タイ王国、スワンナプーム国際空港。
成田とバンコクを結ぶ国際線、タイ航空を利用した乗客たちが一斉にCコンコースから出て
きた。
日本からの便ということもあり、大半が日本人であり、タイ人のようだ。
ちらほらと欧米人も見受けられるが少数だ。
入国審査を終え、税関を抜けて到着ロビーまで辿り着くと、響子もホッとした。
海外に出るのは新婚旅行以来二度目でまだ慣れていないこともあるし、乗ってきた飛行機が
ビジネスクラスというのも落ち着かなかった要因である。
どうも自分は貧乏性であるらしいと、響子は内心苦笑していた。
手荷物を受け取り、物憂げに佇むこの妙齢の女性こそ旧姓・音無(そして千草)響子──現・
三鷹響子であった。
五代裕作と三鷹瞬に好意を寄せられ、男ふたりの争奪戦の結果、響子は三鷹の軍門に降った。
内心は裕作に心を寄せていたこともあったのだが、彼の優柔不断さに痺れを切らした。
また、裕作には七尾こずえが強力に思いを寄せており、正直なところ、響子は彼女のパワーに
押されてしまったという面もあった。
響子なりに、裕作からのモーションを待っていた面もあるが、結局、彼は思い切った行動を執る
ことが出来なかったのである。
同時期、瞬の方がかなり強引にプロポーズを仕掛けてきていた。
響子自身、三鷹に対しても憎からず思っていたところは確かにあり、裕作がいなければ、もっと
早く彼の思いに応えていたのかも知れなかった。
そして、周囲の誰もが三鷹をプッシュし、裕作を推す人はなかったのである。
無論、そんなことは響子の決断に大きな影響は与えなかったが、背中を押すきっかけにはなった。
三鷹の意志を受け入れようと思いを決めた後でも、心のどこかでどこかで裕作のアクションを
待っていた。
しかし裕作は何もしなかった。
彼女の年齢なら、恋愛イコール結婚である。
5年若ければともかく、この歳で恋愛ごっこに興じる余裕はなかった。
響子が三鷹からプロポーズされたことは、一の瀬夫人を通じて裕作にももたらされていた。
響子は、そこで裕作に止めて欲しかったのかも知れない。
だが、それがなかった。
それどころか祝福の言葉すら受けた。
響子は「頼りない」と嘆息した。
その出来事が、響子の心理に幾ばくかの影を落としたことは間違いなかった。
裕作は、一の瀬夫人の言葉を「響子がプロポーズされた」ではなく「響子がプロポーズを受けた」
と受け取ってしまったのである。
時を経ずして、裕作は一刻館を出た。
それで響子の心は決まった。
裕作を諦め、三鷹のもとへ嫁ぐことにしたのである。
その判断が誤っていたとは思いたくなかったし、それで結婚しては三鷹に申し訳がない。
三鷹は優しかったし、特に不満はなかったが、どこか虚しいものを感じていたのも事実だった。
結婚式を挙げ、新婚旅行を終え、三鷹のマンションで同居を始めた頃、裕作がこずえと結婚した
という風の噂を聞いた。
響子はそれで完全に吹っ切れた。
そんな中、三鷹に海外赴任の話があった。
三鷹は、響子との結婚を機に、それまでのテニスコーチを辞め、父親の会社に就職した。
いつまでも体力勝負の仕事が出来るとは思えないし、そもそも三鷹自身はコーチの仕事を、仕事
とは思っていなかった面もある。
実益を兼ねた趣味といったところだ。
三鷹が主宰するテニスサークルは、彼の人となりや技術、指導力もあって、かなり繁盛していた。
加えて、三鷹の学生時代のプレイヤーとしての実績を評価して、彼にコーチを要請する学校も
あった。
サークルが忙しくなっていたため、全部を受けることはできなかったが、ふたつ女子大のテニス
部の非常任コーチを勤めることになったのである。
女子大を選んだのは、もちろん三鷹の趣味だ。
サークルを起こしたのも、妙齢の女性と知り合える機会が多かろうという判断である。
そもそも、三鷹がテニスを始めたのだって、女性にモテたかったからなのだ。
彼自身の努力や才能を遺憾なく発揮して、テニスコーチとしてそれなりに名を為していた。
それで生活が出来てしまっていたため、他の職に就くという発想がなかったのである。
父親などは幾度となく、まともな職に就くよう言ったが、聞く耳は持たなかった。
念願の響子との結婚を受けて、身を固めようと就職することになったのだ。
親の会社に入ることになったのは、もう31歳になっていた彼にとって、他に良い就職口が
なかったからに他ならない。
学歴や成績を見れば、大抵の企業に入社できるだろうが、それも20代での話である。
三十路を過ぎた今となっては、希望通りの会社に入れる見込みは少なかった。
致し方なく親の会社に入ったものの、すぐに御曹司と認識され、重役待遇にされてしまった。
無論、それだけの実力はあるのだが、三鷹としては、あまりあくせく働くことなく、妻とのん
びり生活を楽しみたいというのが本音だった。
何しろ資産家の息子だったから、子供の頃から金銭面で苦労したことがなく、そういう意味では
のほほんとしている。
カネに関してがっついたところがない。
それでも、社長の長男という尺度で見られるのはやむを得ないところで、会社が海外へ拠点を
設けるにあたり、その責任者に抜粋された。
彼はこれも受け入れた。
本社で「社長のセガレ」という目で見られるのもウンザリしていたし、どうせなら親父の目の
届かぬ外国でのんびりするのもいい、という判断であった。
問題は新妻の響子である。
彼女は庶民の典型で、海外旅行ですら新婚旅行が初めてだった。
海外赴任ともなれば渋るのではないかと思っていたのだ。
ところが響子は案外あっさり受け入れてくれた。
三鷹には意外に思えたが、響子には響子の思いがあった。
一刻館である。
結婚して彼女は、一刻館の管理人職から離れた。
それは当然で、三鷹が一刻館に一緒に住むわけはないし、そうなら響子も彼のマンションに住む
しかないのだ。
