仔猫の変化した『なりそこない』を倒した直後、犬夜叉たちは長の屋敷に居た。
座敷に通された四人の前に、なずながひとり座っている。
弥勒が代表して尋ねた。

「あの『なりそこない』とは何です?」

かごめらを前にして、しばらく目を閉じて俯いていたなずなが、重い口を開いた。

「その前に申し上げておきたいことがございます」
「……」
「私どもは……、人魚です」
「は?」
「人魚?」

いちばん驚いていたのはかごめだ。
大きく目を見開いて口をあんぐり開けている。

「に、にににに人魚ってホントにいるの!?」
「まあね……」

長の前に珊瑚が答えた。

「いることはいるよ。最近はあんまり聞かなくなったけどね」
「ですな。かつては全国の海沿いにいたらしいです。特に若狭や瀬戸内の人魚は有名
ですな」
「へー。あたし、人魚なんておとぎ話だと思ってたー」
「数は随分と減りましたが」

かごめは、失礼だと思いつつも、興味深げな目でなずなを見ている。

「でも、あの、脚があるんですね」
「はい、地上で暮らす時には脚に変化させています」

かごめの様子が微笑ましいと思ったのか、なずなもやや表情を緩めて答えた。

「この村の者はみな人魚なのです」
「人魚の村……、いえ、「人魚の郷」なんですね……」
「はい。私が長で、名を『那津魚』(なずな)と書きます。娘は『莉里魚』(りりな)、
『彌衣魚』(みいな)と書くのです」
「それで女しかいねえのか」

犬夜叉がそう言うと那津魚は軽くうなずいた。

「はい。人魚には女しかおりませんので」
「そうなんですか……。じゃあ、最初、あたしたちを郷に入れてくれなかったのも……」
「ええ。正体を隠していたのも、あなた方が人間だとわかったからです」
「……」

かごめと那津魚のやりとりを聞きながら弥勒が言った。

「ま、無理もありませんな」
「弥勒さま……」
「そうだね、人魚は減っているからね」
「そうなの?」
「その主な原因は人間による乱獲ですしね」

かごめの疑問に、弥勒と珊瑚が答えた。

「乱獲って……。人魚獲ってどうするの?」
「どうするのって……。かごめちゃん、八百比丘尼の話、知らない?」
「え……? やおびくにって何?」
「ご存じありませんか。八百比丘尼というのはですね……」

弥勒が説明をした。

若狭の国(現・福井県)の小浜で、ある網元の網に人魚がかかった。珍しいので、
それをみんなで食べようという話になる。
とはいえ人魚である。
人語を解し、姿も上半身は裸の女、下半身は魚という例のやつだ。
そいつを食べるというのはなかなかに度胸がいるのである。
結局、みんな気味悪がって後込みした。

「それをこっそりと食べた娘がいたのですな」
「娘?」

好奇心旺盛だったその娘は人魚の肉を食した。
特に身体に変調はなかった。
ところが、何年か経って様子がおかしいことに気づく。
歳を取らないのだ。

「歳を取らないって……」
「何年経っても十六歳のまま。それが何十年、何百年と続くわけです」
「そんな……」

やがて親兄弟や友人たちは老い、そして死んでゆく。
なのに自分だけは若い娘のままだ。娘はその土地で暮らしにくくなり、世の無常を儚んで
尼僧となるが、それでも当然、死なない。

やがて旅の尼となり諸国を放浪することになる。
それでも故郷に対する思いは募り、若狭へ戻った比丘尼は庵に籠もって慎ましく暮らしたが、
それでもやはり死ねなかった。
思い余った比丘尼は、後瀬山の洞穴に入り、そこで断食して衰弱死したと伝えられる。

それが八〇〇歳の時であり、八百比丘尼の名前の元にもなっている。
ちなみに、石川県小浜市青井の神明神社には、徳川時代に奉納された八百比丘尼の像が
いくつも残っている。

「……」
「法師さまのお話通り、私たち人魚の肉は人間にとって不老不死の薬になるようです」
「そう。だから欲深い人間たちがね、人魚を散々捕獲したってことなのよ」

不老不死の妙薬というだけではなく、人魚の肉は大層美味で珍重されたらしい。
捕獲された人魚の肉は、それは馬鹿馬鹿しいくらいの高値で裏取引されているのだそうだ。

さらに人間は食用以外でも人魚を利用した。
見せ物である。
幻の珍獣扱いで、見せ物小屋に人魚をひとりでも置けば、押すな押すなの大盛況らしい。
何しろ、猿の上半身と鯉の下半身とムリヤリつなぎ合わせた紛い物の偽人魚もあちこちに
出回っているくらいだから、潜在的な需要は相当なものなのだろう。

かごめに語った弥勒の顔が暗かった。

「そうなんだ……。あたし、人魚なんて、みんなジュゴンとかの見間違いだと思ってから」

ジュゴンは、人間と同じように胸に乳房があり、エラは人間の手のように突出している。
そして尾は魚の尾のように二股に分かれ、顔も人に似ている。
雌が子に授乳している姿などが人間のそれによく似ていたから、それを見間違えたというのが
現代の見解である。
あるいはジュゴンがモデルとなり、人魚伝説が作られたという説もある。

また、こんな話もある。
八重山群島から琉球(現・沖縄県)王へ、また琉球王から清国、九州薩摩の島津家へ貢物として、
ジュゴンの肉が献上されていたという。
ジュゴンの肉は美味で、不老長寿の霊薬とされていた。
これは人魚の肉にまつわる伝説とほぼ同じであり、これが元ネタだと言うのも納得がいく。

人魚伝説は江戸時代にも続き、この頃の話としては、肉が不老不死というのはおとぎ話化していたが、
骨が万病の妙薬とされている。
つまり、人魚の存在は信じられていたところもあるということだ。

