「変わったこと……ですか?」
「そ。何でもいいんだけどさ、最近の熊耳を見てて何か思い当たること、ない?」
「そう言われても……」

野明は後藤に問いかけられて考え込んだ。
二課棟二階の廊下の突き当たりにある簡易ソファの前である。
喫煙できるのは課長室を除けばそこだけだが、二課では吸う人間がほとんどいないため、大抵は
後藤が占拠している。

「別に、いつもの熊耳さんだと思いますよ。……すこぉし元気がないかな、とも思いますけど」
「……」

もともと武緒はかなり自制が出来る女性、つまりはおとなであるから、野明や遊馬などの駆け出し
警官に内面を見抜かれることはないだろう。
後藤から見ると、明らかに武緒は少し変だった。
ぼんやりしているとかそういうことではなく、何か言いたいのだけどためらっている風に見える。
思い詰めたような眼差しを向けられることもあるし、何か言いかけて言いよどむこともあった。
こういう時は無理に聞いても逆効果だ。
もしかしたら、同性の気安さということで、泉巡査あたりに何か洩らしていないかと思ったのだが、
それもないようである。
タバコをくゆらせている後藤に、20歳の若い婦警が言った。

「そういえば……」
「何かある? 何でもいい」
「つまんないことなんですが……」

野明は少し恥ずかしそうに言った。

「血管注射?」
「はあ。じゃ、ないかなあって」

更衣室で一緒に着替えている時に気が付いたらしい。
武緒の左腕、肘の内側あたりに注射跡らしいものがあった。
野明自身、先日風邪を引いて医者にかかり、解熱剤を静脈に打たれたのだそうだ。
その時、腕にぐるぐるゴム管を巻いて血管を浮かび上がらせ、そこに注射をされた。
その跡というのが赤黒く小さな点で残った。
武緒の腕を見た時、そのことを思い出したのだという。

「ふうん……」
「あたしのかかった先生が言ってたんですけど、あんまり上手じゃないお医者さんが注射する
と、その跡が青黒く残ったりするらしいんです。で、熊耳さんの腕が、ちょうどそうなってい
たんで、どこのお医者にかかってるんだろって思いまして」
「……」
「痣みたいになってたとこに、ふたつくらい注射の跡がありました。だから、熊耳さん、最近
ちょっと元気ないのは風邪気味だったからかなと思ったんですが……」

普通の警官なら、そういう注射跡を見れば「覚醒剤か」と思いを巡らすのが普通だろうが、野明
はそういう発想はなかったらしい。
まだ彼女が着任して1年しか経たない「若造」であることとともに、まさか武緒がそんなことに
手を染めてはいまい、という信頼感もあるのだろう。

「……」

後藤にも、武緒が覚醒剤をしている、あるいは打たれているという発想はあまりない。
自分から打つということはほぼ100%ないだろうし、無理に打たれているのであれば告発
するだろう。
それも一回ではなく二回以上あるらしい。
なのに黙っているというのは、人物評価として、後藤の武緒像に合わない。

* - * - * - * - * - * - * - * - *

武緒は後藤に連れられて関東第二警察病院を訪れていた。
彼女は後藤にその理由も問わず、もちろん拒むこともしなかった。
うなずいただけである。
ただ、口は開かなかった。

その時点で、後藤はほぼ確信を得ていた。
あとは確認である。
診察を終えて着替えている武緒を待っている間、後藤は診察した医師に話を聞いていた。

「……どうだった?」
「うん、薬物をやってる反応はなかったよ。後藤ちゃんの見立て通りだ」
「他には?」
「誰が注射したか知らないが、まあ素人だろうね。ヘタだったよ。それと、注射も医師が使う
ようなものじゃなくって、もっと針が短いやつだね。アンプルに針がついてるのを見たことが
あるけど、それじゃないかな。ほら、軍隊なんかで使ってるやつさ」
「で、何を打たれてたかわかる?」
「そりゃまあ、わかるけど……」

そこで医師は少し言いよどんだ。

「これはなあ。プライバシーということもあるし、言いにくいなあ」

医師は武緒をカルテを指で弾いて言った。

「どんな疾病でどんな医者にかかってたのか、なんてことまで探る権限はあんたにだってない
だろ、後藤ちゃん?」
「そうなんだけどさ、それを打ってるのは医者じゃないんだろ? さっき言ってたじゃない」
「ああ、まあ……。でも何か事情があったのかも知れないから」

そこで医師は思いついたように後藤の顔を見た。
そして声を潜めて言う。

「もしかして、なんかの犯罪絡みなの?」
「まだはっきりしたことは言えないよ。そうじゃなかったら、それこそプライバシーに関わる
もの」
「なおさら言いにくいじゃないの」
「そこを何とか教えてよ」
「いや、これは後藤ちゃんの頼みとは言え……」
「頼むよ。こないだの例の件、俺の方で何とかするからさ」
「いや、でも……それって脅迫じゃないのさ、後藤ちゃん」
「……」

少し真剣になった後藤の顔を見て、医師はため息をついた。

「……わかったよ、そんな顔するな。まあ後藤ちゃんには世話になったし、これからも……」
「何かまずいクスリだった?」
「いや、そんなことはないよ。まあ麻薬系の薬剤ではあるんだけど」
「麻薬?」
「いや、誤解しないでくれよ」

医師は大仰に手を振って否定し、辺りをこそこそと見渡して、後藤を隅っこに連れていく。

「熊耳巡査部長から検出されたのはチオペンタール・ナトリウムっていう麻酔薬」
「麻酔? なにそれ?」
「麻酔は麻酔だよ。別に珍しいものじゃなくって、そこらの病院でも全身麻酔として普通に
使ってるやつさ。ただこいつは……」

* - * - * - * - * - * - * - * - *

「こんな……こんなものが何になるの!」
「こんなものとは心外ですな」

武緒の非難に、黄瀬は肩をすくめた。

「これは国家的なものになる可能性があるんですよ」
「……国家的ですって?」

武緒は、何を大げさなと思ったが、黄瀬は大まじめである。

「従軍慰安婦の問題がありますよね」
「……」
「あれの代わりに、これが使えないかという話があるんです」

古今東西、あるいは洋の東西を問わず、戦争に於いては戦場での兵士の性処理問題というのが
つきまとう。
後方にいる将兵は、街の娼婦を買えばいいかも知れないが、第一線に出ている兵たちはそれが
出来ない。

旧日本軍はその解決策として、従軍慰安婦というものを使った。
これは、兵隊たちのいる戦場まで女性が行って、彼らのお相手をするというものだ。
中国戦線で、勝利に高揚した一部兵士たちが現地人、つまり中国人の女性を強姦するという
事件が後を絶たなかった。