そこで一刻館の管理人を勤めるわけにはいかなかった。
亡夫の父である音無も、それを受諾した。
もともと、夫に死なれた響子の気が紛れればという意味合いもあって、管理人を頼んだのである。
その響子が再婚したとなれば、もはや管理人をしてもらう意味合いはなくなる。
もっとも響子自身、一刻館には愛着を感じていたし、残った住人たちも強く響子の管理人職を
望んでいたが、事情が事情だからどうにもならない。
音無は、瓦解寸前でもある一刻館をいっそのこと取り壊そうかとも考えたようである。
それは住人や響子の反対で取りやめたが、響子が管理人を退くことは了承された。
臨時ではあるが、一の瀬夫人が管理人を代行することになった。
管理人手当は家賃と相殺という形になったようだ。
こうしたこともあり、響子は三鷹についていくこととなった。
このまま日本に残っても、ずるずると一刻館、引いては裕作の思い出に浸ることとなりかねない。
その思いを吹っ切るためでもあった。
夫と一緒に離日できなかったのは、響子の方に用事があったからである。
日本から離れ、もしかするとタイに永住する可能性もある。
三鷹との結婚を喜んでいた両親だったが、これには難色を示した。
特に父親は「聞いていない」とばかりに、帰国するまで別居するよう勧めたくらいだ。
そうはいかないから結局タイへ来ることとなったのだが、日本の残ったしがらみを断ち切るため
に出発が遅れたのである。
学校時代の友人たちや両親の親戚関係、音無家、そして一刻館の面々。
彼らとの別れを惜しみ、送別会のスケジュールで忙しくなったのだ。
親戚にはこちらから出向いたし、友人たちとの宴会は連日に渡った。
そして何より、響子自身も日本から離れがたかった面もある。
両親を置いて外国へ渡るというのは、ひとり娘である響子にとっても重い決断だった。
そんなこんなでずるずると出発を引き延ばし、三ヶ月も遅れることとなったのだ。
さすがにこれ以上夫を待たせるわけにもいかず、また瞬の両親も良い顔をしなかったので、名残
惜しさに見切りを付けて旅立ったのだった。
不慣れな空港ロビーで、いかにもお上りさん的に響子があちこちを見回した。
夫の瞬が、どうしても外せない商用があり、迎えに来られないという連絡があった。
代わりを迎えにやるから心配いらないと言われている。
そうは言っても不安でもある。
初めての国であり、会ったこともない代理人だ。
出入り口付近を見渡したものの、それらしい人影はない。
他の乗客たちは、あるいは足早に外へ向かい、あるいは歓迎の人に迎えられている。
それを見ているうちに、ますます心細くなった。
そこへ慌てたように男性が駆け込んでくる。
見ると、模造紙か何かを両手を掲げ持っていた。
よく見ると「歓迎・三鷹響子さん」と日本語で書かれていた。
響子は、ホッとした反面、妙に照れくさくなった。
その彼女の様子を見て向こうも気づいたらしい。
小走りに駆け寄ってくる。
「失礼ですけど……、三鷹響子さん?」
「あ、はい」
「よかった」
男はにっこりと笑った。
スラリとした長身で、目鼻立ちの整った顔だった。
年齢は瞬と同じくらいか。
「初めまして。僕は奥村と言います。瞬の友人です。あいつ、今日は都合つかなかったみたい
で代わりに僕が……」
「聞いています。どうもわざわざすみませんでした。私がひとりで行ければこんなお手数掛けず
に済んだのですが」
「いえいえ、お気になさらずに。あ、お荷物を貸してください」
奥村は、有無を言わさず響子の手からトランクをもぎ取った。
この辺の女性に対する心配りと一種の強引さは、瞬に通じるものがある。
響子は苦笑して後に続いた。
外にはクレスタが停めてあった。
日本時代からの瞬の愛車で、わざわざタイまで持ち込んで乗っている。
奥村はそれで来たらしい。
クルマが走り出すと、響子はようやく一息ついた。
それをミラーで見ながら奥村が微笑みかけた。
「長旅ご苦労さまでした。お疲れになったでしょう」
「ええ、少し。夫と違って海外慣れしてませんし」
「そうですか。しばらくこちらで暮らすのでしょう? ゆっくりするといい」
「はい。でも私、全然この国について知らないんですよ。知っているのはバンコクにプーケッ
トくらい」
響子がおどけたように言うと、奥村も笑った。
「いやあ、タイに関心があれば別だけど、日本人はみんなそんなもんですよ。いや、タイの人
だって同じようなもんです。彼らだって日本の街は東京くらいしか知らないですよ」
「そうなんでしょうね。でも、申し訳なかったですね、奥村さんだってお忙しいでしょうに。
私、タクシーで行きますからって夫には言ったんですけど」
「そうですね」
奥村は左右を確認して、交差点でハンドルを左に切りながら言った。
「それもよかったかも知れません。タイも最近では、ちゃんとメーター・タクシーになってきて
ますからね。空港周辺やバンコクあたりはまず大丈夫。でも、ちょっと中心から外れると、観光
客相手にぼってくるタクシーもまだまだ多いですよ」
「あ、やっぱりそうなんですか。そういう話は聞きましたけど。それと、あの三輪の可愛いタク
シーありますよね。あれにも乗ってみたかったです」
「ああ、トゥクトゥクね。最近はだいぶ減ったけど、まだ現役であちこちちょろちょろしてます
よ。でも、これも値段交渉が必要になることも多いから、おひとりでは危ないです。今度、瞬と
出かける時にでもどうぞ」
気さくに話しかけてくれる奥村に、響子は親近感を抱き始めていた。
瞬の親友だという話だったが、確かにタイプも良く似ている。
スポーツマン系の爽やかな感じで、年齢は30歳くらいだろうが、若々しさがある。
それでいて、若者にありがちな軽率さはなかった。
屈託のないのは、瞬同様に、あまり生活の苦労をしていないためかも知れない。
育ちが良いのだ。
奥村がルームミラーで響子を見ながら言った。