もちろん異説もあった。
沖縄ではかつて、ジュゴンとは別に人魚というものの存在が信じられていたようだ。
ジュゴンの肉は食用としていたが、人魚を捕まえると祟られると恐れられていたというのだ。
明らかに別物扱いなのである。

犬夜叉がイライラしたように言った。

「人魚の話はもういいだろ、目の前にいるんだからよ」
「……」
「それよりあれだ。おめえが言った『なりそこない』ってのはいったい何なんだよ」
「あれは……」

那津魚は、頭痛を堪えるような辛そうな顔をした。

「人魚の肉を食べて……不老不死になりそこねた者……です」
「なりそこねたって……」

不老不死の薬である人魚の肉は、それを食すものにとっては劇薬のようなものだ。
効き目は強烈だが、その分、副作用も大きい。
いや、副作用とは違う。
この劇薬が合う者もいれば、合わない者もいるということなのだ。

分子細胞から激変し、DNAも大幅にいじられる。
その凄まじい変化は、もはや人間とは言えぬ者になるのかも知れない。
そして、合う者は不老不死を手に入れることが出来るが、合わぬ者は……。

「急激な変化に肉体や精神が耐えきれず、あのような……」
「化け物になるってのか……」
「はい……。ああなってしまうと、もう元の記憶も知能も失われてしまいます。もはや、生きるための
欲求、凄まじいばかりの食欲に支配されて、本能のまま行動するのみです」
「でもあれは……、あれは人じゃなくて、あたしたちが連れてきた猫……」
「私たちの肉を食べれば同じことです。猫であれば、死なない猫になるか、あるいは……」
「なりそこないになるか、ですか……」

そこで珊瑚が基本的な疑問を呈した。

「でも……」
「?」
「でも、じゃあ、あの猫は人魚の肉を食べたってことなの?」
「そうなります」
「おかしいわ、そんなの。ならあの仔猫は生きているあなたたち……人魚を囓ったとでも言うの?」

そう言えばそうだ。
確かにあの猫は夕べから姿が見えなかった。
どこに行っていたかはわからない。
しかし、餌として人魚の肉を食べなければこんなことにはなっていないはずである。

「わかりません……。ここ百年ほど死んだ者はおりませんし、死んだ場合は火葬にしてしまいますので、
肉は残らないはずです」
「そうですか……」

しばらく考えていた那津魚が断を下した。

「わかりました。調べてみましょう」
「調べるって何を?」
「猫が人魚の肉を食べたのであれば、それは村の誰かが死んだ肉のはずです。みんながいるかどうか
確かめれば……」

そうすべきだろう。
村にとっても、村人が変死したのであれば問題だろうし、それが人魚であれば余計にそうだ。
人知れず死んでいた人魚の肉を猫が食べたのだとすれば、他の動物も間違って食べかねない。
郷の中で死んだのであれば人間が食べる可能性は少ないだろうが、それを確認するためにも早めに
発見しないとまずいだろう。

「広場へまいりましょう。そこで半鐘を鳴らしてみんなを集めます」
「それがよろしいですな」

那津魚に続いて、犬夜叉たちも立ち上がり、縁側を降りた。
珊瑚だけが、まだ部屋に残ってウロウロしている。

「どうかした? 珊瑚ちゃん」
「あ、うん。雲母が……」
「いないの?」

そう言えば、なりそこないの側で見て以来、雲母を見ていない。
あの時は夢中だったから、さして関心を払ってもいなかった。
そうでなくとも、雲母も妖怪だから危険はないだろうという判断もある。

しかし、こうしていなくなると心配だ。
白猫の例もある。
もしかしたら村のどこかに人魚の肉片でも落ちているのかも知れない。
あの猫もそれでなりそこないになったのだとしたら、雲母もうっかり食べてしまう可能性はあるだろう。

「一緒に探そ」
「あ、いいよ。かごめちゃん、先に行ってて」
「でも……」
「心配ないよ、家の中だもん。どうしてもいなければ、その時は言うから一緒に探して。ね?」
「わかった」

心配そうなかごめを笑顔で送り出すと、珊瑚は屋敷の中を探した。
広い家である。
部屋もいくつあるかわからぬ。

「雲母。雲母」

珊瑚は雲母を呼ぶ。
近くにいれば、鳴いて近寄ってくるはずである。
それが、どの部屋に行ってもいない。
これは外にいるのかなと思い始めた矢先、突然うしろから声を掛けられた。

「あの猫をお探しか」
「わ、莉里魚ちゃん」

びっくりした。
驚いて振り返ると、莉里魚だった。
少々目つきが悪いところを判断材料にしているが、当たっていたようだ。

「あなた、雲母を見たの?」
「うむ。よくわからんが、ふらふらして具合が悪そうだった」
「え……」
「ここには猫などおらんから、どう手当してよいかわからなかった。だから、そのまま寝かせておる」
「そうなんだ、ありがとう。どこ?」
「こっちじゃ」

そう言って先導して歩く莉里魚の後を珊瑚は追った。
このくらいの子どもなら、とことこと足音を立てて歩きそうなものだが、莉里魚はしずしずと
進んでいる。
人魚だからか育ちがいいからなのかわからない。

