それを最初に見つけたのは少年だった。
そこは江戸からも遠く、近隣に人里とてない。
小さな村落だった。

のんびりとしていそうで、それでいて山里とは思えないほどの剣呑さがあった。
まず、出入り口は村にひとつしかない。
山道の突き当たりがその村だった。
丸太を幾重にも重ね、それを鉄板と鉄錨で固めた惣門は、大きく立派というよりも頑丈と
言った方が良さそうだ。
そして物見櫓がふたつもある。
この規模の集落には不釣り合いな厳重さである。
村人たちも、農夫や女子供や老人もいるのだが、どうも素人筋とは思えない身のこなしを
見せる男どもが幾人もいた。

山に生きる樵や猟師ですらその存在を知らない。
道に迷った不運な旅人が、何かの間違いで訪れることがあっても、再び出てくることは
なかった。

反幕府、徳川打倒を目指す鬼道衆の住処。
その名を鬼哭村という。


暁八ツ、丑の刻(午前二時前後)。
その少年は、物見櫓の梯子をとんとんと軽快に登っていく。

「やれやれ」

少年は、櫓で眠りこけている番人を見て軽くため息をつく。
そして無造作に男を殴った。
無論、手加減してである。

「あたっ……、てめえ、何を、って、澳継さまっ!」
「……」

ぶたれて目が覚めた男は、隣で寝ていた相棒を慌てて叩き起こした。
起こされた相棒も、目の前の少年を見てばっちりと目が覚め、そして恐縮した。

「まっ、まことに申し訳ありませぬ。どうも、つい……」
「なぁにが、「つい」だ。「つい」おまえらが居眠りして、「つい」幕府の犬どもが
ここに忍び込んできたらどうするつもりなんだよっ」
「……」

ぐうの音も出ない男どもは少年に低頭するばかりだった。
しきりに謝る男たちは壮年であり、頭を下げられているのはまだ子供である。
しかし両者の間には、手を合わせるまでもなく、圧倒的な力量の差が見てとれるのだった。

何度も頭を下げる男たちを見て、澳継と呼ばれた少年は口調を緩めて言った。

「まあいいさ。不寝番は誰だって辛いし眠くもなる。俺だってそうだ」
「はあ……」
「だが、俺たちにとって、この村にとって必要なことなんだよ。わかるな」
「ははっ。申し訳ありません」

澳継はぐるっと村内を見回した。
篝火はもうとっくに消され、村は真っ暗だ。
しかし、この少年は夜目が利くのか、目を凝らして辺りを見回した。

「……異常はないようだな」

澳継もこの村の幹部クラスで、直接このような見張りや見回りをする必要はない。
ないのだが、時々こうして監視状況を視察をするのが彼らの仕事のひとつなのだ。
澳継は床に腰を下ろし、壁に背をもたせて夜空を見上げて言った。

「あと一刻で交代が来るな。それまで……ん?」

少年は少し目を細め、空の一点を凝視している。

「なんだありゃ?」
「は?」
「あれだよ、あれ」

少年は立って、伸び上がるようにして指差して見せた。
言われて男たちも澳継の視線の先を見ようとする。
すると何かキラリと光るものがある。
他の星に比べ輝度が高く、かなり大きく見えた。

「……星じゃねえんで?」
「星が動くかよ。あ、ほらまた……」

確かに動いている。
すーっと天から下ってくるようだ。

「はあ、ですから流れ星だと」
「あんな流れ星があるか。よく見ろって」

天空から斜めに流れてきたその橙色の星は、驚いたことに途中で急停止した。
そんな流星はない。
しかも、しばらくそこで止まっていたかと思うと、今度は上昇し始めた。
澳継が息を飲んで見つめていると、まるで彼をからかうかのようにその物体はあちこちに
動いて見せた。

「ははあ。珍しい流れ星ですな。これなら願い事がいくつも言えそうだ」
「……だから流れ星じゃねえってんだろ」

* - * - * - * - * - * - * - *

翌日、明け六ツ刻(午前六時前後)。
澳継は大急ぎで村でいちばん大きな屋敷に走っていく。
息を切らせて部屋に飛び込むと、案の定、他の連中はみな揃っているようだ。

「なんだい坊や。今朝は随分とゆっくりじゃないか」

妖艶な女がねっとりした口調でからかう。
妙齢、二十代半ばから後半といったところか。
簪(かんざし)は使わず、櫛で長い髪をまとめている。
ややきつめな目つきをしているが、情は深そうだ。

わざとなのか、胸元を大胆に開けた着物を身につけている。
胸にも腰にも脂が乗りきっている感じで、その全身から色香を醸し出していた。
口元の小さなホクロからもフェロモンが漂ってきそうな女だった。

