夏実はホテルを飛び出ると、途中で寄り道をしてマンションへと戻った。
まだ美幸は帰ってきていないようでホッとする。
ドアを閉じ、上着を脱ぐと紙袋を持ったままトイレに飛び込んだ。
紙袋の中身はいわゆる妊娠検査薬であった。

デジタル形式の体温計のような形状および大きさで扱いやすそうだ。
表面には小さな表示窓があって、片方が検査終了サイン、片方が検査結果を出す
エリアらしい。
キャップを取って吸収面を出し、そこに尿を染みこませる方式である。
充分に染みこませたらキャップを閉じて、そのまま水平なところに置いて一分間
ほどそのままにしておく。
すると「終了」窓にすっと縦にラインが浮かんでくる。
これで検査は終わりだ。
そして「判定」窓に赤紫のラインが少しでも出てくれば陽性というわけだ。
説明書を読むと、色が濃ければ妊娠の確実性が高まるが、薄くても陽性と判断する
ようにとのことだった。

判定する理屈としてはこうである。
女体は妊娠すると、胎児を育てるための機能が活動し始める。
その中の変化として、ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン──hCGというホルモンが
胎盤で分泌されるようになる。
通常、このhCGは、着床してから初めて作られるもので、生理予定日あたりから
尿に混じって排泄されるようになる。
妊娠2ヶ月から3ヶ月くらいになると、大量に生産されるようになり、出産まで
それが続くことになる。
検査薬は、そのhCGを検出するのだ。

毎回のセックスで必ず、しかも複数回にわたって大量に膣内射精され続けた夏実は、
妊娠に対する漠然とした不安を感じていた。
牛尾は決して避妊具はつけなかったし、夏実の方もピルは使いたくなかった。
どうしてもああいう薬は生理的に怖かったのだ。
今日、牛尾に「妊娠させたい」という言葉を聞き、どうにも不安になってしまった。
知人に見られては困るから、わざわざ隣の管内のドラッグストアまで出かけ、サン
グラスにマスク姿で、恥ずかしい思いをしながら買ってきたのだった。

生理が遅れていることが、夏実の不安に拍車を掛けていた。
夏実の生理はカレンダーのように正確で、28日周期の予定日が3日と狂ったことが
ない。
なのに前回の生理以来、ないのだ。予定日からはもう二週間以上遅れている。
牛尾の件で悩んでいた夏実は、生理のことすら忘れていた。
気にする余裕がなかったといっていい。
そして妊娠の件を持ち出されて思い出し、矢も楯もたまらずに検査薬購入に走ったの
だった。

トイレの水洗の音がしてしばらくすると、「ひっ」という息を飲む声がした。
続けてドアに重たい物がのしかかる音がする。
しばらくするとドアが開き、夏実が出てきたが、その顔色は蒼白だった。
瞳を大きく見開き、唇は半開きのままわなわな震えている。
ドアを後ろ手で閉めるとそこに寄りかかり、そのままずるずると座り込んでいく。
ぺたんとお尻が床につき、夏実は呆然とした顔で天井を見ていた。
その手からぽろりと検査スティックが零れる。
カラカラと軽い音がして床に転がったそこには、妊娠陽性を示すラインがくっきりと
表示されていた。


───────────────────

夏実にとって悪夢そのものの二ヶ月は、あっという間に過ぎ去っていた。
週に一度の非番の日には、ほぼ必ず呼び出された。
あまりに毎回だと同室の美幸に怪しまれるという理由を使って何度か逃れたものの、
大半は牛尾の凌辱を受けていた。

最初のうちは、憧れの夏実を犯しているという牛尾の興奮もあって、ただひたすらに
レイプされされ続けた。
無限とも思えるほどの性欲をすべて夏実の女体に叩きつけてきたのだ。
男根がすり切れるほどのセックスが繰り返された。
牛尾がネットや書籍で調べてきた屈辱的な体位や恥辱的なポーズで取らされ、膣に
精液を受けていった。

拘束と脅迫を受けつつも、抵抗し続けた夏実だったが、どうにもならないと覚ると、
徐々に機械的に牛尾を受け入れていった。
牛尾の方も次第に余裕と落ち着きを取り戻し、自分の欲望をぶちまける以外に、夏実
をいかに絶頂させるかに腐心するようになっていく。
様々な淫具を用い、縛り上げ、それを鏡に映して夏実に見せつける。
ただ犯すだけでなく、焦らし責めを効果的に使い、気丈な婦警を追い込んでいった。