黒光りする廊下をかなり歩くと、大きな階段があった。
これを昇るのかと思っていたら、少女が止まってこちらを振り向いた。

「ここ?」
「もうすぐじゃ。そなた、先に行っててくれるか」
「先にって……。あたし、場所知らないわ」
「なに、平気じゃ。それ」
「え? きゃああああっっ!!」

莉里魚が天井から下がった縄を引くと、珊瑚のいた廊下の床が抜けた。
珊瑚は悲鳴を残して、深い奈落の底へ落ちていった。

* - * - * - * - * - * - * - *

かごめと弥勒、そして犬夜叉たちが広場で待っていると、那津魚が半鐘を鳴らした。
カンカンと小気味良い音が響くと、三々五々と村人たちが集まってきた。

じっと観察していると、見事なくらいに年齢層が別れているようだ。
上は六〇代くらいの老婆、中が那津魚や鮎奈たちのような二〇〜三〇代、そしてあとは莉里魚
くらいの一〇代前半である。
それ以外、つまり四〇〜五〇代や十歳以下の幼児はいないのだ。
もちろん見た目より老けていたり若かったりする例はあるだろうが、この郷には当てはまらない
気がする。
なにしろ、どの顔も似通っているのである。
老け顔も若作りもないように見えた。

村人の女性たちが集まるのを見て、奈津魚は半鐘の木槌を持ったまま立ち台に登った。

「皆の衆、突然に集めて申し訳ありません」
「……」

かごめが犬夜叉に小声で話し掛けた。

「ね、なんかヘンじゃない?」
「ああ。こいつら何考えてんのかわかんねえ」
「表情がないんですな。いくら美人でもこう愛想が悪いと……」

軽口を叩く弥勒を軽蔑した目で見て、話を戻した。

「顔つきが虚ろだよね。生きてんのかな、ホントに」
「妖怪だってのか」
「おまえ、何か感じますか?」
「いや。まあ人魚だって妖怪だろうけど、悪意は感じねえよ。妖怪が死人の身体を乗っ取ってる
わけでもねえ」
「人魚ってこういうもんなのかな」
「そんなことはないと思いますが」

かごめたちのお喋りを咎めもせず、長は村人に言った。

「さきほどのなりそこないですが、この方たちが連れてきた猫だとわかりました」
「……」

返事はない。

「つまり、昨日から今日にかけての間に、私たちの肉を食べたとしか思えないのです」
「……」
「今日、今の時点でこの場にいない者はおりますか? 心当たりのある者はいませんか?」
「……」

長に問いかけられて、ようやく女たちはぼそぼと周囲と話し始めた。
すぐに若い女が挙手して発言する。

「那津魚さま、そう言えば昨夜遅くから鮎奈が見あたりませぬ」
「鮎奈?」
「はい。昨夜、灯りを消す前に厠へ立ったところは見ておりますが、それから後は……」
「戻ってないのですね」
「はい」

かごめがまた不審そうに犬夜叉に言う。

「夜、外に出て戻って来なかったら、探さない? 普通」

この時代、トイレは母屋とは別にあるのが普通である。
家の中にあるというのは、かなりの大家であるとか寺院くらいだ。

「どうでもいいんだろ」
「そんな……」
「やつらのツラ見てみろ。仲間がいなくなったって全然気にしてねえって顔じゃねえか」
「うむ。でまた、そのことについては那津魚さまも何も言いませんな」
「……」

どうなってるのだ、この村は。
かごめは気味が悪くなってきた。
辺りをキョロキョロしていた弥勒が、かごめの肩を軽く叩いた。

「なに?」
「珊瑚はどうしました?」
「あ、うん、なんか雲母が今朝からいないでしょ。家ん中を探してから来るって」
「そうですか……」
「気になる? ……でも、確かに遅いよね……、気になるな」

* - * - * - * - * - *- * - *

珊瑚は泳いでいた。
長の家の中から隠し穴で落とされた時は「死ぬか」と思ったが、幸い下は水場だったので助かった。
それくらい高くから落とされたのだ。
落ちてきた珊瑚が随分と深くまで潜ってしまったのに、底に足が着かなかったところを見ると、
張っていた水もかなりの深さがあるらしい。

「……どこだろ、ここ」

珊瑚は抜き手で泳ぎながら口に出した。
川や沼に棲息する妖物の相手もする退治屋の珊瑚としては、忍者の泳ぎである古えの泳法も
身につけている。
水しぶきや水音を立てず、顔を水面に出したまま泳げるのだ。

それにしても、着物を脱いで戦闘服でいて助かった。
着物のままだったら、いかに珊瑚といえども危なかったかも知れない。
水をたっぷり含んだ着物の重さではとても泳げないし、身体にまとわりついてうまく脱げなかったろう。

暗さに目が慣れてくると、周囲の様子が見えてくる。
上は見えぬが、周辺はゴツゴツした岩場のようである。
しばらく泳ぐと、突然、足が地に着いた。
浅瀬に来たらしい。

「……」

足の裏の感触だと、どうも平らのようだ。
壁は荒い岩場だが、底は同じ岩でもなめしたように平たい。

水の高さが首から胸、腰、そして腿、ふくらはぎの高さになるまで間もなかった。
じゃぶじゃぶと水音を立てながら岸に向かって歩いていると、ぼんやりと光が見えた。
珊瑚は脚を早めて水から上がった。
待っていたのは少女だった。

「無事のようだな」
「あ、あんた……、なんでこんなことしたの……って、あれ」
「……」

よく見ると莉里魚ではなく、妹の彌衣魚らしい。
双子ということで、何から何までそっくりだが、心持ち、妹の方が目つきが柔らかい。
姉の方は目つきがきついだけでなく、挑戦的な色すらあった。

「妹の方ね。あたし、あんたのおねーさんに落っことされたのよ」
「……わかっている」
「じゃ、あんたもグルなの!?」
「詳しい話は姉者に訊け」

彌衣魚はそう言うと、くるりと背を向けて歩き出した。

「こ、こら、待ちなさいよ!」
「……」

妹は無言で、しかし珊瑚を促すように歩いている。
脱出の方法もわからないし、こうなったらついて行って、姉の方に訊くしかない。

珊瑚の身長では、身を屈めて行くしかない鍾乳洞のような道を進むと、すぐにまた広間に出た。
そこは岩場のあちこちに燭台が設置されており、内部を明るく照らしていた。
よく見ると、珊瑚たちが入ってきた穴の反対側にも大きな穴がある。
どこにつながっているのかはわからないが、あれも通り道のようだ。
さらに、右にも左にも洞窟がある。
その広場の中央あたりに莉里魚がいた。