「まあ桔梗、無理もないさ。昨日、俺にやられたのがだいぶ堪えていたんだろうさ。
なあ、風祭?」
「おや、そうなのかい」

坊主頭の男の言葉に、桔梗と呼ばれた女が答えた。
少年−風祭澳継−が簡単に逆上する。

「なっ、誰がやられたんだよ! あれは稽古だ! 百戦して百勝できるわけないだろうが」
「稽古だろうが「仕合い」は「死合い」だぞ。気を抜けば死に直結する」
「だっ、だから……」
「もういい、澳継」
「はあ……」

上座に座った若い男が笑って言った。
総髪をまとめず、そのまま下ろしている。
目つきは鋭かったが、愛想が悪いという感じではない。
決して筋肉質のイメージではないが、がっちりとした体つきだ。
だがその力強さは、恐れよりは暖かみすら感じられた。
彼こそ、この鬼哭村をまとめる長である九角天戒であった。

「尚雲、桔梗、そうからかうな。澳継も昨夜は見回りだったのだ。多少の寝坊は大目に
見てやれ」

天戒にそう言われ、ふたりはすぐに言葉を引っ込める。
このようなやりとりは茶飯事なのだ。
風祭流拳法の後継者ではあるが、若干十六歳の澳継はいい意味でマスコット的存在でもある。
腕はおとな以上、しかも口も悪いし手も早い。
それでいて、見た目はまるで童顔で、くりくりしたイメージであり、実年齢よりもさらに
幼く見えてしまう。
おまけにこうしてからかわれるとすぐに逆上する。
九桐や桔梗にとって、これほどからかい甲斐のある相手はいないのだった。

その九桐尚雲は、さらに特異な存在である。
穏やかそうでいて物騒な者の多いこの村の中でもひときわ異彩を放っている。
細面で痩身。
二枚目の部類に入るであろう。

僧衣をまとい、頭は剃髪している。
見た目からして僧侶だし、本人もそう言っているが、彼を知る者はそう思っていない。
錫杖の代わりに長槍を持ち、僧衣は襷(たすき)がけ、そしてその下には鎖帷子を
着込むという、まことに戦闘的なスタイルなのである。
身のこなしも口調も軽妙で人当たりも良いが、それでいて闘争能力はこの村でも五指に
入る実力者だ。

「それで澳継、特に変わったことはなかったのだな?」

何かあれば真夜中であろうとも天戒へ注進に来るはずである。
聞いているのは、念のためだ。

「はあ……」
「なんだ、はっきりせんな」
「それがお屋形さま……」

少年は、言うべきかそれほどのことはないのか迷っているようだった。
天戒は腕を組み、先を促した。

「どうした、構わんから言ってみろ」
「はあ、実は妙な星を見まして……」
「星?」

桔梗が声を立てて笑い出した。

「それがどうかしたのかい、夜空に星があるのは当たり前さね」
「笑うなっ。俺だって最初はそう思ったさ。だけどその星は天を動き回ってるんだぜ」
「動く星?」
「そうさ。妙によく光ってる蜜柑色の星だったよ。それが流れ星みたいに流れたかと
思うと、今度は上へ向かったり急に止まったり……」
「わかった、わかった」

尚雲が苦笑しながら言った。

「よほど眠かったらしいな。多分、そりゃおまえの言う通り流れ星だろうよ」
「だから違うんだよ! 疑うならゆうべ櫓にいた下忍どもに聞いてみやがれ!」
「わかった澳継」

不毛な会話を打ち切るように天戒が言った。
少年は不満げに彼の主を見つめている。

「確かにそれは不思議な出来事だな、あとで嵐王にでも聞いてみるがいい。あの男は
大抵のことは知っている」
「……」
「だがそれはあまりこの村には関係ないだろう。で、関係のありそうなことは何も
なかったのだな?」
「はい……」
「ならよい。桔梗の方はどうだ、江戸の町の様子はどうだった。変わりないか?」

若い当主は、前日、江戸へ出向いていた女に訊いた。
横座りで崩れた姿勢だったが、それが行儀悪いようには見えない女だった。
だらしないというよりもリラックスしているように見える。
桔梗は答えた。

「ええ、特には。ただ吉原でちょいと……」
「吉原?」

桔梗は、昨日のことを思い出していた。

江戸の町を回り、買い物と情報収集を済ませた桔梗は、その帰路に吉原へ寄っていた。
徳川政権下、江戸市中に於いてただひとつの公許遊廓だった吉原には、武士や町民の
別なく人間が集まる文化や流行の発信地でもある。
そして、重職に就いた男どもが閨で洩らす情報もバカにならないものがあった。
桔梗はその吉原にも情報源がある。
吉原でも指折りの遊女と知己を結んでいるのだった。

* - * - * - * - * - * - * - *

前日の昼八ツ刻(午後二時前後)、吉原内にある遊女のたまり場的茶屋で、桔梗は
若い花魁と茶を喫していた。

「お凛ちゃん、最近の吉原はどうだい?」

お凛と呼ばれた花魁は、細長い煙管で煙草を吸い付け、まずそうに煙を吐いてから言った。

「どうもこうもありませんよ、桔梗姐さん。こう景気が悪くっちゃ干上がっちまいます」
「おやおや、お凛ちゃんほどの売れっ子遊女がそれじゃあ、江戸の不景気さは本物だねえ」