そんな男の責めに屈服すまいと反抗していた夏実だったが、「女」の部分はそうは
いかなかった。
レイプとはいえ、愛撫には違いなく、夏実の性感帯を探り出し、そこを責め抜く牛尾
のセックスに、肉体はひび割れるように崩壊していった。

警官の制服姿のままの緊縛。
レイプ。
M字開脚という羞恥この上ない格好。
浣腸。
それに伴う排泄行為。
一連の肛虐と肛門性交。
剃毛。
美幸との電話中の凌辱。
フェラチオと精飲。
Gスポットの開発と潮吹き。
繰り返される膣内射精。

どれもこれも恥辱、屈辱極まりない行為であり、それをすべて見られた。
ひとつひとつの責めが、夏実のプライドを揺さぶり、突き崩していった。

「ああ……いい……」

夏実は仰向けになった牛尾に跨り、騎乗位の姿勢で交わっていた。
濡れて熱い肉が、かちかちに硬くなっている牛尾の肉棒を包み込み、絡みついてくる。
セックス三昧の調教で、すっかり肉の悦びを開発された夏実は、もうためらうことも
なく牛尾に身体を許すようになっていた。

「色っぽく喘ぎますね、夏実さん。そんなにいいんですか」
「いい……、す、すごくいいっ……」

夏実は抗うこともかく、ガクガクと頷いて見せた。
牛尾の方が下から突き上げなくとも、夏実が勝手に腰を振りたくり、隆々とした
ペニスを媚肉でくわえ込んでいる。
上下運動だけでなく、前後左右に腰をひねり、捩り、どうすればより強い快感が得ら
れるか、試しながら腰を蠢かせていた。
ここに至って、夏実は理性をかなぐり捨てて牝の本能の赴くままに性を貪っていた。
下から牛尾が手を伸ばし、腰を揺さぶるたびぶたぷんたぷんと揺れ動く乳房をぐっと
握りしめ、ぎゅうぎゅうと揉み上げていく。
揉み甲斐のある乳房に指が食い込み、尖った乳首が指に弾かれて、夏実は仰け反って
悲鳴を上げた。

「あっ、あひっ……む、胸がぁっ……そ、そんな、強く揉み過ぎよっ……ああっ……」
「マゾの夏実さんは、こうやっておっぱい虐められるのが好きなんでしょうに」
「ああ……。そ、そうよ……、強くされると感じて、あうう……」

胸に対する力強い愛撫に呼応して、夏実の揺する腰にも力が入り、肉棒を捉えた媚肉も
きつく締めてくる。
強く締めることにより、一層強く摩擦感が得られることを身体が知っているのだ。

「オマンコは? オマンコはどうされるのがいいんです?」
「くっ……は、激しく突かれると、ああ……あ、あそこが擦れて痛いくらい……で、
でもそれが、いい……。そ、それと……」

そこでぐぐっと牛尾が腰を持ち上げて深く貫いた。

「あひっ! そ、それっ! 奥を突かれると、くああっ、き、気持ち、いいっ……
子宮が、いいっ……ああ、もうあたし……もういきそうよっ……」

夏実は存分に愉悦を貪り、淫らな言葉を吐き散らしながら、その快感を体現した。
激しく抽送が繰り返される媚肉と、突き込まれていく肉棒をおずおずと指でさすり
ながら、今、自分が犯されているのだと実感し、より深い陶酔感を得ていく。

「あ、ああ、どうしよう、またいきそうっ……す、すごいっ……い、いっちゃい
そうよっ……」
「いっていいですよ、ほら」

牛尾は、激しく喘ぐ夏実を見上げつつ、腰を突き上げ、乳房を揉みしだいた。
夏実が美しい曲線を背中で描いて仰け反ると、牛尾はその腰を捕まえてガシガシと
大きく腰を使っていった。
その責めを全身で受け止め、夏実は負けじと腰を振り返す。
牛尾の手が離れた乳房は、自分の両手でわしわしと揉み込んでいた。

