夜。
楓の村。
時折、狼の遠吠えが聞こえる以外は静かな夜だった。

ここのところ奈落たちも手出しして来ず、それでいて四魂の玉の欠片も見つからず、言ってみれば
平和な日々が過ぎていた。
囲炉裏を囲むかごめたちも、もうそろそろ寝る時間である。
楓も、半刻ほど前に、寝所へ去っていた。
七宝など、もうかごめの膝の上ですやすや眠っている。
聞くものとてないので、かごめの耳は自然と狼の声に傾けられた。

「……」

よく聞いていると、何だか少し違った声が混じっているような気がする。
なんだろうと思い、珊瑚に訊いてみた。

「ねぇ、珊瑚ちゃん。なんか変わった鳴き声が聞こえない?」
「え……?」

珊瑚はちょっと困ったような顔になって、助けを求めるように弥勒の方を見た。
弥勒は弥勒で、やはり表情の選択に困ったような顔をしてかごめから視線を逸らす。

「なに? どしたの、ふたりとも」
「え? い、いや別に……。ねえ、法師さま」
「は、はあ……」

なんだかおかしい。
こうなると聞かないと気が済まない。

「ねえ、何? 何なの、珊瑚ちゃん」
「べ、別に……、気のせいだよ」
「ありゃ犬夜叉じゃろうが」
「あ、七宝ちゃん、起きてたの?」

そういえば、言われて気づいたが犬夜叉がいない。
七宝が、半分寝ぼけたような声で答えた。

「耳元であんだけしゃべられれば誰だって目が覚めるわい」
「ごめん。でも、あの声って犬夜叉なの?」

珊瑚と弥勒は、「あーあ」という顔をして頭を振っている。
やがて珊瑚の方が、いかにも「仕方がない」という表情で話し始めた。

「……盛ってるんだよ、あいつ」
「さかってるって……?」
「犬とか狼とか、盛りがつくじゃろ? あれじゃ、あれ」
「え……」

戸惑っているかごめに、弥勒が補足した。

「犬夜叉は、野犬の妖怪との半妖ですからね。どうしてもこの時期、盛りがつくんですよ」
「よく知らないけど、犬夜叉の親父さんてのが妖力の強い妖怪だったって話だろ? 半妖でも、
特に妖怪の割合が高けりゃ、それだけ野犬の割合も高いってことだから」

盛りも強くなるということなのだろう。

なるほど、それで犬夜叉がここのところ様子がおかしかった理由がわかった。
ヘンにいらついていたかと思えば、妙に元気のないこともある。
精神的に落ち着いていなかったのはそのせいなのだろう。

思い起こしてみれば、過去にも似たようなことはあった気がする。
あれも盛っていたということなのだろうか。
女であるかごめにはよくわからないが、おそらく生理時の情緒不安定感と似ているのかも知れない。
となると、今の犬夜叉はいても立ってもいられないような不安定さに悩んでいるかも知れぬ。
そう考えるとかごめは何とかしてあげたいと思う。

「どうしたらいいんだろ?」
「え?」
「だって、このままじゃ犬夜叉……」
「放っておきなよ」

珊瑚がかごめから視線を逸らせて言った。

「冷たいようだけど、そうするしかないよ。犬や狼なら当たり前のことだし、人間の男だってそういう
ことはあるらしいけど、自分で何とかしてるんだから」
「でも……」
「いつものことなんだからさ。犬夜叉を信じてそのままにしてあげなよ」
「でも、慰めてあげたりとか……」

「慰める」という言葉がかなり微妙で意味深なので、珊瑚はどぎまぎした。
もちろん、かごめは純粋な意味で「慰める」と言っているに違いないのだろうが。
それでもここは止めるしかない。

「や、やめなよ、かごめちゃん。わ、わかるでしょ、盛ってるって意味……」
「そりゃ……まあ……」

それで弥勒と珊瑚は、敢えてかごめにこのことを言わず、黙っていたのである。
簡単に言えば犬夜叉は発情しているのであり、そんなところへかごめをやるのはお互いに気まずか
ろうと、彼らなりに気づかっていたのだ。

これは珊瑚の想像ではあるが、恐らくかごめは生娘であろう。
悶々としている男の元に、処女が行ってどうなるものでもない。

ふたりのやりとりを見ていた弥勒がぽつりと言った。

「そうですな。かごめさま、犬夜叉のところへ行ってみたらいかがです?」
「な……」

とんでもないことを言うと、珊瑚が驚いたような顔で弥勒を見た。

「なに言ってんの、法師さま。今、犬夜叉は……」
「いいではありませんか」

なぜか弥勒は微笑んでいる。
目をかごめに移すと、蓄髪した坊主はこう言った。

「そんなに犬夜叉が心配であれば行ってみるのもよろしいでしょう」
「弥勒さま……」
「法師さま、そんな無責任な……」
「いいの、珊瑚ちゃん。あたし行く」
「かごめちゃん……」
「そうですか。場所はわかりますか? 村道を抜けたら……」

