結局、龍斗たちは尚雲とこの件にあたることとなる。
手がかりはすぐにつかめた。
何のことはない、萩原屋に行ったのである。
それぞれが客として入り探りを入れると、あっさりと見つかったのだ。
地下などないはずのこの建物の一階に、下へ行く階段がある。
主の部屋だった。
京梧らは、敵の本拠地だと思って、充分に注意して乗り込んだのだが、彼らは拍子抜けする
ほど警戒していなかった。
所詮、地球人などどれほどのこともないという侮蔑した感情があったのに加え、仙蔵と達吉の
ふたりがいなかったからだ。
このふたり以外はただの操り人形に過ぎず、元の人間のままなのだ。
仙蔵らが側にいる時は、かなり細かい操作が可能だが、離れてしまうと最低限の行動しかとれ
ない。
それは、男衆なら接客であり、遊女たちは客の相手くらいしか出来ないということだ。
故に、三人が主の部屋に入り込み、階下へ向かったのを見ても、特に咎めもせず、見送るだけ
だった。
普段はふたりともいないということはほとんどないし、あったところでこんなところまで忍び
込むような連中はこいつらくらいだろう。
「……」
階段の下が光り輝いているのを見て、京梧が息を飲む。
どうやらここに何かありそうである。
「ここは行くしかあるまいよ」
いつ着替えたのか、槍術に長けた破戒僧はいつもの服装になっていた。
西洋風の鎖帷子を着込み、その上に法衣を纏っている。
担いでいるのは一間半ほどの槍である。
「……」
九角天戒や時諏佐百合が見たら目を剥きそうな組み合わせの三人組は、ゆっくりと下へ降りて
いった。
* - * - * - * - * - * - * - * - *
「うむっ、ううんっっ……」
またしても極太の肉茎が桔梗の女肉に突き刺さる。
そこはもうぬっとりと濡れそぼっており、難なく仙蔵の男根を受け入れた。
男は女の尻を抱えて立ち上がっている。
立位の正面座位である。
仙蔵が両手を拡げて桔梗のむちむちした尻を掴んで抱えると、桔梗の方も両手を仙蔵の首に
巻き付けた。
官能的な肉付きの太腿は、男の腰にしっかり絡ませている。
そうしないと落ちてしまうのは確かだが、それ以上に身を焦がすような快楽に酔っていた。
「うあっ……ふああっ……ぐっ、きついっ……ああっ……深いよっ……」
仙蔵が腰を弾ませるように振ると、桔梗の腰がぽんぽんと跳ね上がり、また落ちてきて男の腰
に衝突する。
すると、ぐりりっと最奥まで届き、子宮の中にまで突き刺さるようだ。
そのたびにぶるぶる震える豊満な乳房にむしゃぶりつき、べろべろと舐め回すと、木の実のよう
に硬く締まった乳首がびりびりと痺れる。
「あ、ああ……あうっ、いいっ……すごい、いいっ……」
あの気の強さはどこに行ったのかと思うほどに、桔梗は仙蔵にしがみついていた。
肉体が仙蔵の身体を覚え込まされたのか、その媚肉は熱くうねり、蜜でぬとついていた。
仙蔵は深々と桔梗に埋め込み、彼女の秘肉を存分に味わった。
桔梗に合わせるかのように息を弾ませ、激しい律動を加え続けた。
屈辱的な体位で犯され、髪を振り乱しながら、桔梗は狂ったような声で叫んだ。
「あひっ……あ、くう、いいっ……も、もっとっ……も、もっと強くっ……ああっ、いいい
いいっ……」
だが、仙蔵がほんの少し冷静であったなら、桔梗の痴態が媚態に変化していることに気づいた
かも知れない。
この妖女は、感じさせられているのは確かだが、演技もしていたのである。
初めのうちは、仙蔵のテクニックや男根の巨大さ、そしてそこから出てくる媚薬じみた成分の
せいで、いやというほど悶え狂った。
それでも仙蔵が、飽きることなく桔梗の肢体を貪るうちに、彼女の方が徐々に正気を取り戻し
ていったのである。
それでも桔梗は、男に翻弄されている振りをしていた。
経験則から、男には自分が主導権を握っていると思わせておいた方が隙が出来ることを熟知
していたからだ。
それでも、有無を言わさず濃厚な絡みを挑まれ、常人とは思えぬ性技で揉みくちゃにされ、
奥深くに男の身体を突き刺されているのだから、桔梗の方とてタダでは済まない。
成熟しきった女の性が、否応もなく彼女を官能の奈落に引きずりこもうとする。
激しいセックスで支配され、常軌を逸したような悦楽に翻弄される。
獣の本能のままに腰を揺さぶり、仙蔵の性を欲した。
溢れ出る蜜と滲んだ汗に、息も詰まりそうな濃密の匂いが混じり出す。
甘い淫靡な香りが辺りに満ち、ますます桔梗を燃え立たせた。
「お、奥……奥までちょうだい……ああ、いい……んあああっ……」
桔梗の淫らな懇願が掠れた声で絞り出される。
何度も出され、顔や身体にもかけられた濃い精液の匂いが桔梗の鼻腔に入り込むと、思考が
色欲で染め抜かれてしまう。
演技なのか肉欲の叫びなのか、自分でもわからなくなることがある。
火照りきった裸身は熱く、どこもかしこも熱を帯びていた。
胎内も、挿入した仙蔵が火傷しそうなほどに燃え盛っている。
その媚肉は、太すぎる仙蔵の男根をくわえたまま、白く濁った粘液をだらだらと垂らし続け
ていた。
ひくひくしている陰唇は、ぴったりと肉棒に張り付いている。
仙蔵はぷりぷり動く桔梗の尻を抱え直すと、さらに大きく腰を使い出した。
「ぐううっ……す、すごいよ、お、奥……お腹の奥まで届いてるっ……」
破裂しそうなほどに充血し、硬くなった肉棒が桔梗の子宮を貫いた。
凄まじい刺激を受けた子宮が胎内に甘美な痺れを送り出し、それが全身に回って桔梗は思い