「あっ、ああっ……! だっ、めっ……い、いく……いくっ……はあああっっっ!!」

太い肉棒をくわえ込んだ媚肉がぐぐっと締まり、強く収縮していく。
汗を飛ばしてしなやかな裸身をたわませながら、夏実はビクビクッと激しく痙攣を
繰り返して頂点に昇り詰めた。
牛尾はそれから三度ほどガシガシと子宮を突き上げると、子宮口をこじ開けてその
中に精液を放った。

どろっとした熱い液体が、びゅるるっと勢いよく子宮内に注ぎ込まれる感触がたま
らず、夏実を狂わせていく。
子宮内壁に精液が直撃し、粘り着く感覚も覚え込まされた。
子宮口自体が牛尾のペニスから精液を搾り取っているような錯覚すら受けた。
ぴゅるっと最後の精液が胎内にひっかけられると、ぶるるっとまた震え、そのまま
がっくりと牛尾の胸に倒れ込んでいく。

「ずいぶん激しく気をやりましたね。そんなに気持ちよかったですか……」
「……よ、よかった、わ……」
「……へえ、素直になったなあ。前は、いくらいっても「いってない」って強弁して
たのに」
「だ、だって……」

夏実は顔を背けた。

「あんなことされたら……我慢できっこないわ……。いくに決まってる……」
「それは僕のセックスを……、僕を認めたってことですか」
「そ、それとこれとは……」
「おや? 違うんですか」
「ああ……。あ、あむっ……!」

ぐったりした夏実の答えを待つまでもなく、牛尾はその唇に吸い付いていく。
弱り切った気丈な美女の美貌が何とも悩ましく、牛尾の嗜虐欲をそそってやまな
かった。

「ん……んん……、ん、んちゅっ……ん、んむう……」

夏実はそれでもなよなよと首を振って、牛尾から逃れようとした。
今日はこんなことをしようと思って会ったのではなかった。
言いたいことがあったのだ。
なのに、ホテルに着くなり牛尾はけだものじみた性欲を見せ、夏実の言葉をろくに
聞かずに裸に剥き上げ、いきなり犯した。
むずがる夏実を屈服させるまでよがらせてから風呂へ連れ込み、全身にソープを塗り
込んで愛撫し、肛門を貫いた。
そこでまた絶頂まで導き、濡れた肢体に構わずベッドに放り投げて、また犯した。
もちろん、いずれも夏実の膣内で遠慮なく射精してのけた。
そして翻弄された夏実が自分から牛尾に跨り、セックスを求めてこうなっている。

「は、むむ……うむう……んんっ……じゅぶっ……」

抵抗するどころか、牛尾の差し込んでくる舌を受け入れて、自分から舌を絡めていく。
ねっとりと唾液を含んだ夏実の甘い舌を、牛尾は強く吸い上げていった。
舌を付け根から引き抜かれそうなほどに吸われ、夏実はそれだけで気が遠くなる。
奥歯や歯茎、舌の奥や裏まで舐められ、お返しとばかりに牛尾の咥内に舌を入れていく。
口中の唾液を吸い取られ、代わりに牛尾の口から流れ込んでくる唾液を喉を鳴らして
飲み込んだ。
胃の中まで牛尾の匂いが染みついてくるような気がした。
ようやく口を離すと、名残惜しいようにふたりの唇を唾液の糸がつないでいく。

「夏実さんの口はおいしいなあ。夏実さんもキス好きみたいですね、こんな情熱的に
吸ってくれるなんて……」
「……」

夏実はハッとし、そしてぷいとそっぽを向いた。
悔しいのと恥ずかしいのが入り交じって、顔が真っ赤になっている。

「……可愛いなあ。ますますやりたくなりますよ」
「あっ……!」

仰向けになった牛尾にのしかかっていた夏実が、ごろりとひっくり返される。
逆に夏実を仰向けに寝かせた牛尾は、媚肉から半分抜けかかっていたペニスをまた
一気に奥まで貫いた。
突然、奥までぐぐっと硬くて太いもので突き通され、夏実は目を剥いて呻いた。