弥勒から道順を教わり、犬夜叉がいる山を聞いた。
何のことはない、かごめの脚でも徒歩で30分とかからないだろう。
かごめは再び寝入った七宝を起こさぬよう、そっと布団に横たえると立ち上がった。

「わかった。ありがと弥勒さま。じゃ、あたし行ってくる」
「あ、かごめちゃん……」

珊瑚が止めるのも聞かず、かごめは小走りで駆けていった。
走り去る友人を諦めたように見守った後、珊瑚は少しきつい顔つきで弥勒を睨んだ。

「もう、法師さまってば、なんでかごめちゃんにあんなこと言ったの!」
「……」
「犬夜叉の状態、わかってるでしょう? かごめちゃんが行ってどうなるものでもないし、何か間違い
でも起こったらどうすんの」
「……間違い?」

軽く瞑目していた弥勒は、うっすらと目を開けて珊瑚を見た。

「間違いとは?」
「だ、だから……」

そう正面きって言われると戸惑うではないか。
それを見越したように弥勒が言った。

「犬夜叉が劣情に押されて、かごめさまを押し倒すとでも……?」
「……」

弥勒は、犬夜叉はそんなことはしないと信じているということなのだろうか。
もちろん珊瑚だって、基本的には犬夜叉を信じてはいる。
かごめを大事に思っているだろうし、なにぶんにもイイカッコしいの上、照れ屋だから、そうはならな
いとは思う。
だがそれは、あくまでも普通の状態の時である。
今は別だ。

犬夜叉は、野犬本来の強烈な生殖本能に苛まれているのだ。
そこに愛しい女が行ったらタダでは済むまい。
そう珊瑚が言うと、弥勒はさらっと言ってのける。

「だから、それでいいではありませんか」
「どうして……。あ……」

そうか。
弥勒と珊瑚は先日無事に結ばれた。
だからというわけではないが、弥勒は、これを機会に犬夜叉とかごめを結ばせようとしているの
だろう。

かごめも犬夜叉も、双方意地っ張りで奥手である。
この分ではなかなか進展が望めないだろう。
別にそれでもかまわないのだろうが、彼らの間には弥勒たちとは異なる事情がある。
桔梗がいるのだ。

珊瑚と弥勒は、まあ男の側が浮気性なのを除けば相思相愛と言ってよく、しかもライバルはいない。
こういう場合は放って置いてもいい。

しかし犬夜叉たちの関係は桔梗という女の存在でややこしいことになっている。
桔梗が犬夜叉を想うのは仕方ないとしても、犬夜叉の方も桔梗に複雑な感情を抱いている。
これは非常にまずい。
かごめとの関係が滞れば、その隙間に桔梗が入り込んでくる可能性は充分に考えられるのである。
人の色恋沙汰などに横槍を入れる趣味はもちろんないが、心情的にはかごめを応援したい気持ち
なのは当然だ。
男女の一線を越えることで、桔梗に差をつけられるだろう。

「そうか……。それで法師さま……」
「ええ」

弥勒は軽く頷いて言葉を続けた。

「犬夜叉にとって、どちらが良いのかはわかりません。しかし、少なくともかごめさまにとっては……」
「そう……、そうだね」

珊瑚も納得することにした。
一応説明はした。
だからかごめにも意味はわかっているだろう。
彼女とて、もはや子どもではないのだ。
覚悟の上でのことなのだろう。

これは好意のつもりだが、もちろん裏目に出ることもあるだろう。
だが、少なくとも犬夜叉が暴力的にかごめを手込めにすることだけはないはずだ。
逆に追い返す可能性だってある。
また、かごめの方が、いざという段になって拒絶するということもあり得る。
それらが元で、関係が気まずくなることもあろう。

しかし、それで終わってしまうような間柄なら、さっさと別れた方がいい。
弥勒はそう考えている。
この若い僧は、女好きではあるが、なかなか恋愛に発展しなかったのはそういう思考が元にあるの
かも知れぬ。

ふと弥勒が苦笑する。

「なに? どうかした、法師さま」
「いや」

弥勒は薄く笑いながら言った。

「あのふたり、うまく出来ますかね?」
「……」

どう考えても、かごめ、犬夜叉ともに初体験のはずである。
珊瑚たちの場合、弥勒はその道のベテランだし、珊瑚も奈落に強姦された形とはいえ、男は知って
いた。
ところがあのカップルは奥手の上、不器用そうだ。
それを思うと、弥勒は微笑ましい苦笑が出て仕方がない。
その顔を見て珊瑚がプイッと横を向く。

「……いやらしい、法師さま」
「すみません」

謝りながらも喉の奥で笑っている。
ふと珊瑚の方を見ると、白くきめ細やかな肌を晒して首を曲げていた。
ちろっと生臭坊主が欲情する。

「珊瑚、私たちもどうです? かごめさまたちだけいい思いをするというのも……」

そう言いながら、退治屋の娘の尻を撫でた。
身体をぷるぷる震わせて弥勒の痴漢行為を受けていた珊瑚は、くるりと振り向くや弥勒の頬を目が
けて、腰を入れた張り手を思い切り見舞ってやった。
寝ていた七宝が目覚めるほどの派手な音が響く。

