「……ただいま」

美幸が力なくそう言うと、部屋にパッと灯りがともった。
牛尾がにやにやしながら迎える。
この男なりに気は遣っているらしく、美幸に言われた通り、美幸が帰宅してくる
までは電気はつけない、テレビはつけない、ということは守っているようだ。
但し、外出だけはたまにしているようである。
その際も、誰もいないことを確認して外に出ているようで、今のところ隣近所から
胡散臭い目で見られるようなことはなかった。

「お帰りなさい、美幸さん。お仕事お疲れ様でしたね」
「……」

美幸は何も言わず、そのままダイニングまで進み、バッグをテーブルに置くとその
まま腰を下ろした。
牛尾も何も言わずその後をついていき、反対側の席に座った。

美幸はむっつりした顔で、その厚顔無恥で傍若無人な男を見つめた。
こいつがここに居座るようになって、かれこれ一週間が経った。
その間、美幸は夏実と連絡を取ることもしなかった。
怖かったのである。
夏実もまた、美幸と同じような凌辱を受けていたのだ。
夏実の方からも連絡はない。
そういう状況ではないのだろう。

署内でも、牛尾脱走の件は話題になっていた。
牛尾の詐欺事件を嗅ぎつけていた頼子や葵などは大騒ぎだった。
頼子は本庁捜査一課勤務となった夏実に電話までして、牛尾の脱走事件はどうなっ
ているのか尋ねていたほどだ。
牛尾の住居が管轄内にあったこともあって、墨東署にも本庁から捜査協力要請が
来ており、刑事課の徳野らは捜査に乗り出したようである。

美幸は身の置き場がなかった。
牛尾が逃げたことを知っていただけでなく、そのことを隠し続けている。
しかも、牛尾が美幸の部屋に転がり込んでいる現状は、犯人隠匿だと言われても
申し開きが出来ない。
脅迫されているのは事実だが、美幸に行動の自由がなかったわけではない。
事実、毎日、署へは通っているのだ。
言えなかっただけなのである。
いかに脅されていたとはいえ、通報できるチャンスは掃いて捨てるほどにあった。

なのに、自分の恥を知られたくないという一心で黙っているというのは、服務規定
違反にあたるのは間違いない。
誇りを持っていたはずの警察業務なのに、美幸はもう退職したくなってきていた。
これ以上、自分が警官としてあり続けることは、警察官という職務を侮辱すること
になるような気がした。
夏実も同じ気持ちなんだろうか、と、考えた時に、牛尾のふてぶてしい顔が目に
入った。
その席は、かつて夏実が座っていたところである。
そこにこんな男がいるなんて……と思うと、美幸の心にまたふつふつと怒りが込み
上げてくる。
だいたい、毎日帰ってくると「ただいま」と挨拶しているが、牛尾相手にそんな
ものは要らないはずだ。
夏実と暮らしていた時の癖がまだ残っている。
牛尾がしゃあしゃあと言った。

「……ご機嫌斜めですね」
「……あなたと顔つき合わせてるんだから当たり前でしょ」

美幸は突き放すように冷たく言ったのだが、牛尾はまったく堪えていない。

「ありゃ冷たいなあ。でもね、いいんですよ。美幸さん、ツンデレでしょ?」
「誰がツンデレなのよ! 少なくともあなたにツンデレなわけないわ! 本当に
大嫌いのよ、あなたがっ!」
「ツンデレってそう言うものですよ、くくっ。だってさ、この頃というか俺がここ
に来て以来、美幸さん仕事が終わったら真っ直ぐ帰ってきてません?」
「……それが何よ」
「いや、そんなに俺に早く会いたいのかなあって……」
「バカなことばっか言わないでよ!」

美幸はテーブルをドンと叩いた。
相手をするのもバカバカしくなってくる。

「そうかなあ。でも美幸さん、婚約しちゃったんでしょ」
「……それが何よ」
「しかも同僚と」
「だから、それが何よ!」
「なのに、どうしてデートひとつしないのかなあって」
「……!」

確かに牛尾が来て以来、一度も中嶋とデートしたことはない。
それ以前も、そう頻繁にデートしているわけではなかった。
帰りにちょっと食事でも、という時でも、他の友人たちも一緒のことが多かった。
夏実在籍当時から、美幸と中嶋の仲は交通課最大の関心事だったから、みんなは
からかいつつも暖かく見守っており、デートできそうなチャンスがあれば積極的に
後押しし、なければ作ってでもデートさせて進展させようと思っていたのである。
逆にそうした気の使いようが美幸たちにとってははた迷惑な面もあったので、美幸
としてはデートするように設定されてしまった場合は、みんなも巻き込んでそう
しなかったのである。
する時は美幸か中嶋のどちらかが話を進め、みんなには内緒で──同居の夏実には
知られることも多かったが──会ってきていたのである。

しかし今回の牛尾事件以来、美幸はそっちと夏実にばかり気を取られてしまい、
中嶋をないがしろにした──とまでは言わないが、とにかくふたりで会ったりする
ことはなくなっていたのだ。
中嶋は寂しく思ったろうが、結婚前であり、何かと準備もあるのだろうと、あまり
そのことは言ってこなかった。
美幸としても、穢された身体では中嶋に申し訳ないと思っていた。
この穢れは、牛尾を何とかするまでは消えないだろうとも思っていた。
いずれにしても、今はとても彼とデートする気分にはなれなかったのだ。

「大きなお世話よ」

美幸はプイとそっぽを向いていった。
その向いた先に、何やら大きな梱包がある。
50センチ四方で長さは1メートルほどもある段ボールだ。
他にもいくつか段ボール箱が置かれている。
今朝、ここを出る時にはなかったはずだ。

「何、これ。また何か無駄遣いでもしてきたの?」
「俺じゃありませんよ。昼間、宅配便で届いたんです」
「宅配便……?」

美幸はハッとした。

「じゃ、じゃあ、あなた、玄関で対応したの!?」
「そりゃそうですよ。じゃなければ業者は持って帰っちゃうでしょ」
「何で出たのよ! 宅配でも何でも、誰か来ても絶対に出ちゃだめって言っといた
のに!」
「だって仕方ないですよ。カメラで見たら、配達員さんが何やらでかい箱を抱えて
るんですから。その足下にも、いくつも荷物あるみたいだったし。居留守したら、
配達員さんはまたその大荷物持ってトラックまで戻らなきゃならないでしょ。気の
毒じゃないですか」
「……」