「それにしても噂通りですね」
「何がでしょう?」
「いや、奥さんですよ。たいそうな美人だと聞かされていたけど本当だ」
「そんなこと……」
「瞬のやつがよく自慢してたんですよ。生涯最高の女に出会ったって」
「まあ……。すみません、夫がつまらないことを……」
はにかむ響子を見て、奥村は瞬の言が決して大げさではなかったことを知った。
彼らと違って、ごく普通の市井の出だと聞いているが、庶民にはない気品がある。
27歳だと聞いているが、それよりは若く華やいで見えた。
ぱっちりとした目、鼻梁の通った美しい顔もだが、スタイルも素晴らしそうだ。
着ているスーツやブラウスの上から隆起する胸が、そのふくよかさを主張している。
スカートに包まれた臀部も見事なもので、そこから伸びる脚もしなやかだった。
瞬とはテニスで知り合ったというが、是非とも一緒にプレイしてそのスコート姿を拝んでみたい
ものだと奥村は思った。
一時間ほどのドライブで、無事、タイでの新居に到着した。
日本のレベルで言えば、大きな邸である。
二階屋で、ざっと見たところ8LDKくらいはありそうだ。
借家だという話だが、かなりの家賃になるのだろう。
日本とは物価がだいぶ違うとは思うが、それにしても安くはあるまい。
しかし、これからふたり暮らしだというのに、こんな広い家でどうするのだろうか。
掃除ひとつとっても大変そうだ。
もっとも、響子は家事が趣味のようなところがあるから、暇つぶしにはなりそうだ。
響子は奥村に礼を述べ、中で休憩するよう勧めたが、この後仕事があるとのことで、そのまま
クルマに乗って去っていった。
奥村が下ろしてくれたトランクに手を置いて、ホッと息を付くといきなり声が掛かってかなり
驚いた。
見ると、大きなドアが開き、ひとりの少年が微笑んで立っている。
12,3歳といったところだろうか。
「サワッディー・カップ」
浅黒い肌で黒髪の男の子が、胸の前で手を合わせている。
響子も慌てて合掌した。
これは確か「ワイ」というタイの挨拶だったはずだ。
ワイされたら、同じようにワイをすれば良いと瞬に聞かされていた。
響子が目をパチクリしていると、少年の方が話し掛けてきた。
「奥様ですね。旦那さまから聞いてます。僕はタムと言います」
「あ、はい。あの、きょ、響子と言います」
響子はびっくりしたが、どうもタムという少年はこの家の召使いらしい。
日本語を話すのも、瞬に教わったらしい。
彼の話によると、もともとストリートチルドレンらしく、両親は幼い頃に亡くしたのだそうだ。
たまたま瞬の会社の前で靴磨きをしており、そこを文字通り拾われたらしい。
響子が少し慌ててワイを返すと、少年はニッコリ笑った。
「荷物、持ちます」
「あ、でも重いから……」
「僕の仕事ですから」
タムはそう言うと、響子の手からトランクを奪って、家の中へと入っていく。
そして振り返って響子を仰ぐように見た。
「どうしたの?」
「旦那様の言ってた通りです。奥様が綺麗な人で、僕うれしいです」
そう言ってはにかんだように笑うと、少年は小走りに廊下を駆けた。
───────────────
「響子」
「あなた……」
ひさしぶりで夫婦揃っての夕食を済ませ、シャワーを浴びると、ふたりは早々に寝室へ入った。
まだ寝る時間には少し早い。
言うまでもなく、愛の営みのためである。
半年ぶりの再開なのだから積もる話もあったが、電話では毎日のように話していたし、ベッドの
上でも語らうことは出来る。
瞬も響子も同じで、互いの体温を確かめたかったのだ。
かつての響子であれば、こうした直情的なことは、どうしても気恥ずかしさを感じたのだが、
瞬と結婚後は慣らされていった。
自分から積極的に瞬に交接を望むことはなかったが、以前に比べれば、随分とセックスに対する
感情が変わったと自分でも思う。
瞬が性に関しては、かなり開放的な思考の持ち主で、最初は響子も戸惑ったものだが、別に他人
に迷惑を掛けることもでもなし、夫婦間の問題なのだからと受け入れていった。
それとともに、響子の方も徐々にセックスに目覚めていったのである。
何しろ亡夫の惣一郎が朴念仁の極みだったし、響子を娶ってからも、まるで腫れ物に触るような
扱いだった。
さすがに処女妻ということはなかったものの、まるで児戯のような夫婦生活だったのだ。
瞬と一緒になり、彼との性生活が始まると、いかに惣一郎とのセックスが淡泊なものだったのか
と思い知らされたくらいだ。
ふたりは抱き合い、そのまま彫像のように動かなかった。
「寂しかった……寂しかったです……」
「僕もだよ、響子。でも、もうずっと一緒だ」
「ええ、ずっと」
響子と瞬は微笑み合ってから、そっと口づけを交わした。
唇が離れると、そのままベッドへと倒れ込んだ。
夫は、妻のナイトウェアをそっと脱がしていく。
響子はそっぽを向くように、瞬から顔を逸らした。
瞬は、いつまで経っても初々しい響子の仕草が好きだった。
今晩の響子はシルクのネグリジェを着ている。
コットン生地の素朴な肌触りが好きな響子は、普段はシンプルなパジャマを着て寝ている。
こうしてネグリジェになることもあるが、それは「欲しい」と言う響子からのサインなのである。
大抵は瞬から求め、響子がそれに応じるパターンだが、稀に響子の方から求めることもあるのだ。
響子もその気だったから、下はブラとショーツしか着けていない。
瞬がネグリジェの胸を大きくはだけさせ、薄いブラジャーの上から、ゆっくりと響子の乳房を
揉んだ。
「ああ……」
ひさしぶりの感覚。
愛する夫の手が優しく胸を愛撫する感覚に、うっとりするような満足感とともに、ぞくぞくする
ような心地よさを感じた。
瞬の唇が首筋を這い、巧みに響子の着衣を脱がせていく。
すっかりはだけた上半身の胸を揉みつつ、脚からシルクの薄い閨着を抜き取った。
響子のなめらかな肌をネグリジェがするりと滑り落ち、音もなく蟠る。
