、いや……ち、ちくしょう! この、やめ……ああっ…」

深い亀裂が徐々に開いていく様子が手に取るようにわかった。
媚肉の襞は、何か別の生き物のように蠢き、珊瑚の意志を裏切って浅ましい欲望を求めているかのようだった。
今度は割れ目の頂点にある肉芽を導き出すと、それを指先でくりくりとしごいてやる。
そこから呼び起こされる激烈な快感に、今度こそ珊瑚ははっきりと喘いでしまう。

「ああっ」

奈落は珊瑚の身体にのしかかるように被さり、唇で首筋や鎖骨、剥き出された腋を舐める。
左手は縄に括り出された豊かな乳房を鷲掴みして揉み上げた。
そして右手は、親指で肉芽をいびり、人差し指全体を使って割れ目の中心にあてがい、なぞり上げた。

「んむっ……んんうっ…」

必死に身体をうねらせ、血が出るほどに唇を噛んで耐えている珊瑚だが、三カ所を同時に責められる官能の疼きには如何ともし難い。
奈落の舌や指が快感のツボを突くたび、顔を仰け反らせ、すべすべした腿を揺さぶってその快楽を逃がそうとする。
恥毛はすっかり露を帯び、責める奈落の右手もそれで濡れ始めてきている。

「どんどん濡れてくるな。おまえそんなにこれが好きなのか」
「くぅ……だ、黙れぇ…この……あううっ…」

珊瑚の、快感と苦悩は、奈落が媚肉を舌で責め始めるとその頂点に達した。

「あああっ……やめっ……うんっ……むむ……」

指でぐりぐりと押し込むように割れ目をいじくっていた奈落は、舌を伸ばして肉芽をひと舐めした。
途端に珊瑚は思い切り仰け反って口を大きく開けて喘いだ。
固くした舌先で蕾をつついたり、弾くように嬲る。
割れ目に潜り込ませるようにして舌でほじくる。
そして舌全体を使って大きく媚肉を上下に舐め上げた。

「あうっ……だめ、いや! …ああ、もういやあ…」

これまでの胸への責めや、陰部への指嬲りなど児戯だったかのような、大きな快楽を覚えた珊瑚は身をよじった。
それまで身体のどこから湧いてくるか知れない快感は、子宮からのものだったことをはっきり知覚した。
乳房を揉まれても、首を舐められても、股間をいじくられても、それが子宮と直結しているかのように、まるで直接子宮を
絞り上げているかのような快感を得ていくのだった。

珊瑚は初めて味わう恍惚の快楽に身を預けていた。
身体中が性感帯になったようで、自分が恐かった。
奈落の指がふくらはぎや脛を軽く触れただけでも、震えるような官能の疼きが、子宮を中心にわき起こる。
何かの拍子に、なめらかな腹部に手が当たっただけだというのに、珊瑚は喘ぐような声を上げてしまっていた。

一方、奈落は捕らえた美少女の感じっぷりに感心していた。
この女こそ、と思って拐かしたのは確かだが、ここまで性感豊かだとは思わなかったのだ。
感じやすい肉芽をつるりと口で吸い上げると、珊瑚はびくっと身体を引きつらせる。
そのまま熱く濡れた舌でねぶり、舌先で優しく愛撫する。
珊瑚の官能が、炎に炙られるように燃え上がった。
子宮がぎゅんぎゅんと収縮しているのがわかる。

(ああ、だめえ! あ、どうにかなる……あそこがとけちゃう…)

そして子宮が収縮するごとに、そこから愛液がわき出すように漏れてくるのも、否応なく感じていた。

(だめ、こんな……やあ、恥ずかしい……)

珊瑚の心臓は爆発するかのように鼓動し、奈落の舌が官能の芯に触れると、豊かな胸を張りつめるように仰け反るのだった。

大きな快楽を得るたびに全身に力を込めてしまうため、珊瑚の体力もすっかり奪われている。
真っ白で、象牙のようになめらかだった肌は汗ばみ、桃色に染まっている。
珊瑚の肢体に性の悦楽が蠢き回り、徐々に激しく暴れ始めているのが手に取るようにわかった。
奈落は、珊瑚の愛液にまみれた顔を上げると少女を見上げた。色責めにすっかり魂を抜かれたかのような顔で、どろどろした
愛欲に溺れているさまが見て取れる。
ぱかっと開かれた珊瑚の股間は、透明な蜜がにじみ出て濡れそぼっている。
露に濡れた淡い恥毛がけぶるようなって、真ん中にある薄紅の花を守っていた。
その花弁は、襞がめくり上がるようにほころび、赤く咲き誇っている。

「……」

無言で立ち上がった奈落は、着流しをはだけ、脱ぎ去った。
その股間の中心には、九十度どころか百二十度ほどにも立ち上がり、硬直した男根がそそり立っていた。

「ひ……」

珊瑚は、そびえ立つ男の象徴に気づくと怯えたような声を出した。
弟の琥珀のものはともかく、大人の男のものを見るのは当然初めてなのだ。
こんなにもたくましく、力強いものなのかと目眩がする思いだった。
あんな大きなもので貫かれたら、自分のあそこは壊れてしまうのではないだろうか…。