切り背を弓状に曲げて喘ぐ。
「はんんっ……いいっ……し、子宮が、子宮があっ……」
包み込もうと絡みついてくる膣襞をかき分け、仙蔵は奥まで貫く。
繰り返し行われる深く重い突き込みに、桔梗は四肢を痙攣させ、喜悦とも苦悶ともつかぬ
妖しい美貌で喘ぎよがった。
自ら胸を男に差し出し、乳房を仙蔵の顔に擦り寄せる。
仙蔵もその求めに応じ、口を開いて桔梗の乳房を食べるように愛撫した。
「だっ、だめっ……また……またあ！」
「ふふ、いくのか？」
「い、いきたいっ」
桔梗は忘我の表情だったが、完全に我を忘れてもいなかった。
苛烈なほどの激しい抽送で胎内の愛液をかき回され、意識を失いそうなほどの戦慄を受け
ながら、桔梗はさらに腰を揺すった。
仙蔵も興奮していた。
もうこの女は完全に自分のものだ。
そう思うと、腰から肉棒の先にかけてぷるぷると心地よい痙攣が走った。
目敏くそれに気づいた桔梗が、甘えたようなよがり声で男にねだった。
「ああ、いいよ、あんたっ……く、いかせて……いかせとくれっ……」
「よ、よし、出してやる！」
「は、早くっ……中に……深いとこにぃっ……」
立ったまま抱きしめられた窮屈な姿勢で、仙蔵のしゃくり上げるような突き込みを受け、
桔梗の声が裏返った。
粘膜を剥ぎ取るほどの凄まじい突き込みが子宮まで襲い、先端で子宮口をこじ開けるよう
に抉られる。
仙蔵の攻撃にリズムが消え、めちゃくちゃな突き込みになった。
肉棒全体がびくびく震えている。
桔梗の腿がしっかり抱え込んだ腰も、ぶるっと震えている。
射精したくてしようがないのだ。
桔梗はとどめのよがり声をせいぜい艶っぽく喘いでみせる。
「いくっ……い、いくよっ……だ、出して、いっちゃううっっ」
「くうっ」
仙蔵が喉から苦鳴のような声を絞り出し、ねとねとの胎内に大量の精液をぶちまけた。
これまでの桔梗なら、子宮にたっぷり精を受けた快感で続けざまにいくところだが、何とか
耐えて我に返る。
きらっと目を光らせた半妖女は一気に行動に出た。
「おどきっ」
「うわっ」
その隙を突いて、桔梗が仙蔵を突き飛ばした。
射精し終えたばかりで、腰に力の入らなかった仙蔵は無様なくらいに転がされた。
男にとって、どうにもならないことがある。
それは、射精の瞬間とその直後だけは隙だらけになるということである。
もうすっかり桔梗を骨抜きにした、性の虜にしてやったという欺瞞もあったのだろう。
桔梗は少しふらつく腰を叱咤して立ち上がった。
彼女の方も、腰が抜けるほどに犯され続けたのである。
「……女。まだそんな元気があるか」
「当たり前さね。そうそうあんたみたいな変態野郎に屈するわけがないんだよ」
妖女に不敵な表情が戻ってきた。
訳の分からぬ男だが、無敵だの不死だのということではなさそうだ。
押しこくればひっくり返るただの生き物だ。
そう思い至ると桔梗にもわずかだが余裕が出てくる。
どう抗ってもムダという相手ではなさそうである。
ならば、出来うる限りの反撃をすべきだ。
それが桔梗の、鬼道衆の誇りでもある。
もともと彼らは、お話にならないくらいの少数で江戸幕府に挑んでいたのだ。
それを考えれば、桔梗と仙蔵の力の差など、どれほどのこともないだろう。
「……これは少し痛い目を見てもらう必要があるか」
「それはこっちの台詞さ」
桔梗の目の色が変わる。
彼女の裸身を薄い霧のようなオーラが覆い始めた。
それが桔梗の右手に集まり、まとわり出すと、見る見るうちに凶器を形成しだした。
二尺ほどにもなる爪だ。
美しい弧を描く鋭い爪が半妖の女を武装する。
彼女の持ち技のひとつ「凶爪」である。
「ほう」
仙蔵は感心したような、それでいて小馬鹿にしたような嘆声を出した。
「変わった術を使うな。この星の者はそういう能力を持っているか」
「どうだかね」
桔梗は返事と同時に男へ向かっていった。
全裸の男女が、素早い動きで互いの攻めをかわし、技を繰り出した。
「いああああっ！」
「むっ」
喉が裂けるほどの気合を込めて桔梗が襲いかかる。
凶爪は仙蔵ののど頸を狙って突き込まれた。
スピード、タイミング、どれを取っても満点の出来だった。
それをあっさりかわされた。
「へえ」
桔梗も素直に感嘆した。
敵の技量に感心する余裕がある。
悲壮感はない。
やれるという自信と好戦的な本能が戻りつつある。
刺し技では、そこに爪が到達する前に避けられる。
それならと彼女は、今度は横凪ぎに払って男の腹を裂こうとした。
仙蔵は、音速に近い速度で迫り来る刃爪を無造作に手で掴んだ。
「！！」
桔梗が驚く間もなく、その爪は握りつぶされた。
それは砕けることなく、煙となって仙蔵の手から燻っていた。
仙蔵は「ふん」と鼻を鳴らした。
なるほど、念を完全に物質化するわけではなく、幻影として見せるわけか。
その幻を真性と信じ込んだ者は、虚しく爪に貫かれ、切り裂かれることになるのだろう。
小賢しい、と男は思った。
ゆっくり壁際に近寄ると、そこに手を当てた。
見る間に壁が口を開け、そこに手を入れると、中から何かを取りだした。
「……」
桔梗は目を細めてそれを観察したがよくわからない。
「く」の字型の棒のようなもので、色はくすんだ銀だった。
筒先に穴が開いているところを見ると、どうやら鉄砲らしい。
短筒よりは幾分小型だ。
そういえば、亜米利加から連発式の短筒が僅かな数だが輸入されたという話も聞いた。
恐らくその類だろう。
仙蔵が銃を構えて言った。
「さ、無駄な抵抗はよせ。きさまの技など俺には通用せん」