「ほんっとにサイテー! 『でりかしー』ないんだからっ!」


* - * - * - * - * - *- * - *


村にほど近い山の中腹にある洞窟の中。
真っ暗で月明かりしか差さないが、犬夜叉の白い躰は夜目に目立つ。
いつもの真っ赤な着物は脱ぎ去っていた。

躰の内部からわき起こる、暗く熱い欲望にいても立っても居られない。
着ている着物すら邪魔に思えるくらいだった。

ゴロゴロと転げ回り、頭を掻きむしる。
傍目で見たら気が触れたかと思うだろう。
気を紛らわせれば何でもいいのだ。
遠吠えもその一環である。

犬や狼どもの盛りの唸り声は雌を呼び寄せるものだが、犬夜叉のそれは気晴らしやストレス発散の
意味合いが強い。
このあたりは人間的である。

それでも、彼はそんな自分が惨めで恥ずかしいと思っていた。
冥加によれば、父は盛りの時でも遠吠えなどせず超然としていたそうである。
まだ自分が未熟だという悔しさと、それでも起こる欲情に責め苛まれる姿を仲間に見られたくなかった。
だからこそ盛りの時期が来ると、ひとりこうして山に籠もり、その期間が過ぎるまでひたすら待つので
ある。

がらっと石が崩れる音がして、犬夜叉は我に返った。
入り口に誰か立っている。

「だ、誰でいっ!」

悶々としていて周囲に気を配る余裕もなかった。
鼻も利かないらしい。
それでも、侵入者に気づかなかった自分に腹が立ち、惨めな姿を見られたと思い、言葉がきつくなる。

「犬夜叉……。あたし」
「かっ、かごめ!?」

暗い中、ぎこちなさそうに白いセーラー服姿の少女が近づいてきた。
犬夜叉は、手元にあったロウソクに火を着け、灯りをとった。

「あ、ありがと」
「……何しに来た」
「何しに、って失礼ね。あんたが心配だから来たんじゃないの」

かごめはそう言うと、手頃な岩を見つけて犬夜叉の前に腰を下ろした。
犬夜叉は少し顔を染めてそっぽを向いた。

「おまえ、俺が今どういう状態なのか知ってんのか?」
「……知ってる。弥勒さまに聞いたし」
「あんのクソ坊主っ」
「ここも弥勒さまに聞いたの。それより犬夜叉」
「な、なんでい」
「どうしてあたしに言ってくれなかったの?」
「どうしてって……。だから、その……」

面と向かってそんなこと言えるわけがない。
顔を背ける犬夜叉に対し、かごめの方はじっと犬夜叉の顔を見ながら話す。

「あたしじゃ役に立てないの……?」
「お、おまえっ! 言ってる意味、わかってんのか!?」
「わかってるわよ」
「……」

今度は犬夜叉の方がかごめを見つめ、かごめが視線を外した。

「わかってるわ。犬夜叉の気持ちも、多分」
「……」
「でも、でもあたし、犬夜叉が苦しんでるなら何とかしてあげたいの。そんな犬夜叉見てるのつらいもの」
「かごめ……」

思わず犬夜叉がかごめの方に手を伸ばしかけたが、慌てて引っ込めた。

「だっ、だめだ、だめだっ!」
「だめ?」
「そんなこと出来ねえ!」
「だって……」

そこで犬夜叉は立ち上がり、かごめの前に仁王立ちになった。
ぶるぶると震える指で少女を差しながら言う。

「おまえ本当にわかってんのかっ!? お、俺は……」
「だからわかってるって言ってんでしょっ」
「おまえはあっっ!」

こうなりゃヤケだ。
犬夜叉は自棄になって白い褌を取り去った。
こんなことをして、かごめに軽蔑されるか嫌われるかと思ったが、これ以上かごめをここに置いたら、
犬夜叉自身が自制する自信がない。

「!」

目の前にさらけ出されたものを見て、かごめは一瞬青ざめ息を飲んだ。
犬夜叉の股間にあったのは、勃起した男根だったのである。

「わかるか、俺はなあ、これをこうして……」

犬夜叉は自分の陰茎を右手で掴むと、ヤケクソのようにしごきだした。
こんなことをかごめの前でするのはいやだった。
イヤだが、何とかかごめを追い出さないと襲いかかってしまいそうなのだ。
例え嫌われようとも、ここはかごめを傷つけるマネなど出来なかった。