これは何も旧日本軍だけの問題ではない。
アメリカ軍でもドイツ軍でも同じ問題はあった。
特にベルリンを占領した際の、ドイツ女性に対するソ連軍の蛮行は目を覆わんばかりだったと
いう。
ドイツのソ連侵略の際、似たようなことをやられているからその意趣返しということもあった
ろうが、それはそれは非道かったらしい。

まだ外国人や外国報道機関が残っていた上海でも日本兵の強姦が相次いだため、国際世論を
恐れた軍部が採った施策が従軍慰安婦なのである。
日本国内で志願者を募ってこれを充てようとしたが、当然、数が足りない。
もともと娼婦だった者なら、さほど抵抗はないだろうが、それにしたって実弾が飛び交う戦場へ
行けというのだ。
後込みするのが当然であろう。
増して、そんな経験のない素人女性が志願するはずもない。

困った軍部は、植民地−つまり朝鮮半島や台湾の女性にそれを求めた。
傀儡政権を成立させ、実効支配していた満州からも、大陸中国での占領地からも女を集めた。
自主的に応じた者もいたろうが、ほとんどは強引に連れ去られた者であろう。
ムリヤリそんなことをすれば、当然、後になって問題が生じる。
戦争に勝っても負けてもそれは同じだろう。

「そういう問題が一気に解消されるんですよ。こりゃ画期的でしょうが」
「そ、そのために私みたいな女を何人作るの!」
「多少の犠牲は勘弁してください。それで将来、大勢の男……に限らんか、女も助かるんです
から」

そこまで話すと、黄瀬は黒崎に目配せして部屋を出ていった。
今日はしないのだろうか?
それならそれでいいが、このまま終わるとは思えない。
黒崎が引き継いで言った。

「これならどんな相手とセックスしても病気の心配はない。妊娠を気にする必要もないでしょう。
理想的なセックスだと思いませんか?」
「どこがよ!」

武緒は吐き捨てるように言った。

「こんなもの、セックスじゃないわ。大げさな機械を使ってるだけで、ヘルスとかの風俗と
大差ないじゃない!」

まあ、そうである。
性行為なしで疑似セックスをしているだけだ。
オナニーだと言われても反論できまい。
しかもこれは相手がいない。
曲がりなりにもヘルスには女性がいるし、本番なしでも射精の手助けをしてくれる。

そういった反論を黒崎が崩していく。

「こいつは機械というか、ソフトがあんたの相手をしているわけだが、回線を通じて遠距離の
相手とセックスすることもできるんだよ。むしろ、そっちが主眼で開発されたところもある」
「え……」
「回線で繋がったマシンのインターフェイスを通して、相手に接触できるんだよ。あんたが今
つけてるギアとかデータ・グローブをを使ってね。男が手を動かして、相手の女の胸を揉んだり
できるし、女が口を使ってフェラも出来るんだ。無論、その感触は回線を通じて自分にも届く」

もちろん実際に相手の身体に触れるわけではないが、今の武緒のように、ヘッドギアを使って
相手の脳内にこっちの動きをデータとして送り込み、快感中枢を刺激してやるのである。
おっぱい揉んだり媚肉を舐めたりというデータや、膣に挿入されたりクリトリスをいじくられる
データを互いに送受信するわけだ。
もちろん言葉もマイクやスピーカを通じて送れる。
究極のテレフォンセックスである。

「そんなもの……」

信じられなかった。
この男たちはそんなおぞましいことを考えていたのか。
怒りにわなわなと武緒が身を震わせていると、黒崎は例のヘッドギアを彼女に見せた。
武緒はいつもよりさらに激しく抵抗した。

「いやっ……もういやよ、そんなもの!」
「そう嫌いなさんな。もし、こんな架空のものがいやだってんなら、本物を味わわせてやるさ」

黒崎は表情を殺した目で武緒を見、むずかる頭にギアを被せた。
10分もしないうちに、美貌の婦警は架空現実に囚われていく。

「ん……」

武緒の腕が胸に伸びる。
ブラウスの上から優しく揉みほぐしている。
そして右手が、恥ずかしそうに下半身へ行った。
今日は短いタイトスカートだったので、裾をたくし上げてそこから手が入っていく。
すぐに中心に触れたのか、武緒の肩ががピクンと動き、吐息がいっそう熱くなっていった。

バーチャルの凌辱セックスで反応させられ、現実世界で夢うつつのまま自慰をしている美女を
しばらく眺めていた黒崎は、上着を脱いで彼女に近づいた。
そしておもむろにヘッドギアを外した。

「……あ……」

小さく声をあげた武緒だったが、またすぐにガクリと俯いた。

* - * - * - * - * - * - * - * - *

「……本当ですか、松井さん」
「ああ」

松井は道すがら片岡に事情を説明した。
歩を止めた同僚を促すように、松井が顎をしゃくる。

「つまり人質ということですか」
「いや、そういうこともない。熊耳巡査部長自身の意志で行っているようだしな」
「じゃあ何ですか、やつらに内通している、と……」
「バカ」

松井は相手も見ずに行った。

「そんなわけあるか。事情はわからんが、言うに言えない状態だったらしい。いずれにせよ、
詳しい事情は後だ。ところで」
「はあ」
「課長には言ってないだろうな」
「そりゃまあ、松井さんに口止めされましたし。二課の連中はもちろん、別班の風杜たちにも
言ってません」
「ならいい。行くぞ」

* - * - * - * - * - * - * - * - *

「んん……」

あまりの息苦しさで武緒は目が覚めた。
腕や脚の付け根が痛い。
無理な姿勢をとらされた時のようだ。
胸も苦しい。

例の夢が覚めた時はいつも気分が悪かった。
しかし今日はまた特別である。
ようやくうっすらと開いてきた目で周囲を見、自分を見て、ようやく武緒は事態を察した。

すべて服を脱がされていた。
いつもはこんなことはない。
自分でも恥ずかしくなるほどに下着を濡らしてはいたが、着衣が乱れていたことはなかった。
あの時、もしや強姦されているのではないかと恐れていたのだが、それはなかった。

しかし今度は全裸にされている。
しかも身体をかっちりと縛られた上、天井に吊られていた。
両腕を後ろに回されて互いの肘を掴むような感じで縛られた。
おまけに片足立ちにされ、左脚の膝にロープを巻かれてそこを支点に吊られているのだった。
右脚はようやく床に着く形で、思い切り左脚を上げさせられ、いっぱいに股を開かされていた。
それだけでもつらいのに、高小手の腕もがちがちに縛られており、胸もきっちりと菱縄が掛け
られていた。