「おや、言ってくれるねえ」
桔梗がまた手を翳すような構えを見せた時、仙蔵の銃が火を噴いた。
「あっ……！」
発砲音はしなかった。
銃を撃つときに出る大量の硝煙も火花もない。
わずかに銃口が煌めいたかと思った次の瞬間には、桔梗の腕を裂いていた。
「く……」
左腕を押さえる右手のひらから血がこぼれ落ちた。
撃たれた直後の痛みはなかった。
腕の中に何かが入り込み、それが小爆発したような感じだった。
弾けるように裂けた桔梗の腕は、いまさらのように激しい激痛がわき起こった。
「外したわけではない。今度は頭に撃ち込んでくれるぞ」
「……」
がくりと桔梗が肩を落とした。
諦めたと思った仙蔵は、口を歪めてゆっくりと彼女に歩いていく。
銃口を床に下ろした。
彼女はその時を待っていた。
カッと大きく目を開いて、両腕を天空に向けた。
それを振り下ろすと同時に叫ぶ。
「天狐炎元！！」
振り下ろした手の先から、虚空を裂くように炎の壁が現れた。
桔梗の周囲に劫火がわき起こり、あたりの酸素を一瞬にして使い切った。
「むっ……、くく、きさまっ」
仙蔵はがくりと膝をつき、苦しげに喉を押さえて呻いた。
この技は、単に相手を焼き滅ぼすだけではない。
むしろそれは余技であり、本当の効果は桔梗を中心にした炎の勢力範囲を酸欠状態にする
ことにあった。
激しく高温の火炎が一気に燃え上がる時、その周辺の酸素を一気に消費する。
その範囲にいた生物は呼吸困難と陥るのである。
現代の火炎放射器と同じであった。
戦争映画などで、洞窟に潜む敵兵に火炎放射を浴びせて焼き殺す場面がある。
が、実際は狭い洞窟内の酸素を使い切り、酸欠にして、苦しくて出てきた敵兵を他の味方が
射殺する、というのが本当のところだ。
一瞬の躊躇も出来ない。
仙蔵がうずくまったところで、自分の着物をひっつかむと桔梗は部屋を走り出た。
* - * - * - * - * - * - * - * - *
「あ、ああ、激しっ……」
達吉は挿入直後からいきなり猛烈な抽送を叩き込んだ。
藍の若い性は、まだとてもその刺激に耐えられず、すりつぶされるような悲鳴を出した。
犯される美少女は、仰向けに寝かされ、男に腰を持ち上げられていた。
その下に入り込んだ達吉が、出来るだけ深く挿入しようと腰を押しつけていた。
突き破られて間もない膣が、太すぎる男根に悲鳴を上げるが、すぐに熱くどろどろにとろ
かされる。
まるで男の突き込みを助けるかのように、藍の胎内からはじゅくじゅくと蜜があふれ出し、
硬くて大きな異物を奥へと誘うのだった。
強く激しく律動を加えられると、藍の身体ががくんがくんと大きく揺さぶられる。
その頃になると、ぶちあたる腰も襞を削られる媚肉も痛みが消え去り、膨れあがる悦楽に、
藍は喜悦と苦悶に美貌を歪めるのだった。
「ああっ、お、お願いですっ……」
「なんだ」
「も、もっとやさしく……ああっ……」
「嘘をつくな。きつく責められるのが好きなのだろうが」
「そ、そんなことは……あひっ……あ、あああっ……」
藍は達吉の責めに身を委ね、腰が衝突するごとに辺りへ蜜の飛沫が飛び散る。
小突かれ続ける子宮口は、もう真っ赤に爛れているのではないだろうか。
そうでなくとも膣内は火がついたようにカッカと熱いのだ。
男が汗にぬめる乳を掴み、乱暴に揉みしだくと藍はその腕を握りしめた。
抗う風ではない。
もっともっとと促しているかのようだった。
突き上げるたびに、ぶるんぶるんと大きく揺れ動く乳房を握り、指を沈め込ませる。
そのままぎゅうぎゅうと揉み込むと、乳輪が盛り上がり乳首が痛いほどに勃起した。
「あああっ……そんな、胸は……ああっ……」
既に充分豊かだが、十九歳という年齢を考えると、これからまだまだ大きくなり、またまろやか
になっていくのだろう。
感じすぎるのか、胸への愛撫を怖がる藍だが、達吉が許すはずもない。
ぷくりと膨れた乳首に口をつけると、容赦なく歯を立てた。
「あひっ、い、痛いっ……」
「痛くはなかろう。ちょっと歯が当たっただけだ。これで痛いというなら、それはおまえが感じ
すぎて乳首がコリコリになっているせいだ」
「そんな……。で、でも、あっ……くくっ……」
男が、藍の乳房の形が変わるほどに強く揉み込むと、彼女の声が変わった。
唇で嬲り、強く吸い上げ、口を離せば手で乱暴にこね回す。
立った乳首を指で下から上へなぞり上げると、藍は特に激しく反応した。
「そ、それっ……あ、ああ、ううんっ……あ、むむっ……」
まだ理性の欠片が残っているのか、素直に快感を口にするとこどまではいっていないようだ。
しかし、それも時間の問題だろう。
どんなに抗っても、最後には思い切り感じまくり、恥ずかしい絶頂まで見せつけてしまうのだ。
藍が胸に気を取られていると、男は下半身を責めてくる。
深いところへ叩きつけるように抉り込み、大きく腰を揺さぶった。
アゴの張ったカリで膣の襞を引っ掛けるようにして刺激する。
「だ、だめっ……こ、擦れてるっ……ああっ」
「もっと深くしてやろうか」
「やめてくださいっ」
藍は羞恥と快楽に染めた顔を恐怖に引きつらせる。
「も、もう深すぎて……ああっ……これ以上されたら、ああ……お腹が破けてしまう……
あああ……」
「なに、心配するな、女はしぶといものだ」
「そんな……あ、あううっ……」
深い挿入が繰り返され、少女は顔も汗みどろだ。
振りほどかれた黒髪が舞い、額や首筋にまとわりつき、へばりついた。