「そ、そんないきなりっ……!」

ちょっと動かされただけでもびりっと強く感じてしまいそうな膣を、牛尾は遠慮なく
激しく打ち込み律動した。
もう夏実の膣内は、愛液と精液でねとねとのびちゃびちゃだ。
その中を、衰えを知らぬ男根が傍若無人にかき回していく。
最初はきつきつで強い締め付けが魅力だった夏実の性器は、激しいセックスを重ねて
いくたびに柔らかさを持ち、ぬめるような襞を絡ませてくるようになっていた。
それでいて収縮力の強さはちっとも変わらない。
牛尾は、濡れた肉を打ち付けるぴしゃんぴしゃんという音を響かせながらペニスを
突き込んでいくと、夏実は早くも絶頂に向けてよろよろと駆け上りだした。

「あ、あううっ、いいっ……は、はあああっ、気持ちいいっ……んんっ、んううっ
……あうう、も、もっと……ああっ……」
「もっと深くですか? それとも強く?」
「りょ、両方っ……、つ、突いて、奥までっ……いいっ……」

明らかに夏実の性感は、以前とは比較にならぬほどに鋭敏になっていた。
もともと、経験の少なさに反比例して感じやすい方ではあったが、その身体に性の
拷問とも言うべき調教を徹底的に施され、セックスの最中であれば、どこを触れら
れても喘いでしまうような身体にされていた。

加えて、ポロポーションにも一層磨きが掛かった。
胸は大きかったが、すらりとした長身が印象的だった夏実の肢体は、腰にも腿にも
肉と脂が乗り、まさに成熟した女性のそれとなっていた。
揉まれ、吸われ続けた乳房は、張りが幾分失せた代わりに、ねっとりとした柔らかさ
と吸い付くような手触りとなった。
限りなく精液を注入されたせいか、肌もしっとりとして身体全体の曲線が柔らかく
なったようなイメージだ。
牛尾は、そうした肉体に変化させたのは自分なのだと思うと、ますます夏実が愛お
しく思えてくる。
同時に、その美しい女体を完膚無きまでにいたぶり抜き、嬲り尽くし、夏実を羞恥と
恥辱の海に沈めたいとも思った。
牛尾は、そうした倒錯した愛情を美しい婦警に注いでいく。

「すっ、ごいっ……すんごいぃっ……あ、ああう、奥っ……ひっ……し、子宮が壊れ
るっ……そんな強く突いたら壊れちゃうっ……いいっ……」
「でも、奥までされるのが好きなんでしょうに。僕のは大きいでしょう?」
「くうっ……、お、おっきいっ……大きいわよっ……ふ、太くて、ああっ、痛いくらい
に硬いっ……」
「それで?]
「ああ、長い……長いのよ……奥まで来るっ……子宮、ごりごりされてるっ……ふあ
あっ……そ、反り返ってて、ああっ、う、上の方が、こ、擦れてるっ……」
「そんなにオマンコいいんですか」
「オマンコ、いいっ……」

夏実はもう何も判らなかった。
判るのは、膣を抉ってくるたくましいペニスの動きと、自分が牛尾の激しいセックス
の虜になってしまったことくらいだ。

「……ではもうひとつ。東海林さんと僕では、どっちがいいですか?」
「あ、あんたよっ……!」

夏実はためらいもなくそう言った。

「くあっ……、あ、あんたのチンポの方がでかくて、ああ、たくましいっ……大き
すぎるくらいよっ……」
「じゃあ言って。「東海林さんよりいい」って」
「しょ、将司くんよりっ、いいっ……将司くんより、あんたの方がいいっ……あは
あっ……!」

牛尾は「勝った」と思った。
完全に東海林を出し抜いた。
もう辻本夏実は名実ともに自分の、自分だけのものなのだ。
それを思うと笑いが止まらなかった。

一方、夏実の方はそう明確な意識はなかった。
疲労困憊した身体で何度も激しいセックスを挑まれていたのだから無理もない。
ほとんど牛尾の言いなりで言葉を言っていただけだった。
それに、牛尾の方が東海林よりいいと言ったのはセックスに限っての話であって、
それもこんな状況になっていなければ、間違っても口にはしなかったろう。

「あっ、あうっ、ひっ、ああっ……ど、どうにかなるっ……気持ち良すぎてどうにか
なりそうっ……」

極太ペニスで押し広げられた膣粘膜は激しく抜き差しされ、中でたっぷり放出された
精液と、白く濁ってきた愛液でじゅぶじゅぶと泡立っている。
ふたりの腰がぶち当たるたびにゆっさゆっさと揺れる乳房は牛尾に掴まれ、乳搾りの
ようにぎゅうぎゅうと揉み絞られている。
その乳首を唇に含まれ、優しく舌で転がされるように愛撫されると、夏実はぐぐっと
胸を反り返らせて喘ぐしかない。