瞬の手がブラジャーのストラップに掛かると、響子は頬を染めて小声で言った。
「あなた、お願い……灯りを消して……」
室内照明は消されているが、ベッド脇には小さなナイトスポットが灯っている。
薄いオレンジの色調が、真っ白な響子の肌を妖しく淫靡なものに見せていた。
まだ初々しい妻は、自分の裸身が晒されることに戸惑いがあった。
もう何度も愛し合い、互いの身体の隅々まで知った間柄なのに、まだ恥ずかしそうにしている。
そんな響子の仕草は瞬にもたまらない魅力だったが、彼はそれ以上のことを妻に望んでいた。
「このままでいい」
「でも……」
「いいんだ。暗いと君の美しい身体が見えなくなる」
「はい……」
響子は俯いてうなずき、夫の胸に顔を埋めた。
瞬は響子を抱きしめたまま、背中のホックを外して、ブラジャーを抜き取る。
ショーツのゴムに手を掛けると、響子は僅かにピクンとしたが、夫に従った。
器用に片手で脱がせてやると、響子は夫の動きに協力するように足腰を動かし、最後の下着を
身体から取り去った。
妖しい光に浮いた妻の肉体は素晴らしかった。
完全に素肌を晒している裸身は、すでにうっすらと汗が浮いている。
下半身の女の園を中心に、熟した女の香気が漂っていた。
響子もすっかりその気なのだ。
響子が日本にいた三ヶ月を除いて、まだ瞬とは三ヶ月ほどしか一緒に暮らしていなかったが、
その間の彼のセックスは響子を圧倒するものだった。
それまでは、どちらかというと淡泊だった響子の性は、三鷹瞬との結婚により、大輪の華を
開かせた。
瞬が自宅にいる時は、ほぼ毎日に渡って夜の生活があった。
新婚当時はそんなものだと聞いていたが、前夫の惣一郎がおざなりに近いセックスだっただけ
に、響子は瞬に抱かれてカルチャーショックを受けた。
毎日毎晩、犯されるように抱かれ、何度もいかされ、それでも許されずに、また絶頂させられる。
寒気がするほどの行為だったのだが、響子の肉体もそれに慣れ、セックスに対する認識を少し
改めたのだった。
明け方近くまで肉交を続け、半死半生になるまで責められ、それでもなお反応せずにはいられ
なかった。
響子なりに、そんな自分の身体に疑問を抱き、「自分は淫らなのではないか」とすら思った。
だが瞬は、そうした響子の反応を歓迎し、喜び、なお一層、熱心に妻を抱いたのだ。
そうしているうちに、妻の方もそれが当たり前、それを夫も望んでいると理解し、夫婦間の行為
ではなるべく自分を解放するよう務めてきた。
それでもまだ照れや羞恥は残っているのが、彼女の慎み深さだと言えよう。
背けた顔の下には、見事な女体が息づいている。
細い首、鎖骨の線が艶めかしい。
横たわったというのに、ほとんど横潰れしていない乳房が素晴らしかった。
揉めば指がとろけそうなほどの柔らかさを持っているのに、まるで脂肪でなく肉が詰まって
いるかのような形状の良さだ。
一転して細くくびれたウェストには、これもほとんど無駄な肉がない。
若い頃に比べて、やや脂肪が乗っているのはやむを得ないし、むしろこれくらいの方が人妻ら
しい艶があるというものだ。
そして大きく張りだした安産型の腰と臀部、そこから素直に伸びた美しい脚。
決して完全完璧の女体美ではないだろうが、日本人女性として、あるいは成熟した女性として、
見事な肢体と言わざるを得なかった。
瞬も、ひさしぶりに見る妻の魅力的な裸身に喉を動かしながら、その胸に触れた。
「あっ……」
指から肉がはみ出るほどのボリュームを誇る響子の乳房をぎゅっと掴む。
痛みがあるのか少し顔を歪めるが、決して抗いはしない。
優しく愛撫されるのも、激しく愛されるのも受け入れられる肉体なのだった。
両手で両の乳房を揉み、早くも尖り出している乳首を歯で軽く咬む。
「んっ……!」
ピクンと響子の身体が軽く跳ねる。
そんな妻の髪を撫でつつ、夫は愛おしげに言った。
「相変わらず感じやすいね」
「あ……、ひさしぶり……だから……」
「そう。日本にいる時、誰かと寝たりはしなかったのかい?」
「そんなこと、しません!」
響子は少し強く言い、拗ねたように瞬を睨んだ。
瞬も、響子が浮気や不倫をするタイプだとは思っていない。
しかし、彼が開発した肉体を三ヶ月も放って置かれたのだ。
健康な女性なら、肉体的欲求が出るのは不思議でない。
だからというわけではないが、瞬はタイへ立つ前、冗談めかしてはいたが「寂しくなったら、
適当に遊んでもいい」と言っておいたのだ。
彼には、必要以上に妻を縛る気はなかったからだ。
だが、やはり響子は貞操を守ったようである。
恐らく、火照る身体を持て余し、自慰くらいはやったろうが、それだけだったようだ。
生真面目な妻に苦笑しながら、夫は謝った。
「そうか、ごめん。けど、別によかったんだよ。君だって欲しくなる時はあるだろうし」
「でも……、でも私はあなたの妻です。あなた以外の男性に身を任せるつもりは……」
「わかった、わかったよ」
瞬は改めて理解した。
彼の妻は、清純さを併せ持った成熟した女性ではなく、熟しつつある清純な少女に近いのだ。
まだまだセックスや貞操観念に偏見(瞬にとっての、だが)がある。
「……それじゃあ、ひさしぶりだし、今日は少し趣向を変えようか」
「え……? きゃあ!」
いきなり響子は裏返しにされた。
「え? え?」と思っているうちに、両腕を後ろに回されて、ベルトで縛られてしまった。
見る見るうちに、両肩にもベルトを通され、それが乳房に掛けられる。
胸肉を三角形に開放するように、三本のベルトが乳房を縛っている。
ちょうどブラジャーのカップがなくなってストラップだけになったようなものだ。
胸の上部にある鞣し革の交差点からは、首輪のベルトにつながる革帯が伸びている。
そして、さらにそこから伸びたベルトで、両腕を二本まとめてガッチリと背中で固定している
のだ。