しかし犬夜叉の耳に聞こえたのは、かごめの悲鳴や侮蔑の言葉ではなく、優しく包み込むような声
だった。

「……そんな乱暴にしたら壊れちゃうよ」
「!!」

しごいていた右手に、かごめの柔らかい手が触れて、思わず犬夜叉はその手を引いた。

「わ、わわっ」

犬夜叉は腰を引いて叫んだ。
無理もない。
かごめが犬夜叉の肉茎を握ってきたのだ。

「わ、熱……。……なんか真っ赤に腫れてるけどだいじょーぶなの?」
「そういうもんなんだよ」
「へー」

最初は恐る恐るだったかごめも、そのうち興味津々と言った風情で犬夜叉のそれを指で摘んでいた。
それを見た犬夜叉が、恥ずかしいことも忘れて、少々疑わしそうな目つきで言った。

「おめー、もしかしてそういうこと他のやつとしてんのか?」
「んなわけないでしょっ!!」
「いだだだだっ!!」
「あ、ごめん!」

心外なことを言われ激怒したかごめが、手にした犬夜叉のものを握りしめたのである。

「……そんなことあるわけないでしょ」
「……わりい」
「犬夜叉はどうなのよ」

(桔梗とキスしてたのは見ちゃったけど……)

もう忘れるつもりだったが、あのシーンを思い出すと今でも胸の奥が白く灼ける。
そして沈み込みそうな絶望感に囚われるのである。

「……。ねえよ」
「そう……」

それを聞いて思い切りがついた。
かごめは、今度は優しく犬夜叉のものを手にした。
男性自身を手にするなど想像したこともなかった。
恥ずかしいくらいいやらしいはずなのに、淫猥なイメージも羞恥心もなかった。
今はこうすることがもっとも自然に思えたからだ。

とはいえ、どうやっていいのかわからない。
クラスメイトからの情報や耳学問で得ただけの、甚だ曖昧な知識しかないのだ。
でもやるしかない。
やると決めたら度胸が据わるのがこの少女の特徴だ。

「お、おい……うあっ」

何をされるのかと思っていた犬夜叉が呻いた。
かごめが一物に口をつけたのだ。
その恥ずかしさやこそばゆさよりも、かごめがそんなことしてくれたことに対し感動していた。

「ん……、んちゅっ……れろ……」

どうしていいかわからないが、取り敢えずキスするようにしてみる。
遠慮がちに、膨れた亀頭を口に含むと、ほんのわずか舌先を触れさせた。

「うっ……く……」


それだけでも犬夜叉は、得も言われぬ快感を感じている。
自分の手でなく、柔らかな女のでしごかれ、口で愛撫を
受けている。
未熟な行為ではあるが、してくれているのは愛する女性
である。
精神的な歓びが大きかった。

表情や声、そしてさらに膨れてきた男根の感じから、
かごめは犬夜叉が気持ちよがっていることを実感できた。
少しホッとし、また嬉しくもあった。
彼の役に立てている、喜んでもらっているという満足感
は、何事にも代え難かった。

かごめは、竿の中程まで口に入れ、カリの裏の部分に舌
を這わせてみた。
無論、そんな知識はなかったし、犬夜叉にそうしろと言
われたわけもでもない。
本能的に、男の感じやすいところを察知したのかも知れ
ない。

「ふ……んん……んっ……んちゅ……んうう……む……
ちゅっ」
「うう……」

かごめのとろけるような愛撫に、犬夜叉は彼女の頭を掴んだ。
髪をつかんだ指の間から、香しいコンディショナーの匂いが流れ、鼻腔をくすぐる。

だんだんと要領がわかってきたかごめは、舌全体を使って肉棒を包み込むようにしながら、唇の輪で
竿の部分を締めてやる。
そして出し入れし、しごきあげてみた。

「よ、よせ!」

思わず犬夜叉が叫ぶ。
かごめは一端口から出して犬夜叉を見上げた。

「あ、痛かった?」
「……そうじゃねえよ」

我慢しきれず射精してしまいそうになったのである。
まさかかごめの口の中に出すわけにはいかない。

「……」

なんとなく察したかごめは、かまわずまた口にそれを入れた。
今度は全部含んでみようと、喉の奥にまで入れてみる。
大きかったから無理かとも思ったが、先端が喉奥を突っつくほどのところで何とか全部が口中に
収まった。

口で息は出来ないから鼻で呼吸をしてみると、その奥に生臭い匂いがした。
犬夜叉の男根からの精臭であろう。
普通、慣れない女性が嗅げば吐き気を催すほどのものだが、不思議と気にならなかった。
それでも強烈な男性フェロモンには違いない。
牡を意識させる濃厚な臭気に、かごめは軽い目眩すら覚えた。

口に含んだ肉棒をゆっくりと舌でねぶる。
いつのまにか溜まっていた唾液が、くわえた唇の隙間から漏れ出てきた。
初心者のぎこちない動きではあるが、受ける男の方も初体験である。
うまく快楽のツボをとらえることが出来なくとも、その懸命な行為に興奮はいや増すばかりだ。