「ど、どうしてこんなに……く、きつく縛るの……」

こうまでされれば、黒崎の目的が自分の身体であることはいやでもわかる。
夢の中で身悶えさせられていた武緒を見て欲情したのか、それとも、もともとその気があった
のかわからないが、犯される覚悟はもう出来た。
いやだと言っても、この状態ではどうにもなるまい。
しかし、なんで痣がつくほどにきつく緊縛されるのかわからない。
ここまで縛らなくても、武緒の身体に自由はないのだ。黒崎は表情を消したまま答えた。

「別に。強いて言えば僕の好みだ」
「最低ね、女を縛って……この変態」

武緒の悪態も長くは続かなかった。
なにせシステムで脳内セックスをさせられ、存分に感じさせられた状態でいきなり現実に引き
戻されたのだ。
口ではどう言おうと、身体は完全に受け入れ態勢になっていた。

「……」

黒崎が武緒の裸身の廻りを巡ってジロジロと睨め回した。
なるほど、黄瀬の言い分にも一理あると思った。
黒崎は10代の若い娘専門で、あまり年を食ったタイプは守備範囲ではなかったが、こうして
見てみると、なかなかそそるものがある。
もちろんそれが熊耳武緒という上玉であることも影響している。

しかしそれを抜きにしても、10代にはないねっとりとした色気を醸し出す肉体は、見事とし
か言いようがない。
若い娘のような、水を弾かんばかりの艶やかな肌ではないが、しっとりと脂を含んだふくよかな
肌というのも、確かに捨てがたいものがある。
それに、充分に脂肪の乗った乳房と臀部の素晴らしさはどうだ。
成長過程の青い肢体、まだ硬さが残るような肉体も悪くはないが、まるで牝そのもののような
熟れた肉は獣欲を煽り立てて止まない。

着衣の時は、ブラウスを硬そうに盛り上げていた乳房は、素肌を晒されるとウソみたいに柔らか
そうだった。
丸い臀部は、スカートを脱がせ、張り付いていたショーツを剥ぎ取り、露わになる面積が多く
なるほどにムッとしたフェロモンを噴出した。
さすがの黒崎も、自分の趣味を変えたくなるほどの見事な裸体だった。

事前に内海の許可も得た。
彼自身、武緒にまったく未練がないわけではないが、武緒が彼に完全に見切りをつけていると
判断していた。
それは間違っていなかったわけだが、そこで内海としては、武緒を捕獲する必要はなく、使い
捨てて良いと黒崎に指示したわけである。
それがあっての、今回の武緒凌辱なのだ。

「く……」

武緒は、いやらしい男の目でジロジロ身体を見られる屈辱と羞恥に耐えていた。
ここで泣いたり叫んだり、ましてや怒鳴っても、黒崎は無視するか喜ぶだけだろう。
出来るだけ武緒の方が黒崎を無視するべきなのだ。
理屈でそれはわかっていたが、身体はそうはいかなかった。
このシステムを使われた脳は、現実と仮想空間の区別が出来なくなる。
武緒の脳も身体も、脳内凌辱で散々嬲られ、感応させられたところを引き戻されたのだ。
肉体はもう切ないほどになっている。
触れれば落ちそうな武緒の身体だった。

「あ……」

来た、と武緒は思った。
どうせ犯されるのだ、ならさっさと終わった方がいい。
そして、どうにか声も出さないで頑張る気だった。
もう否定する気にもならないほどに濡れた膣口に黒崎の熱いペニスが当てられると、嫌悪と
ともに、胸の奥で熱い期待も湧いた。
なのに黒崎はその先端をずらせ、武緒の蜜を掬うようにしてそのままアヌスに向かったのだ。
武緒は焦った。

「あっ、そこは……」
「何が、そこは、だ。おまえ、尻を犯される快感も充分にマスターしたはずだろう」
「!!」

もしやとは思ったが、やはり知られていた。
儚い希望だったが、黒崎らのシステムは、対象者の脳内風景までは読めないのではないかと
思っていた。
だが、彼の口調から察するに、武緒の夢の中の痴態はすべて知られていたと思うべきだろう。
白い屈辱で身が灼ける思いだったが、憤る暇もなく黒崎が責めてくる。

命じられたわけではないのに、武緒の臀部から力が抜け、黒崎の逸物をゆっくりと迎え入れ
ている。
理屈がどうこうというより、バーチャルの中で何度となく尻を犯され、どうすれば苦痛が少な
くなるのか、より快楽を得られるのか、身体の方が理解していた。
硬くなったペニスが待ちかねたようにアヌスへ潜り込み、狭い孔をかき分けるようにして腸内
に侵入していった。
たまらず武緒が忍んだ声を洩らす。

「んんっ……んぅぅ……は、はうう……」

カリがズブリと肛門に収まると、武緒はぶるっと尻を震わせた。
武緒が必死になって唇を噛んでいるのを見て、黒崎はニヤリとして徐々に腰を押し込んだ。
ぬぬっと半分ほど埋め込むと、そのまま今度は抜ける寸前まで引き抜いた。
アヌスを擦られる感触がたまらないのか、武緒は美貌を歪めて堪えている。
そこで一呼吸おいて、今度はいきなり根元まで突き込んだ。
武緒は首を仰け反らせて喘いでしまった。

「うああっ……ああ、んん〜〜〜っ……」

しまったと思ったがもう遅い。
いくら堪えようとしても、肉体は夢の中での愉悦をはっきりと記憶していた。

「あ、ああっ……あんっ……はあっ……あっ……んむっ……」

黒崎が本格的に腰を使い出した。
武緒の細腰を抱えて、ぐいぐいと突き入れていく。
突き上げられるごとに、縛り込まれた乳房も苦しげに弾み、それを揉み絞った。

太いものをくわえ込まされ軋んでいるアヌスの側で、ひくひくと物欲しげに媚肉が疼いている。
もはや恥も外聞もなくだらだらと垂れている蜜は、武緒のむちむちした腿の内側を伝って膝へ、
そしてふくらはぎにまで達していた。
それすらも黒崎にピストンされると四方へ飛び散っている。

「オマンコもびちゃびちゃだな、おねえさん。そんなにいいのか?」
「ふ、ふざけ、ああっ……こ、こんなの……くっ、ち、違うわ……あっ……」
「何が違うんだ、そんなに喘いで」
「いやっ……」

図に乗った黒崎は、さらに深く、奥を求めて肉棒で突きまくる。
上下に抜き差しするだけでなく、尻穴を拡げるように回転運動も取り入れ、アヌスを擦り、カリ
で腸内粘膜を抉るように犯した。
腰を打ち付けられ、肉棒の太い根元部分でアヌスを拡げられ、先端で奥まで突き刺されると、
武緒は喘ぎ、背を反らせて呻いた。