変なところで親切らしい。
美幸が牛尾に「誰が来ても出るな」と言ったのは、外出禁止したのと同じ理由だ。
その時に隣近所の人が前を通りかかるかも知れないし、牛尾の姿を見なかったに
しても、男の声が聞こえれば同じことである。
それに、業者も女宛の荷物なのに男が出たらおかしく思うだろう。
表札は美幸の名前しかないのだ。

「それより、早く開けてみましょうよ」
「いやよ。これ、私宛なんでしょ、なんであなたに見せなきゃ……」

箱のに荷札を見ながらそう言った美幸の表情が固まった。
間違いなく美幸が発注したものだ。この男には絶対に見られなくなかったものだった。
美幸は箱を抱えて、物置と化しているもと夏実の部屋へ運ぼうとした。
それを牛尾が止める。

「持っていくなら俺が持ちますよ」
「触らないで!」

美幸は、伸びてきた牛尾の手をぴしゃって叩いた。
その顔が怒っている。

「ん?」
「見ないで」

牛尾は美幸の手を払って、そのインボイスを見てみた。

「『Vive la mariee!』? なんだこりゃ、フランス語ですね……。国際便ですか?
違うな、都内だ……。ん? ああ、そうか!」

美幸は顔を逸らせた。

「これ……ドレスですか、ウェディングドレスですね!」

美幸が買ったものだ。
ウェディングドレスなど一生に一度しか使わぬものだし、レンタルが普通なのだろう
と思うのだが、最近はそうでもないらしい。
生涯一度のものではあるが、それだけに思い入れも強く、自分の手元に置いておき
たいという女性も多いらしい。
美幸もそうだった。
オーダーメイドではあるが雛形はあるので、サイズだけを合わせればいいタイプで
ある。

ウェディングドレスというと、とんでもなく高価なものだと思われがちで、確かに
そういうものもあるのだが、実際には安価なものもあるのだ。
買い取りたい女性が増えるにつれ、その傾向は強まっていった。
美幸が買ったこのドレスも、彼女の給料一ヶ月分くらいで何とかなった。
中嶋から貰ったエンゲージ・リングに比べれば、まだ安いだろう。
そう思った美幸は、思い切って買うことにしたのである。
将来、中嶋との間に子供が生まれ、娘だったらこれを着せてあげられたら、という
気持ちもあった。
息子だった場合でも、相手さえよければ結婚相手にプレゼントするのもいいと思って
いる。

そんな想いのこもったドレスだった。
それだけに美幸以外……いや、中嶋と美幸以外は、少なくとも結婚式前には見られ
たくなかったし、触らせたくもなかった。
増して牛尾になどは、パッケージの上からも触られるのは嫌だった。美幸は開き直
ったように言った。

「そうよ、悪い!?」
「悪くありませんよ。そうか、俺のためにわざわざ……」
「あなたねえ、どういう神経してるのよ! 誰があんたなんかのためにドレス買う
っていうの。これは……」
「中嶋剣さんのため、ですか」
「……そうよ。あなたのためじゃないわ。だから触らないで」

美幸はぴしゃりとそう言ってのけた。
それでも牛尾は悪びれず、箱をじろじろ見ている。

「……俺、見たいな」
「嫌よ」
「俺が見たいって言ってるんですよ。見せてください」
「嫌って言ってるでしょ。絶対にだめ」
「うるせえ!」
「きゃあっ!」

牛尾はキレたように叫ぶと、どんと美幸を突き飛ばした。
まさかそんなことをしてくるとは思わなかった美幸は、もんどり打って床に尻餅を
ついた。

「何するのよ!」
「俺が見るって言ってんだよ! いいから見せろ!」
「いやっ! きゃあっ、痛いっ!」

驚いたことに、牛尾は美幸を足蹴にした。
立ち上がろうとした美幸を蹴り飛ばしたのである。
この男、陰湿ではあったが、暴力的なところはなかった。
言葉遣いもそれほど悪くない。
だが、やはり拘置所暮らしで心境に変化があったのか、少し野卑で乱暴な面が露出
するようになっていた。
夏実をレイプした時にもその片鱗が現れていたと言える。
思いも寄らぬ暴力行為に美幸が呆気にとられていると、牛尾はテーブルの果物ナイフ
を取り上げ、段ボールに突き立てて切り裂き始めた。

「やめて! そんな乱暴にしたらドレスが……」
「破かねえようにしてやるよ。だからおとなしくしてろ!」
「……」

本来なら、体技でこんな男は簡単に伸せるのだが、それは出来ない。
それに、今の牛尾の凶暴さは何だか尋常でない感じがする。
やはり中嶋との結婚を象徴するものを目にしたから、理不尽な妬心が湧き起こって
いるのかも知れない。
美幸は耳を塞いだ。
バリバリ、ビリビリと段ボールを破き、包装紙を剥がす乱暴な音が響いている。
まるで自分の思いを破かれているかのように聞こえ、いたたまれなかったのだ。

「……」

すべて取り出し終えたのか、音が止んだ。
美幸がそっと目を開けると、そこには黒いトルソにかかった純白のドレスがあった。
さすがに牛尾も声を漏らす。

「いや〜〜、すごいもんですねえ。本物見るの初めてですけど、こんな綺麗なもの
なんだ……」

その声にはさっきまでの怒りの色はない。
ころころ感情が移り変わるこの男は、何か精神障害でもあるのかと美幸は思った。
だが、牛尾の感想に美幸は同意している。
綺麗だったのだ。
サンプルを見て自分が選んだものだが、いざこれが自分のものとなってみると、
その美しさがひときわ輝く気がする。
憧れだったウェディングドレスが、自分のものとして今目の前にあるのだ。
じっとドレスを見ていた牛尾がとんでもないことを言った。

「……着てみてくれないかなあ」
「……え?」
「美幸さんに、これ着て欲しいんですよ」
「な、何言ってんの!? 嫌よ!」
「なぜ? どうして? これ、美幸さんのものなんでしょう? レンタルじゃなくて」
「そ、そうだけど……そうだけどいや! なんであなたの前で着なきゃならないのよ」
「俺が見たいからに決まってるじゃないですか」
「いや! これは……これはね、式と披露宴で着るものなの。勝手にほいほい身に
つけるものじゃないわ」
「そうかも知れないけど、でも、式の前に一度くらい着るんでしょうに。サイズが
合ってるか確かめる必要もあるんだろうし」
「……」