「う、お、おい、もう……いいって」
「ん、んむ……んちゅ……ちゅば……むふ……ふんっ……」

最後までいかないと逆に欲求不満が溜まると聞いたことがある。
かごめはそのまま愛撫を続けた。

舌の横腹で竿の脇を擦りつける。
そしてそのまま首を前後させて唇の輪でしごいてやった。
すると、犬夜叉も興奮し、自ら動き始めた。
かごめの髪をつかんだまま腰を突き始めたのだ。
喉の奥を突かれまいと、かごめは少し首を引いた。
だが、逆に舌の動きを活発にして犬夜叉を追い込んでいった。

亀頭全体をねぶるように舐め回された半妖は、もう辛抱たまらなくなってきた。
勃起した亀頭の先っちょから腰に向かって痺れるような快感が走り抜けていく。
むず痒いようなこの感覚は、まぎれもなく射精の前兆だ。
腰が痙攣する。

「か、かごめ、本当にもう……、ああっ」

犬夜叉がかごめの顔を押しのけて引き離そうとしたが間一髪遅く、そのまま射精してしまった。

「あっ……」

かごめも思わず右手で避けようとしたが、半妖の精液は大半が顔にかかった。
どろどろとした不快な臭気を放つ粘液のはずだったが、なぜかかごめには気色悪くは感じられなか
った。
その熱さと量に呆然とするだけだった。

かごめの顔に向けて精を放ってしまい、犬夜叉はバツが悪そうに謝った。

「すまねえ……」
「なんで謝るの? いいのよ、別に……。犬夜叉のだもん」
「かごめ……」
「あ、待って」

迫ってきた犬夜叉を手で止めて衣服を脱ぎ始める。
犬夜叉は、何となく見てはいけない気がして、かごめに背を向けた。
射精し終わったというのに、まだ性器は硬いままだ。
これから起こることへの期待と不安で、胸郭がはっきりわかるほどに上下している。
かごめがセーラー服やスカートを脱いでいる音が、やけに耳についた。
それすら興奮のための一要因となり、この半妖をいっそうソワソワさせるのだった。

「もう……いいわよ……」

と、かごめに言われた時には心臓が破裂するかと思った。
待ちかねたように正面を向くと、少女の神々しいばかりの裸身が浮かび上がっていた。
揺らめくロウソクの炎に照らし出された肢体はほの白く、首から上だけが赤く染まっている。
処女の素肌を晒したことが恥ずかしいのだろう。

「お願い……、ロウソク消して」
「あ……ああ」

犬夜叉は火の着いた芯を握りつぶした。まったく熱さなど感じなかった。

闇に目が慣れてくると、かごめの姿がおぼろげに見えてくる。
暗い中でも、胸を左腕で股間を右手で恥ずかしそうに隠していた。
その姿に、何とも言えぬ愛おしさを感じた半妖は、矢も楯もたまらずに少女を抱きしめた。

「あっ」
「かごめ……」
「ん……」

ごく自然に名を呼び、そして唇を重ねた。
互いの唇の先を触れ合わせるだけの、幼い接吻だった。
それでもかごめは安心感を、犬夜叉は和むような心地よさを感じていた。

犬夜叉は、脱いだ自分の着物の上にかごめを優しく横たわらせた。
背に手を回し、また軽く口づけする。
かごめは一切逆らわなかった。
犬夜叉が、かごめの股間を割るように膝を入れる。
そして少女にのしかかり、柔らかくその胸を揉み始めた。

「ああ……」

優しい愛撫にかごめは声が出る。
自分で慰める時とはまるで違った。
熱を持った男の手で、性の急所を揉まれる甘美さに痺れてくる。

弥勒の想像通り、犬夜叉も女を抱くなどというのは初めてのことである。
どうやればいいのかよくわかっていない。
これが強姦なら自分の好きなように、本能の赴くままに滅茶苦茶してやればいいのだろうが、愛す
る女を抱いているのである。
しかも、相手も初めてらしい。
元より考えることの苦手な犬の半妖は開き直った。
やれることをやればいいと思ったのである。

「あっ……ああ……ひっ……ん、ああ……」

今はかごめより犬夜叉の方が冷静だったかも知れない。
かごめは犬夜叉に身を任せているということで感激してしまい、されるがままになっていたからだ。
男の指が肌を這い、乳房を揉んでくるだけでビリビリと頭が痺れてくる。
同時に腰の奥が熱くなり、恥ずかしいくらいに淫蜜が膣から漏れ出ていた。

揉むだけでは能がないと思ったのか、犬夜叉は舌で乳首を舐め始めた。
その感触にかごめが軽く悲鳴を上げる。

「ひっ……あ、ああ、それ……だめ、くすぐっ……ああっ……」

犬夜叉の舌は、人間のそれより犬に近い。
ヒトの舌は表面がざらついているが、犬のものはざらつきがない。
ヒトの舌より厚みはないが、その分長く、また伸縮自在で柔らかかった。
その舌で、犬夜叉は存分にかごめの胸を味わった。