一八六六年、慶応二年。
最後の徳川将軍である慶喜が大政奉還する一年前のこの年。
尊皇、攘夷、佐幕、あらゆる主義主張が入り乱れ、志士たちが言論や力で闘争した時代。
十四代将軍・家茂が治める江戸幕府に、それらを押さえ込めるだけの力はもはやなく、
世は麻のごとく乱れた。
取り締まるはずの幕府組織までもが無法な振る舞いをし、いっそう混乱を増していた。
人心は動揺し、物価は上がり、景気は停滞した。

「まったくですよ。金払いのいい上客は減りましたねぇ。酒手を出さないどころか、まともに
遊ぶ銭もないくせにあがってくるのが増えちまって、始末屋ばかりが繁盛してますよ」

酒手とは心付け、つまりチップのことだ。

始末屋というのは、払えなくなった客から代金を回収する専門業者のことである。
その客の家まで押し掛けてまで徴収するが、それでも足りない場合は、客から衣類を含めた
持ち物一切を剥ぎ取って放り出すのである。
こういう仕事が商売として成り立ってしまうくらいの状態だったということだろう。

「あたしは面倒だから振新くらいしか付けてないけど、ぞろぞろ連れ歩ってる遊女は
たいへんでしょうねえ」

と、お凛は言った。

振新とは振袖新造の略で、つまりは遊女見習いのことである。
見世(みせ。遊廓のこと)から付けられる助手のようなもので、その遊女の妹分となる。
他にも番頭新造(マネージャーのようなもの)だの、禿(かむろ。雑用一般。遊女見習い
だが、振袖新造よりも若い女の子)だのと言ったお付きの女たちがつくのが普通だ。
お凛くらいの売れっ子となると、男衆も含めて五〜六人くらいは付くはずなのだが、
彼女はそういう取り巻きが付くのを嫌い、自由闊達に動き回っている。

それらの人件費は、なんと付けられている遊女自身が負担するのである。
おまけに日々の食事代も見世からは出ない。
食事は、付いた客が頼んでくれるものだから、ヘタに客が付かないとこれも自費になって
しまうわけだ。
これだから、正規の料金の他に心付けがないとやっていけないというのもわかる。

「大店(おおだな)の旦那衆やら、侍のお偉いさんやらはがっくり減りましたよ。
銭はないのにスケベ心だけはやたらある田舎侍やボンボンばかりで。吉原を愉しむような
粋人はめっきり見かけませんやねぇ」

吉原というのは決して現代のソープランドではない。
言ってみれば銀座の高級クラブのようなものだ。
つまり女とやるのが目的ではないのである。

ここは、男が辛い浮き世を忘れ、浮かれ遊ぶ場所なのだ。
酒を飲み、食事をし、遊女との会話を楽しみ、三味線や舞踊の芸を楽しむ。
その楽しみの中に床入りがあるというだけのことである。
言ってみれば花魁とは、話術から芸、そしてセックスまで兼ね備えた一流のエンターテナー
ということになるだろう。

従って、遊女と遊ぶことになったからと言って、それが必ずベッドインを意味するもの
ではないのだ。
もちろん、男が遊ぶのであるから大抵の場合は同衾することになるのだが、それとて
花魁が拒否すれば無理には出来ない。
もちろんそれでも料金は同じである。
ムリヤリ思いを遂げようとすれば、当然それは強姦となってしまい、商売外のこととなる。
そうなれば町奉行の世話になるのだ。

そもそも吉原の遊女は馴染みの客としか寝ない。
大げさでなく、仮初めの夫婦関係になるというわけなのだ。
これは客も同様で、馴染みの遊女以外の花魁と床入りしたりすると、それが発見された
場合には手ひどい罰を受けることになるのである。
但し、客の馴染み遊女はひとりであるが、遊女側の馴染み客とはひとりとは限らない。

「手っ取り早く女と寝たいなら、吉原へ来るよりも四宿へでも行って私娼を抱いた方が
早いからねえ」

お凛の言葉を受けて桔梗がそう言った。

幕府公許の公娼は吉原にしかいないが、独立したフリーの私娼たちが集まっているのが
江戸四宿、つまり品川宿、千住宿、板橋宿、そして内藤新宿なのだ。
当然そっちの娼婦の質は落ちるが、なにしろ安い。
格にもよるが、最安の遊女なら、現代換算で五千〜一万五千円ほどである。

お凛はまだ二十一歳と若いが、吉原でも評判の花魁で、彼女と夜を過ごすには一晩で
三分金かかる。
これは現代換算で、おおむね二〇万円以上にもなる。
上には上がいて、もっともハイランクの遊女となると、一晩あたり三〇万円を超える。
ひと月の給料くらい軽く吹っ飛ぶほどの金がかかるのだ。