「姉者」
「うむ、ご苦労」
「なに? ……どういうことなの」

珊瑚が姉に問うものの、ふたりは無視して会話している。

「姉者、本当にやるのか」
「当然じゃ。何を今さら」
「しかし、このようなこと母者が……」
「構わぬ。母者……主上が厭うておる以上、我らでやるしかあるまい」
「でも……」

妹の視線が珊瑚に行った。

「……怖じ気づいたか、彌衣魚」
「この者どもは……、確かに人間だが、悪い者ではない」
「何を言う! ヒトはヒトじゃ。我らが大人しくしておれば、力もないくせに我らを狩り、
他の動物たちも殺し、世を支配した気になっておる」
「……」
「もうよい、彌衣魚。ここからはわらわがやる。一刻ほどしたらもうひとりを連れてくるがいい。
それまでには仕上げておく」
「でも姉者、あれは……」
「心配するな。あれはヒトではない、殺しはせぬ」
「……」

妹は沈黙し、もう一度珊瑚を見ると、諦めたように広間から退出した。
訳のわからない会話を聞かされていたキョトンとしていた珊瑚は気を取り直し、目の前の少女に言った。

「こ、これはどういうことなの? あたしに何の用なのよ!? 雲母は、雲母はどこ!?」
「……そういっぺんに訊くな、おいおいわかる」
「……」

莉里魚は、まくしたてる珊瑚を一蹴すると、珊瑚たちが入ってきた穴の左側にある洞穴に向かった。
薄暗いが、そこは鉄格子がされているようだ。
莉里魚がロウソクをかざすと、その足元を照らすと小さなカゴが見える。

「あっ、雲母っ」

カゴ……というより檻だった。
竹串か何かで出来た、少し大きめの虫籠のような檻だ。
その中で雲母がうずくまっていた。
そんなカゴなど、雲母が変化すれば簡単に破壊できるだろうが、なぜか仔猫のままだ。
よく見るとグッタリしている。

「おまえ、雲母に何をした!」
「少々「人魚の毒」を盛った」
「ど、毒……」
「大事ない。この猫はこれでも化け猫と聞いた。妖かしならこの程度の毒素、どうということはないわ」
「……」

この少女が何を考えているのか、珊瑚にはわからない。
雲母を餌に自分をおびき出したというのはわかるが、それが何を意味しているのかわからないのだ。

「……雲母を返して」
「よいとも」

意外にも莉里魚は素直に言った。
しかし、その目は珊瑚を下から睨め付けるような視線だった。

「ほんの少し、わらわの申すことを聞いてくれるならな」
「……どうすればいいの」
「なに、簡単なことじゃ。服を脱いで、そこに寝てくれ」
「な……」

珊瑚は大きな瞳を見開いた。
なぜ裸にならねばならないのか。

「じょ、冗談じゃないわ!」
「ほう、そうか。なら」
「あっ」

珊瑚の回答を予測していたようで、莉里魚は慌てずカゴを片手で持った。
そして、おもむろに洞穴の鉄格子を蹴飛ばした。
子ども用の小さな下駄は、金属製の囲いからガンと大きな音を響かせた。
すると、それに合わせたように、地の底から響くような唸り声が聞こえ、鉄格子の向こうに
いくつもの影が現れた。

「ああっ!」

『なりそこない』だ。

夥しい数のなりそこないが群れている。
鉄格子を掴んで「ここから出せ」とばかりに暴れていた。
莉里魚が灯りをかざすとカゴの雲母が浮いて見える。
それに気づいたのか、なりそこないどもは、ガチガチと歯をむき出して涎を垂らし、一斉に
雲母の方を見て騒ぎ出した。

「それ」

莉里魚がカゴを差し出すと、なりそこないたちは格子の隙間から指を伸ばし、雲母を捕食
しようとする。

「やめてっっ!」

珊瑚の悲鳴を聞くと、莉里魚は無表情で言った。

「やめて欲しくば、どうすればいいかわかっておろう」
「……」

珊瑚は唇を噛んで人魚の少女を睨みつけていたが、観念したのか、ゆっくりと戦闘服に手を
かけ始めた。
莉里魚は黙ってその様子を見つめていた。

焦げ茶の戦闘服の下から現れたのは、闇にも浮かぶ白い肉体だった。
身体に密着する戦闘服からもうかがえた女らしい肢体は、締まるところは締まり、要所要所には
しっかり肉がついていた。
見慣れぬ白い下着も脱ぎ捨てると、文字通りの生まれたままの姿になった珊瑚がいた。
少女の莉里魚から見ても魅惑的な女性だった。

「ぬ、脱いだわよ」
「そこに寝ろ」
「……」

人魚の少女が指差したのは平たい岩盤だった。
大理石や御影石のように磨き上げられたそこは、高さ三尺ほど、長さ七尺、幅が三尺ほどの
大きさだった。
珊瑚は知らなかったが、洋風寝台であるベッドによく似た造りになっている。

「つ、冷た……」

そこに腰を下ろした珊瑚は小さく言った。
石に直接尻をつけているのだから当然だろう。
しかし莉里魚は石にも増して冷たい視線で珊瑚を見ている。

「……」

仕方なく珊瑚はそのまま仰向けに寝そべった。
右手で股間を、左手で胸を隠している。
見ているのは同性の少女とは言え、裸身を観察される恥ずかしさは同じだ。

「手で足首をつかめ」
「え……」
「聞こえぬのか、手でそれぞれの足首をつかめと言っている」

右手で右脚を、左手で左脚を持てと言う。
身体を隠すなということらしい。
しなやかな腕を、すらりとした脚に伸ばす。
小さな手が締まった足首を掴むとイヤでも股が開く。