「ああっ!? あ、ああっ、そこっ……あ、あうう……くぁっ……」

武緒の声が変わった。
黒崎が突き込みながら、媚肉をいじり出したのだ。
中でも淫核をいびってやると、武緒はひきつるような声を上げた。
舌で白いうなじやのど頸を舐め上げ、ゆさゆさ揺れる乳房も思い切り揉み込んだ。
徐々に恍惚とした表情を浮かべてきた美女に黒崎が言った。

「どうだ、よくなってきたんだろう」
「んんっ……きつい……お、お尻がいっぱいで……ああ……」

事実、武緒は腸内というよりまさに臀部いっぱいに大きなものを埋め込まれている圧迫感に苦し
んでもいた。
夢の中であれだけ肛門セックスされたのに、現実でやられるとやはり充実感が違った。
架空の中でも快楽はあったが、こうした圧迫や膨満感は現実に優るものはない。

それでも武緒に拒否の色が失せていく。
その腰は黒崎が自在にするに任せ、揺り動かされている。
黒崎が腰を叩きつけるたびに、武緒のむっちりした臀部が当たった。
男が徐々に突き込む速度を上げていっても、武緒はそれを受け入れて、ひと突きごとに艶声を
洩らしていた。
脂の乗りきった豊かな尻が、うねうねと媚びるように蠢いている。

「んんっ……んぐううっ……あ、あう、お尻……ああっ……」

腸の深いところまで犯しに来る肉棒の感覚に、武緒はよがり泣いた。
ぬぷぬぷと淫らな音を響かせて責めているペニスを、盛んに締めつけてくるアヌスは、反射的
な動きなのか武緒自身が意識しているのかわからない。
怒り狂ったように硬く熱くなったペニスのたくましいほど張ったカリで腸壁を削られ、武緒は
唸るようなよがり声を出すようになっている。

タコの化け物に犯された時も肛門深くまで抉られたが、こうして熱いペニスで犯されるのはまた
感覚が違った。
タコほど深くまで入れられていないのに、その充実感たるやそれ以上だった。
太いだけでなく、硬くて熱い。
腸管がびっしり埋めつくされているかのようだ。
そこをムリヤリ動かされ、中をぐるぐるとかき回されて、武緒は我を忘れたような悲鳴を放った。

「だめっ!! ……ああ、そんな動いちゃ……ああっ、ふ、深いっ……んあううっ、かは、太い
……ああ……」

太い肉棒が武緒の狭い腸管を抉り、粘膜をめくれ込ませて深くまで犯す。
すぐに引き上げられて、今度は粘膜がめくれ上がった。
その感覚がわかるのか、武緒は羞恥に染まった顔で呻いた。

「ああ、いやあ……そんな激しく、ああっ……め、めくれちゃうぅ……」

露わになってくる武緒の嬌声に促されるように、黒崎の責めも激しくなっていく。
暴れ回るペニスを鎮めるかように、直腸の襞が優しくまとわりつきだした。
その感触たるや、まるで前に入れている時と変わらない。
それでいて、括約筋は本来の働きを見せ、ペニスを食いちぎらんばかりにきゅうきゅうと締めつ
ける。

「くっ……」

黒崎も射精欲が高まってくる。
抜き差しがつらくなってくると、今度は腰を押しつけたまま突き上げ、こね回すように腰を回転
させた。
口いっぱいに肉棒をくわえているアヌスは、回転させられて皺が伸びきるように抉られた。

「ひぃああっ……お、お尻、熱いっ……ああっ、あううっ……」

肛門をいいように貫かれ、どんどん高みに持ち上げられていく武緒。
奥深くまで犯されるアヌスだけでなく、クリトリスもクリクリとこねられ、乳房もぎゅうぎゅう
と揉みしだかれていく。
三種三様の快楽をいっぺんに受け、武緒の肉体は至高の悦楽でとろけていった。
身体の奥から燃え広がっていく愉悦に抗いようもなく、激しくも甘美な快楽で美女は身悶えた。

「あっ! ああっ!?」

積極的に責めを受け入れ出した武緒の声色が変わった。
熱く蠢いていたアヌスも、不規則な痙攣を始めている。
一瞬青ざめたかに見えた貌が、今度は一気に紅潮していった。

「どうした、いきたいのかな、おねえさん」
「いやっ……あ、ああっ、お尻っ……」
「お尻、お尻って、そんなにお尻がいいのかね」
「くっ……だ、だめ、いいっ……」

とろけそうな嬌声に誘われ、つい武緒の表情を覗き見た黒崎は、その愛欲に悶える美貌で一気に
我慢の限界を超えた。
ペニスを締めるアヌスの収縮もきつかった。
襞をむしり取るように、最後の突き込みを入れた。
「うああっ、ああっ……ああ、いいっ……あ、あ、あ、ああっ、あ、お尻、いく……い、いくっ
……」

強く収縮した括約筋が黒崎の性器を締め上げた。
肛門を巻き込んで抜き差しされていた肉棒を食い止めるかのような締め付けがきた。
黒崎も我慢出来ず、恥骨を擦り合わせるくらいに腰を押しつけ、もっとも深いところで射精した。

「いっ、いくっ!!」

腸の深いところで亀頭部がぐぐっと膨れあがり、ぶちまけられた熱い白濁液の感触に、武緒は
ぶるるっと腰を大きく揺すって絶頂に達した。

「あ、あう……出てる……お尻に……ああ……」

武緒はがっくりと首を後ろに倒し、後ろから責めていた黒崎にもたれかかった。
射精が終わるまで腰を振っていた黒崎は、武緒の髪の香りに、そこはかとない欲情を覚えた。
出したばかりのペニスが少しずつ固くなっていく。
黒崎は汗まみれの武緒を支えたまま、また腰を振り出した。
気をやったばかりでひくつく肛門は、ピストンされると、ペニスとの隙間から少しずつ粘液を
零していた。
黒崎に、いやというほど出された精液と、武緒が分泌した腸液のミックスだ。

「ん……ああ……」

武緒の身体がまたもぞもぞと蠢き出した。
半勃ちのペニスとはいえ、徐々に硬くなってきているもので、まだアヌスを貫かれているのだ。
腫れぼったくなっているアヌスは驚くほどの耐性と柔軟性を見せ、無理なく太いものを飲み
込んでいた。

「ああ……また……」

アヌスを続けて犯されるのかと思った武緒が呻いた。
排泄器官を犯される屈辱と、それで気をやる羞恥と汚辱でどうにかなりそうだったが、身体は
満足していた。
ぬぷぬぷと相変わらず律動しているペニスを、愛おしそうに肛門がくわえていた。