それだけでなく、自分や遊女たちの食事、取り巻きも含めた心付けなどもあって、
高い花魁で遊ぶ気になると四〇〜五〇万円は平気でかかってしまうものなのである。
お殿様の吉原遊びも、度を過ぎると城が傾くと言われたのも道理だろう。

それだけに、吉原の高級遊女ともなると、それなりのプライドがあって、初見の客など
口も利いてもらえないほどだが、このお凛は珍しいくらいに気立てがよく、若い遊女
たちの面倒見も良い。
最初は情報収集のため、三味線の手直しや指導としてお凛に近づいた桔梗だったが、
あまり人間を信じない彼女も、お凛は信頼が置けると踏んでいる。

「そんなもんで、こっちは暇なもんでさ。馴染みの客も減ってますし」
「お凛ちゃんがお茶挽くようじゃ見世も困るだろうねえ」
「それはどうですかね」

お凛は笑って言った。
そしてふと思いついたように付け加える。

「そう言えば、一軒だけ千客万来の見世があるんですよ」
「ほう、どこだい?」
「それが萩原屋なんですよ。姐さん憶えてますかね、あのお葉ちゃんのいた……」
「ああ」

桔梗は、自分が関わった事件を思い出した。
お葉という哀しい遊女を中心とした幽霊騒動で、この時は龍閃組の連中にしてやられている。
忘れようとしても悔しくて忘れられない。

「その萩原屋がどうしたんだい?」
「ええ……」

なんでも、萩原屋が他の見世から遊女を引き抜いたり、新たな若い花魁を入れたりして
規模を拡大しているらしい。
それだけでなく、他の遊女の馴染み客まで一緒にものにしているようなのだ。
別に違法行為ではないので、他の見世も表だっては抗議出来ないのだが、それをいいことに
勢力を拡げているのだそうだ。

「そうかい。でもそういうことは……」
「ええ、多かれ少なかれどの見世でもやってることではあるんです。でも、おかしなこと
があるんですよ」
「それは?」
「萩原屋にも親しい遊女がいるんですが、彼女の様子がすっかり変わっちまって……」

人付き合いも気っ風もいいお凛は、若い遊女たちの相談役でもあり、仲の良い花魁も多い。
萩原屋にもいるらしいが、その友人はお凛のことをまるで相手にしなくなっているのだそうだ。

「ふうん……」
「まあこの娘だけならそういうこともあるだろうと思うんですけどね、どうもあの見世の
遊女たちはみんなそうらしいんですよ」

何だか気が抜けたというか、柳に風というか、まるでぼうっとしてしまっているのだそうだ。
ただそれは普段だけであって、客の相手をしている時は違うだろう。
客相手にそんな状態なら、大繁盛どころか見世が傾いてしまう。
よほど閨仕事が熱心なんじゃないかと桔梗は冗談半分に言った。
しかし、それを受けたお凛は生真面目さを崩さない表情で言う。

「それならそれでいいんですよ。でもね、妙なのは客の方も気抜けみたいになってるんです」
「客もだって?」
「ええ。馴染みだった遊女が声を掛けても、心ここにあらずって感じだったって話ですよ。
それどころか、萩原屋さん自身も少し……」
「主までかい……」

桔梗は、形の良い眉を少し寄せて思案したが、どうもイメージにならない。
既に冷えていた茶をまずそうに啜って、お凛に訊いてみる。

「……で、あんたはこれをどう思う?」
「どうって言われても……」

お凛は首を傾げ、困ったような顔で言いよどんだ。
その仕草が妙に可愛らしく、桔梗も思わず微笑む。

「そうですねえ……。これはあたしの感じなんですがね」
「なんでもいいよ」
「あの見世に入ったばかりの遊女とか、新しい客とかは、まだ普通だった気がするんですよ」
「というと?」
「ええ、もともとヘンだったンじゃなくって、あそこに関わるようになってからおかしく
なったんじゃないかって」
「……」
「これはウチの旦那が言ってたことなんですがね、萩原屋さんは、最近、見世同士の
寄り合いにも出て来なくなったそうなんですよ。それと遊女や客たちがおかしくなったのが、
時期的に重なってるように思うんです」
「なるほどね……」

* - * - * - * - * - * - * - *

「……ということなんですけどね」

桔梗は、前日のお凛との会話を思い出しながら天戒に語った。
黙って聞いていた三人の男たちが沈黙を破る。
九桐、そして澳継が言った。

「しかしなあ……」
「それがどうしたんだよ、桔梗。吉原でおかしな見世があるってことだけじゃないのか?」
「……」

そう言われてしまえばその通りなのだ。
目を閉じて訊いていた天戒が言う。

「それでおまえはこれをどう見るのだ?」
「ええ……」

澳継が口を挟む。

「別にどうでもいいんじゃないのか? この村に関係があるわけでもないし。なあ、九桐?」
「そうだな。よしんば、これがこないだの遊女の幽霊騒ぎみたいなことだとしても、悪さを
して江戸を混乱させてくれれば重畳極まりないと思うが。それとも、こっちに引き込むと
でも言うか?」
「そうかも知れん。桔梗はどう思うのだ」
「……」
「何か引っかかるという顔だな」