響子は慌てて夫に抗議した。
「あ、あなた、何をっ……」
騒ぐ響子に構わず、瞬はそのまま拘束具を操り、股間にベルトを通して仕上げた。
両腕を拘束し、乳房を括りだし、革ベルトが股間に食い込んでいる。
SMグッズの革製拘束具だった。
「あなた、いやっ……こ、こんなのいやですっ……」
「なぜ? よく似合ってるよ」
「ふ、ふざけないでくださいっ……こんな、恥ずかしい……」
「だからいいんじゃないか。君は恥ずかしいプレイの方が燃えるだろう」
「し、知りませんっ……」
実のところ、こうして響子を拘束して犯すのは初めてではない。
ただ、今まではせいぜいが浴衣の帯やタオルなどがせいぜいで、ロープなどで本格的な緊縛は
したことがなかった。
増して拘束具など、恐らく響子は実物を見るのも初めてだろう。
響子には様々なセックスを覚えて楽しんで欲しいし、こちらを楽しませて欲しい。
それは決して淫らなことではないはずだ。
そう思っている瞬は、こうして徐々に響子を開発していくのである。
「悪ふざけは、んぐうっ!?」
さらに抗議しようと声を上げた響子の口が塞がれた。
ピンポン球のような黒いボールだ。
いくつも穴が開いていて、大きさもちょうどピンポンと同じくらいである。
それにゴム紐らしいのがついていて輪になっていた。
その球で猿ぐつわされたのだ。
響子は知らなかったが、ギャグボールである。
妻の抵抗を予期して用意したというよりも、ギャグを噛まされた響子を見てみたかったという
だけだ。
ついでに言えば、こうしたSM具もそうで、美しい響子の裸体を銀のリベットを植えた黒革の
ベルトが締め付ける姿を見たかったのだ。
そして拘束具に囚われ、不自由なまま為す術もなく犯される妻を見て昂奮したかった。
響子の白い柔肌に、銀の鋲が浮いた黒レザーが巻き付く光景は、瞬の予想以上に素晴らしい
雰囲気を醸し出していた。
「……よく似合うよ、響子。一度、君にこれを着せてみたかったんだ」
「んん……」
響子は拘束されたまま、涙さえ浮かべて夫を見た。
その視線からは「なぜこんな酷いことをするのか」という抗議が読みとれる。
それがまた瞬の欲情をそそり、彼は妻を後ろから抱き取った。
背中を瞬の胸に預けた響子は、後ろから強く乳房を揉まれ、立った乳首をコリコリと擦られる
と、くぐもった声で喘いだ。
初めてのプレイでの緊張と、それを解きほぐすような愛撫を受け、その肉体からはより濃い
女香が立ち上る。
「んっ……んむっ……」
形の良い眉が悩ましげに歪む。
瞬の手が動くたびに、響子は甘い呻き声を上げつつ、しなやかな肢体をよじらせた。
乳房の形が変わるほどに強くこね回すと、首を反らせて喘ぎだした。
瞬は首を曲げて響子の乳首に顔を近づけ、音を立てて強くそれを吸い上げた。
吸うだけでなく、硬くなった乳首を前歯でコリッと擦ると、その鋭い刺激に響子は大きく身悶
える。
「くうっ!」
なおも瞬が乳首を責める。
前歯で乳首を挟みつつ、クイクイと軽く咬みあげる。
かと思うと、歯を引っ込めて唇を使い、ねぶるようにこねくった。
そして大きく口を開け、乳輪ごと口に含んで思い切り吸う。
「むむっ……んっ、んむうっ……」
「気持ちいいかい?」
「んん……っ…っ……」
乳首を執拗に責め抜かれ、響子は何度も頷いた。
ギャグを噛まされて言葉が使えないだけでなく、大きく口を開けて喘ぐことも出来ない。
喘ぎ声が響子の体内に籠もって、さらにその肉体を火照らせていく。
前髪が額に浮いた汗に捉えられ、張り付いている。
喘ぎたくとも喘げないそのもどかしさが、朱唇からくぐもった呻き声となって唾液とともに零れ
てくる。
哀れな美妻の姿が瞬の昂奮を高めていく。
「むうっ!」
突然、甲高い声を放った。
瞬が強く乳首を歯で噛んだのだ。
緩やかな愛撫とその快い刺激に浸っていた響子は、カッと目を見開いて呻いた。
背筋を反らせ、ググッと裸身を伸ばす。
後ろに回された両手は、きゅっと強く握られていた。
全身を拘束している革の匂いと、響子から漂う汗と女の香りが渾然となり、濃厚かつ妖艶な空気
が部屋に充満する。
「ん……んん……」
響子の息が弾んできた。
そして、切なそうな瞳で夫の見ながら、膝の上に乗せた臀部を盛んに振って擦りつけている。
さらなる愛撫を、そして別のところへの愛撫を望んでいるのだ。
ひさしぶりのセックスとあって、響子の肉体が燃え上がるのも早かった。
もともと性的に敏感な身体をしていたのに、死んだ惣一郎が奥手でロクに響子を抱かなかった
せいで、心的にも身体的にも未熟だった。
瞬との結婚後、響子の身体は急速にほぐされ、開発された。
教え込んだ瞬も驚くほどに鋭敏な感覚と感受性を持ち合わせており、このまま仕込み続ければ
「昼は聖女、夜は娼婦」という、男にとって最高の女になりうる存在だった。
瞬は響子の望みをすぐに見抜いたが、そのまま無視して乳房や脇腹に指を這わせていた。
両手で揉んでいた乳房から右手が移動していく。
胸から腋、肋骨、脇腹へと滑るように撫でるように指が下りていく。
腋はもちろん、浅く浮いた肋骨をなぞるように擦られると、響子は鳥肌を立てて呻いた。
全身が性感帯となっている。
右手で腰骨をさするように撫でながら、左手ではまだ乳房をゆっくりと揉んでいた。
指が鼠鶏部に達し、筋をさするとピクンと反応する。
同時に、股間に食い込んだベルトの隙から、粘い女液が滲み出てきた。
それでも瞬は、内腿を撫でたり恥丘の部分をさすったり、ヘソをいびったりして、響子に悩ま
しい呻き声をあげさせていた。
響子が触って欲しいところには決して触れず、それでいてその周辺をくすぐるように嬲っていく。
響子は、堪えても堪えても呻き声が漏れ出てしまう。
身体が小刻みに震えるのを止められない。
革に締め上げられた媚肉から零れる愛液が、内腿を責める夫の指を汚していた。