「……あっ……」

アヌスで、だいぶ硬度を取り戻したペニスが引き抜かれると、武緒のヒップが慌てたように
追いかけていく。
武緒はもう、その行為が恥と思えるほどの理性が失せている。
いや、その精神はまだ正常だし、価値判断も出来た。
しかし、それと肉体的欲求とはまた別だということなのだろう。
黒崎は相変わらず武緒の乳を揉みながら、その耳元で言った。

「そうがっつくな。今度は別のところにくれてやる」
「あっ……」

熱いものが媚肉に触れる感触に、武緒の肉が歓喜の声を上げる。
黒崎のペニスが秘裂を割って、その中に入り込んでいった。
その重苦しいほどの充実感に、武緒は目眩がするようだった。

「んんっ……は、入って……くる! ああ……」

中が押し広げられていく。
膣口から膣道まで同じ太さでこじ開けられて息が詰まりそうなほどだ。
あれだけ濡れそぼってぬるぬるしていたというのに、黒崎の肉棒を飲み込んだ媚肉は、みっちり
と隙間がないほどだ。

「く……す、すご……ああ、ひ、広がってる……」

肛門でとはいえ、ついさっき絶頂に達した肢体はひどく鋭敏になっていた。
入れられただけで気をやりそうになる。
細かく痙攣し、あうあうと喘いでいる武緒の腰を固定すると、黒崎はゆっくりと、しかし深く
まで突き上げていった。
太くて長いものが、みっしり詰まった媚肉をこじ開けていく。
なのに黒崎は、円を描くように腰を回して、さらにその媚肉を拡げるよう試みていった。

「だ、だめ、ああ……そんなに拡げちゃあ……きつい……んんっ……」

下から突き上げていると、そのさらに奥から蜜が滲んでくるのがわかる。
愛液が膣の分泌点から、直接ペニスに降りかかるのだ。
その頃になると、太い肉棒をくわえさせられて苦しそうに喘いでいた媚肉も和らいでくる。
黒崎はそれを見計らって、淫蜜をペニスに絡めるようにして内壁を抉っていった。
黒崎が腰を密着させていちばん深くまで埋め込むと、どうにか子宮にまで届く。
出来るだけ腰を使い、深くまで押し込んで子宮を突き上げていくと、武緒は掠れるような喘ぎを
あげてよがりだした。

「ああっ……ああ、いいっ……お腹にっ、当たってるっ……いいっ……」

今の武緒は警官でも女でもなかった。
性に狂う牝だということは、本人がいちばんよくわかっていた。
そう思うことで精神の均衡を何とか保っていたのだ。

警察官である自分が、敵に捕らわれて犯され、あろうことか快感を得てしまっている。
そんなことは許せない。
しかし今の自分はタダの牝であり肉の奴隷だ。
ならば感じるのもやむを得ない。

武緒はそう割り切ると、いっそうセックスにのめり込んでいった。
腰使いも積極的になり、愉悦を貪るために身体を使った。
黒崎の突き立ててくるペニスが愛おしいとすら思うようになっている。

「はう、はああっ……くううっ、いいっ……あう、奥まで届いてる……ふ、太いぃっ……」

武緒の子宮が下がってきた。
身体は完全に受胎モードで、子種を求めて、より膣口に近づいている。
責める黒崎もそれがわかるのか、ガチガチに硬くなった肉棒で子宮口をこづき回した。
エラの張った亀頭部で内壁を抉り、襞をこそぐ。
逃がさないように収縮する胎内から引き抜くようにこねくる。

自ら快感が高まり、子宮が降りだしたところで、黒崎の責めが激しくなって、武緒は一気に
駆け上がりたくなる。

「ああ、いやっ……そ、そんなに激しくしちゃ、ああっ……ま、また、ああっ」
「またいくのか、おねえさん」
「いっ、いくっ……」

武緒はあられもなくうなずいた。
誤魔化そうとか否定しようとかいう気にもなれない。ただただ肉の悦楽を求め続けた。

「あ、ああっ……あ、あ、もうっ……もうホントにだめっ……あ、あひっ……い、いく、いき
そうっ……」

黒崎は、乳房をぐりぐりと揉み込んでいた両手を腰に回し、がっしりと掴むと、武緒のもっとも
深いところまで突き上げ、肉棒の先で子宮口をこじ開けようとした。

「んんっ……んぐぅっ……ふ、深すぎるっ……我慢できないっ……」

激しすぎる悦楽におののき、受け身に回っていた武緒も、その刺激に慣れてくると、腰を黒崎
に押しつけてきた。

黒崎はそれを利用して腰を押しつけていく。
ピストン運動は一時中止して、武緒の尻を潰すほどに密着してゴリゴリと最奥をなぞってやる。
口を開け始めた子宮口に直接押しつけられた亀頭は火がつきそうなほど熱く、粘液でとろけて
いた。
その熱さに痺れ、武緒はぶるぶると首を振ってよがった。
黒崎は巧みに腰を使い、いきそうになる武緒を寸前で徘徊させた。

「いいっ……い、いっちゃう、ああ……いいっ……」

武緒は、子宮に直接感じさせられている肉悦に酔い痴れていた。
締まりのなくなった口元からよだれが垂れ始める頃になると、黒崎は一転、大きく腰を打ち込
み出した。
それもただ抜き差しするだけでなく、奥まで突き込むと、抜く前にそのままゆさゆさと胎内で
ペニスを揺さぶり、武緒に嬌声を充分あげさせてから一気に引き抜く。
太い棹の部分で散々襞を擦られ、今度は高速で引き抜かれて削り取られる。
小突かれ続ける子宮口も、開いた箇所が腫れぼったくなってきていた。

「深い、ああっ……か、硬くて、ああ……太いのが、ああ、奥まで来てるっ……あ、またいくう、
ホントにいくっ……」

武緒のよがり声に余裕がなくなり、肉棒を埋め込んだ膣も熱く、痙攣してきた。
その締め付けは黒崎の限界を超えそうになる。
武緒の、肉の快楽に呻き、喘ぎよがっている悶えの表情を見ると、もう我慢ができなくなった。

「よ、よし、出してやるぞ、おねえさん」
「ひっ、いやっ……」

熱い肉の欲望に溺れきっていた武緒に、一瞬正気が戻った。
膣内射精される。
冗談ではない。
今までのように、バーチャルの世界なら、いくら中出しされても孕むことはない。
それに、さっきのようにアヌスを犯されて出されても問題はない。
百歩譲って咥内射精され、それを飲めと言われても甘んじて従う。
しかし、現実で避妊なしのナマ出しだけはダメだ。
これだけ生き恥をかかされた上、孕まされてしまったら生きていけない。
武緒は必死になって懇願した。