桔梗の表情を窺っていた天戒が言った。

「よし、わかった。桔梗、調べてみるがいい」
「天戒さま……」
「お屋形さまぁ、全然関係ないんじゃないっすかあ?」
「そうとは限らんさ、澳継。何がきっかけになるかわからぬ。どうせここのところ、
とっかかりがなくて手出ししないでいたのだ。桔梗が気になるというのなら他でもない。
調べてみて、我らに役立ちそうだということであれば利用する。それでいいではないか」

それを聞いた尚雲が膝を立てた。

「風祭、若の御言葉だ、従おう」
「……」
「で、どうします、若。吉原に探りを入れますか?」
「そうだな……。桔梗、手は要るか?」

当主に問いかけられた桔梗は軽く首を振った。

「いいえぇ、よろしいんですよ、あたし一人で。第一、坊主の九桐じゃ吉原に入れませんよ」

僧侶は女と交わることは固く禁じられている。
吉原通いなどが見つかった日には八丈島あたりへ島流しとなる。

「坊やも当然無理ですねえ。子供じゃあそこは入れません」
「坊やと言うなと言ってるだろっ」

実年齢でもダメなのに、見た目がローティーンに見える澳継ではまず無理だ。
年齢を偽っても、澳継のルックスでは歳を証明出来るしっかりした保証が必要になるだろう。

「まだ様子がはっきりしませんし、あたしだけで充分ですよ。なに、大事になれば一端
戻りますから」

女はそう言って笑った。

* - * - * - * - * - * - * - *

その日の朝四ツ刻(午前一〇時頃)。
桔梗は再度吉原に訪れていた。
お凛を訪ね、食事を共にして算段を練っていた。
お凛は箸を休めがちにして桔梗の様子を窺っている。

「桔梗姐さん、本当にそんなことを……」
「ああ。まずいかい? それとも、あたしは花魁には見えないかねえ?」
「いえ、そんなことはありませんよ。姐さんならどこの見世でも大喜びで引き受ける
でしょうし、登楼する客も引き手数多でしょうよ」
「おや、世辞でもうれしいこと言ってくれるじゃないか」

お凛はお世辞を言ったつもりはない。
吉原広しとはいえ、桔梗ほどの器量と三味線の腕を持った遊女はそうそういないだろう。
その美貌といい、女らしい体つきといい、どれをとっても男を魅了して止まないものだ。

それでいて、男に媚びを売るところなど微塵も感じられない。
お凛も姉御肌の気っ風いい遊女として仲間から信望を集めているが、そのお凛が姉とも
慕う桔梗なら、今すぐここでやっていけるだろう。

「でも、なにも姐さんが萩原屋に潜り込まなくても……」
「心配してくれるのは有り難いけどね、そうでもしなくちゃ真相はわからない気がするんだよ」
「……」

萩原屋という遊廓が、しきたりを破って遊女たちをかき集め、各花魁や見世の馴染み客を
奪い取っているという。
合法的だから町の寄り合いも奉行所も何も言えない。
考えてみればそれだけの話なのだ。

商売繁盛で見世の規模を拡げるのは悪いことではない。
多少強引な手を使っているようだが、そんなことはどの見世でも多かれ少なかれやって
いることだ。
従って、表だっては抗議できない。
だが、それだけに陰に籠もる。

桔梗は、何となくそれが気になった。
気に入らなかった、というのが正しいかも知れない。
桔梗はここが、吉原が好きなのだ。
派手な衣装に身を包み、男客を傅かせ、流行の最先端を行く。
その裏、彼女たちは借金に次ぐ借金で厳重に締め上げられ、最低でも一〇年の年季奉公が
明けるまで、ここから逃れることは出来ない。

客や見世との確執。
遊女同士の妬み、嫉み。
カネ、病。
愛憎渦巻く吉原に、それでも拘らずにいられない女たち。
明るく天満に振る舞い、訪れる男に至福の時を与え、自分も楽しむ。
ひとときの逢瀬に生き甲斐を求める。
桔梗は、そんなたくましい彼女たちに親近感を覚えている。
だから何とかしたかった。

萩原屋などどうなってもいい。
ただ、そこに働く遊女たちがこれ以上不幸になることだけは許せなかった。
だからその見世を探る。
調べてみて、遊女たちに影響なく、鬼道衆にプラスとなるようならそれを後押しする。
そうでなければ潰す。