それはその通りである。
ショップで買った時も、対応してくれた店員が「送ったら、一度着て欲しい。サイズ
が合わなければすぐに直す」と言っていたのだ。
だからいずれ式の前に着る必要はあったのだが、牛尾の前ではお断りだった。
美幸としては、母親か夏実にでも着付けを手伝ってもらうつもりだったのだ。

「着てくださいよ」
「……いや」
「そっか……」

牛尾はそうつぶやくと、また邪悪そうな笑みを浮かべた。
美幸の不安が募っていく。また無理難題を言い出すのではないか。
あるいはさっきみたいに暴れるのか。
美幸がヘタに反撃して、ドタンバタンと大騒動になれば、さすがに近所の人たちも
「おかしい」と思うに違いない。

「じゃ、仕方ない」
「ちょっと……!」

美幸が慌てた。
牛尾はドレスの生地を摘むと、そこにナイフを押しつけている。

「どうせ俺が見られないんなら、こんなものビリビリにしちゃいます」
「やめて!」
「じゃ、これでもいいや」

今度手にしたのは、テーブルにあった醤油差しである。

「これを真っ白なドレスにぶちまけてあげましょうか?」
「やめて! やめてよ、そんなひどいことっ!」
「俺だってしたくないっすよ。でも美幸さんが……」
「わ、わかった! わかったからやめて!」

美幸はそう叫ぶしかなかった。
切り裂かれるのはもちろん、醤油なんかかけられたら、クリーニングしたって落ち
やしないだろう。
匂いも残る。
そもそも、これを街のクリーニング店が受け付けてくれるとも思えない。

「それでいい」

牛尾は満足そうに頷き、美幸はがっくりと床に座り込んだ。
もう顔を上げる気力もない。
その腕を掴まれ、寝室まで引きずられて行った。
放心状態の美幸がぼんやりと座り込んでいると、牛尾がトルソごとドレスを運び
込んできた。
装飾品も全部持ってきたようだ。

「じゃあお願いします」
「……」

美幸は無表情のまま立ち上がった。
もうどうしようもないのだ。
どんなに抗っても、最後にはこの男の指示に従うしかない。
それでもすがるように美幸は尋ねた。

「ど、どうしても……着なきゃだめなの……?」
「見たいです」
「……」

小さくため息をついて美幸は諦めた。
のろのろと立ち上がり、服を脱いでいく。
今日はジーンズとポロシャツである。
美幸はこの一週間ですっかり感覚が麻痺してしまい、この男の前で着替えることに
さほど抵抗を感じなくなっていた。
朝、美幸が出かける時も、夜に帰ってきた時も、そして入浴の時ですら、牛尾はその
着替えを愉しんで見物したのである。
もう美幸も、牛尾を男だと思わず、カボチャかジャガイモと思って無視しようと
したのだが、美幸が無表情になっていると、卑猥な言葉で嘲り、茶々を入れてくる
のでそれも叶わない。
それでも、慣れとは恐ろしいもので、最近はあまり気にしなくなってしまっていた。

「……」

ブラを取る前に後ろを振り向くと、牛尾がかぶりつきで凝視している。
美幸は顔を赤らめながら、そのホックを外した。
慣れたとはいえ、まだ素肌を晒すのは羞恥を感じる。
まして胸や腰を見られるのは恥ずかしいし、屈辱なのだ。
ブラジャーを外すと、右腕で胸を隠しながら、左手で箱から出された衣類を取った。
下着のようである。

「それ、何です?」
「何です……って、下着よ。ドレスの下に着けるの。インナードレス……」
「へえ……」

ウェディングドレス……というより、こうしたフォーマルドレス一般なのだろうが、
それには専用下着があるらしい。
そんなことは知らなかった牛尾はやけに感心してそれを見ていた。
見たところ、いわゆるスリーインワンのようである。
ボディスーツに似ているが、股間を覆う部分はない。
ブラとウェストニッパーが一体になったもののようだ。
これを着けてショーツを履き、そして……。

「その、下の縁から伸びてるストラップみたいのは何です?」
「これは……ガーターを止めるフックよ。これ、ガーターベルトも一緒になってるの」
「そうなのか。……あ、そうだ!」
「……?」

牛尾はまたダイニングまで戻っていき、急いで帰ってきた。
手には平べったいパッケージを持っている。

「それで思い出しましたよ。これこれ」
「なによ……、あっ……」

牛尾が箱から出したのは、まさにそれ、ガーターセットであった。
ベルトとストッキングのセットである。

「それ……どうしたの? これの付属?」

インナードレスと同様に、やはりウェディングドレス専用のようなブライダルイン
ナーというのがあって、その定番が白のガーター・ストッキングなのである。

「いえ、これは俺が買ってきてたものですよ」
「あなたが……?」
「ええ。美幸さんに似合うだろうって思って」
「……」

見ると、白いガーターだった。
フリルのついた可愛らしいデザインのベルトで、ストッキングも白である。
無地ではなく、ところどころにアクセントとして小さな蝶の刺繍が入っている。
牛尾がブライダルインナーのことを知っていたとは思えず、単なる偶然だったのだ
ろうが、美幸の心境は複雑である。
牛尾は嬉しそうにそれを美幸に見せながら言った。

「いいでしょう、これ。きっと似合いますよ。俺ね、美幸さんに着けてもらうなら
白、夏実さんは黒って決めてたんです」
「夏実のも……」
「ええ、買ってありますよ。まだ渡してないし、着けてもらってもいないけど」
「……」
「そのドレス、どうせストッキング履く仕様になってるんでしょう。なら、これを
……」
「い、いいわよ」
「なんで? 似合いますし、俺が見たいんです」
「式当日ならともかく……今はそんなの着けなくてもいいわ。サイズ見るだけだし
……」
「サイズを見るだけ、ね」

牛尾はそう思わせぶりに言って、美幸を見ていた。
半身になってこっちを見ている美貌がいじらしい。
肩と背中を半分こちらに見せているが、その肌は白く輝くように艶々だ。