「手を離すな!」

莉里魚はそう命令すると、どこにそんなものがあったのか、上から伸びていた縄で手首と
足首を縛り上げてしまった。
天井から二本の縄で吊されたような格好になり、珊瑚は僅かに身体をよじるくらいしか
動けなくなった。

「こっ、こんなの……」
「いい格好じゃな。いやらしい人間にふさわしい」
「いやっ!」

パカッと股間が開き、女として隠しておきたいすべてが晒されている。
羞恥と屈辱で珊瑚の顔は染まり、裸身は震える。

見ると、少女は珊瑚の股間をじっくりと観察しているようだ。
ここで珊瑚はハッと思う。
まさか自分を凌辱しようとしているのだろうか。
しかし相手は野卑な男ではなく、まだ破瓜にもならぬであろう少女だ。
性への関心くらいはあるやも知れぬが、それにしても女を犯そうなどとは普通思うまい。
しかし、だとすると、少女のこの訳のわからない行動は何を意味するのだろうか。

「……」

珊瑚が不安げに莉里魚を見ていると、少女はあれこれ道具を用意していた。
大きなたらいに手桶がふたつほど。
竹筒も何本かあるが、水筒に使えるほどの大きさのものと、一寸あるかないかくらいのものも
あった。

「きゃあああっ、な、なにを……」

何をするのかと身構えていると、少女はとんでもないことをした。
女の秘密ではなく、その下にある小さな穴に手を伸ばしてきたのだ。

「あ、あんたどこ触って……ああっ!」

珊瑚の悲鳴を聞き流し、莉里魚は彼女の肛門をゆるゆると揉み始めた。
親指と人差し指、そして中指の三本の指の腹を使ってこねるように揉んだ。
それだけでも、だんだんと珊瑚の肛門は緩くなっていく。
たまらず珊瑚は、括約筋を引き締めて固く窄めようとした。
人魚の少女は、焦ることなくじっくりと揉みほぐしていった。

「あ……あ……、あ、いや……や、やめなさ、あっ……」

身体をよじり、腰を捻ってこらえようとするが、どうしても声が洩れる。
徐々に身体の奥から熱が起こり、すぼめた菊門が柔らかくなっていくのを感じて呻いた。
むず痒く、それでいて寒気のするような行為に、珊瑚は頭がクラクラする。

珊瑚の脳裏に、おぞましい記憶が甦る。
奈落に囚われて胎内に傀儡を仕込まれた時、散々肛門を嬲りものにされた。
きたない、あさましいと思いながらも、その妖しい快感に抗えず、最後には尻穴から
もたらされる快楽に没してしまった。
何度も剛直で肛門を貫かれ、腸内に射精され、絶頂に達し、肛悦の歓喜に涙を流した。
身体の傀儡を退治され、弥勒と結ばれた以後も、肛門性交まではなかったが何度となく
菊座を愛撫され、気もそぞろになるほどの快美感を味わっていたのだ。
莉里魚の加える愛撫がそのことを思い起こさせ、珊瑚を戸惑わせる。

「あ、あ……いや……、え? ひゃあっ」

指で揉み込まれ、熱くなってきた肛門に突如冷たいものを塗り込まれ、その異様な感触に
思わず悲鳴が出た。

「な、なにそれ……やっ、そんなの塗らないで!」
「心配するな、毒などではない」
「い、いやっ!」

その、ぬるぬると言うよりねとねとした触感の液体の主成分は植物だった。
トロロアオイの根から分泌された汁に、山芋をすり下ろしたものを混ぜ込んだものだ。
固く閉ざされた菊門を柔らかくとろかすために作った代物である。

「ん……んん……は……や……いやよ……あ、は……」

肛門へ盛んに塗り込まれるうち、珊瑚の声が少し変わってきた。
とろけ出してきたのだろう。
よく見てみると、肛門の上にある媚肉もやや開き始め、じんわりと濡れてきていた。
さらにその上にある敏感な突起も、包皮からちょこんと頭を覗かせ始めていた。
しかし莉里魚の方は、尻を責めるのに夢中でそれに気づいていないのが、珊瑚にとっては
幸いだった。

「ふん、これくらいでいいか」
「あ……はあ……はあ……」

おぞましい責めが終わり、珊瑚は弛緩した。
そこへいきなり指を突っ込まれた。

「うあっ……い、痛いわよ、やめな……きゃっ……あ、いやあ……」

少女の細い指とはいえ、排泄器官に入れられたら痛いに決まっている。
奈落に何度も肛門性交されたが、あれ以来やったことはない。
そこへ入れられたのだから違和感は大きかった。

「そ、そんなこと、やめなさいっ……ゆ、指、抜いて、あひっ……」

莉里魚は、ただ指を入れただけでなく、根元まで沈め込み、ぐりぐりと回転させることも
やった。
かなり締まりはいいようだが、塗った粘液のおかげか、肛門自体は傷ついたり裂けたりした
様子はない。
莉里魚はしばらく人差し指で責めていたが、珊瑚が慣れてきたと見るや、今度は穴を拡げる
ようにぐるぐると円を描きだした。

「うっ、ああっ……そ、そんな……あっ……痛いっ……く……」
「ウソを申すな。ほれ、こんなに広がっておる」
「いはあああっ……」

人魚の少女は、より大胆に指を回し始めた。
大きくぐるぐると回転させると、指と肛門の間に隙間が出来るほどになっている。
無論、ここまでされては、いかに珊瑚の菊門が柔軟性に富んでいるとしても苦痛を感じるに
決まっている。
裂けてしまっては意味がないので、莉里魚もその辺は考えていた。
珊瑚の表情や仕草を見て、限界に近いと思ったら円の大きさをやや縮め、肛門周辺に潤滑液を
垂らすのだ。
こうして再度緩くなってきたら、また徐々に拡げていく。
それを丁寧に繰り返していった。
だんだんと尻の穴を拡げられる感覚に慣れてくる自分が恐ろしくなり、珊瑚は腰をうねらせて
逃げようとする。