必死に呻いて「そこじゃない。もっとこっち」と、喋れないもどかしさを表情で表し、身体を
よじって夫を見る。
夫はニヤリと笑って指を進め、とうとう股間中心部に達したかと思いきや、わざとそこを避ける
ようにして脇へとそれていく。
響子は美貌を情けなさそうに歪め、盛んに首を横に振った。
「焦れったさそうだね、響子。どこを触って欲しいんだい?」
「んん……むむ……」
「ここかな?」
瞬は、股間の中心を締め付けているベルトに指を伸ばし、そこを人差し指でコンコンと軽く叩
いた。
「んうっ」
そんな軽い刺激だけで、響子はぷるぷると身体を震わせて呻いた。
さらに瞬は爪を使って、革帯をカリカリと引っ掻いてやる。その微かなビビリが響子の媚肉の
中心に直接響き、その快感に思わず腰を振ってしまう。
ベルトに圧迫されたクリトリスはビンビンと反応し、膣の奥がジンジンと痺れてくる。
瞬は左手で乳を揉み、ベルトの上から膣を責めながら、妻の耳元で囁いた。
「欲しい? ここに欲しいのかな?」
響子は一も二もなく頷いた。
夫が股間を隠していたベルトをずらして媚肉を露わにすると、響子は期待に打ち震えた。
今度こそ期待に違わず、瞬はクリトリスをつまんで、クリッと包皮を剥いてやった。
「ひぅっ!」
響子はガクンと身体を跳ね上げる。
軽くいったのかも知れなかった。
瞬は、響子の媚肉を中指で撫で、ねっとりとした蜜をまぶしていく。
そうしてから、そのままぷすりと膣に挿入した。
「くううっ……」
夫の指がようやく中に入ってくると、途端に胎内の熱と蜜がそれに絡みつく。
もぞもぞと指が奥に進んでくると、響子は思わず腰を浮かせて喘いだ。
指が入る分だけ蜜が溢れ出し、響子は呼吸を荒げていく。
そして、いかにももどかしそうに自分から腰を上下させて、夫の指で抜き差しするように媚肉
を刺激した。
「指じゃ物足りないのかな?」
「う、うむ……」
「よし、いいよ。よく我慢したな」
瞬は響子の腰を掴むと、ぐいと持ち上げた。
膝立ちになった妻の股間に自分の下半身を挟むように入れる。
もう勃起していた男根に手を添え、膣口にくっつけた。
その状態で、掴んだ響子の腰を一気に引き寄せる。
ぺたんと響子の尻が瞬の腰に落ち、ペニスが一気に膣奥に突き刺された。
「かっ……はっ……!」
たくましい肉棒が媚肉を突き破るかのように挿入され、膣壁をカリが抉り取るように奥まで届
かされた。
待ちに待った感覚に、快感が脳天まで突き上がり、響子はぶるるっと大きく痙攣した。
ようやく訪れた絶頂感に、響子は全身の力が抜けてガクリと倒れ込んだ。
羞恥責めされ、焦らしに焦らされたこともあるが、セックス自体が三ヶ月ぶりだったのも大きい
だろう。
慎ましい彼女は、夫の薦めを固辞し、誰にも肌を触れさせなかったのである。
恥ずかしい思いを堪えながら自慰だけは何度かしたが、ここまでの快感には程遠い。
加えて、軽く達して疼きを抑えた後の何とも言えぬ虚しさと後ろめたさがイヤで、ほとんどしな
かったくらいだ。
それだけに、瞬ほどではないにしろ、響子も夫に抱かれることを期待していたのである。
瞬も、ひさびさに味わう妻の心地よさに満足していた。
響子は、白い喉を反り返らせてピクピクと絶頂の余韻に浸っている。
その姿が悩ましかった。挿入したままのペニスも、強い収縮を続ける妻の媚肉の刺激に、過剰な
ほどに反応していた。
油断したら、思わず出してしまいそうである。
響子の方は、セックスの絶頂を味わえたし、何よりも「夫に抱かれた、愛された」という精神
的充足感もあり、これだけでも充分だったかも知れない。
だが精力家の瞬は、こんなものでは終われない。
まだ前菜であり、メインはこれからなのだ。
グッタリした響子をそのまま仰向けに押し倒すと、口に掛けたギャグを外した。
半開きになった妻の口の端から、たらりと唾液が垂れる。
やっと息苦しさから解放され、豊かな胸を上下させて深呼吸する響子の口に、瞬が吸い付いた。
「んっ、んむっ……んん……む……んっ……ちゅっ……んじゅっ……じゅっ、む、んんっ……」
響子は夫に頭を抱かれ、顔を預けた。
瞬の舌が咥内に入ってくる。
ディープキスの経験は惣一郎ともあったが、瞬に比べればまるで児戯だった。
遠慮がちに響子の口に舌を入れ、軽く舌同士を絡める程度だったのだ。
再婚後、瞬と口づけを交わした時は本当に驚いた。
今までのキスは何だったのかと疑問に思うほどに激しく、熱烈だったのだ。
まるで別の意志を持った生物のように響子の口中を犯し、舐め回してきた。
脅えて引っ込めていた舌は強引に吸い取られ、引き抜かれてしまいそうなほどに強く吸われた。
唾液の交換も瞬に教えられたものだ。
始めは脅え、驚いていた響子だったが、そのうちキスの方が好きになっていった。
瞬とのキスは、それ自体がセックスのように感じられたのである。
互いに満足するまで舌を吸い合うと、ようやく口を離した。
響子はとろんとした瞳を夫に向けている。
またその気になってきたのだろう。
頃合いよしとみて、瞬は繋がったままの腰を打ち込み始めた。
体重を使った重みのある突き込みに、響子は目を剥いた。
その時、響子はドアが僅かに開いていることに気づいた。
入ってきた時はきちんと閉めたはずだし、第一、内部から施錠したのだ。
鍵は瞬と響子しか持っていないはずである。
だが、ドアと壁の隙間が少し開いているのが見える。
「あ、あなた……」
「なんだい?」
「ドアが……開いてる。私、閉めてきます」
「いいよ、そんなこと」
「で、でも、あっ……」
離れようとする響子を抱きしめて、瞬がその唇を口づけで塞いだ。
接吻が終わると、夫は妻を見て言った。
「気にするな。この家には僕と君しかいない」
「あ、でも……タム君が……」
「タムならもう寝てるさ。彼は朝、早起きしなくちゃならないんだから」
「そうですけど……もしかしたら」