「んんうっ……! あっ、おっぱい、いいっ……つ、強く揉んでっ……」

牛尾は右手で左の乳房を握りつぶすほどの強く揉み込み、右の乳房は舌で柔らかく
愛撫した。
そのコントラストの巧みさで、夏実の性感は急上昇していく。
膣を奥深くまで貫かれる快感と、右の乳首からくる優しい舌の愛撫、左の乳房から
くる強烈な強い刺激。それらが合わさって相乗化し、夏実を芯からとろかせていった。
今の夏実は、どんな小さな刺激すらも逃さず、すべてを官能として昇華させてしまう。
乳房と乳首が刺激されるごとに、肉棒を必死にくわえ込んでいる膣はひくつき、きゅ
っ、きゅっと締め付けてくる。

「あああっ、だめえっ、ま、またいくっ……あ、いきそうよっ……ひっ、そんなこと
されたら何度でもいっちゃうっ……!」
「いっていいですよ。何度でもいかせてあげる。その代わりはっきり言ってください。
夏実さんは誰のものですか?」
「くっ……、あ、あんたのものよっ……」
「オマンコもお尻も?」
「そ、そうよっ……くあっ……オ、オマンコもお尻、の穴も、ああっ……ぜ、全部
あんたのものよぉっ……!」

夏実は牛尾に両腿を抱えられ、何度も何度も激しく抽送を繰り返される。
肉棒がすり切れるほどに突き込まれている媚肉からは、粘度の高い愛液がしぶき出て、
夏実と牛尾の下半身をべとべとにしていた。
胸を揉まれ、吸われ、強く膣を貫かれる快感に、夏実は激しく首を振りたくり、その
愉悦に呻き、喚き、喘いだ。

「あ、あおおっ、いくっ……と、とろけちゃうっ……オマンコとろけちゃううっ……
ああっ、んくうっ……ひっ、いいっ……んあああっ……!」

激しい牛尾の律動を押し返すかのように、夏実の自分から強く腰を押しつけている。
のしかかってくる牛尾の背中に手を回し、深く打ち込まれる快感に嬌声を噴き上げ
ながら、両脚をしっかりと男の腰に絡めていく。
さらなる律動と、深い場所への挿入を望んでいるかのようだ。
吸われ、揉まれる乳首もほんのりとした頼りない赤さから、はっきりとした鳶色に
変化し、赤く爛れてきている。
乳輪まで膨らんで、乳房は二重に盛り上がっていた。
そこに歯を立てられると、首が折れるほどに仰け反らせ、よがり狂った。
壊れるまで激しく責め抜いて欲しいとすら思っていた。

「ひっ、ひっ……だめっ……くっ……あ、あたしもういくっ……が、我慢できないっ
……!」

夏実は全身を震わせてそう叫び、牛尾の腰を腿でしっかりと締め付け、足首を絡めて
きた。
膣はきゅうきゅうと締まり、心も身体も牛尾の精液を求めているのは明白だ。
それに耐えながら牛尾はなおも律動を繰り返し、ぐぐっと奥に押しこんで、子宮口が
開いているのを確認する。
ここだと思った牛尾は、とどめとばかりに大きなストロークで何度が深く突き込んだ。

「あああっ、あひぃっ! い、いくっ……いっぐううううっっ……!」

恐ろしいほどの強さで膣が締まり、夏実は背骨が折れそうなほどに弓状に反り返った。
その肢体全部にびりりっと痙攣が走り、何度も頭をベッドに打ち付ける。
官能的な太腿が牛尾の腰をぎゅっと締め上げる。
乳房を潰すほどに牛尾を胸に抱きしめる。
ふくらはぎがぶるぶると痙攣し、脚の指がぐぐっと屈まった。
さすがに牛尾も堪えきれず、けもののように呻いて射精する。

「出しますよっ! 夏実さんの口もオマンコもお尻の中も、僕の精液を溢れるまで
注ぎ込むんだ!」

びゅるるるっ!
どびゅくくっ!
どびゅびゅっ!
びしゅるるっ!