「いや……あ、ああ……も、もう、いや……あ……」

それでも、敏感な珊瑚の性は、この悪辣な責めに順応してきてしまう。
指を大きく動かされるごとに、ピリピリとした痛みが走っていたのに、今ではそれが疼くような
痺れに取って代わられている。

「やめ……ああ、やめて……どうして、ああっ……どうして、こんなことを……」
「こうしておかんと、後でそなたが痛い思いをすることになるぞ」
「なにを……」

する気なのかわからない。
排泄器官を拡げることに、どんな意味があるというのか。

それからも莉里魚は念入りに珊瑚の尻を責め、すでに半刻以上も続けていた。
もう珊瑚は、年端も行かぬ少女に責められているという状況も忘れ、尻を責め抜かれる快楽に
酔っていた。
いじられているのは肛門だけだというのに、膣からは愛液が零れ、媚肉はべとべと状態である。
しかし、責める莉里魚の方は、そのことすら気づかぬほどに肛門責めに熱中していた。

「あう! ……あ、はあ……はあ……はあ……」

もう二本の指を楽々飲み込むほどにほぐされていた肛門から、莉里魚がいきなり人差し指と
中指を抜くと、その衝撃で珊瑚はギクンと背を反らせた。
気をやるところまではいかなかったが、全身が軽く痺れている。

「頃合いじゃな」

莉里魚は、珊瑚の腸液でぬらつき、湯気すら立てている自分の指と、開いたまま、まだ閉じ
切れていない珊瑚の肛門を交互に見て言った。
手桶に入っていた細い方の竹筒を左手に取り、太い方を右手で掴んだ。
そして太い方を細い方に傾けて中から液体を移している。
太い竹筒は本当に水筒だったようである。
中から、白くやや粘り気のある汁が細い方へ注がれた。
充分注がれると、莉里魚は珊瑚に近づき、汗にまみれた尻たぶを撫でるように触れた。

「あ、ああ……、な、なにを……」

尻を触られる感触にびくりとなり、珊瑚は虚ろな目を開けて人魚の娘を見た。

「なに、腹の中を掃除するだけじゃ」
「え……きゃああああっ!」

何のことだかわからないと思った時、莉里魚が珊瑚の菊門に竹筒を抉り込んだ。
急な暴虐に、珊瑚は甲高い悲鳴を上げた。
いかに指と粘液でほぐしたとはいえ、いきなりは無理だと判断した莉里魚は、竹筒の先端を
ぐりぐりとゆっくり肛門の中に押し込んだ。

竹筒の先端はなるべく細く削ってある。
その上、丁寧に鉋がけし、ヤスリもかかって滑らかにしてあった。
そこに例の粘液を垂らして滑りやすくもしてある。
いい加減柔らかくなっていた珊瑚の肛門は、その筒の先をぬっぽりと飲み込んでしまった。

「あううっ!」

先が中に入った瞬間、裂けるような痛みが走ったが、莉里魚が慎重に行なったこともあり、
血が出るようなことはなかった。

「やめて……そんなこと、や……あっ、痛……ぬ、抜いてぇ……」

莉里魚が押し込むごとに、珊瑚は全身に鳥肌を立てて呻いた。
莉里魚は、少しずつ押し込んでは戻し、また押し込むことを繰り返した。
そうして竹筒を半分ほども飲み込ませると、今度は回転させて肛門をいびった。
いびるというよりは馴染ませていた。

「あう……あうう……いやあ……あはっ……ううんっ……」

珊瑚の肛門が、ほとんど抵抗なく筒を飲み込むようになると、莉里魚は軽く息を吸った。
そして、おもむろにその上端を口にすると、思い切り息を吹き込んだのである。

「あひっ……」

珊瑚は、肛門というより腸内に直接響くズーンとした刺激に全身を仰け反らせた。
これはただ息を吹き込まれただけではない。
何かを注ぎ込まれたのだ。

「きついか? これがそなたの腹の中を綺麗にしてくれるものじゃ」

つまりこれは原始的な浣腸らしい。
竹筒を節のところで切り離し、上端の節は抜いて、下の節には小さな穴を開ける。
中に溶液を入れて、その筒を尻の穴に突っ込み、上から息を吹き込めば、腸内に浣腸液が
注ぎ込まれるという寸法である。

「ああっ、う、うむ……なんで、そんなことを……あううっ」
「わからんか? 糞出しは人間どももやるだろうが」

魚のように小さな獲物や内臓を捨てる場合は別だが、大型の動物、それも内臓も食べる
ような場合はあらかじめ腸内に溜まった排泄物を取り除く。
言ってみれば、貝やカニを塩水に浸けて砂を吐かせるのも同じである。

「ふ、糞出しって……むむぅっ……あ、うんっ……そ、それじゃ、あたしを……ああっ」
「ふふ、そうじゃ。わらわはそなたを食す」
「そ、そんな……ああっ……」

それきり莉里魚は喋らず、珊瑚の腹の中に溶液を注ぎ込むことに専念した。
どんな成分なのか、ほんの僅か入れられただけでも腹がきりきりと渋りだした。
腸に汁を注ぎ込まれるおぞましさは何と言ったらいいのか。
腸内の襞に溶液が吹きかけられると、それこそ腑がねじ切れるような苦痛に襲われた。
同時に、身体が爆発するのではないかと思われるほどの圧迫感が迫ってくる。
そして、その後に襲ってくる便意に珊瑚は脂汗を流し、呻いた。