「いいからこれも着けてください」
「……」

美幸は黙って受け取った。
そしてインナードレスを着ようとした時、止められてしまった。

「ちょっと待った」
「……許してくれるの?」
「早とちりしないでくださいよ。あのね、それ着ないでください」
「え……」
「そのインナーは着けないで。ガーターだけ着けて下さい」
「ど、どうして……」
「どうしても何もない、俺がそうしたいからです。あ、それとショーツも脱いで
下さいね」
「そんな……」
「どうせ後で脱ぐことになるんですから、今脱いでも同じでしょ」
「……」

牛尾の卑下た笑い声汚を聞きながら、美幸は戸惑った表情を浮かべたが、すぐに
従った。
どうせ最後には言うことを聞かなければならないのだし、まだこいつがキレたら、
今度こそドレスを汚されるかも知れない。
取り返しが付かないことになったら困る。
仕方なく美幸は後ろ向きのままショーツを脱ぎ捨て、全裸の状態で、牛尾から渡さ
れたガーターベルトとストッキングを身につけた。
そのままじっとしていると、牛尾がドレスを手渡してきた。
恥ずかしいのか、剥き出しになった臀部が小刻みに震えている。
何度見られても嫌なものは嫌なのだろう。

「……」

美幸はてきぱきと──もしかしたらヤケクソになっていたのかも知れないが──
ドレスを着ていった。
着付けに誰か手伝ってくれた方が着やすいが、ひとりで着られぬわけでもなかった。
着終わってもまだ牛尾に背を向けていた。
その頑固さに苦笑しながらも、牛尾は残った装飾品も渡して、そのまま部屋を出て
行った。

美幸がすっかり着替え終わると、ちょうど牛尾が部屋に戻ってきた。
姿見を抱えている。
浴室の脱衣所に置いてあったものだ。
アンティークの店にあった格安品を、美幸が買ってきたものだった。
幅90センチで高さが180センチもあり、かなりの重量だったが、そこは怪力の
夏実が難なく運んでくれた。
夏実も美幸も全身が映る姿見が欲しかったから、これを入手したときには手を取り
合って喜んだものだった。
思わず美幸はそっちを向いた。
なんだかんだ言っても、これを着るのは初めてだったし、自分でも見てみたかった
のだ。

「……」

美幸は感嘆した。
なんて綺麗なんだろう。
純白のドレスは、されほど派手なデザインではない。
将来、子供にも……と思っていたから流行を追うことはせず、廃れないデザインに
したのである。

いわゆるマーメイドラインのドレスで、ボディラインを絞ってあり、身体の線が綺麗
に出る。
膝下付近から裾が広がり、人魚の尾びれのようなことからその名がついた。
美しいビージング・レースと贅沢にシルクを使ったしなやかな光沢が特徴的だ。
細身のドレスだからこそ、腰や胸の部分が強調され、ポイントになっている。
フリルやリボンも、目立たぬよう、しかし効果的につけられており、可愛らしさを
演出していた。
タンクトップで肩と背中が大胆に露出しているのがアダルトな雰囲気を醸し出して
いる。
セパレート仕様になっていて、ウェディングドレス独特の、トレーンと呼ばれる引き
ずるようなオーバースカートは取り外せるようになっていた。
腕には肘を越えるような長いウェディング・グローブが嵌められている。
さらに頭には、派手ではないがセンスの良いティアラを被っていた。
もちろん薄く透けるような白いヴェールも着いている。
顔を隠すのではなく、髪に結んだ飾りになっていた。
そんな場合ではないのに、美幸はうっとりとして大きな鏡に映った自分を見つめて
いた。
まるで、小さい頃に読んだ童話のお姫様のようだ。

「すげえ……すげえ綺麗ですよ、美幸さん……」

その美しさに絶句していたのは牛尾も同じである。
美幸はお姫様のようだと思っていたが、牛尾は天使か女神のようだと思った。
姫よりもさらにランクが上の評価である。

「ほ、ホントに綺麗だ……すげえ……」

牛尾は譫言のように呟きながら、膝で這って近づいてくる。
思わず美幸は身を引いた。
この男はいつだって癪に障るし気持ち悪いのだが、今回はまた一段と気色悪かった。
目が虚ろで口は半開き、その状態で譫言を言いながら這ってくるのである。
美幸でなくとも引くだろう。

「美幸さんっ!」
「ちょっ……やあっ!」

興奮した牛尾が美幸をベッドに押し倒した。
美幸は大声で叫んだ。

「やめてっ! ちょっ、のしかからないでよ! ドレスが……ドレスが皺になっち
ゃう! 汚れちゃうわよ!」

そう言われると、牛尾の動きがびくっと止まった。
怒ったのかと思いきや、そうでもないらしい。
高貴な姿の美幸に厳しく言われ、ついとどまってしまったということのようだ。
美幸は、牛尾をあまり刺激しないように口調を和らげた。

「ね? お願いだから、ちょっと離れて。今はドレス着てるから……」
「そのまま……」
「え?」
「そのまま、しましょうよ」
「す、するって……」
「セ、セックスですよ」

美幸は目を剥いた。
まさかとは思ったが本気でするつもりらしい。
そうでなくとも美幸は、牛尾が押しかけてきて以来、比喩でなく毎日犯されていた。
それも、寝る前と起きてから、つまり朝晩二度もである。
もちろん一度と言っても、一回という意味ではない。
三度か四度、牛尾が射精するまで許されなかった。

終わった後の美幸は、いつもくたくただった。二
日目にアヌスを犯され、そのショックでしばらく従順になっていたが、今回だけは
拒否したい。
ドレスのままで犯されるなど絶対に嫌だった。

「な、何を言ってるのよ……!」
「このままで。ね? ね? ウェディングドレス姿の美幸さんとセックスなんて、
婚約者の中嶋って男だって出来ないでしょ? だから俺が……」
「いやよ、バカッ! 離れて、どいてよ!」

美幸は大きく身を捩って暴れた。
冗談ではなかった。
神聖なウェディングドレス姿でこの野獣にレイプされるなど冒涜に等しい。
中嶋の目に触れる前にこんな男にドレス姿を見せてしまっただけでもいたたまれない
のに、この上この格好犯されでもしたら、本当に中嶋に顔向け出来ない。

「醤油」
「は?」
「……言うこと聞いてくれないなら、このドレスに醤油かけますよ。さっきも言った
じゃないですか」
「……」
「わかりました? わかったら……」
「ま、待って、いや!」