清楚であった美貌も、今ではすっかり愉悦にとろけ、ぞっとするほどの色香が漂い出していた。
恐らく意識していないであろうが、藍も腰を心もち持ち上げ、達吉のそれにくっつけている。
しかも彼の腰の動きに合わせて尻を振るようにまでなっていた。
さらに激しくなる律動に、藍は満足に呼吸すら出来なくなってくる。
「はあっ……ああ、もう、苦しい……ああ、い……はあっ……」
「苦しいか。ならば正直に言うがいい」
「い、いやです……」
「いや？ 正直に言うのがいやなのか？ つまりおまえは気持ちよくてしかたがないという
ことか？」
「……」
口に出来ることではなかったが、その通りだった。
見知らぬ男に操を奪われるなど、おぞましい以外の感情などないと思っていたのに、幾度も
犯され、貪られるように身体を奪われると、彼女の性は我慢しきれず、男の責めに順応していった。
達吉は、時に定期的に、時に深浅や強弱の変化をつけて、藍の身体に肉棒を打ち込んでいった。
とろけきり、熱い蜜を泉のようにわき出させる媚肉に怒張を抜き差ししていると、ぬちゃぬちゃ
と淫靡な水音が奏でられる。
始めは水みたいにさらさらしていた愛液は、次第に濃くなり粘着性を帯びてきた。
腿や尻を伝ってベッドに垂れていたそれは、とろりとした水たまりをいくつも作っている。
「いっ……いいっ……」
「そうだ、その調子だ」
「いいっ……き、気持ちいいですっ……ああっ……」
藍の膣は、その襞が達吉の男根にぴったりとひっつき、ざわざわと蠢いて男へ快楽を送り
込んでいる。
媚肉が擦り切れるほどの激しい抽送を難なく受け止め、もっと奥へと、そしてさらなる快感を
望んでいるかのようだった。
「うあっ……だめ、すごいっ……こ、こんなのって……あ、ああうっ……」
「もっと言え」
「ああ、いいですっ……気持ちが、いいっ」
「どこがだ」
「オ……オマンコ、いいっ……あなたの、ゴツゴツしたのが、ああっ……抉って、ますっ……
オマンコ、すごいぃぃっ……」
今までの人生であれば、一生口にしないであろう恥ずかしい言葉を藍は放った。
激しすぎる快美に、全身をわななかせて喘いだ。
その締まりのなくなった唇は、端からよだれすら流れ出した。
もう今の彼女に、あの聡明で優しかった頃の印象は消え失せていた。
そこにあるのは、ただただ肉の快楽を貪る牝に過ぎなかった。
媚肉に打ち込んでくる男の腰を、藍のたおやかな腕が抱え込んでいた。
しなやかな脚は、男の毛臑混じりの脚に絡めている。
何があっても離さないと言わんばかりに締めつけていた。
「あ、ああっ……も、もう何が何だか……いっ、いいっ……いいの……いいですっ……
オマンコ、どうにかなるっ……」
喘ぎ、よがり続ける藍の声は掠れ気味になっている。
そんな美少女をさらに追い込むべく、達吉はぬちゃぬちゃになっている腰の接触部分に手を
伸ばし、媚肉の上にある肉芽をつまみ上げた。
「あひゃあっ……」
藍は奇妙な悲鳴を上げてグンッと仰け反った。
腫れぼったくなるほどに充血していたクリトリスを武骨な指でコリコリされると、痛いほどの
快感が膣に響き胎内で炸裂し、背を抜けて頭で灼けた。
女芯をくりくりとしごき続けると、藍はたまらないように尻をふりたくり、男の背中に回した
指に力が入る。
脂汗が滲む裸体がぶるぶると震え、硬い男根をくわこんだ膣は音がするくらいにきゅっきゅっ
と締め上げてきた。
藍の甘い返礼に達吉も限界が迫る。
そろそろだと思った彼は、思い切り腰を使って最奥にまでねじ込んでやった。
「うはああっ、ふ、深い、深すぎますっ……お、奥に硬いのが……ああっ」
「そうだ、子宮を大きいので抉られて満足だろう」
藍は何のためらいもなくガクガクうなずいた。
「いいっ、いいですっ……奥が、すごいおっきいので、ああっ……削られてますっ……あ、あう
うっ、すごいぃぃっ……」
肉の快楽で全身を薄紅に染めた藍は、もう何も頭に浮かばず、ただ目前の凄まじいばかりの
快感と男の肉棒にのみ集中した。
気が狂ったかのように頭を振りたくり、よだれを垂らし、途切れることなくよがり喘ぎ続ける。
これだけの反応を見せれば、もう彼女の体力もかなり消耗してしまったろう。
男は、まるで仇のように藍の女肉を責め続け、子宮内にねじ込むように抉った。
「あ、ああ、奥が、ああっ……だ、だめ、来る！ ……来ちゃいますっ……」
「なんだ、もういくか」
「いやいやっ……」
藍は涙混じりの顔を振った。
何が「いや」なのかわからない。
凌辱者の前で、またしても絶頂してしまった姿を晒すのがいやなのか。
それとも、気をやる前の焦れるような愉悦をもっと味わいつくしたいから、まだいくのが
いやなのか。
それでも男の責めは容赦がなく、次から次へと新たな快楽を注ぎ込んでくる。
堪えても堪えても押し寄せる肉悦に、藍は叫ばずにはいられない。
達吉の背中に回した指先に力がこもり皮膚を裂く。
そして、男の腰に巻き付けた太腿が細かく痙攣し、爪先が内側にかがまった。
「だ、だめぇぇっ……来る、いっちゃうっ……い、いきそうっ……」
達吉は互いの恥毛を擦り合うかのように腰を押しつけ、子宮口を亀頭部で抉り、さらに先へ
進もうとねじ込む。
尖った先が、口を開きつつあった子宮の入り口に入り込み、その熱さとたくましさを感じた
瞬間、藍の頭が弾けた。
「いいっ、いく、いくっ……い、いきますっっ……！！」
美少女は、背骨が折れるのではないかというくらいに反り返り、腰を中心に身体中をぶるるっ