従って、これは鬼道衆の、引いては天戒のため云々というよりは、桔梗本人のこだわりに近い。
だから九桐らの助力を断ったのである。

「それで、どうやって入り込むかだよねぇ」

桔梗がつぶやいた。
遊女たちは、所属する見世でがっちりガードされている。
というより縛り付けられているようなものだ。
当然、他の見世に出入りすることなどほとんどない。
有力花魁が仲の良い遊女をプライベートで自分の部屋に呼んで遊ぶ、ということも
ないわけではないが、まずあり得ない。

先述した通り、遊女は幾人もの助手や手伝いを引き連れている。
当然、自由時間も一緒である。
お凛のように身軽に動いている遊女はほとんどいないわけだ。
彼女は金魚の糞よろしく、権威を示すようにずらずらとお付きを従わせるのはイヤだった。
見世としても、お目付の意味で番頭造をつけるわけだが、売れっ子であり、信用もある
お凛には好きにさせていた。
こういう例はほとんどないのだ。

お凛は、左肘を付き、手の甲に細い顎を載せ、小首を傾げている桔梗を、女の目から見ても
美しいと思った。
意識していないだろうに、その仕草は妖艶そのものだ。

「姐さん……」

お凛は桔梗に言った。

「言おうか言うまいか迷ったんですがねぇ……」
「なんだい?」

桔梗はすっと顔をお凛に向けた。

「実は、あたし、今晩その萩原屋に呼ばれてるんですよ」
「なんだって?」

お凛は美しい顔を少し曇らせて言った。

「つい、おとついのことなんですがねぇ。初会でいきなり床入りしろって客がいたんですよ」

初会とは、その遊女と初めて顔を合わせることを言う。
安い遊女や私娼ならともかく、お凛ほどになると、初会では同席しても客は口も利いて
もらえないのが普通である。
二度目に会うと、ようやく話をしてもらえるようになり、三度め以降ではじめて「馴染み」
と認めてもらえ、仮初めの夫婦関係を結べるというシステムになっている。

当然、客は毎回そのカネを払わねばならないし、例え三度めになっても、馴染み金を支払わない
と何度通っても馴染みとして認めてもらえない。
高級遊女と懇ろになるには、途方もないカネがかかるのである。

「初会から? そりゃまた掟破りな」
「そうなんですよ。もっとも、最近はそういう吉原の決まりを知らないで遊びに来る
田舎ものが増えましたけどね」

お凛は襟元から長い煙管を取りだして刻み煙草を詰めだした。
二口ほど吸い付けると、紫煙を細く吹いて話を続けた。

「そんな無法は通らないと、こっちは断ったんですよ。だいたい、そうして口を利くこと
自体、普通ならあり得ないんですから。そしたら、旦那が部屋に入って来たんですよ」

旦那とは見世の主のことだ。

「どうも旦那とは話が通ってたみたいでしてね、「お凛、このお客様は特別だ。遊んで
やってくれ」と、こうですよ。まあうちの旦那は物わかりのいい方ですから、あまりこっちが
無理を言うのもどうかと思いましてねぇ」
「へえ」
「その客、見世や茶屋にも相当の揚げ代払ったんじゃないですかねえ。萩原屋のこともあって、
うちも苦しいみたいでしたから、それで……」
「なるほどね、じゃあお凛ちゃんにもかい?」
「ええ。大きな声じゃ言えませんが、揚げ代として三〇両もですよ。馴染み代も入ってたん
でしょうけど」
「三〇両!?」

現代換算すれば一〇〇〇万〜一五〇〇万円相当である。桔梗はポカンと口を開けた。

「そりゃまた豪気だねえ」
「まったくですよ。それで今夜も買いたいというんですが、それが萩原屋で、というのが
条件なんです」
「どういうこったい?」
「わかりません……。ただ、この話はさすがにうちの見世には通ってないようです。旦那が
聞いてたらそんなこと許すわけありませんから。で、さすがにおかしいと思って、知り合いの
遊女に聞いてみたら……」

どうも、萩原屋に引き抜かれた花魁たちも、その客に買われた後、こぞって今までの見世を
辞めたようなのだ。
つまりその男が萩原屋のスカウトなのではないか、というのがお凛の見解らしい。

「じゃあ、お凛ちゃんも引き抜こうとしているのかね」
「わかりませんが、そうじゃないかと思うんですよ」
「よほど待遇がいいのか、あるいは年季奉公を縮めてくれるのか……」
「ええ……、そういうこともあるかも知れませんが……」
「なんだい? なにか気になることがあるのかい?」

桔梗はお凛が口ごもるのを見て、先を促した。
ハキハキした彼女にしては珍しいことだ。

「……言いづらいことなんですが……」

お凛の話によると、その男は性技が抜群だったらしい。

吉原の女たちは、職業柄そう簡単に男の手管には下らない。
それも当然で、いちいちまともに男の相手をしていては身がもたないのだ。
これは現代のソープ嬢でもそうであろう。
京や大坂の娼婦は一日ひとりしか客をとらなかったからそうでもなかろうが、ここ吉原は
ふたりでも三人でも客をとった。
そのたびに感じさせられていたら、確かに身体を壊すだろう。
だから遊女は、気をやることはプロ意識に欠けるとされていた。