長い舌が乳輪をなぞると、ぞわぞわした感覚がかごめを襲う。
その中心に勃起してきた乳首をねぶられると、ズーンと甘い痺れが全身に響いてきた。
むず痒いような甘い快感が、胸から腰へ到達し、それが背筋を通り抜けて脳髄で炸裂する。
乳房を半妖の唾液でべとべとになるくらいに舐められたあと、少し強めに胸肉を揉み込まれると、
いっそう強い愉悦がかごめを直撃した。

「ああっ……あ、ああう……いっ……」
「き、気持ち……いいのか?」
「くっ……あ、あう……いい…」

かごめの悩ましい声を耳にし、肢体を見ているだけで、犬夜叉の男根は痛いくらいに勃起してきた。
たまらなくなり、かごめの腿を割ると腰を押し当てた。
なにしろ性技を知らないから、胸を揉むくらいしか前戯が出来ないのだ。
それ以上に、上昇し続ける劣情を抑えきれなくなっていた。
さっきよりよほど硬くなった陰茎の矛先を股間にあてがった。

「……ん……と……」
「……」
「……あ、あれ? ……ん……ここか?」

挿入すべき秘孔がわからないらしい。
無理もない話で、経験がないどころか、女性の裸体をまともに見たのもこれが初めてなのだ。
弥勒が見ていたら呆れたろうが、それだけ犬夜叉は今まで我慢してきていたという証拠でもあるのだ。

膣周辺を熱いもので突っつかれているうちに、何だかかごめは少し可笑しくなってきた。
何とか挿入しようと必死になっているであろう犬夜叉を想うと、自然に苦笑混じりの微笑が洩れてくる。
かごめは導いてやることにした。

「ほら」
「あっ……」
「あ」

再び犬夜叉の性器を握ったかごめは少し驚いた。

「さっき出したばっかなのに、もうこんなに大きいんだね」
「……」
「わ、すっごい熱い。それに、なんでこんなに硬いの……。骨でも入ってるみたい」
「そんなとこに骨があるわけねえだろ」

自分のあさましさや淫らな欲求を指摘されたようで、犬夜叉は少々バツが悪い。
だからぶっきらぼうに言った。

「……お、おまえの身体見たらこうなっちまったんだよ」
「犬夜叉……」

かごめは握ったそれを自ら女の裂け目にあてがった。
そして両手を犬夜叉の胸に添えた。
彼が興奮して、いきなりズブリと入れられたら痛いだろうと思ったからだ。
しかし半妖にも、処女膜を破られることの苦痛という知識はあったようで、興奮を抑えながらゆっくりと
かごめの中に分け入ってきた。
少女は苦痛に耐えるべく、ぎゅっとまぶたを閉じ合わせた。

「はっ……く……」

ここで痛みを訴えては悪いという思いが、かごめの唇を固く結ばせる。
咥内愛撫やバストをいじられたこと、そして犬夜叉に抱かれているという事実で、かなり濡れそぼっ
ていたはずの膣だが、やはりまだ固く引き締まっていた。
そこをこじ開けられる苦痛は致し方ない。
経験豊富な男なら、ここで「力を抜け」とか「優しくするから」とか言えるだろうが、当然犬夜叉には
無理だ。
ムリヤリ押し込むのを何とか耐えるというのがせいぜいである。

「あっ……ううんっ……」

堪えているような声しか出さなかったかごめの口から、突如甘い声が洩れた。
挿入をスムーズにしようとして、犬夜叉が自分の肉棒とかごめの淫裂に手をあてがった時、偶然
クリトリスに触れたのである。
そこが女性にとってもっとも鋭敏な性感帯である、などということは彼は知らなかった。
しかし何度か触れてみると、その時だけかごめの感じ方が異なっているのに気づいた。

「かごめ……、おまえ、ここ……いいのか……?」
「……」
「言ってくれ、わからねえんだ、俺は」

首を曲げ、恥ずかしそうに小さくうなずくかごめの顔が犬夜叉の目に映った。
そこをいじるとかごめの膣が蠢き、蜜が溢れてくるのを知ると、犬夜叉は優しく指でいびり始めた。

「ひぁぅっ……あ、ああ……あ、あんまりそこは、ああっ……だ、だめ……いいっ」

かごめが、打って変わって女の反応を示しだしたことで、犬夜叉に少し余裕が生じてきた。
股間の肉芽をいじるのと同時に、胸の肉豆も愛撫してみた。
胸と股間の、性の神経が集中した箇所を同時に責められ、かごめは背中が浮くほどに仰け反った。

「あああっ……い、犬夜叉っ……く、ううんっ……あ、あうっ…」

かごめが愛撫で身も心もそぞろになっている隙を見て、犬夜叉はゆっくりと彼女の中に入り込んで
いった。

かごめは媚肉というより膣にピリピリとした軽く裂けるような痛みを感じていた。
しかし、意識して我慢せずとも、犬夜叉が送り込んでくる快楽でそれらが打ち消されていくのが
わかった。
それでも、犬夜叉のものが中程まで収まってくると、大きな異物の挿入感がいやというほど感じられ
てくる。
その圧迫感と挿入感は、いかに愛する男によるものだとはいえ、恍惚とはとても言えぬ感覚だ。