と激しく痙攣させた。
恐ろしいほどの絶頂だった。
男もそれに合わせて欲望を放出した。
子宮の中に亀頭部が入り込み、そこで思うさま射精された藍は、また大きく口を開けて達した。
「ああっ、中でっ……あ、熱くてどろどろしたのが……あ、ううん、い、いくっ……」
断続的に吐き出される精液を最奥で感じ、藍は痙攣が収まらない。
両者ともに腰を突き出し合い、男は射精の解放感を、女は子宮を精で満たされる満足感に
浸っていた。
驚くほどの量が胎内に噴き出され、その男のエキスを味わい尽くすと、少女の全身から力が
抜けた。
「ふふふ……」
熱い甘美な悦楽で、激しく上下する乳房を見て、また達吉が欲情する。
その胸肉に手を伸ばした時、男の手が止まった。
「？」
隣の様子がおかしい。
彼らはお互いに身体情報を連絡し合っている。
心拍数や呼吸などを精神感応で通知しているのだ。
仙蔵の意識が途絶えたらしい。
心拍もあるし、呼吸も弱いがあるようだ。
死んではいないようだが、異常事態には違いない。
達吉は官能にとろけた美少女を名残惜しそうに見下ろしていたが、すぐに出口に向かった。
* - * - * - * - * - * - * - * - *
「！！」
桔梗は部屋を出てすぐに、隣の部屋から出てきた別の男に出くわした。
達吉だ。
彼は目を剥いて桔梗を見た。
「な、なんだ、きさま！ 仙蔵はどうした！」
「うるさいんだよっ。邪魔するならあんたも……」
桔梗はまたしても腕を振り上げ、天狐炎元を繰り出した。
全裸でまったく油断していた達吉は、驚く間もなく炎に包まれた。
「ぎゃあああ！」
身体には火は点かなかったが、その頭に燃え広がった。
髷を結った髪は、たっぷりの椿油でまとめられていた。
そこに炎が降りかかったのだからタダでは済まない。
男は、火の点いた頭を抱えて、生ける松明のように転がった。
最後までそれを確認するまでもなく、立ち去ろうとした桔梗だが、達吉のいた部屋に別の気配が
するのに気づいた。
もしや、他にも拐かされた遊女がいるのやも知れぬ。
考えるまでもなく彼女は部屋に飛び込んだ。
「！」
例のベッドもどきの上で、若い女が寝かされていた。
この女も散々やつらに嬲られたのだろう。
確かめもせずに桔梗はその女を背負うと駆けだした。
* - * - * - * - * - * - * - * - *
「……」
もう逃げ出してだいぶ経つ。
いくら行っても先がなかった。
どこもかしこも象牙色の壁に囲まれた廊下ばかりだ。
迷路のように入り組んでいるわけではない。
基本的には一本道で、枝分かれした道はない。
くねくねと角を曲がりはしたが、迷うような道ではなかった。
なのに、いくら進んでも同じ場所のような気がする。
壁も天井も床も同じ色で、どこまで行ってもその風景は変わらないからそんな気がするのか
も知れなかった。
「ん……」
背中の少女が小さな呻き声を上げた。
桔梗はいったん止まって辺りを警戒しながら話し掛けた。
「おや、気づいたかい」
「……ここは……」
「安心おし。今、やつらから逃げてるとこさ。あんたも捕まってたんだろ？」
「はい……」
桔梗は周囲を窺いながら言った。
「どうだい、もう歩けそうかい？」
「は、はい……、すみませんでした……桔梗さん」
「！？」
自分の名を呼びかけられて驚いた桔梗は、慌てて下ろした娘を見やった。
「あ、あんた……」
「はい……。美里藍です、龍閃組の……」
桔梗は開いた口がふさがらなかった。
龍閃組を敵視することにかけては、鬼道衆の中でも最強硬派でもある桔梗が藍を助け出した
のである。
無論、その時は相手が誰かなんて考えもしなかった。
ただ、自分と同じ目に遭っていた少女を見捨てることなど思いも寄らず、無我夢中だっただけだ。
それが結果的に美里藍の命を救うことになった。
しかし彼女の口からは別の言葉が出てきた。
「……あんただと知ってたら助けるんじゃなかったよ」
「……」
「……。で、なにかい、あんたも吉原で捕まって、ここに連れ込まれたのかい」
「はい。桔梗さんも……」
「あたしのことはどうでもいいんだよ。って、何すんだい！」
「ケガを……」
藍は桔梗の左腕が大きく裂け、傷ついていることにようやく気づいた。
腕を伝った血流が指先にまで届き、そこから廊下に垂れていた。
見ると、進んできたところにポツポツと血の滴の跡があった。
「ひどいケガ……。なのに私を……」
「放っといとくれ。何度も言うけど、あんただと知ってりゃ……」
桔梗の罵りはそこで途絶えた。
肉の弾けた桔梗の傷跡に、藍が手を翳している。
そこから、ぼんやりとだが暖かい、明るいが眩しくない優しい光が放射されていた。
「癒しの光」である。
脈動に合わせてズキズキと激痛が走っていた傷口が、徐々に楽になっていくのがわかった。
どんな技なのか知らないが、止まらなかった血も固まり始め、裂け目がむず痒くなってくる。
治癒しつつあるのだ。
（この娘……）
桔梗は呆気にとられたように藍を見ていた。
敵である自分を治療している。
確かに桔梗はさっきこの小娘を助けた。
が、さっきから言っているように、それが美里藍だとわかっていれば見捨てていただろう。
なのになぜだ？
偶然とはいえ助けられたという礼のつもりなのか？
桔梗は我に返ると、少女から手を振りほどいた。
「余計なことしないどくれ！」
「……」
妖女は抱えてきた着物を黙って身につけ始めた。
そして、なぜか藍から目を外して言った。