「だめっ……ああ、中はいや……」
「ウソつけ。システムの中じゃ、あれだけよがっていただろうに」
「だ、だからあれはっ……ああ、本当に出すのはだめよ、ああっ……」
「それがそうもいかない。僕ももう限界だ」
「そんな、いや抜いてぇっ」

嫌がってもがく武緒の腰を抑え、黒崎は続けて律動を加えていく。
肉はとろけきり、明らかに絶頂に達することを望んでいるものの、わずかに残った武緒の理性
が妊娠だけは否定していた。

黒崎はそんなものは気にもかけなかった。
どうせ最後は殺す女である。
好き放題犯した挙げ句、始末する。
どうせなら、拷問にでもかけて殺して撮影するという手もある。
美貌の制服警官をレイプし、拷問した挙げ句殺害するというスナッフ・ムービーにすれば大評判
になるだろう。

「ああ、いいっ……あ、膣内はいや……中だけはやめてぇっ……」
「そんなにイヤか。じゃあ、他ならいいのか」

それを聞いた武緒は縋るような顔で盛んに頷いた。

「ああ……ほ、他は何をしてもいいから……お願い、中だけは……」
「じゃあ、尻を犯して腸に出してもいいし、口に出して飲み干すのもいいんだな」
「そんな……」
「いやならこのまま中出しだ」
「いやっ……」

武緒は、重く深く貫いてくる肉棒の愉悦に陶然としながらも抗った。

「なら、自分からそう言え」
「え……」
「出されたくなかったら言うんだ」
「ああ……」

屈辱の言葉を吐かねばならなくなった。
しかし断れば最悪の結果が待っている。

「お、お尻……」
「ん?」
「お、お尻になら……だ、出してもいいから……口でもいいから……ま、前はやめて……」
「そんな言い方があるか。ちゃんとどこに出して欲しいか言え」
「あ、あうう、深いっ……あ、ああ……おし、お尻に出して……く、口の中に出して……ちゃ、
ちゃんと全部飲むから……ああ……」

奥深くまで抉られ、子宮を虐められる快楽に酔いながら、武緒は恥辱の言葉を口にした。
黒崎は満足したようにニヤッとしたが、律動はやめなかった。
それどころか、さらに激しく、武緒の腰が壊れるくらい強烈な突き込みを行なった。

「ああっ!? だ、だめ、そっちは……ああっ、や、約束がっ、ああっ、ち、違うわっ」
「僕もそうしたかったんですがね、もう我慢できそうにない」
「そんな、ああっ」

黒崎は、もうこみ上げてくる射精感を我慢しようとも思わず、武緒に腰をぶつけていった。
恥骨同士がゴツゴツと激しく接触するほど強く打ち込み、自分も武緒も追い込んでいく。

「ああっ、だめ深くてだめえっ……だ、出さないで、お願いっ……中はだめえっ……」
「出るっ、もう出るぞっ」
「いやいやっ……あ、あ、ああっ、い、いく……は、激し過ぎるっ……あ、もう、だめっ、
いっくうううっっ……!!」

武緒がその日最大の絶頂に達したのを確認し、黒崎は思いきり腰を突きだして肉壷を串刺しに
した。
その瞬間、武緒の腰を掴み、完全に開いていた子宮口に亀頭部を密着させると、思う存分精液
を放射した。

どびゅるうっ。
どびゅっ。
びゅるるっ。
びゅくっ。
びゅるっ。
びゅびゅっ。

「うっはああっ、いくうっ……」

続けざまに気をやった武緒は、盛んに膣を収縮させて、黒崎のペニスを絞り上げた。
そのたびに射精の発作が襲い、黒崎は快楽に顔をしかめて腰を押しやった。
びゅくっと、精液が子宮にひっかかり、内部に入り込むたびに、武緒はビクン、ビクンと大きく
痙攣してよがり続けた。

「はうう……ああ、出てる……お、奥に当たって……熱いのがいっぱい……ああ、ひどい……
こんなに出されたら妊娠してしまう……」

そう言いながらも、武緒の子宮口はひくひくと収縮して、中に入り込んだ亀頭を締めてくる。
尿道に残った残滓まで搾り取られ、その快感で黒崎は呻いた。
それでも、まだ硬いままのペニスを使って、白濁でどろどろになった胎内をかき回すように動か
した。
武緒の膣内は、黒崎の穢れた精液をぬりつけられていった。

「あうう……」

長かった射精が終わり、肉棒を引き抜くと、武緒はぷるるっと細かく痙攣した。
上から覗き込んだその美貌はすっかり肉悦でとろけきり、潤んだ瞳を凌辱者に向けていた。
それを見ているだけで再度欲情してきた黒崎は、淫らな快楽で痺れきっていた武緒の唇を貪る
ように激しく吸い上げていった。

* - * - * - * - * - * - * - * - *

ドンドンドン!と無遠慮なノックが響いた時、まだ黒崎は半裸だった。
まだぐったりしている武緒を見下ろしながらベッドから降りると、そのままの格好でドアを
開けた。
途端に扉を開け放ったのは黄瀬だった。
黒崎の姿を見るなり怒鳴りつけた。

「こんな時に何やってんです、あんた!」
「なんだ、どうした?」
「サツです! 手入れですよ!」
「何だと!? いったいなぜ……」
「知るか! 大方、その女が……」
「そんなことあるか。麻酔訊問してるんだ、ウソをつけば……」
「んなこたあ、どうでもいい! とにかくずらかるしかない!」
「もう突入してるのか?」
「いや、今はフロントで持ち堪えてる。刑事がふたり来て、あんたの名前を出して捜索すると
言ってる」
「れ、礼状は?」
「知りませんよ! と、とにかく早く……」

黄瀬はそう言い捨てると、他の客室に飛んでいった。
今、システムを使っている客を強制的に呼び戻して、さっさとここから逃がさないとえらいこと
になる。
そしてすぐにマシンのメモリを消去することだ。

「……あなたたちもここまでよ」
「あんた……」

足腰が立たないくらいに犯されていた武緒が、いつのまにかスリップを身につけて部屋の隅に
行っていた。
黒崎は壁に掛かっていた自分のジャケットから小型の拳銃を取り出した。