美幸は必死に両腕を伸ばし、のしかかってくる牛尾の顔や顎を押し返した。
手袋越しでもその顔が異様に熱いことがわかる。
構わず牛尾は美幸の腕を押さえつけようとする。

「俺、美幸さんのそんな姿見てたら我慢できなくなったんですよ。やると言ったら
やりますっ!」
「い、いやっ……お願い、それだけは許してよ!」
「じゃあ醤油だ」
「だめっ!」

美幸は懸命に逃げ、懇願したが、聞いてくれそうもない。
そして、つい咄嗟に言ってしまった。

「わ、わかった! わかったからっ!」

美幸はぜいぜいと息を切らしながら言った。
すっと牛尾の力が抜ける。

「わかってくれましたか。それでいいんですよ、じゃあ……」
「違うの、待って!」
「……」
「今は……、抱かれるのはいや。後で……後でなら……」
「もうだめなんですよ。俺、我慢できそうにない。それに、今の美幸さん……ウェ
ディングドレス姿の美幸さんとセックスしたいっ!」
「い、いや、だめ、待って!」

美幸は潤んだ瞳で牛尾を見た。
本当に今だけは許して欲しい。

「それなら……」
「……」
「それなら……く……口で……」
「口……?」

美幸は顔を伏せ、目を閉じて小さく頷いた。
今の牛尾の状態では、とにかく一度でも射精させなければ落ち着けないだろう。
ならばフェラで済ませようというのだ。
もちろん口でこんな男のものを愛撫するなど身震いがするほどに嫌だ。
しかし、牛尾は夏実の時もそうだったが、美幸にもしっかりと口唇愛撫を仕込んで
いったのだ。

美幸も、フェラの経験がないではない。
しかしそれは文字通り数えるほどであり、中嶋に二度くらいしただけだ。
その時はテクニックも何もなく、ただひたすらに中嶋のものに舌を這わせていた
だけだった。
それでも彼は充分に満足、そして感激していたのである。
だから美幸も、そういうものなんだと思っていた。
それが誤りだったのをいやというほど教えられたのが牛尾とのセックスだった。

牛尾は、夏実の時と同様に、美幸にもペニスの扱い方から愛撫の仕方まで念入りに
指導した。
そんなものは聞き流して適当に済ませればいいようにも思うが、生半可な愛撫では
この男、ちっともいってくれないのである。
射精しない、つまり終わらないのだ。
しまいには顎が疲れて口がうまく閉じられなくなるほどで、それが嫌だから仕方なく
教わった通りにやってみせ、何とか牛尾の射精を促していたのである。
牛尾に犯されるも嫌だが、美幸はどちらかというとフェラやキスの方が嫌だった。
唇を奪われるということが、何かとても背徳的に感じられたのである。

キスもされたが美幸は決して返さず、舌の侵入も拒否していた。
強引に歯の間に潜り込まれることもあったが、その時でも出来るだけ舌を引っ込め
て、吸われないようにしていた。
美幸がキスに対して強い抵抗感を持っており、ヘタにキスを仕掛けると、それを防ぐ
ことに専念してしまってセックスがおざなりになることがよくあった。
美幸が思うように感じてくれなくなるのである。
それに気づいた牛尾も、あまりキスにはこだわらなくなっていった。
しても、美幸に唇をくわえたり、舐めたりする程度になっていた。
その口を許す、しかも自分から申し出るのは屈辱的ではあるが、この場合は仕方が
ない。
口で処理してしまえば、ドレスは皺にならずに済む。

「口か。ま、いいでしょ」

意外にも牛尾はあっさりと承諾した。
美幸はホッとしたが、目の前に醜悪な肉塊を突きつけられると、さすがに平常心では
いられない。
恐ろしいその肉の凶器は、今にも美幸を犯しそうに興奮しきっており、びくびくと
脈打っていた。
その大きさや形を見せられるたびに、美幸はくらくらしてくる。
どう見ても中嶋のものより二回りは大きいのだ。
思えば、こんなものがよく肛門に入ったものだと今さらながらにゾッとする。

美幸は、ドレスを下に敷かないようにぺたりと座り込むと、顔を背けたまま牛尾の
ものに手を伸ばしていく。
ティアラやヴェール、グローブを取ることは許してくれなかった。
汚いものを白い手袋で掴むのは気が引けるが、素手で掴むのもゾッとする。
どうせべたべたするだろうし、汚れてしまいそうだが、手袋くらいならクリーニング
出来そうだし、何より醤油よりはマシだろう。
美幸がためらっていると、焦れた牛尾が怒気を含んだ声で言った。

「ほら、早くしてよ! 美幸さんが自分で「口でする」って言ったんですよ」

牛尾が腰を突きだし、顔に亀頭を思い切り押しつけてくると、美幸は慌てたように
それを手で掴んだ。
亀頭をくっつけられた頬には、べったりとカウパーが粘りついている。
異様な生臭さが美幸の鼻腔を冒していく。

「き、汚いっ……そんなもん押しつけないで!」
「その汚いのを口でするんでしょうに。今さら何言ってんです」
「……」

美幸は不満と怒りを飲み込んだまま牛尾を睨みつけ、ぐいとその男根を掴んだ。
太くて硬い、熱い。
美幸の手に持たれたことが嬉しいのか、びくびくと脈打っている。
ミミズのように浮いた静脈が気持ち悪かった。
このまま握りつぶしてしまおうかという実現不可能な思いを噛み殺して、それを口
に入れた。

「うぐっ……むむ……」

屈辱で胸を灼きながら、押しつけられてくるペニスを受け入れ、その咥内に収めた。
美幸の暖かく柔らかい口腔が気持ち良いのか、牛尾は「ううっ」と唸った。
たちまちそれは一層に勃起し、美幸の咥内いっぱいに膨れあがっていく。
途端に呼吸困難となり、美幸はいったん離れようとするが牛尾はそれを許さず、
その頭を腰にくっつけるように押さえつけた。
舌の上を太い肉棒がずずっと動き、喉にまで届きそうだ。
美幸はその息苦しさと不快さに顔をしかめ、咽せた。

「教えた通りにしてみてください。頭を振るんでしょ?」
「く……」

上目遣いに牛尾を軽く睨みつけてから、口の中でますます硬度と太さを増していく
怒張に閉口しながら、美幸は言われた通りに顔を動かしていく。

「それだけじゃないでしょう。舌も使うんです。何度言ってもダメだなあ。ヘタ
ですよ、美幸さん」
「んっ……んむ……んっ……んんっ……んむむ……」

好きでやってるわけじゃない、逆らえない状況で命令されて渋々やっているのだ。
美幸はそう思いつつ、苦しげに鼻を鳴らした。
唇を切なげに動かし、おずおずとではあるが、舌を使ってサオを舐めている。
その感触も味も気持ち悪くて仕方がない。