無論、男の前ではその演技をする。
それで早く男をいかせるわけだ。
それでいて自分はいかない。

この頃は、女が絶頂に達すると妊娠しやすいと信じられていたこともあって、遊女が気を
やるようでは「まだまだ」と言われたのだ。
なのに、お凛ほどの女がその男のセックスに溺れ、何度も気をやらされたというのだ。

「お凛ちゃんが、かい」
「恥ずかしい話なんですがね。しかも何度も何度もですよ、あんなことは生まれて初めてで」
「なるほどねぇ、じゃあ他の遊女たちもその男に惑わされて……」

そういう話が吉原内で囁かれているらしい。
話には聞いていたが、まさかあれほどだとは思わなかったとお凛は小声で言った。

「何をされたかなんて覚えちゃいないんですよ。もう最後にはくたくたで……」
「そうだったのかい……。なら、それにあたしが行けばいいんだね」
「そう来ると思いましたよ」

お凛は諦めたように小さくため息をついた。

「桔梗姐さんなら大丈夫だとは思いますが、それでも……」
「わかったよ。あたしがあんたの代わりに行くさ。でも、あんたはいいのかい?
その男に未練があったり、萩原屋へ行こうって気はないのかい」
「ありませんよ」

お凛はきっぱり言った。

「借金でがんじがらめに縛られてはいますけど、あたしはこれでも旦那に恩義を感じてま
すしね。カネじゃ他の見世に移ろうとは思いませんや。ましてそいつにメロメロにされたから、
なんて、みっともなくて」

桔梗は少し微笑んだ。
いかにもお凛らしい言いぐさである。

お凛は心配そうに桔梗の顔を覗き込む。

「どうしても行くんですか、姐さん」
「ああ、そうさせてもらうさ」
「でも、あたしじゃないとわかったら……」
「構いやしないよ、あんたの代理で来たと言うさ。なに、部屋へあがっちまえば何と
でもなる。お凛ちゃんに迷惑はかけないよ」
「……」

確かに、お凛じゃなくても桔梗なら、どんな客でも断りはすまい。
お凛は、もし桔梗が吉原にいれば、間違いなく自分以上の花魁になっているだろうと
確信している。

「わかりました……。桔梗姐さんがそこまで言うのなら」
「恩に着るよ」

それから桔梗は、お凛から待ち合わせの時間と部屋を聞き、その時に備えた。

* - * - * - * - * - * - * - *

「……」

桔梗の目の前に問題の男がいた。
お凛から聞いた通りの人相風体だった。
青いほどに色白で、痩せぎすだ。
切れ長の目は、鋭いというよりは険がある感じである。

聞いたところによると、どうもこの見世の若旦那らしい。
男は無言で桔梗を眺めていた。
桔梗が不敵に嗤って男に言った。

「どうしたい? お目当てのお凛じゃなくって拍子抜けってところかい」
「お凛はどうした」
「だから言ったろう。お凛ちゃんは具合が悪くてあたしが代理だって。それともあたし
じゃなくって振袖新造の方がよかったかい?」

桔梗はそう言って長い髪を掻き上げて見せた。
白い首筋が露わになり、腕を動かすことによって、大きく開けた胸元がいっそうに開く。
どんな男でもむしゃぶりつきたくなるほどの姿態だった。
しかし男は、まるで石でも見るかのような視線で桔梗を見下し、冷たい口調で言った。

「おまえに用はない。と言って、帰すわけにもいかぬ」
「ほう、ならどうするんだい」
「……」

男は黙って立ち上がると障子戸を開けて外へ出た。
男が出て行くと、すぐにぞろぞろと別の男どもが入ってきた。
みな一〇代後半から二〇代前半の若い男ばかりだ。
この見世の若い衆なのであろう。

この連中は、青白い若旦那とは違い血色が良かった。
一杯引っ掛けているのかも知れぬ。
桔梗は余裕の面もちで男どもに言った。

「おや、あんたたちがあたしの相手かい」
「へえ、こいつオレたちを見てもびびってねえぜ」
「大したもんだ」

若い男どもはニヤニヤしながら言った。
どうやら、こうしたことは初めてではないらしい。
中のリーダー格らしい男が嘯いた。

「なあに、これからオレたちにまわされればイヤでも泣き喚くことになるさ」
「いや、よがり狂うんじゃねえか」
「違えねえ」

からからと笑う男たちを桔梗は蔑んで見ている。
まったく、人間というやつは……。
その視線に気づいたらしい男がカッとして桔梗の襟首を掴んだ。

「生意気な目をするじゃねえか、ねえさん、え? これからどんな目に遭うのか
わかってんのか?」
「さあねえ。いい思いをさせてくれるんじゃないのかい?」
「舐めるな、アマ!!」