凄い勢いで放出された精液が、夏実の子宮内に流れ込んでくる。
先を窄めたホースから迸る水流のような勢いで射精された子種は子宮の天井まで届き、
そこから子宮壁を伝って、子宮内部全体へと染み渡っていった。

「うひぃっ! で、出てるっ……す、すごいっ……すごい勢いで出てるっ……ああっ
……あ、あたし、中で射精されてるっ……!」

大嫌いな男に、またも膣内で射精されてしまった。
その被虐的で倒錯的な官能に、夏実は頭の芯まで痺れ切っていた。
肉悦に狂って絶頂したせいか、膣の痙攣が長かった。
射精するペニスに、もっと出せと言わんばかりに、なおも収縮を重ねていく。

びゅ、びゅくっ。
びゅるっ。
どくどくっ。
びゅるるんっ。

「あ、あう……また出された……また中に出された……ああ、いい……」

ぴゅるっと最後の精液が子宮内部に注入されると、夏実はガクッと仰け反り、断末魔
のような痙攣を見せてからベッドに沈み込んだ。
あまりにも強すぎる快感が長く続いたせいか、牛尾が膣からペニスを抜き去っても、
そこはまだらしなく口を開けたままだった。
夏実が呼吸するのに合わせて、ごぼっ、こぽぽっと精液が逆流してくる。

「ふう」

一息ついて、ようやく牛尾がベッドから降りた。
ゆっくりと立ち上がり、腰に手を当てて回転させている。

「ようやく満足させてもらいましたよ。夏実さんも充分愉しんだようですね」

とても言葉を返せるような状態ではなく、夏実はただ荒く息を吐いていた。
仰向けに転がされた肢体は、しどけなく両脚を拡げ、呼吸に合わせて激しく胸が上下
している。
頭のてっぺんから手足の先まで痺れ切り、喋るのも指を動かすのも面倒なくらいだった。
牛尾は、そんな夏実を満足そうに見ながら言った。

「さて、夏実さんはこんなもんかな」
「……」
「じゃあ、今度はいよいよ小早川さんに行きますか」
「……!」

美幸の名を聞いて、夏実はびくりとした。

「ど……どういうこと……よ……」
「だから、小早川さんも引き込むってことですよ」

牛尾は事も無げにそう言った。

「夏実さんも僕の魅力に気づいたでしょう?」
「み、魅力ですって……!?」
「僕も少し自信なかったけど、今の夏実さん見てたら自信がつきました。これなら
小早川さんも何とかなりそうだ」
「……」

シャワーでも浴びるつもりなのか、牛尾はバスタオルを手にしていた。

「3Pってしたかったんですよ。小早川さんを引っ張り込んで三人で愉しむんだ。
夏実さんも楽しみでしょう?」
「……く……」
「それに、そろそろ夏実さんの身体にも馴れちゃったし……」
「な……」

夏実は信じられない思いで牛尾を見た。
これだけ嬲り尽くし、骨までしゃぶり尽くすようにいたぶった挙げ句、もう「馴れ
た」という。
これは「飽きた」の同義語ではなかろうか。

「あ、あたしをこんなにして……」
「ん?」
「あたしをこんな身体にして……それで、もう飽きたから捨てる、美幸に乗り換え
るっての!?」
「違う、違う」

牛尾は苦笑して否定した。

「夏実さんを捨てるなんてこと出来るわけありませんよ。ただ、いつも新鮮でいて
もらいたいから、小早川さんと交互に抱くようにしたいなってだけです」

夏実は、自分の心情に嫉妬心のようなものが沸き起こっていることに驚いていた。
もし本当に、牛尾が夏実に飽きて捨てるというのであれば、それは願ったり叶ったり
ではないか。
こんな男に「飽きた」と言われるのは屈辱以外の何ものでもないが、それを無視すれ
ば、この男から解放されるということなのだ。
矛先が美幸に向かうというのは絶対阻止しなければならないが、取り敢えず自分自身
に加えられていた淫靡な暴虐はやむかも知れないのである。
なのに、牛尾の言葉を早合点して「捨てられる」と勘違いした自分の心境は何なのだ。
ましてそのことに怒りを覚えるというのは。