奈落は黙って珊瑚にのしかかり、自らの肉棒を指で持ち、入るべき孔を目指した。

「いっ、いやあ! …いや、だめ、お願い……やめてぇ…」

珊瑚の悲鳴など無視して、奈落は腰を落とした。そして花溝に亀頭部をあてがうと、花孔に先をねじ込む。
奈落は腰を突き上げるようにして中に潜り込もうとした。
が、どうしたことかなかなか入らない。

「……」

稀に、凌辱されぬよう女陰に結界をかけている女もいる。
よもや珊瑚がそうなのか。
そう言えば、仲間に法師がいる。
だが、奈落が押し入ろうとすると、珊瑚は本気で嫌がり助けを求めている。

「……まさかおまえ、処女なのか?」
「……」

珊瑚は顔を背け、なるべく奈落の顔を見ないようにして小さくうなずいた。
こいつ、十六にもなって生娘なわけか。
人間の女は遊んでいるのが多いが、珊瑚は無垢らしい。
しかしおぼこ娘は何かと面倒である。
痛がるし、男に溺れるまでに時間もかかる。

「…まあ仕方ない、少々痛かろうが我慢することだ。何度もしているうちに病みつきになるだろう」
「そんな……いやあっ」

奈落は今度こそ、珊瑚の身体を引き裂くように中へ押し入った。
少しずつ少しずつ、奥へと侵入させる。異物を感じ、珊瑚の膣はそれを押しとどめるように締めつけた。

「く……い、痛い……あう、痛いぃ……だめ…ああ、だめっ……」

きつい溝だが、十分に濡れていたせいか、思ったより素直にくわえ込んだ。奈落はなるべく深くまで己の肉棒を捻り込んでやった。

「あうう……痛い……うんっ……ふ、深い…深くて、恐い……」

奈落は根元まで深々と突き刺した。そのまま動くことはせず、じっくりと珊瑚の膣を味わった。
その珊瑚は固く閉じた目から、糸を引くようにひとすじの涙を流していた。

(ごめんなさい、法師さま……こんな……こんなやつに……)

そんな珊瑚の心の動きを知ってか知らずか、奈落は腰を捻って挿入した肉棒を少し回転させる。
抜き差しできるようになるまで、そうして自分の男根に慣らそうというのだ。
だが、そんな僅かな動きでも、珊瑚には頭に突き抜けるような痛みが走る。
乳を揉まれ、肌をさすられ、媚肉を舐められた時のような恍惚感はまったくなく、処女膜を破損した身体の苦痛と心の痛みしかない。

それでも、身を守るための防御反応として、珊瑚の膣からは新たな蜜が滲み出している。
さらに破瓜の血も潤滑油となり、奈落の肉棒を滑らかに動かしている。
奈落は、ほんの少し引き上げると、奥まで突くことを繰り返した。

「あう! …痛い! …あくっ……くあっ…」

よほど痛いのだろう、珊瑚は血が出るくらいに固く手を握りしめている。
自由にならない腕を無理に引っ張ろうとするため、手首を縛っている縄が擦れて、そこが赤くなっていた。
足の指もかがまってぷるぷる震えている。それでも、珊瑚の肉襞は奈落の硬い男根を柔らかく締め上げてくる。
その感触が奈落を高ぶらせた。さっきよりも動きを大きくして珊瑚を突き上げ始める。

「あううっ……んくっ……痛っ……ああっ…」

奈落が思い切り奥まで刺し込んでやると、その先端が珊瑚の子宮を押し上げることになる。

「んああっ」

その初めて味わう痛みと、子宮を圧迫する感覚に怯え、珊瑚は呻き、身悶えた。珊瑚は何とか脚をすぼめようとするが、
膝から吊られていてあまり動かない。
無理にすぼめようとすると、奈落を腿で抱え込むようなことになり、奈落を悦ばせるだけだった。
奈落は尻だけでバランスしている珊瑚の腰を両手で掴むと、自分の腰にぶち当てるように動かした。
それにより、一層深くまで珊瑚の膣に押し入ることが出来た。

苦痛に喘ぐだけでは面白くないと、奈落は手を珊瑚の上半身に回した。
そして挿入のたびにぶるんと震えている豊かなふくらみを両手で掴んで揉みほぐす。
乳首はぴんぴんに屹立しており、弾いてやると、珊瑚は股間の苦痛を忘れるようにびくんと悶えた。
下乳を撫でさすり、やわやわと揉み上げながら、乳首をこりこりと転がす。
かと思うと、両手いっぱいに乳房を掴んで、絞り上げるように揉み込んだ。