桔梗は、振り下ろされる男の手をはっしと掴んだ。
そのまま投げ飛ばすのも簡単だったが、それはしない。
男どもを鏖殺することも出来るが、それをやったらここまで来た意味がなくなる。
あくまで内部に侵入せねばならないのだ。
それには懐柔することだ。
言葉ではなく肉体で。

桔梗は両手で胸元をさらに開き、おもむろに人差し指を口にくわえた。
そして見せつけるように舐め回し、前後に動かしてから引き抜いた。
その男を誘う仕草で、男たちは脳をとろかされたような表情になり、無言で桔梗に
襲いかかっていった。

* - * - * - * - * - * - * - *

「ん、んむっ……うもっ……む、うぶぶ……くんっ……」

突きつけられた何本もの肉棒を、桔梗は片っ端から処理していった。
今も、両手にそれぞれ太いものを掴み、口にも一本くわえている。
男たちの相手をしてもう半刻ほど経つが、口で手だけで彼らを驚喜させていた。
口にため込まれた唾液と舌でねぶり回され奉仕されている。
唾液と唇から発せられるじゅぶじゅぶという淫音にも刺激された。

「うっ……うああっ……こ、この女ぁっ……」

男はたまらず呻いた。
舌でカリ部分をこそぐように抉られ、亀頭の尿道口に舌をたてられる。
もうそれだけで放出したくてたまらない。
小さな口なのに、太い男のものをあっさり飲み込んでいる。
まるで陰茎に巻き付いてくるかのような舌の責めに、鳥肌が立つくらいだ。

「すげえ……、並みの遊女のオマンコ以上だぜ」

桔梗の手で愛撫されている若い衆も上擦った声を上げた。
適度に柔らかい手でこねくり回され、竿も玉も揉みほぐされている。
たまに指先で、剥き出された亀頭部の先をちょんと触れられると腰が震えてくる
ような快感に襲われた。

一方の桔梗は余裕綽々である。
一端、男根から口を離すと男を見上げて言った。

「おやおや、また硬くなったねぇ。あんたもう一回出したのにまだ出るのかい」
「や、やめるなあっ……、早くくわえろっ!」
「そう焦りなさんな、何度でもいかせてやるさ」
「うああっ」

じゅるるっと、音を立てて鈴口を吸い上げた。
そこからは粘る先走り汁がとろとろと零れてきている。
桔梗はそれを吸い尽くそうとするかのように思い切り吸った。

竿をしごき、顔を何度も動かしていると、唇から男の粘液と自分の唾液が零れてくる。
その色っぽさに、待っている男どもが騒ぎ出した。

「早くしやがれ、待ってる方の身にもなれってんだ」
「わ、わかってるって……、ああ、この女っ、最高だっ」

口を責めている男ががくがくと自分から腰を使い出した。
桔梗は、手にした肉棒も順番にくわえていく。
そうして三人の男を同時に愉しませていた。
柔らかい舌先が丁寧に先っぽを舐め尽くす技に、男たちの息づかいが荒くなる。

「だっ、だめだ、もうっ」

口にくわえさせていた男が呻いて放出した。

「ん、んぐっ……んくっ……んく……」

桔梗は、やや顔をしかめたが、ためらいもせずに射精された粘液を飲み下していった。
桔梗の喉が何度も蠢くのを見て、手に握らせていた男も我慢の限界に来て言った。

「お、俺もだ、口でしろ!」
「……くん……、あいよ」

最後の一口を飲んで、最初の男から離れると、その男のものをくわえて唇責めした。
あっという間に男は気をやり、どろりとした精液を桔梗の口に放った。
吐き出される精液を残らず飲み干すと、もうひとりもくわえ、これも出させた。
桔梗はその唇を白い精液にまみれさせながら、うっとりとしたような顔で言った。

「まったく、何日ため込んでたんだい。みんなどろどろの濃いやつばかりじゃないか。
飲みづらいったらありゃしないよ」

桔梗の姿態、仕草ひとつひとつに男たちのボルテージが上がっていく。
計算されつくしたような媚態に、もう全部搾り取られたと思っていた精嚢に、またしても
精液がたまっていくのがわかる。

男たちの視線を意識して、桔梗は膝を動かした。
着物の下に肌着はつけなかった。
真っ白な太腿と、その奥に淡い翳りが覗いている。

桔梗は横座りを崩し、背をやや曲げた。
桔梗のとったしなにすっかり興奮した男たちは獣のように、そのしなやかな肢体に取り付く。
そして座っている桔梗を突き転がした。

「いたっ……、乱暴するんじゃないよ」
「う、うるさいっ。今度はちゃんとオマンコでやるんだ!」
「ふふ……、まだしたいのかい。若いねえ」

桔梗の妖艶な笑みに、若い男たちは理性を失って襲いかかっていった。


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