「ううっ……ううむ……だ、だめ、入れないで……あむむ……あ、は、入って……くる……
ああうっ……うんっ……」

珊瑚は、何とか溶液が入ってこないよう力んでみたがだめだった。
逆に、肛門に収まっている筒の太さを思い知らされるだけだった。

しかも注入は一度で終わらなかった。
筒の中を全部注ぐと、莉里魚は筒を珊瑚の尻に突っ込んだまま、新たに溶液を入れて、
また息を吹き込んだ。
それを三度も繰り返されると、もう珊瑚の便意は辛抱しきれないくらいになった。

「だめ……もう、だめ……い、入れないで……これ以上はもう……ううむ……」
「もう出そうなのか?」
「いやあああああ……」

そんなことを口に出来るはずもない。
しかし生理の欲求は容赦なく珊瑚を追い詰めていく。

「が、我慢できない……あ、は、早く……くうう……」
「したいのか」
「や……ほ、ほどいて……早く、厠へ……も、もうっ……ああむ……」

莉里魚はなるべく長引かせるつもりだった。
こんなことは一回限りにしたいから、出来るだけ我慢させて全部出させるのだ。
その間、莉里魚は珊瑚の菊座に挿入した竹筒を、何度も出入りさせていた。
今ではもう完全に肛門に馴染み、楽に挿送できるようになっている。

「あう……あむう……あ、で、出る……う、あうう……で、出るう……」
「うん?」

ここでようやく莉里魚は珊瑚の変化に気づいた。
女の花園がしっとりと濡れそぼち、秘裂は口を開けかけているではないか。
この女、尻穴を責められて濡れている。
感じている。

「……いやらしい女じゃな」

莉里魚はそうつぶやくと自らの股間に手をやった。
珊瑚の悶える様子を見ながら少しの間まさぐっていたが、また筒を出し入れし始めた。
珊瑚の顔色が青白くなり、そろそろ限界と思った莉里魚は排便させることにした。
大きなたらいを持ち出すと、珊瑚の股間の下に置き、一気に筒を抜き去った。

「それ、させてやるわ」
「うあああっ、み、見ないで、出る! ……で、出ちゃうっ!」

* - * - * - * - * - *- * - *

その頃、地上ではかごめたちが青い顔をして珊瑚を探し回っていた。
雲母もおらず、それを探していた珊瑚まで行方不明になった。
ともに手練れだけに、明確な敵の存在を感じざるを得なかった。

「間違いねえ……。珊瑚のやつ、どこかに連れてかれたんだよ」

犬夜叉が四方を見ながら言った。

「どこかって、どこよ!?」
「わからねえよ! だけど、この里から外に出た形跡はねえ。いちばん強い珊瑚の匂いは、
あの屋敷ん中だ」

雲母を探しに戻った長の家だ。
弥勒の目線が鋭くなり、錫杖を持った手を握りしめた。

「まさか……、この村の者が?」
「そうとしか思えねえだろ!」
「あ、犬夜叉っ!」

脱兎の如く走り出した犬夜叉を追って、弥勒とかごめも駆けだした。

「那津魚! どこだあっ!」

屋敷の中に飛び込んだが、長は見あたらなかった。
追いついた弥勒たちもあたりを見回した。

「油断めさるな、かごめさま。犬夜叉も」
「わかってらあ」
「……」

かごめの表情が暗い。
弥勒も犬夜叉も疑っているようだが、かごめは複雑だった。

「でもさあ」
「なんでい」
「あの那津魚さんて悪い人に見えなかったよ」
「人じゃねえ、人魚だ」
「茶化さないでよ。それにあの子たちも……。莉里魚ちゃんの方はちょっと得体が知れない
とこもあったけど、彌衣魚ちゃんの方は……」
「かごめさまも人がいいですな」
「見た目じゃわかんねえんだよ。そんなこと、今までいやってほど経験したろうが」
「でも……」
「とにかく、今は珊瑚です。手がかりはここにしかありません」
「そうね」

三人は手分けして探すことにした。
分散することに危険を感じないわけではなかったが、一応屋敷の中ではあるし、いちばん
心配だったかごめが手分けを主張したのでそうした。
そのかごめが彌衣魚と出くわしたのは犬夜叉たちと別れてすぐのことである。

「あ、彌衣魚ちゃん」
「……」
「……猫ちゃん、可哀相だったね……」
「!」

うつむいていた彌衣魚が、はっとしたようにかごめを見た。
そしてすぐに顔を伏せ、聞き取れないほどの小さい声で言った。

「……珊瑚を探しているのか」
「え……、知ってるの?」

彌衣魚は小さくうなずくと踵を返して歩き出した。
呆気にとられているかごめをちらりと振り向き、ついてくるよう促した。
かごめは、犬夜叉たちを呼んだ方がいいかとも思ったが、そのまま彌衣魚を追った。

* - * - * - * - * - *- * - *

「あ、ああ……」

珊瑚は声を忍ばせて泣いていた。
恥ずかしい排泄の瞬間を少女に見られたのだ。
たまらなかった。

一方、人魚の娘の方は息づかいも荒く、羞恥に悶え泣く十六歳の美少女を見入っていた。

「これは……、たまらんな」

莉里魚はそうつぶやくと、帯を解き、着物の前をはだけた。
盛んに手を動かしている。

「……なるほど、男とはこういうものなのか」
「ひっ……」

浣腸、排泄の激しいショックに打ちひしがれていた珊瑚だったが、莉里魚の様子がおかしい
ことに気づいた。
そして恐る恐る彼女の方を見、喉の奥で悲鳴を上げた。
着物をだらしなくはだけ、素肌を晒していたその下半身には男根が生えているではないか。

「あ、あなた……それ……」
「ん? 見るのは初めてなのか?」
「そ、そうじゃなくて……」
「なぜ女のわらわにこんなものがあるかというのか? ふふ、これこそ我らが人魚繁栄の秘密じゃ」