「んううっ……あう……あっ……あ、ああ…」

乳房を愛撫される快感と、膣を貫かれる苦痛がないまぜになり、珊瑚の意識は朦朧としてきた。
思い切り突き上げて、激しい挿送をしたいところだが、今はまず珊瑚に性行為のこころよさを覚えさせることが先決だ。
奈落ははやる気持ちを抑えて、ゆっくりと優しく挿入を繰り返した。
もちろん、珊瑚の感じやすい箇所への攻撃も緩めない。
乳房は赤く奈落の手の跡が残るくらいに揉みくちゃにされているし、晒された脇の下には絶えず舌が這っていた。
さきほどそこを舐められた時、珊瑚は異様に感じたように見えたからだ。
奈落が唾液を垂らし、ぬるぬるしたそこをねっとりを舐め上げてやると、珊瑚はもう耐えきれないとばかりに大きく口を
開けて喘いでいた。
そんなところを舐められ、性行為の対象にされるなど思ってもいなかったし、どちらかというと不潔だと思っていただけに、
その快楽を教えられた時の衝撃は大きかった。
そしてさらなる驚きが珊瑚を襲う。

「きゃあ!」
「ほう、女らしい声も出せるではないか」

奈落の濡れた指が、珊瑚の菊座を襲ってきたのである。
人差し指の腹で肛門をこすりつけられるように愛撫されると、珊瑚はのどから悲鳴を絞り出した。

「やめ、やめてっ……そ、そんなとこ……だめっ…ああっ…」

やめてと言いながらも、奈落に肛門をいじられると、珊瑚は思いも寄らぬ快感が走り、子宮を直撃することに気づいた。
奈落は、指先でとんとんと叩くようにしたり、親指と人差し指で肛門の襞をめくり上げるようにねぶったりした。
珊瑚は尻たぶを力を入れて、奈落の手を閉め出そうとするのだが、かえって中に呼び入れる形になってしまうのだった。

「あう、ああう……そこ…いやあ……あ…」

珊瑚の吐息が熱いものに変わってくる。
明らかに珊瑚は肛門で快感を得ていたのだ。
少なくとも今の内は、処女を失ったばかりの膣よりも、菊門の方が感じるようになるかも知れない。
しかし、さすがに奈落の指が中に入り込もうとぐりぐりねじ込む素振りも見せると、慌てたように叫んだ。

「な、なにをっ! だめ、そんなっ……」

珊瑚が激しい拒否反応を示すと、奈落はあっさり手を引いた。
焦ることはない。
尻で感じることがわかっただけでも収穫だ。
前を犯す時、一緒に尻も責めてやれば、さほど苦痛を感じることはないかも知れない。
そして前を十分に覚え込ませたら、次には存分に尻も犯してやればいいのだ。
奈落は珊瑚の腰を両手で抱えると、改めて腰を激しく動かし始める。

「やあああ! 痛い…そんな、激しいっ……つ、強すぎるぅ……あああっ…」
「それ、これが男の味だ。よく覚えておけ」
「やあ……こんなぁ…こんなのって……」

太い肉棒に暴れ回られることで、珊瑚の膣にも蜜が次々と湧き出し、奈落の動きをスムーズにする。
柔らかい襞を傷つけられまいとする防御反応には違いないのだが、一方で確かな快感を感じ始めていることも事実だった。
決して声を上げて泣くまいと歯を食いしばる珊瑚を、奈落は醒めた顔で見ている。
もとより奈落には、人間のような性感はほとんどない。
つまり自分の快楽のために女を犯すということはないのである。
苦痛と屈辱でゆがむ少女の表情を見て、奈落は、まだいかせるのは難しいと判断した。
取りあえず、性交とはこういうものだということを教え込めばいいだろう。
奈落は珊瑚のたおやかな肢体にのしかかり、珊瑚を追い込みにかかった。
腰だけを動かし、最後を迎えようとする。

「ああっ! だめ、そんなの……ああ……」

珊瑚は迫る奈落をよけて顔を背ける。ガクガクと揺らされる腰は、もう自分のものではないようにすら思えた。
奈落は腰だけを猛烈な速度で突き出し、珊瑚の中へ男根を抜き差しする。

「よし、いくぞ」
「え……」

何のことだかわからなかった珊瑚だが、それが射精ということに思い至り、顔を真っ青にして叫んだ。

「だめっ! ああ、それだけは……だめ、だめだったら!」
「……」

奈落は無言で挿送を繰り返す。
激しいピストンに、床についている珊瑚の尻が擦れるほどだ。
責める奈落も額に皺を寄せ、一言呻いた。

「むっ…」
「あああっ!」

のけぞる少女の胎内に熱い男の精が浴びせられた。
珊瑚はその感触を悲しいほどはっきりと感じてしまうのだった。

「やあ……やああ……」

奈落は腰を揺すり、ぴゅっぴゅっと残りの精を余さず珊瑚の膣に注ぎ込んだ。

「ひどい……こんなの……」

必死に堪えていた涙が、珊瑚の陶磁のような白い肌を伝った。


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