美幸の稚拙な技術では、牛尾を満足させるにはほど遠かった。
最初のうちは、憧れていた美幸の口に入れられたというだけで非常な興奮を覚え、
さしたる技術がなくとも射精していた牛尾だが、だんだんと美幸に慣れてくると、
あれこれテクニックを指導するようになっていた。
憶えが悪いわけではないが、この男の言いなりになるのも癪なので、わざと指示に
従わないこともある。

ただ、それでいつまで経ってもいかせることは出来ない。
牛尾は美幸の顎が痺れて麻痺してしまっても、許さなかったこともある。
口のテクニックが未熟なら、手も使ってしごいてやればいいのだが、綺麗な手袋を
汚い粘液で汚したくなかった。

「ふむっ……んっ……ん、じゅっ……んんん……んぶっ……んちゅっ……」

初めはやる気もなさそうにふてくされて口にしていた美幸だが、それではいつまで
経っても埒があかないとわかったのか、少しずつではあるがぎこちない技を使いつ
つ、口唇愛撫に集中していく。

「まだまだですね。ほら、もっと舌をよく動かすんですよ。チンポも喉の奥まで
飲み込むようにして」
「ん、んむ……むうっ……んっ……ちゅぶ……んん……んっ……んく……」

奥まで入れられるのは嫌だった。
異物が喉奥に当たる刺激と猛烈な生臭さで、吐き気と嗚咽が我慢できなくなるのだ。
硬く反り返ったペニスの周辺に、舌が恐る恐る這い回っていく。
どこがどう感じるのかわからないから、サオの側面から裏まであちこちを舐めて
いた。
少しは良くなってきたのか、牛尾が美幸の頭のを掴む。
ティアラとヴェールが掴まれ、「触るな」という風に美幸が呻いた。

「んむっ! むむっ!」
「何言ってるかわかりませんよ。口を離して喋りたければ、さっさと射精させてくだ
さい」
「んんっ……んちゅうっ……ん、ん、んむ……んふうっ……じゅぶっ……」

悔し涙なのか、それとも恥辱のせいなのか、美幸の美しい瞳が潤んでくる。
それでもフェラ自体は止めず、懸命になって牛尾の肉棒にしゃぶりついている。

「その調子ですよ。そう、そこで吸い上げてみて」
「んんっ……んっ……じゅるっ……じゅぶっ……」

唾液ごと吸い込むような音をさせながら、美幸はペニスを強く吸った。
唇の内側によく発達したカリが引っかかっており、そのままの状態で一気に吸い
上げる。

「くっ……、おお……いいですよ、それそれ」
「んむっ!」

牛尾が美幸の頭を抑え、自分の腰に押しつけた。
もう、こうなるとフェラではなくイラマチオであろう。
いつもこうなのだ。
美幸のテクニックが稚拙なこともあるが、いつも最後は牛尾は自分で腰を使って、
美幸の喉を犯すのだった。
だいたいが、その時点で美幸は顎も口も疲れきってしまっているし、加えて牛尾の
性臭にやられ、もう抵抗する気力が失せているのがほとんどだ。
今日も、もう疲れてきている。
コツがまだわかっていないのだ。

「んっ……んぶっ……んっ……んぐぐ……んんふっ……んむうっ……」

のろのろした愛撫をしていると、叱責するように牛尾が美幸の頭を腰に押しつけて
くる。
ペニスの先が容赦なく喉の奥へ届かされ、思わず嘔吐き上げるような吐き気が込み
上げてしまう。
それを避けるために、熱を入れてこの卑劣な男の肉棒を愛さねばならないのだ。
美幸はだんだんと、この背徳的なプレイに熱中していった。

「んむあっ……んっ、ちゅ……じゅぶぶっ……ん、んんお……んむっ……じゅっ…
…んむ!」

夏実や自分の写真で脅迫され、ちんたらした愛撫には喉奥への突き込みと、精神的
体的に苦痛を与えられ、美幸は懸命に牛尾の男根を愛撫し続ける。
その極まりない恥辱と屈辱に覆われ、美幸はその美貌を真っ赤に染めて、舌と唇で
ペニスを舐めしゃぶっている。

「んぐう……んっ……んく!」

鋭く喉を突かれ、美幸は苦しげに抗議するように呻いた。
この上ない惨めさを味わっていた美人婦警に、少しずつ変化が見られていく。
イヤイヤながらくわえているという感じが薄くなり、積極的になってきている。
死にも勝るほどの屈辱であるはずなのに、美幸は憎むべき男のペニスをしゃぶりつ
つ、もじもじと腰を蠢かせていた。
ドレスの広がったスカートに隠されて見えないが、美幸は両腿を擦り合わせていた
のである。
どうしてそんなことをしているのか、したいのか、まだ美幸にもよくわかっていない。
勝手に腰が、脚が動くという感じである。

徐々に美幸が被虐の官能の染まっていくのが、責めている牛尾の方には手に取るよう
にわかる。
夏実という前例があったからだ。
夏実は端から見ても気丈で跳ねっ返りな感じがしたが、美幸は一見おとなしそうで
ある。
だがしかし、その裏にはかなり気の強い面もあり、一度怒ったら夏実でさえたじろぐ
こともあった。
そこまでは牛尾も知らなかったが、美幸を責めている中で、彼女のそうした面が
透けて見えてきていたのかも知れない。
夏実も美幸も、恥辱的な責めや辱めが殊の外有効らしい。
牛尾はにやついた笑みを隠そうともせず、美幸の乳房に手を伸ばしてきた。

「んんっ……? んっ……んうっ!」

美幸は「やめて」と言っているのだろうが、もちろん言葉にはならない。
牛尾は左手で美幸の顔を腰に押しつけつつ、右手を伸ばして豊麗な乳房を揉み立て
てきた。
ぶわぶわと弾力の強い極上ものの美乳が、まるでフェラの次いでのように愛撫され
ているのも美幸の屈辱感を誘った。
堅く萎んだ乳首が、牛尾の指に摘まれ、転がされる。