絶句している珊瑚を卑しく嗤いながら、莉里魚は話した。

「儀式の前に修練を積んでおこうかと思うてな」
「修練て……」
「それにしても、そなたの痴態やその身体、大層男を引きつけるようじゃな。昨日までは
そなたなど見ても何とも思わなんだが、こうして陰茎をつけた今では、その身体が欲しゅうて
欲しゅうてたまらんわ」
「ま、まさか、あんた……」
「言わずとも知れよう。珊瑚、おまえを犯してやろうということじゃ。修練とともに、
子を為すことが出来るかどうかもわかろうしのう」
「いっ……いやああっっ!」

珊瑚は、それこそ狂ったようにのたうち回った。
全裸であること、股間を晒す屈辱的な体位で縛られていることも忘れ、身を暴れさせ、腰を
よじって逃げようとした。
莉里魚は、そんな哀れな美少女を鼻で嗤いながら、開かれた股の間にその小さな身体を入れた。
目は自然と、暴れて揺さぶられる豊かな乳房へと行った。
莉里魚はそれを無造作に掴み、ぎゅっと力を入れて捻った。

「痛っ……、あ、痛いっ……」

続けて、乳首をコリコリと転がし、つまんで捻り上げる。
仰け反らせた胸を今度は鷲掴んでくにくにと揉み込んだ。
教わらなくとも、手が勝手に珊瑚のポイントを責めている。
逸物を生やすということは、そういうことも潜在意識で理解できるのかも知れなかった。

「こんなに乳首を硬く尖らせおって。そんなに気持ちいいのか」
「やあっ……あう……あ、ああっ……はんっ……ああ……」

気持ちいいはずだ。
それまで、尻ばかり責められていたところを、いきなり胸をこねくり回されたのだ。
ビンビンと充血するだけ充血した乳首を吸われ、噛まれ、捻られる。
胸肉も、強弱をつけて激しく愛撫され、揉み抜かれた。
肛門に集中していた性感が一気に上半身にまで責め上がってきたのだ。

莉里魚の肉棒も、そんな珊瑚の悶えっぷりや悩ましい喘ぎ声を聞いて、ビクビク震えるほど
に興奮している。
そして受け入れる珊瑚の媚肉はぱっくりと口を開き、よだれを流し、挿入されるのを今や遅しと
待ちかまえているように見えた。

我慢できず、莉里魚は珊瑚の中に挿入した。

「あ、いっやああっっ!」

珊瑚は絶叫したが、莉里魚の怒張は有無を言わさずその女の裂け目に割り込んで行った。
ぐずぐずに濡れ切っているのに、亀頭を通すのにかなり苦労した。
それだけ珊瑚の締まりが良いということなのだろう。
亀頭部が入り込むと、あとはズブズブと奥まで潜り込んでいく。

「あ、あああ……」

珊瑚は小さな女の子に犯されたという屈辱に頭を激しく振って耐えた。
腰をよじると、中に押し込まれた陰茎の大きさに息が詰まりそうになる。

一端、珊瑚の胎内に肉棒を全部収めてしまうと、莉里魚は勝手に腰が動き出すのを止められ
なかった。

「くう……、こ、これはたまらん……」

小さな手で膝を押し開き、腰を激しく突き込んで珊瑚を凌辱した。
子どものものとは思えない太さと硬さをもったそれは、珊瑚の膣を激しく往復し、
媚肉から蜜を、口からは喘ぎ声を絞り出した。

「ああっ……うあっ……あ、あんっ……いやっ……あはっ……あうむ……う、うむっ……」

珊瑚は、貫かれ引き出され、出し入れされるごとに口からよがり声が出るのを堪えきれ
なくなっていた。
大きさだけなら、以前犯された奈落の方が大きかったかも知れない。
だが、莉里魚の肉棒は亀頭のカリの出っ張り具合がすごかった。
差し込まれる時はそうでもないが、引き抜かれる時は膣の襞をこそぎとられるようで、
珊瑚はそのたびに頭が白く灼かれるようだった。
それにその硬さ。
まさに「剛直」と表現するにふさわしいもので、珊瑚は膣の中を真っ赤に焼けた鉄の棒で
引っかき回されているかのように感じていた。

「はっ……はっ……はっ……はっ……」
「あうっ……ううんっ……あうっ……うああっ……」
「く……」

莉里魚は、珊瑚の腰の震えが止まらなくなり、膣の締め付けが強くなるのをはっきりと感じた。
その収縮で男根が締めつけられ、莉里魚も我慢しきれなくなってきた。

「いくのか、珊瑚」
「やっ……そんな、いやあっ」
「子どもに犯されていくとは恥ずかしいやつじゃな」
「やあああっ」

被虐の気もある珊瑚は、屈辱的な言葉をかけられると一層燃えてしまう。
これは前回、奈落に散々辱められた時に植え付けられたものだ。
いやだ、いやだと思いながらも、珊瑚の女の本能は、莉里魚のたくましい男根を感じ取ろうと、
膣の襞を総動員する。
全身の痙攣が止まらない。
特に腰がひどい。

莉里魚の男根も、むくむくとさらに大きくなった。
それまでリズミカルに突いていた律動がめちゃくちゃな調子になっていく。
肉棒がビクビクと震え、莉里魚の腰が熱くなってきた。
射精が近いのだ。

「あ、うっあああっ」

中で肉棒が一回り大きくなったのがわかり、珊瑚は思わず仰け反った。
そして腰を思い切りよじり、膣を締めつける。
莉里魚はたまらず、珊瑚の奥深くまで貫き、力いっぱい射精した。

「う、出る!」
「ああっ!」

熱い精液が子宮口を激しく叩きつけるように放出された瞬間、珊瑚も激しく絶頂に達した。




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