「……さ、行くよ。もう自分で歩けるだろ？」
「……ありがとうございます」
「礼を言われることなんざしてないさ。あたしは勝手に逃げるだけだ。あんたがついてくるの
は勝手だと言ってるんだよ」
「はい」
藍の顔にも微笑が浮かんだ。
桔梗は歩きだそうとして立ち止まった。
不安そうに少女が訊く。
「……どうかしましたか？」
「素っ裸じゃ逃げにくいよ。これで良かったら着てな」
桔梗はそう言うと、自分の上っ張りを敵の女に投げてやった。
* - * - * - * - * - * - * - * - *
「……どうしたんだよ」
桔梗が後ろを振り返ると、藍が汗みずくになってかがみ込んでいた。
両手を膝について荒い呼吸をしている。
「す、少し……休ませてください……」
「ちっ」と桔梗は舌を鳴らした。
特殊な力を持っているらしいが、藍も所詮は人間の女だ。
半妖の桔梗とは体力も身体の作りも違う。
桔梗が平気でこなすことも、彼女では青息吐息なのだろう。
無論、連日連夜の激しい凌辱で体力を搾り取られていたこともあろう。
「のんびりしてるヒマはないんだよ。いつやつらが来るか知れたもんじゃない」
「……わかりました。もう、平気です……」
「……」
嘘に決まっている。
あの様子じゃ、膝が笑うほどにがくがくしてるだろうし、足首も痛むはずだ。
息も上がっている。
なのに、その澄んだ笑顔は何だ？
「……いくよ」
「はい……」
案の定、いくらも行かないうちに少女は音を上げた。
今度は膝をついてしまっている。
桔梗が振り返ると、ようやく顔を上げた藍は妖女が目を剥くようなことを言ってのけた。
「い、行ってください……」
「なんだって？」
「先に行って下さい。私は後から……」
「馬鹿お言いでないよ」
桔梗は少し腹を立てて言った。
「そのザマで、後から来られると思ってるのかい。身の程を知りな。自分の身体だ、自分が
いちばんよくわかるだろう」
「……」
「早く立ちな。時間がない」
藍はさらに半妖の女を驚かせた。
「行ってください……、このままじゃ、あなたまで……」
「……」
この小娘は、自分のせいで桔梗を巻き込むことを恐れているのだ。
「早く……。私は大丈夫ですから……あっ！？」
「強がるんじゃないよ、自分じゃ何も出来ない小娘が」
藍は自分の身体が宙に浮くのを感じた。
桔梗が藍の腰の上、腹の部分を腕で抱え込んでいるのだ。
苦もなくひょいと少女を片腕で抱えた妖女は、さも憎々しげに藍を見て言った。
「まったく、面倒ばかりかけやがって。いっそ捨ててっちまおうかね」
「桔梗さん……」
目を潤ませて見上げてくる少女から視線を外し、桔梗は足早にその場を去った。
* - * - * - * - * - * - * - * - *
「！」
いくらも進まないうちに、桔梗の脚が止まった。
ふと前を見た藍が、「ひっ」と小さく悲鳴を出した。
「……」
仙蔵と達吉だ。
どう先回りしたのか、それとも桔梗たちが同じところを延々と周回していたのかも知れない。
男たちは妙に表情を消していた。
それがまた不気味であった。
「……舐めたまねをしてくれたな」
「……あんたは下がってな」
仙蔵を睨みつけたまま、桔梗は藍を後ろに回して庇った。
「タダの女じゃないとは思っていたが、きさま何者だ？」
「そりゃこっちの台詞だね」
こうなっては逃げようもない。
かえって桔梗は度胸が据わった。
「あんたらいったい何者だい？ ……おっと、萩原屋の若旦那と下働きってのはナシにしと
くれよ、普通の人間じゃないってことくらいお見通しさ」
「この人たち……、日本人じゃありません……」
「なんだって！？ じゃあ何かい、蘭国や英吉利か、それとも清国あたりから来たってのかい？」
「……違うんです……」
「異人でもないってのかい。じゃあ……」
「よその星から来たというんです……。私もよくわかりませんが……」
「……」
信じられないという顔でこっちを見る桔梗に、薄笑いして仙蔵が言った。
「だいぶ大雑把だが、概ねそっちの若い女が言った通りだ。俺たちは……」
「日本の女を攫いに来たんです！」
藍がぶるぶる震える指で達吉を指し、糾弾するように言った。
「あ、あそこを……萩原屋さんを拠点にして女を……」
「……そうかい、そういうことかい」
桔梗の背後に、めらっとオーラが漂う。
「そこで女どもを……吉原の女たちを嬲って仕込んでから、自分の国へ連れて行くつもり
だったわけかい」
「そんなところだ。吉原は売春婦の町だと聞いていた。ところが捕まえてみたら、おまえたち
ふたりとも違うらしいな」
「……なるほどね。こいつら幕府だの何だのとは無関係だってことかい」
「そうです。私たち女を食い物にして……」
顔を伏せてつぶやいた藍を何とも言えない表情で見て、桔梗が言った。
「つまりは、今回に限ってはあたしらが敵対する意味はないってことのようだね」
「桔梗さん……」
萩原屋従業員の身体を乗っ取った男が言った。
「いずれにせよ、このふたりは生かしてもおけん。どうだ仙蔵？」
「その通りだな。具合がよかったから殺すのは惜しいが」
「……」
桔梗は、絶望するところまで行っていないが、勝てそうにないことも理解していた。
天狐炎元すら通用していない。
仙蔵は酸欠で失神し、達吉は髪を燃やされた。
しかし、どちらも決定的なダメージにはほど遠かった。
ふたりとも隙を突かれたからこその失態だったし、仙蔵もあんなミスはもう二度としないだろう。