「きょ、今日はね……ホントはあんたに話が……言っておかなきゃならないことが
……あったのよ……」
「何です? まあ、何でもいいや、後で聞きます。僕、シャワー浴びてきますから」
「……」

牛尾のだらしのない後ろ姿を見送りながら、夏実はぼそりと言った。

「あたしのお腹にはね……、あんたの……あんたの子がいるのよ……」

───────────────────

コンコン。

ノックの音がしたので、牛尾はうきうきとしてドアのチェーンロックを外した。
また夏実が来たのかと思ったのだ。
夏実には、夏実からも美幸を説得して引き込めと言ってある。
難色を示していたが、なに、また失神するまで気をやらせて犯し抜いてやれば、言う
ことを聞くようになるだろう。

「こんばんわ。夜分、申し訳ありません」
「……」

開けたドアから顔を覗かせたのは、夏実や美幸のような美人とはほど遠い、少し
くたびれたような顔をした中年の男だった。
小太りで、そう高そうでもないスーツを身に纏っている。
牛尾は胡散臭そうに聞いた。

「……どちら様ですか」
「ええ、こちら牛尾展也展……さんのお宅ですね」
「……そうですけど」
「あなた牛尾さん」
「……はい。どなたですか」

男は牛尾の顔をじろじろ見てから、作り笑顔を浮かべて胸ポケットから革製のカード
ケースを取り出した。

「失礼、私こういう者でして」
「……!」

ケースの中には大きなバッジが納められていた。
身分証明書を兼ねるものである。
マニアである牛尾が知らぬはずもなかった。

「警察……。刑事さん?」
「はあ、警視庁の松井と言います。少しお尋ねしたいことがありまして……」
「な、何でしょう」

牛尾はちらちらと後ろを振り返りながら応対した。
つい今し方まで、夏実の痴態を収めた画像を整理していたところだったのだ。
パソコンには、夏実のあられもない姿が大写しになっている。
それを見られたらたまらない。
牛尾は気が気でなかった。
松井という刑事もそのことに気づいたのか、盛んに部屋の中を覗き込もうとしている。
立ちふさがるように牛尾が言った。

「ご用件は?」
「ええ、実は今、保険金詐欺の事件を追っていまして」
「保険金詐欺……」
「そうなんです。交通事故とか傷害保険でして、保険金殺人なんかと違って、一件
一件が小口なもので、あまり目立たないんですが」
「そ、それが何です? 僕とどういう関係が……」
「今までは保険会社も看過していたらしいんですが、各保険会社によると、どうも
その詐欺を働いている男が同一人物ではないかという話が出ていましてね」
「……」
「そこで、保険会社の方でも集団訴訟をしようかということになってきているようです」
「ということは、まだ告訴も何もされてないわけですね? あ、僕は無関係ですけど」
「そうですか? まあ、まだおっしゃる通り訴状は出ていませんし、任意出頭を
お願いできるような状況ではないですが、よろしかったらお話を伺えればと思いまし
てね」
「……お断りします」

牛尾はきっぱりと言い切った。

「任意出頭だとしても断りますよ。任意なんでしょう? 強制じゃない」
「……その通りです」
「だったら拒否します。確たる証拠を持って逮捕というならともかくね」
「わかりました」

松井刑事は案外あっさりと引き下がった。
そして、下から牛尾をじろりと見上げて言った。

「ああ、それと同時に、インターネットでのオークション詐欺ですか、そっちの方
でも捜査が進んでますよ。あとは強制わいせ……、あ、これはいいか」
「……」
「お忙しいところ、失礼しました」

松井はそう言うと部屋を後にした。
会釈した顔が嗤ったようにも見えた。

ドアを閉め、ロックをしてから、牛尾は慌ててパソコンに向かった。
保険金詐欺の方は、保険屋が意思統一して告訴してくれば逃れようがない。
恐らく医師にも話を通しているだろう。
バレるのは時間の問題だ。
しかしオークション詐欺までバレているとは思わなかった。
牛尾は、サイトを変え、名前を変え、口座を変え、かなり巧妙に立ち回っていた。
そのお陰で評価をあまり下げることもなく、この2年ほどで400万ほどの利益を
得ている。
どうして暴露したのかさっぱりわからなかった。