廊下の照明は落ちているらしく外の様子は窺えないが、中の方が明るいから外から覗かれれば
内部は丸見えだ。
そこで瞬がニヤッとした。
「もし見られていてもいいじゃないか。愛し合った男女なら、誰でもすることだ」
「で、でも見られてたら、恥ずかしい……」
「誰も見てないさ。もし見ているヤツがいたら、いかに僕らが愛し合ってるか見せつけてやれば
いい」
冗談ではなかった。
響子はそんな露出趣味はない。
瞬のセックスの興味は響子のそれとは微妙に違っているのはわかるが、まさかそういう趣味が
あるとは思いたくなかった。
夫は薄ら笑いを浮かべて言った。
「それに、響子も誰かに見られていると思った方が燃えるだろう?」
「そっ、そんなことありません!」
「わかったよ、そう怒らないで」
夫は、ちらりとドアの方向に目をやると、何事もなかったかのようにまた腰を動かし始めた。
響子を腰の上に乗せるとその腰をがっしりと掴み、下から突き上げるようにして大きくグライ
ンドさせた。
わざとカリ部で膣壁をひっかけるようにして抉り、かき回す。
唐突に始まった激しい攻撃に、美しい妻は大きく目を開けて喘いだ。
「うあああっ……ひっ……あ、いいっ……ひぃっ……す、凄いっ……」
響子の均整の取れた肢体が弓状にしなり、その美貌は官能で苦悶している。
髪が額にへばりつき、後ろに回った両手がぐっと握られ、また開く。
夫の身体を抱きしめたいが、それが出来ないもどかしさが現れている。
瞬が突き上げると、響子の身体が軽々と持ち上がり、宙に浮く。
ペタンと落下してふたつの腰が密着すると、汗と淫液が弾け飛んだ。
瞬の手を借りずとも、響子自身が大きく腰を上下させている。
頑丈そうなベッドが軋む音と、響子が喘ぐ艶っぽい声があたりに響く。
「ああっ……ああっ、いいっ……」
「そんなにいいかい、響子」
「ああ、いいですっ……くっ……き、気持ち、いいっ……ふあああっ……」
夫の突き込みが激しくなるにつれ、響子は徐々に息もしにくくなる。
喘ぐばかりで吸う暇がないのだ。
長い黒髪をなびかせ、首を振りたくって身悶える妻はあまりに美しかった。
そんな苦悶する表情すら、妖しい色気と化している。
「あ、ああっ……あなたっ、いいっ……も、もっと……あうっ……」
頭が真っ白に灼けるほどの官能に悶え苦しみながらも、なおも夫の愛撫と男根を求めずには
いられない。
掠れ気味になった美声に応え、瞬は子宮に届けとばかりに腰を打ち込んでいく。
どろどろにとろけきった熱い媚肉に、硬直した肉棒が容赦なく突き刺さる。
太いものが強く挿入されるたびに、ぐちゅぐちゅ、にちゃにちゃと粘った水音が聞こえてくる。
それと同時に、膣口とペニスの隙間からは愛液がこんこんと溢れてきた。
ねっとりとした蜜は、透明なものから白濁したものへと変化している。
シーツに零れた愛液は、粘りが強いせいか一向に染み込まず、いつまでも淫らな水たまりのまま
になっていた。
「あっ、あなたぁ……あ、もう……もう響子はぁっ……」
響子の声が切羽詰まってくると、その媚肉も敏感に反応する。
襞や粘膜が瞬のペニスにへばりつき、抜き差しするごとにめくれ込み、めくれ上がった。
収縮も次第に間隔が短くなってきている。
瞬の暴力的とも言えるほどの激しい突き込みを難なく受け止め、さらに膣の奥へと導こうとさえ
していた。
妻がいきそうだと判断した夫は、あまりの心地よさに自失しそうになりながらも必死に堪え、
深くまで抉って子宮を虐めた。
敏感になっていた子宮口を小突かれ、響子はひとたまりもなかった。
「もっ……もうだめっ……そ、それだめえっ……く、来る……来ちゃうっ……ああ、あなたっ
っ!!」
その瞬間、全身をぶるるっと激しくわななかせ、大きく首を仰け反らせて、響子は絶頂した。
響子の言を信じるならば、彼女にとっては三カ月ぶりのセックスになる。
瞬の手練によってある程度開発されていた肉体は、その間も男を欲していたはずだ。
にも関わらず、響子の堅さと貞操観念によって、男に肌を許さずに来たらしい。
性に満たされる肉体的な、そして愛する夫に抱かれるという精神的な満足感を同時に受け、
響子は幸福な恍惚感に酔っていた。
きゅうっと痺れるような気持ちよさの締め付けが瞬のペニスを襲ってくる。
まだ射精をしない男性器に抗議するかのように、その全体をしっかりと包み込んでいた。
ガクリと全身の力が抜け、背中から倒れそうになる響子を、瞬は慌てて抱き抱えた。
失神寸前まで追い込まれたというのに、響子の膣はまだヒクヒクと男根を締め付けている。
子宮が精液を欲しがっているのだ。
甘美な締めに、つい射精しそうになる瞬だったが、これも耐えて再び攻撃に入った。
「あ、ああっ!? ま、待って、あなたっ……ま、まだ私……」
「まさかこれで終わりだと思ったんじゃないだろう、響子。日本にいる時だって、いつも2回
や3回は続けてしただろう?」
「で、でも、ひさしぶりでっ……す、少し休ませてくだ、さぁっ……ああっ……」
ひさしぶりの愛の交歓の余韻に浸ることも許されず、妻は再び性の頂点へ向けて走らされる。
それでも、口では抗いながらも、腰は勝手に動いている。
瞬は、腰の上下運動は妻に任せて、両手で乳房を弄んでいる。
響子が腰を弾ませるごとに、ベルトに括り出された乳房は大きくぶるんぶるんと揺さぶられて
いる。
それを鷲掴みにし、ぎゅうぎゅうと揉みしぼった。
立った乳首を指で弾くと、響子は掠れた声でよがった。
「いっ、いあっ……む、胸……か、感じますっ……いいっ……」
白く豊麗だった乳房は、夫が揉み過ぎたせいか、それとも響子本人の肉体が火照ったためか、
ほのかに桜色に染まっている。
瞬は、その大きすぎない乳首や、広すぎない乳輪が好きだった。
本人同様に控えめな乳首は、普段はやや陥没気味だが、性的な刺激を与えてやると、すぐに
恥ずかしげに顔を覗かせてくる。
それは下半身の突起も同じだ。