そのかごめの微妙な表情を読みとったのか、犬夜叉が声をかけてきた。

「痛いのか、かごめ……」
「く、だ、だいじょぶ……だいじょぶだから、このまま……うっ…」

我慢しているのは明白だったが、ここでやめたらかごめの辛抱がムダになる。
太い男のものを差し込まれる苦痛に耐えているのも、それが犬夜叉のものだからだ。
犬夜叉は、華奢なかごめの裸身をそっと抱きしめた。
そしてゆっくりと腰を進める。

暖かく、そして柔らかい摩擦感を肉棒に感じることが出来た。
最初よりずっと押し込むのが楽で、かごめの苦痛も弱まっているように見えた。
ぐぐっと押し込むと、その分だけ中から愛液がじゅぶじゅぶと漏れ出てくる。
ゆっくりと、しかし確実に奥へと進んでいく。

「ああ!」

かごめと犬夜叉の股間がぴたりと密着した時、かごめの喉から甲高い喘ぎがまろびでた。
犬夜叉の肉棒がすべて収まり、かごめの最奥まで届いたのである。
痛いのか、それとも別の感覚があるのか、かごめの腰がときおり小さく痙攣する。

犬夜叉は、自分のものになった愛しい少女の顔を改めて見てみた。
少し眉を寄せ、痛みに耐えているような顔だ。
同時に恥ずかしそうな表情も浮かべている。
それでいて、どこか安心したような、満足したような色もある。

そんな顔を見ていると、かごめという少女がたまらなく愛おしく思えてきた。
犬夜叉は無言で、そのまま口づける。

「む……んん……」

かごめは少しびっくりしたようだったが、そのまま彼の唇を受け入れた。
すると、ウソみたいに肩から力が抜けた。
緊張と痛みで強張っていた身体がほぐれてきた気がする。
そのせいか、身体が膣からまっぷたつに裂かれそうな苦痛がすっと楽になった。
代わりに感じるようになったのは、ビリビリと痺れるような性感だった。

犬夜叉は律動を始めた。
本能の赴くままではなく、ごく優しくである。
それでもかごめにとってはかなりきついはずだった。

「ひっ…あっ…あっ…うんっ…あ…うっ…むんっ…んんっ…あっ…」

          

思ったほど痛みはなかった。
かごめの身体が徐々にわかってきた犬夜叉が、腰を打ち込むと同時に、乳首を摘んだり、クリトリス
を擦ったりしていたからだ。
不慣れな愛撫だったが、優しく心を込め、丹念に胸を揉み、舌で舐め、媚肉をなぶると、かごめの
反応も、まだ淡いが確実に快感に変化してきていた。

「あ、ああ…あ……う、あうっ……ん、んむっ……は、はああっ…あ、そこ……」

ついさっきまで、身体の芯に埋め込まれた太いもので息が詰まりそうだったのに、今では口から
こぼれる喘ぎ声で苦しくなっていた。
犬夜叉が間断のない愛撫を続けてきているため、喘ぐばかりで息を吸うヒマがないのだ。
その喘ぎや呻きも、甘いものだけでなく激しいものも混じってきた。

「んう……ん……んあ……く……ううんっ」

際限なくまろびでる恥ずかしい声に羞恥を感じたのか、かごめは唇を引き結び、喘ぎ声を噛み殺して
耐えていた。
身体の奥からわき起こる快感の高まりに、どこまで耐えられるのか、かごめにも自信はなかった。
恥ずかしがるかごめに、また新たな欲情を感じた犬夜叉は、もっと悩ましい声を絞り出そうと、腰の
動きを大胆にしてみる。

「う、ああっ……あっ……だめ、そんな……ああっ……」

深いところまで入り込み、動きが激しくなった肉棒の威力に、かごめは顔を仰け反らせて喘いだ。
犬夜叉の性器が自分の膣に潜り込み、子宮に届かんばかりに進んでくる。
そんな淫らな光景を想像すると、かごめの口から甘い喘ぎ声が弾むように出てくる。

羞恥よりも快感が優ってきて、息をするのも苦しくなってきたかごめは、今ではもう犬夜叉の動きに
合わせて、ただ身体を揺さぶられ、身悶えるばかりだった。
無垢で純情そうだった顔を苦悶させ、熱い息を吐き続ける切なそうな表情を、犬夜叉は美しいと思った。

「ああ……あんっ……んんっ……はっ……いっ……あうっ……ああっ……」

もう苦痛の色はほとんどなく、犬夜叉の律動にテンポを合わせるような息づかいになっている。
普段からは想像もつかないかごめの姿態に、犬夜叉の興奮も頂点に近づいた。
かごめの方も、だいぶ感じてはいるものの、まだ絶頂に達するというところまではいかないだろう。