達吉に至っては、髪が丸焼けになったはずなのに、どういうわけかまた髷を結っている。
この様子では、桔梗の繰り出す妖術の類は通用しないのだろう。
恐らく、式を放つのも意味がない。
あれも呪術の一種だから、それを信じていない者には通らない。
八方塞がりの中、桔梗は背後で震えている少女だけは護りたいと願った。
なぜそんな気持ちになったのか、彼女自身にもよくわかっていない。
「……ほほう、普段の行ないが良いと見えて大当たりのようだぞ、緋勇、蓬莱寺」
聞き慣れた声に、ハッとして桔梗が振り返った。
そこには精悍な顔つきの禿頭−九桐尚雲が立っていた。
地下へ向かう階段は、そのまま彼らの母船に直結していたようである。
地下にこんなでかいものが入るスペースはないだろうから、異次元的に空間を曲げて繋いで
いるのかも知れないが、そんなことはこの時代の京梧たちにはわからなかったし、また興味も
なかった。
「……九桐！」
「よお桔梗。どうした、連絡もしないで」
「どうもこうもあるかい。遅いよ、あんたら……って、そっちの連中は龍閃組かい！？」
ずいっと前に出てきた剣士−蓬莱寺京梧が応えた。
「龍閃組で悪かったな。……ほう、そういうおまえだってウチの美里を連れてるじゃねえか」
「……」
それまで気丈に立っていた藍は、龍斗らの顔を見て安心したのか、腰が抜けたようにへたり込んだ。
「龍斗！ 蓬莱寺さんも……」
「藍、無事か！？」
思わず駆け出そうとする緋勇を制して、尚雲がじりじり進みながら言った。
「おっと待ちな、緋勇。そういうのはいつでも出来る」
途端に藍と龍斗が真っ赤になる。
抱き合おうとでも思っていたか。
「……こっちもいろいろあってな、こうして一緒にやってる。たまには呉越同舟というのも
悪くないもんさ。そっちはどうしたんだ？」
「なに、似たようなもんさね。こいつら佐幕も反幕もない、というより人間でもないらしいよ。
取り敢えず、今回はこの娘と敵対する理由もないからね」
「なるほど、共通の敵ということか。で、こいつらは女を嬲って売り払おうとでもしていたわけか」
「ま、そんなとこのようだね」
その様子を見ていたふたりの異星人が言った。
「また闖入者のようだぞ、達吉。そんなにわかりやすいところに入り口を作ったのか？」
「そんなことはないが……。しかし、今後を考えると少し変えた方がいいかも知れんな」
「今後はない」
緋勇龍斗が冷たい声で返した。
「……」
「どこから来たか知らないが、このままで済むと思うな」
「勇ましいことだな。未開の現地人に何が出来るというのかね」
素っ裸の丁髷姿という、吹き出しそうな格好のまま仙蔵が言った。
龍斗たちのことなど意に介していないのだろう。
いつのまにか手にした例の銃を構えると、彼らに照準を合わせた。
桔梗が叫ぶ。
「気をつけな！ あれはただの鉄砲じゃないよ！」
桔梗の注意が飛ぶのと同時に、仙蔵の銃が光った。
銃口がパッと煌めくと、次の瞬間には尚雲が倒れていた。
「九桐！」
「……く……」
「九桐、平気かい！」
「か、身体が……痺れて、動かん……」
桔梗は驚いたような顔で仙蔵の銃を見た。
さっきと同じものだ。
自分があれで撃たれた時は、何か小さな弾丸が飛んできて、それが腕に食い込むと同時に
破裂した。
爆裂弾だろう。
なのに今のは、弾丸というより光のようなものが真っ直ぐ尚雲に向かって飛んできて、彼の
全身を包み込んでしまった。
パラライザーのような使い方も出来るらしい。
僅かに身体を痙攣させている坊主を見下ろして達吉が言った。
「なんだ、殺さんのか？」
「なに、こいつらも売れるんじゃないかと思ってな」
つまりホモに売ろうということらしい。
仙蔵は侵入してきた男三人を改めて見回したが、なるほど三人ともそれなりに男前のようだ。
彼にその趣味はないが、その筋の男どもには人気が出そうである。
跪いて尚雲を診ていた京梧が、ギリッと歯を鳴らして立ち上がった。
「てめえら……」
「ま、待て」
柄に手を掛けて仙蔵に向かおうとした京梧を龍斗が止めた。
相手は銃だし、それも得体が知れない。
ヘタに突っかかっても自滅だろう。
そう思ったのだが、京梧はもはや修正不能なほどに頭へ血が昇っていた。
「いくぜっ！」
「京梧っ」
刀を抜いて駆け寄る京梧の袂を龍斗が掴んだ時、仙蔵のパラライザーが光った。
「ぐあっ……」
「うっ……」
モロに閃光を浴びた京梧はたちまち行動不能となり、その身体に触れていた龍斗にも凄まじい
ほどの電撃が走った。
一瞬、頭が真っ白になったかと思うと、立っていられないほどの倦怠感と全身の痙攣で、ふたり
とも倒れ込んだ。
「龍斗っ！ 蓬莱寺さんっ！」
倒れた男たちの元へ駆け寄った桔梗と藍だったが、いち早く立ち直ったのは藍の方だった。
屈み、俯いていた美少女がすっと音もなく立ち上がった。
藍の全身を覆うように、乳白色とも銀薄色ともつかぬ、まばゆい光が発せられていた。
そばにいた鬼道衆の女は一瞬だがたじろいだ。
この半妖の女が人間相手に気圧されるなど初めてのことである。
「あ、あんた……」
か弱いばかりだと思っていた少女から放出される圧倒的な気に、桔梗は掛ける言葉すら失った。
少女の異様な雰囲気に、さすがの異星人たちも息を飲んだ。
確かに美里藍だが、さっきまでの藍とはまるで違う。
達吉に責め抜かれ、肉体的には完全に屈服し、いかせまくられたあの少女とは明らかに異なる。
彼女から後光のように放射される光には、何か物理的な力でもあるかのように、異星の男たちを