「んんっ……んっ……んむう……んふっ……」
「気持ち良いんですか? 気持ち良くてもフェラの方を手抜きしないでくださいね。
おや、乳首が立ってきましたよ、マジで気持ち良いのかな」
「んむっ!」

違う、と言うように美幸は顔を振った。
腰に押しつけられた鼻や頬に、牛尾の陰毛がくすぐってくる。
もうヴェールは牛尾の手でもみくちゃにされ、皺になっていた。
恥ずかしいし、この上ない屈辱なのに、なぜか美幸は股間が熱くなってきている。
乳首も、牛尾にからかわれた通りに勃起してきていた。
同時に、もう口がくたびれてきた。
頬や顎が怠い。
唇の端から、たらりと唾液が垂れ始めた。
美幸の左手は、乳房に悪戯してくる牛尾の腕を掴んでいたが、右手の方はとうとう
肉棒を握ってきた。
手袋の汚れを気にするよりも、早くこの男をいかせなければならない。
もはや口だけでは難しそうだった。

「そうそう、手も使って。おっ、手袋、シルクなんですかねえ、すげえ肌触りがいい
ですよ。そう、そんな感じ……いいですよ、もっとしごいて」
「んくっ……むうう……」

美幸は悔しそうに右手で牛尾の男根をしごきたてていく。
疲労してきた口も、より大きく開いて肉棒を頬張っていた。
その間にも牛尾の手は美幸の身体をいじくってくる。
乳房を揉み、乳首を転がしていたかと思うと、すっと首筋を撫でるようにさすり、
顎の線をなぞるようにして愛撫してきた。
悔しいことに、それらの愛撫は確実に美幸を感応させていく。
ポイントに指が来ると、ゾクッとするような刺激と震えが美幸の腰の奥に到達する。
もちろん美幸もそれは実感している。
こんなことでこんな気持ちになるなんて、自分は狂ってきたのではないかとすら思っ
ていた。

「ん、んぶっ……んくうっ……んっ……んじゅっ……じゅっ……じゅぶぶ……んむ
……」

美幸の頬がぼうっと赤くなってきた。
恥辱で染まっていた顔に、さらに赤みが差していく。
美幸は押される牛尾の腕を振り払うかのように、自分から頭を激しく前後に動かし
始めた。
頬を窄めてペニスを頬張り、舌を絡ませ、唇と右手を使ってしごきあげていく。
いつしか、牛尾の腕を押さえていた左手まで動員して、その男根を愛撫するように
なっている。

「んん……んむ……むむう……っちゅ……んちゅっ……んむむう、ん、ん、じゅる
っ……」

太い亀頭部は、ややもすると美幸の咥内すべてを占領しかねないほどに膨れあがっ
ている。
そこをずっぽりとくわえこみ、根元を指でしごきつつ、指の動きと同じ速度同じ
リズムで顔を前後運動させて唇で締め上げた。
美幸は、牛尾に教えられた以上のことをするようになっている。
これも夏実と同じだ。
ほとんどテクニックを身につけていなかったからあれこれ教えたのだが、そのうち
教えられたこと以上を自主的にするようになる。
早く済ませたいという気持ちと、フェラを強要されているという屈辱が被虐快感に
変わってきているのだ。
牛尾は感心しつつも、腰を喉へ打ち込んでいった。

「ぐうっ……!」

まださすがに喉奥は慣れていないようで、のど仏にまで届くほどに深く突かれると、
美幸は目に涙を滲ませて苦鳴する。
そこを刺激される嘔吐感と苦しさが、マゾ的な快楽に変化し始めればしめたものだ。
牛尾の指が愛撫する美幸の肌にも変化が見られた。
ゾクッとするのか、男の指が這うごとにぶるっと小さく震えている。
執拗に責められる乳房は、乳輪までが膨れあがり、乳首はぷっくりと完全に顔を出し
ていた。
見ているだけでとろけそうなほどに柔らかそうだった乳房は、さっきよりも弾力を
増しており、牛尾が指先で抉るように突っつくと、はじき返してくる。

「んんん……んうっ……」

乳首を転がされ、軽く抓るようにこねくると、美幸はくっと顎を反らせて呻いた。
もしペニスをくわえていなければ、はっきりとした喘ぎ声になっていたのだろう。

「ん、んん……んううう……んっ……じゅる……んふっ……」

美幸はフェラをし、イラマチオされながら、小声で恥ずかしそうに喘いでいるのだ。
この期に及んで、まだ感じることに羞恥を覚える美幸の慎ましさが、牛尾の嗜虐
願望に火を付ける。
苦しいのか、目の縁に溜まっていた涙のつぶが、つうっと頬を伝っていく。
それがまるで中嶋に対する贖罪のようにも感じられ、牛尾の興奮はいや増すばかりだ。

「んふうっ……んん……んむむ……じゅっ……じゅっ、じゅぶ……ちゅるっ……
ちゅっ……」

美幸は、背徳の快楽に浸りつつある自分に困惑しているのか、ひたすらに牛尾の
ものを愛撫していく。
牛尾のペニスも、もう射精したいのか、びくびくと美幸の口の中で脈打っていた。
それをしっかりとくわえたまま、美幸は何度も顔を振ってピストンしていった。
右手はその根元をつまんでしごきあげ、左手は醜悪な玉袋を下から支え、優しく
揉みしだいてさえいる。
牛尾に言われる前に舌をねっとりと絡め、唇でしっかりと締め付けていた。

これには牛尾もたまらず、美幸の方から前後運動しているにも関わらず、その頭を
しっかり両手で抱えると、腰を打ち込み始めた。
美幸は喉の奥まで大きな亀頭を突き込まれ、思わず逃げようとするものの、牛尾の
手ががっしりと後頭部を押さえ込んでいる。
猛烈な吐き気と臭気を堪えつつ、健気にも肉棒をしゃぶり続けた。

「ん、んぐ……んぐうっ……ぐっ……んんん……んちゅっ……じゅる……」

美幸は顔をしかめながら、必死になって喉奥を守ろうとしている。
亀頭が喉から遠ざかると、すぐに舌がその先端を覆うように舐め上げてくる。
そうすることで喉の奥を守ろうとしているのと同時に、奥を突かないでくれれば
ちゃんと舌で気持ち良くしてあげる、という美幸の意志を伝えようとしているのだ。
牛尾は、暖かく柔らかい美幸の舌が亀頭やカリに這う、とろけてしまうような快感に
酔いながらも、その口を犯し、喉の奥まで抉ってやりたいというけだものの欲望を
抑えきれなかった。