しかし、だからと言って、犬夜叉の方に、かごめをいかせてから自分も、という余裕はとてもなかった。
かごめの膣が、徐々にきゅうきゅうと締まってくると、責める半妖の方は責められているかのような
錯覚に陥る。
きつく、それでいて柔らかく暖かい締め付けが、心地よく犬夜叉の肉棒に絡んでくる。
盛りのたびに、自分の手で抜いていた時とはまったく別物の素晴らしい快感だった。

その肉体的性感に加え、目の前では、愛する女がなりふりかまわず身悶えている。
その視覚的な高まりも相まって、犬夜叉はいよいよ追い詰められた。
彼が限界を自覚した瞬間、身体の奥でわき上がった灼熱が腰に集結し、それが一気に男根の先端
に向かって暴走した。

「か、かごめっ、で、出るっ!」
「犬夜叉ぁっ!」
「う、ううっ!」
「ああ!!」

犬夜叉の腰がぶるっと震え、灼熱の塊が一気に放出された。
亀頭から迸り出た熱い精液が、塊のようになってかごめの胎内深くに吐き出された。

「うっ……あ、熱い……出てる……ああ……」

犬夜叉の射精は何度も続き、発作のように肉棒がビクビクして、精をかごめの中に撒き散らした。
そもそも犬の射精は長いらしいが、犬夜叉も少しそれに近いらしい。
人間よりはかなり長めで、3分近くもかごめの中で何度も射精の発作を起こしていた。
その間、出っぱなしというわけではないが、それでも大量の精液が膣内に放出された。

「すごい……なんだかいっぱい出たね……」
「……すまねえ…」
「だからなんで謝るのよ。……いいのよ、あたしがこうなりたかったんだから」
「かごめ……」

犬夜叉はまたかごめに唇を重ねた。なぜそうしたいのか、よくわからなかった。
しかし、ただ性交するよりも、この方が暖かい気持ちになれることはわかった。
かごめも同じだった。
好きな男に抱かれる、セックスするよりも、こうしてキスする、あるいは優しく抱きしめられる方が
愛情を感じられた。

避妊しなかったことを悔いる気持ちもあった。
妊娠したら、現代に戻って母や弟にどう説明していいかわからない。
第一、身籠もってしまったら、もう四魂の玉だの奈落だのと言っていられなくなる。
それでも、犬夜叉の愛の証を胎内に受け止め、その暖かい感触が広がるにつれ、全身で犬夜叉を
感じることが出来たような気がして嬉しくて仕方がなかった。

(……差し引きしたらプラスかな?)

薄く微笑してそんなことを考えていると、犬夜叉がまたのしかかってきた。
膣に収まったままの肉棒にも、また硬さが甦っていた。
盛りがついているくらいだから、一度や二度では終わらないのだろう。
つき合えるだけはつき合ってあげようと、かごめは思った。
その中で、ほんの少しだが、犬夜叉の行為に対する期待もあり、少女の顔を赤く染めるのだった。


* - * - * - * - * - *- * - *


「ん……」

ふと、かごめは目を覚ました。
洞窟の入り口から洩れる光が少し明るい気がする。
月明かりの弱々しいそれでなく、力強い日の光のようだ。

夕べは、あれから二度愛し合った。
かごめにとって、それはまさに「愛し合う」行為であり、肉欲はあまり感じなかった。
こうして犬夜叉と肌を触れ合わせているだけで安心できた。

その犬夜叉は、かごめに背を向ける格好で眠りこけている。
充分に満足出来たようであり、あれから夜鳴きすることもなかった。
その背に手を合わせてみる。
彼の体温が嬉しかった。

かごめは頭の上をまさぐり、自分の服を見つけた。
手探りで腕時計を見つけると、薄明かりに透かして時間を確認する。

「四時……半か」

どういう理由かわからないが、時空の井戸を抜け、戦国の世に来ても時計は狂わないらしく、正しい
時刻を刻んでいる。
そろそろ夜明けのようだ。
珊瑚らが起きる前に帰ろうと思い、犬夜叉を起こさぬようにそっと抜け出し、服を着た。
軽く伸びをして入り口に立つ。
夜明け前の冷気が肌に心地良い。

「あれ?」

森の向こうにちらりと光るものがある。
目を凝らしていると、それはどんどんと遠ざかるようだ。
まだ覚醒しきれない頭でぼんやりと考える。
前にどっかで見たような……。

「あっ……」

思い出した。
ばっちり目が覚めた。
かごめは慌てて犬夜叉の寝床に走った。

「犬夜叉、起きてっ!」
「いだだだだっっ!!」

ピンと立った耳を思い切り引っ張られて半妖が悲鳴を上げた。

「てっ、てめえ、いきなり何しやがる!」
「早く起きなさいよ、行くわよっ!」
「行くってなんだよ。おめえ、またイキたいのかよ」
「ばかっっ!!」

バッチーーン!

かごめが遠慮会釈なく、思い切り犬夜叉の横っ面をしばいた。

「四魂の玉のかけらよ! 欠片を持った誰かが森の中を走ってんの!」
「あんだとっ。それを先に言えってんだよ!」




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