包皮に包まれていたクリトリスは、ほぼ完全に顔を出していた。
これも突き上げるごとにピクピクと蠢いているのが見てとれる。
瞬は、左手で乳房を揉みほぐしながら、右手をそこに伸ばした。
男女の結合部から滲み出る粘液をまとわりつかせてねっとりしているクリトリスを、瞬は指で
扱き始めた。
二本の指で摘み、クリクリとこねくる。
激烈な性的刺激に、響子はもんどり打ちそうになって喘ぎ声を放った。
「うああっ、そ、そこはあっ……そ、そこだめっ……か、感じすぎますっ……ああ、おかしく
なりそうっ……」
ピクピクと小さなダンスを踊る肉芽を摘み、擦ったり扱いたりしてやると、響子は背骨を大きく
たわませて仰け反った。
握りしめる両手の拳が白くなるほどに力が入る。
汗の浮いた裸身が跳ね、男根を飲み込んだ媚肉はきゅうきゅうと締まってくる。
クリトリスをピンと弾いてやると、それと同期して膣がきゅっと強く締まる。
「随分な乱れようだね、響子。そんなにいいのかい?」
「ああ、いいですっ……そ、そこがいいっ……あああっ……」
「普段の君からは考えられない姿だよ、響子。はしたないくらい淫らだ。恥ずかしくはないの
かい」
「ああ……は、恥ずかしい……恥ずかしいわ……ああ、でも……」
「でも?」
「で、でも、いいっ……気持ちいいんです……ああ、あなた、愛しています……」
男女の激しい交接で、寝室内は空気まで濃密になってきている。
淫液と汗の混じった淫靡な香りが充満した室内で、息絶え絶えとなりながらも響子は夫の責め
に応えていた。
乳首と淫核を同時にきゅっと指で捻るように潰すと、響子は泣き叫ぶような声を上げて達した。
「きゃああっ、そ、そんなにしたらっ……あ、もう……もう、いくうっ……!」
二度目の、いや三度目の絶頂だが、まだ瞬は許さない。
快い膣圧に締められるペニスの心地よさと、官能に堪えきれずによがり喘ぐ妻の美貌に、何度
も出しそうになりながらも懸命に堪え、ひたすら響子を責め続けた。
「い、いくっ……ああ、またいってしまいますっ……だめええっ……!」
立て続けにいかされ、響子の胎内はまるで悪性の風邪でも引き込んだかのように熱くなっていた。
膣襞が肉棒に一体化するほどに絡みつき、断続的な収縮を与えて、射精を促す。
瞬は、それを引き剥がすようにして腰を使い、響子の膣を激しく突き込み、抉った。
くたくたなのに、それでも愛撫に応えずにはいられない響子の肉体は、断末魔のように全身を
痙攣させている。
数度に及ぶ妻の絶頂シーンを見せつけられ、瞬の忍耐も限界に来ていた。
騎乗位のまま響子の腰を掴むと、最後の力を振り絞ってガシガシと腰を打ち込んでいく。
「いっ、はあああっっ……だ、だめですっ……ま、また来るっ、来ちゃうっ……あ、いく……
いきそうっ……」
「来る」だの「いく」だの、忙しくよがりつつ喘ぐ響子は、もう意識が飛んでしまいそうだ。
匂い立つような薄紅色に身体を染めて、身も心もとろけきるような官能に浸っている。
女性というよりは完全に牝として反応し、ただひたすら肉の悦楽だけを貪ってるように見えた。
今なら、自分ではなく他の誰かに抱かれてもいきそうだな、と瞬は思った。
「ああ! あ、まだいきそうですっ……い、いっちゃうっ……」
「いいんだよ、何度いっても。ほら」
「あううっ」
瞬は、響子の子宮にまで届かせようと、奥まで貫いた。
もう乳房を虐めなくとも、クリトリスを同時責めしなくとも、響子はいってしまいそうだ。
何度も何度も、迫り来る愉悦の頂点を口にし、手足に力が籠もる。
両脚の爪先は内側に屈まっていた。子宮口を亀頭で擦られ、その鮮烈とも強烈とも言い難い
感覚を受け、身体を大きくしならせ、弓ならせた。
そして全身をぶるるっと大きく震えさせ、最後の絶頂に達した。
「あっ、あなたあっ……い、いく……いきますっ……いっくうううっっ!!」
響子はガクガクガクッと大きく痙攣し、達したのを確認してから、瞬は思い切り子宮を突き上
げて、一気に射精した。
どびゅびゅっ。
どぶどぶっ。
どびゅんっ。
びゅくびゅくっ。
びゅるるっ。
「ひぃ! ああっ、な、中に熱いのがっ……い、いくっ……」
媚肉の妖しい誘いのままに、瞬は思い切り精を放った。
響子は、子宮が直接精液を受けている感覚に身震いして呻いた。
ひさびさの感触だった。
なおもドクドクと射精を続けるペニスを、響子の膣が優しく強く締め付ける。
その発射を受けるたびにいっているのか、響子の裸身は小刻みに痙攣していた。
ようやく全部を出し終えると、瞬は満足そうに男根を妻から抜き去った。
抜かれた膣は、まだだらしなく口を開け、多すぎる精液を逆流させている。
仰向けに倒れ込んだ響子は、大きく胸を上下させて荒い息を付いている。
黒いベルトで拘束されたまま犯され、気をやったしどけない姿態は、今出し終えたばかりだと
いうのに、早くもペニスに力が入ってくる。
(魔性の女だ……)
瞬は心の中でつぶやいた。
天性の娼婦のような、いわゆる「魔性の女」はいる。
だが、彼の妻のように、本人にその自覚がまったくなく、それでいて男を引きつける容貌や
姿態を持ち、その上、セックスに対する感受性も素晴らしい女は滅多にいない。
それだけに男を狂わせる。
響子こそ、本当の意味での「魔性の女」なのかも知れなかった。
瞬は、妻をさらに性的に啓蒙させるつもりだった。
一般の夫婦関係を越えたものを目指していた。
響子には、それに応えるだけの資質が充分にある。
瞬は、まだぐったりとしている響子に手を掛け、今度は裏返して、汗で光る背中に覆い被さっ
ていった。
その時、薄く開いたドアが小さく音を立てて閉じられ、ぱたぱたと廊下を走る音がした。
瞬はちらりとそちらを見たが、激しく気をやった響子は気づく余裕もなかった。
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