「ぐううっ……ぐっ……んむうっ……!」

美幸は「やめて、深い」と悲鳴を上げるように首を振り、反射的に両手で牛尾の腰を
押し返した。
もちろん牛尾は許すはずもなく、美幸の両腕をひとまとめにして右手で掴み、左手
でその後頭部を掴んで押しつけていく。
その状態で腰を盛んに前後運動させて美幸の咥内粘膜を抉り、喉奥を犯した。
太すぎるものをくわえさせられ、端が切れそうな唇のわずかな隙間から透明な唾液が
垂れてくる。
牛尾の長大なものが抜き差しされ、美幸の唇が巻き込まれるようにして中へ押し込ま
れ、まためくれ上がって外に出る。
まるで口が膣になってしまったかのような凄まじい光景だった。

美幸は懸命に舌を使って愛撫してくる。
いや、それは愛撫などというものではなく、唯一の抵抗なのだろう。
舌でペニスを何とか押し返そうとしているのだ。
だがその動きですら、牛尾の肉棒への心地よい刺激となって、快感を与えていた。
舌先がカリを抉り、頬裏の粘膜が亀頭を熱くくるんでいく。
奥から抜かれる時に、舌全体を使って先端を覆うと、鈴口からはもうカウパーだけで
なく白濁した汁が少し漏れてきている。

「おっ……、俺ももうそろそろ、かな……」

牛尾の腰が震える。
亀頭が今にも炸裂しそうに膨れあがり、痙攣していた。
美幸の舌愛撫の心地よさに、思わず腰を引いてしまうことすらあった。
牛尾は爪先立ちになって脚が震えるほどに快楽を味わっている。
思わず射精してしまいそうなのは何とか堪え、とどめだと言わんばかりに腰を深く
強く打ち込んできた。

「おおお、いい……気持ち良いですよっ……だっ、だめだ、出そうだっ……」
「むむっ……んんっ、んっ、んんっ……じゅるっ……じゅぶぶっ……!」
「くっ、気持ち良いっ……、ちくしょう、出る! もう出ちまう! い、いいですか
美幸さんっ……全部飲むんですよっ!」
「ぐむむっ!」

美幸は「とんでもない」という風に激しく首を振った。
その動きが牛尾へさらに快感を与え、射精が近くなってしまう。
以前にも無理矢理に口に出されたことがあったが、その時の不快さと言ったら表現
しようもない。
そもそも飲むものではないのだ。
牛尾は、もう先っちょからぶくぶくと精液が漏れ出ているのを堪えながら叫んだ。

「口がだめなら顔にかけますよ! それでいいんですか!? そんなことしたら、
せっかくのドレスがどろどろに……」
「んううっ!!」
「じゃあ飲むんです、いいですね!? 全部飲んでしまえば汚さないで済むんです!」

絶対にいやと美幸は激しく顔を振った。
しかし、もうどうにもならない。
牛尾は喉の奥まで突き込んできて、美幸の咥内を味わっている。
舌で押し返そうにも、勢いが強すぎて止められない。
牛尾は激しく腰を打ち込んで美幸の咥内粘膜を擦り、抉り、喉のいちばん奥に亀頭を
押し込んで刺し貫いた。
腰が震える。

「うおっ……!」
「んぐっ……んううっ……んむうっ!?」

どぴゅるるっ、びゅううっ、びゅるるっ。
びゅくっ、びゅくくっ。
びゅぶぶっ、ぶびゅるっ。

射精が始まった。

その瞬間、牛尾は膝をくの字に曲げて腰を美幸の顔に押しつけ、ぐいっとその後頭部
を押さえ込んでいた。
精液は直接喉に吐き出され、咥内が汚されることはなかったが、その分、喉の不快さ
と嘔吐感が凄まじかった。
ものすごい勢いで射精されてきた粘液は、食道をどろどろに汚しつつ、胃の腑にまで
届いた。
ぼたぼたと胃の底に精液がこぼれ落ちてくるのがわかるほどだ。

「ぐううっ!? んむ、んむうっ……ぐぐっ……!」

何とか顔を逃がそうとするのだが、牛尾はがっしりと抱え持っており、とても引き
はがせない。
両手に拳を作って、腿や腰をどんどんと殴りつけるのだが微動だにしなかった。
力尽きたのか、美幸の両手が落ち、牛尾のされるがままになっている。

「ん、んぐっ……んっ……んくっ……んっ……んく、ごくっ……ごくっ……」

美幸は死ぬ思いで、生臭い男汁を飲み下している。
細い首の喉が、こくっ、こくっと哀しく動くのがはっきりとわかった。
ようやく満足したのか、牛尾の手から力が抜けると、生き返ったように美幸が動き
出す。
牛尾の腹に手を当て、必死になって顔を離した。
やっと牛尾の腰から逃れた美幸は、そのままぺたりと横座りになり、激しく咳き込
んだ。

「げっ……ぐほっ……ごほ、ごほっ……ぐっ……き、気持ち悪い……げへっ……」

美幸は右手を口に当て、左手を胸に当てて、吐き気を堪えている。
出してしまった方が楽になるのだが、そんなみっともない姿を見られたくなかった。
しかし生理的不快感はどうしようもなく、すぐに精液が逆流し、胃から食道、そして
咥内に戻ってくる。

「ごぼっ……ごほ、げほっ……ぐっ……」

右手で押さえた口から、どろっと白い粘液が溢れ、零れてくる。
とても飲みきれるような量ではなかったのだ。
溢れた精液を抑えた右手の手袋が無惨に汚されていく。
唇周辺も白濁液でどろどろである。
衣装を汚されたくない、顔を汚されたくない一心で、無理に飲まされたというのに、
これでは意味がなかった。
思うさま口の中──というより喉の奥に射精され飲まされ、挙げ句、吐き戻した
精液で顔も衣装も汚れてしまったのだ。

「い、いやだって言ったのに……何で口に出すのよ……げほ、ごほっ……の、飲ん
じゃったわよ……気持ち悪いっ……げほっ……」

口を押さえた右手の指の隙間からも、ぼたぼたと精液が溢れてくる。
純白のグローブが、どろどろの液体に穢されていた。
口も頬も牛尾の精液でねとねとになり、手を離すと粘りで糸を引いた。



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