圧迫していた。
藍は厳かに口を開いた。
「あなたたち……」
「……」
「あなたたちは一体何なのですか」
人間の少女とは思えぬ、万感の重みを持った口調だった。
「女を……、人間を、己の欲望のままに弄び、意に染まぬとなれば殺す」
「……」
「人をまるで物のように扱うその所業は許せません」
「な、何を言う！」
仙蔵がようやく反応した。
「貴様たち……、貴様たちだってこの星の他の動物たちを好き放題に殺し、絶滅に追い込ん
でいるではないか！」
「仕方のないことです。それは人が生きるためのやむを得ないこと。人に限らず、生きとし
生けるものすべては、他の動物を殺し、食さねば生きられません。人間もそのことは知って
います。仏教では、それを「業」と言い、人間すべてが生まれながらに背負っている原罪と
しています」
「食うだけではないだろう。遊びで殺す者だっているはずだ」
それを聞くと藍は少し押し黙り、そしてまた口を開いた。
「……残念ながらそれは事実です。そういう人たちは諭さねばならないでしょう。しかし、
だからと言って、あなたたちが私たちを狩り、家畜のように飼うことが肯定されるわけでは
ありません！」
「だ、だが人間に狩られる動物は人間のことなどどうでもいいはずだ！ 自分たちが生きる
ことが第一だろう」
「その通りです。だからこそ、人に狩られる動物……、いえ、鳥や魚でも、最後まで抵抗し、
生きようとしています」
「……」
「だからあなたたちが私たちを食料にしようと狩るのであれば、これは仕方がないかも知れ
ません。ですが、私たちはこうして意志疎通が図れます。話し合いが出来るのです。にも
関わらず、あなたたちは問答無用で女を狩っている」
「……」
「であるならば、私たちも私たちの生を賭けて戦います。私たちに狩られる動物たちのように」
「じょ、上等だっ！」
言うが早いか、仙蔵の銃が発砲した。
目に染みるような強い光線が藍を襲う。
「あんたっ！」
藍を案じた桔梗が叫ぶ。
しかし異星人の放った光状は、藍を包み込んだ光のヴェールを貫くことは出来なかった。
「！」
「バ、バカな！」
達吉と仙蔵は狂ったようにトリガーを引いた。
パラライザーでなく、ブラスターやレーザーにも切り替えた。
しかし藍のバリアを突き破ることは適わなかった。
藍は一瞬、悲しげな瞳をしたが、すぐに思い直したように手を挙げた。
「愛の精霊の燃える翼と十二の星をもって、敵を焼き尽くせ！！」
藍の言葉とも思えぬ台詞を口にすると、そのまま手刀を下ろした。
綺麗に揃った少女の指先から、今度は凄まじいばかりの閃光が発射され、ふたりの異星人に
直撃した。
「ぐ、ぐああっ……」
ふたりもバリアで覆われてはいたが、その電磁障壁が脆くも溶け滴っていくのが見える。
恐慌に囚われた達吉が仙蔵に叫んだ。
「な、なんだ、これは！」
「エ、エネルギー反応なし！ レーザーでも核反応でもない！」
「なんだと！？ じゃ、じゃあこれは……」
皮膚が肉が、という以前に、分子レベルで身体中の細胞がひとつずつ燃やされるような苦痛。
まぶしくて目が開かぬ。
大地についている脚の感覚がなくなった。
となりの仲間の声も聞こえない。
訳が分からぬまま、ふたりの異星人は焼失、いや消失した。
「……」
「あ、あんたっ！！」
ガクリ、と力が抜けて倒れ込みそうになった藍に桔梗が走り寄って抱きかかえた。
藍は、額と言わず頬と言わず、顔中汗にまみれていた。
いや、首筋にも汗が流れ、上っ張りを通して背中もしっとりと汗で濡れているようだった。
「この娘……」
恐らく全精力を使い切ってやつらを滅ぼしたのだろう。
藍自身はまったく意識していなかったが、彼女は大技の「熾天使の紅」を使ったのだ。
龍斗や京梧を助けるという目的だけではない。
九桐や桔梗を救うため、そして仙蔵らの悪行への怒りからであった。
敵という意識を持っていないのは、今の桔梗も同じだった。
これまでなら、こんなことがあれば、敵に助けられたという屈辱に苛まれるところだろうが、
そんなことは微塵も思わなかった。
ここが好機とばかりに、目障りな敵−龍閃組を一掃しようという気にもならなかった。
ただ、倒れた目の前の少女を助けたかった。
桔梗は懐から懐紙を出し、優しく藍の顔の汗を拭いてやり、まだ呻いている仲間に言った。
「九桐！ いい加減、目を覚ましな」
「うう……」
「なに寝ぼけてんだい！」
桔梗が半覚醒状態の坊主を蹴飛ばした。
九桐は活が入ったように、ようやく半身を起こした。
「……乱暴だな、桔梗。……まだ身体の痺れが取れんのだ……」
「いいから起きな、行くよ」
「やつらはどうした？」
「あとでゆっくり説明してやるさ。ほれ、そっちの龍閃組の連中も起こしてやんな」
そこで九桐がようやく気づいた。
桔梗がおぶっているのも龍閃組の藍ではないか。
「……おまえ、何をしてるんだ？」
「ケガした女をおぶってるのさ。あんたもやつらの具合を見ておやりよ」
「……」
九桐は少し驚いている。
と同時に興味を持った。
宿敵の龍閃組を前にして、あの桔梗から殺気が抜けているではないか。
反龍閃組の急先鋒であったはずの彼女に何があったのか。
九桐の視線に何を感じたのか、桔梗はついと目を逸らせてつぶやいた。
「……今度はあたしらが助ける番さ。おかしな貸し借りを作るのはお断りだからね」
− 完 −
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