「まさか、あんたが裏切るとはな」
「裏切ってなんかいないわ、見くびらないで」

武緒は、黒崎の構える銃を睨みながら言った。

「思い上がらないで欲しいわね。最初っからあなたたちについているわけじゃないわ。私は警官
なのよ」
「……」

有能な婦警は、自分のバッグをまさぐると、やはり拳銃を出した。

「こいつは……。迂闊だったな」
「そのようね」

麻酔分析の効果を信じ切っていた黒崎は、二回目以降、武緒のボディチェックは行なっていない。
何か企んでいれば、麻酔誘導訊問ですぐにバレるのだ。
なぜだ。
武緒が警察に何か言えばすぐわかるはずだ。
ウソはつけないはずだ。
黒崎の動揺がわかるのか、武緒は幾分余裕を取り戻した口調で言った。

「納得いかないようね、黒崎クン」
「……」

武緒は、後藤にすべてを打ち明けている。
打ち明けてはいるが、何も喋ってはいないのだ。
つまり筆記で後藤に実情を伝えたのである。

このことに気づいたのはついこないだで、武緒自身、それで誤魔化せるかどうか自信はなかった。
しかし存外うまくいった。
黒崎はいつも「警察や上司にこのことを『喋ったか』」と聞いてきたのであり、それ以外ではない。
だからメモ書きにして渡したのである。
もし黒崎が、上司に伝えたのかと聞いていればバレた公算もあった。
何が幸いするかわからない。

後藤は泉巡査から武緒の注射痕のことを聞き出し、そこから推察して麻酔分析に至ったのだ。
病院に連れて行かれた時点で、武緒は後藤が大まかな事象をわかってくれたと思い、そこでメモ
書きを渡したのである。
事実を知った後藤は、武緒に対し軽く頷いただけで指示を与えた。

「このままバレていない振りをして現場へ行ってくれ。その後、松井刑事たちが突入する」、と。
あうんの呼吸というやつである。

正直言って、今日ここを訪れた時は武緒にも一抹の不安はあった。
「言っていない」のは事実だが、筆記して伝えたことがバレない保証はないと思っていたからだ。
実際は効果覿面で、見事に黒崎たちは引っかかった。

「こんなことをして……。課長に会えなくていいんですか」

それを聞いて武緒はふっと笑った。

「あなた、なぜ私がリチャードに会いたいのかわからなかったの?」
「……」
「私はね」

武緒は、ぐっと足を開いて踏ん張るようにして黒崎に対峙した。
彼に見せつけるようにして、シグのスライドを引く。

「もう一度リチャードに会ったら、あのにやにやした顔をどうしても一発張り飛ばしてやりた
かったのよ!」
「あんた……」
「そうすればあの自信家は、目を白黒してひっくり返るでしょうね。そこを立ち上がらせて手錠
をかけて、松井さんたちに突き出すつもりだったのよ」
「……」
「そんなこともわからないなんて、黒崎クンもまだまだ人生勉強が足りないようね」

そこまで言われた黒崎は、ギリッと音を立てて奥歯を噛みしめた。
どす黒い血が首から上に集まってきているようで、顔が紅潮していく。

「その銃を捨てろ」
「あら、なぜ? 捨てるのはそっちでしょう」
「ここで撃ち合いでもするのか」
「それも一興だわね。もう下は警察が包囲してるのに銃撃戦なんかやったらどうなると思うの」
「包囲? ふざけるな、来ているのは刑事ふたり……」
「バカね」

武緒はおかしそうに笑った。

「あなたやリチャードは、グリフォン事件やそれに絡む人身売買事件の最重要容疑者なのよ。
あちこちで暴れ回っただけじゃなく、陸自のレイバーや警察のレイバーまで破壊した挙げ句、
特車二課……警察を襲撃するなんてナメたマネしてくれたわけよ。そんな犯人がいるのに、
刑事がたったふたりだけで手入れに来ると思うの?」
「……」

実のところ、これは武緒のハッタリである。
後藤は詳しく話さなかったが(それは当然で、ヘタなことを武緒に言えば、麻酔分析で黒崎らに
バレるかも知れないからだ)、恐らく最初に来るのは松井くらいだろう。
なにせ武緒から採った情報はそのまま上層部に上げられる類のものではないし、そんなことを
したら彼女の命取りになりかねない。
その辺の事情をくんで、恐らく後藤と松井は、はっきりとした証拠が出ない限り、大がかりな
捜査はしないはずである。
それは彼女にもわかったから、こうした脅しをかけるわけだ。

黒崎は焦った。
もう時間がない。
早く逃げ出さねばならない。
もう証拠隠滅をどうこう言っている場合ではないのだ。
唯一最大の証拠物件だけ始末して、あとは高飛びである。
その証拠物件がまた部屋に飛び込んできた。

「黒崎さん、何してる! あ……」

黄瀬は、黒崎と武緒が銃口を向け合って凝固している場面に出くわし、息を飲んだ。
黒崎は落ち着いた声で訊いた。

「客はどうした、黄瀬さん」
「もう客はみんな帰した。メモリも消せる分はみんな消去した。念のため、マシンはぶっ壊した
方がいいと思うが……」
「そうか」

それを聞いた黒崎は、武緒に向けていた銃口をそのまま黄瀬に向けた。
仲間に銃を突きつけられた黄瀬は唖然として言った。

「あ、あんた、黒崎さん、何を……」
「客は帰した。データは消した。となると、あと残った証拠はあんたとそこのおねえさんだけだ」
「え……ぐあっ!」

黒崎はためらわずトリガーを引いた。
左胸に二発受けた黄瀬は、撃たれたことが信じられないという表情のまま、床にくずおれていった。

「黒崎っ!」

黒崎が黄瀬を撃った瞬間、武緒も反応し、一発放った。
殺すつもりはなかったので、銃を持った腕を狙ったのだが、これは外れた。
黒崎もすぐに身を伏せて撃ち返した。
互いの距離が5メートルほどしかない至近距離の撃ち合いだ。
黒崎、武緒ともに二発づつ撃った。

武緒の銃弾は黒崎の右肩を貫いていた。
一方、黒崎は武緒の拳銃を吹き飛ばしていた。
黒崎は撃たれた右肩から、武緒は右手からそれぞれ出血している。
黒崎は利き腕の肩を貫通されていたが、まだ銃は持っていた。
武緒の方は拳銃を弾き飛ばされている。
手のひらから出血はしていたが、これは銃に弾丸が当たって弾かれた時、グリップで傷つけた
もので銃創ではない。
ケガの程度としては武緒の方が圧倒的に軽かったが、武器を持っているのは黒崎である。
勝利を確信した黒崎が銃口を武緒に向けた時、ドカドカと荒げた靴音が響いてきた。

「!」

それに気づいたのか、黒崎は一瞬ドアの外を見た。小太りの刑事が走ってきている。

「ちっ」

黒崎は舌打ちして、武緒には目もくれず逃げ去っていった。

「待て、黒崎!!」

松井ではない、若い男の声がする。
同僚の刑事なのだろう。
その男が黒崎の後を追って走り去った後、ずんぐりした松井が部屋に飛び込んできた。

「熊耳さん、無事か!?」

* - * - * - * - * - * - * - * - *

「でもまあ、連中の言ってたことも当たってるところはあってね」

後藤は隊長室に武緒を呼んでいた。

「軍用というか、兵隊用のそういうシステムってのは必要かも知れないんだよね」
「……」
「その他にもあるんだよ。ほら、南極何号とかって知らない?」
「はあ……」

武緒にはというか、女性には答えにくい質問である。

極地へ派遣された観測員たちの性処理の問題があった。
当時は女性隊員などほとんどいなかったし、いたところでセックスの対象にならないし、して
はならないだろう。
しかし健康で体力もある男性が多数いるのだから、そういう欲求はもちろん出てくる。
基地内の劇場や隊員の個室でポルノを上映して慰めにするということもあるし、そもそも一人
前の男であれば、そんなことは自分で処理できる。
自慰である。

しかし、それだけではどうにもならない男というもの出てくる。
そのこと自体は責められない。
南極2号などは、そのためのダッチワイフである。
全身像のものもあったし、局部のみのものもあったらしい。

「好き者だとかスケベだとか言うかも知れないけど、誰だって大なり小なり欲求はあるわけだ
しね。女抱きたいと思うのを、いけないことだと言うわけにもいかないし」

それは武緒にもわかる。
女性だって、そういう気持ちにならないわけではないのだ。

「でね、南極の越冬隊員だとか兵隊用だとか、あるいは宇宙ステーションの長期滞在員用とか
ね、アメリカあたりはかなり関心を持ってるらしいんだな。公には否定しているけど、ペンタ
ゴンの中にそういうものを研究開発するセクションがあるって噂もある」

アメリカ軍は「最も民主的な軍隊」を標榜しているから、軍部内での性犯罪は撲滅しないと立場
がない。
女性兵士の割合が最も多いのも米軍だが、それだけにレイプを含めた性犯罪も多い。

といって、両性合意でセックスするのもまずいのだ。
互いに恋人であるというのも、あまり歓迎はしないらしい。
結婚してしまえば不問だが、そうでない場合、余計な嫉妬心などを他の兵に誘発するということ
で、推奨はしないらしい。
まして、隊内でフリーセックス状態にでもなれば、規律も士気もあったものではない。

「あとは性犯罪だね。特に幼女に対する性的凌辱行為の抑止効果」
「……」

少女愛、幼女嗜好に限らないが、性癖というものは別に病気ではない。
誰にだって加虐だの被虐だの、あるいはフェチなどのアブノーマルなものへの関心はある。
大なり小なりみんなあるものだ。
SMとか着衣などのフェチなどについては、カネさえ払えばそういう性風俗があるから、どう
にか解消できる。
しかし幼女嗜好だけはどうにもならないのだ。
彼らが自分の欲望を満喫しようとすれば、どうやったって犯罪であり、社会的にも倫理的にも
激しい糾弾に晒され、制裁を受ける。

「でも、そういう趣味自体が罪とは言い難いからなあ。そう生まれついてしまったんだから
本人の責任とも言えないし。といって、そういう人たちに好き放題させるわけにはもちろん
いかない。だから、そういう趣味の発散にも使えたんじゃないかって思ったんだけどね」

架空空間でなら、社会的未成年の少女でも相手に出来るだろう。
想像や妄想まで縛ることは出来ないからだ。
確かに、それがエスカレートして現実社会で犯罪行為をする連中だって出るだろう。
しかし、それを言ったら世のフィクションはすべて同じはずだ。

「じゃあ隊長は、黒崎たちの行為を認めるんですか?」
「いやいやいや、そういうことじゃないよ」

部下の詰問に、後藤は手のひらをひらひらさせて否定した。

「彼らはやり方が悪すぎるもんなあ。まだデータは解析中らしいけど、かなりの量があるらし
いよ。そのデータの収集だって、どうせ「非合法」に集めたものだろうし」
「……」

武緒もそのひとりである。

「それに、未成年にまで提供していたみたいだからね。まあ確かにおたく少年にとってみれば、
夢の性風俗なんだろうけどさ」

後藤はそう言って、デスクの引き出しを漁った。

「まあ、そういうわけ。黄瀬という男は射殺されちゃったし、黒崎はまた逃亡だしね」
「黒崎の使った拳銃が残っていたはずですが……」
「ああ、松井さんたちが回収したよ。これがねえ」

後藤が顔をしかめてぼやいた。

「デービスっていう32口径のピストルなんだって。なんとフィリピン製だってさ。地元じゃ
ともかく、他国じゃ珍しいらしいよ。なんだってまたこんなもの使ったかな。松井さんもぼや
いてたよ、こんなもの使ったのは国内では初めてじゃないかって」
「そうですか……」
「あとは捜査二課と松井さんに任せるしかないよ。それと……」

哀愁の中年男が手にしていたのは一通の封書だった。

「これ、受け取れないから」
「あ……」

武緒の提出した辞職願である。
それを後藤は真ん中からふたつに破った。
武緒が呆気にとられているうちに、ふたつからよっつ、やっつと細かく破り、丸めて屑籠に
放り込んだ。

「しかし、隊長……」
「辞める理由ないでしょ? おまえが黒崎を撃った件に関しては、本庁が正式に正当防衛で
あり、かつ適切な銃器使用だったと公表してる。これでおまえが辞めちゃったら、警視庁は
立つ瀬がないよ。適切だったと言いながら責任とらせたのか、と世間に思われる」
「でも……」
「おまえが独自に掴んでいた情報を握りつぶしていた件か? それは黒崎たちに脅迫されての
ことだし、不問だよ。だいいち、あそこに松井さんたちが踏み込んだのは、おまえのメモを
見てのことなんだから」
「そうは言っても……」
「あと他に何か問題ある? 念のために言っとくけど、これは課長も同意見だよ。特に処分は
ないそうだ。どうしても「都合により辞職したい」というなら、それは俺が認めない。連中の
まとめ役として、学級委員にはいてもらわないと困るんでね」

武緒の顔に、泣いているのか笑っているのか判別しにくい表情が浮かぶと、後藤はくるりと
椅子を回して背中を見せた。

「そんだけ。部屋に戻ってちょうだい」
「はい」
「あ、そうそう」
「?」

キィッと軋んだ金属音を響かせて、隊長がまた正面を向いた。

「こないだの太田の件。電柱倒したやつね、そっちの始末書だけは書いといてくれる?」



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