それにあの刑事、最後に「強制わいせつ」と言いかけていた。
牛尾に思い当たるのは、夏実との件だけである。
まさか夏実が裏切った、あるいは開き直ったのか。
いささか追い詰めすぎたとは思っていたが、過ぎたるは及ばざるがごとしという
ことか。

牛尾は無念さに歯がみした。
だが夏実の件だけは証拠はないはずだ。
夏実の一方的な訴えだけのはずである。
ストーキングしていたのは美幸にも知られているから誤魔化しようもないが、レイプ
までは知らないだろう。
プライドの高い夏実が、美幸たちに相談しているとも思えなかった。
ならば残っている証拠さえ隠滅すればいいのだ。
夏実の痴態を写した画像や動画は、保存したHDDを処分すればいい。
フォーマットではなく物理的に破壊して捨てるのだ。
あとはストレージに保存しているファイルを消してしまえばいい。
そこにアクセスしていた証拠も消すのだ。
あとはさしたる証拠もないはずだ。

保険金詐欺とオークション詐欺。
自分は初犯だし、これくらいなら有罪でも執行猶予がつくかも知れない。
だが、そこに婦女暴行、それも婦人警官に対する継続的なレイプなどあったら、初犯
だろうが何だろうが、まず間違いなく実刑だし、しかもかなり重いだろう。
それだけは避けたかった。
牛尾はファイルを消しながら、夏実が自分から訴え出ないことを祈っていた。


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「……今日、公判かい」
「そのようですね」

特車二課の隊長室に、榊と後藤喜一がいた。
課長は相変わらず本庁へ、南雲しのぶ第一小隊長も今日は本庁の警備部の方へ出頭
している。
今日だけは後藤と榊の天下だった。

「それにしても世話ぁかけたな。礼を言うぜ」

帽子をガラステーブルに置き、ソファにどっしりと腰を下ろしていた榊がそう言った。
見事な銀髪がオールバックに撫でつけられていた。

「なに、いいですって。親爺さんには出動のたびにお世話かけっぱなしでしたしね」
「そう言ってもらえると助かるな。しかし毎度あんたの悪巧みにゃあ感心させられる
な。今度はいったいどんな手ぇ使ったんだい」
「『悪巧み』ってのはやめてくださいよ」

後藤はコーヒーを啜りながら苦笑した。
榊から相談を受けた後藤は、結局、捜査課を動かすことにしたのである。
但し、小早川巡査の心配もわかるし、辻本巡査の将来も慮って、表沙汰にしないよう
細心の注意を払った。
依頼したのはもちろん「仲間」の松井孝弘警部補である。
仲間と言っても、互いに互いを利用し合っているようなところがあって、それをまた
お互いに意識している。
だから友人とか悪友とかいうものではないし、といって腐れ縁というものでもない。
ウマは合うが、深入りはしない。
そういう間柄だった。
ただ刑事としての捜査能力や取り調べには後藤も一目置いているし、松井の方も後藤
の底知れぬコネクションに敬意を表している。
だから、こうして表にしにくかったり、正規の捜査からは外れるようなことを頼むに
はうってつけなのだ。

後藤に頼まれた時、松井は露骨に嫌な顔をして断ったのだが、「たっての頼み」と
いうことで渋々引き受けることにした。
松井とて、表の仕事──つまり本来の捜査活動があるから、そう表だっては動けない。
合間を見て、ということでなら、という条件で乗ったのだ。
そうすることで後藤に貸しを作る面もあっただろう。
無論、後藤もそれは承知している。

話の詳細を聞いて、まず松井は牛尾の前歴を洗い、現在の状況を調べ尽くした。
保険金詐欺の件については、榊を通して美幸からそれとなく情報を受けていたから、
それから手をつけた。
牛尾の銀行口座を調べると、10を超える口座を持っていることが判明した。
松井はそれを独自の情報網を使って閲覧し、そこで保険金詐欺だけでなくネット・
オークション詐欺も嗅ぎつけたのである。
サイトを当たり、そこから詐欺情報を集め、牛尾を思われる人物とその口座を確認
した。
間違いないと確信し、それをサイトへ報告して告訴を促したのだ。
同時に各保険会社も、連携して訴えるようアドバイスし、詐欺事件として立件した
のである。
もちろん、刑事が直接そうしたことを言うのは違法なのだが、そこはうまく立ち回
っている。

後藤も裏で協力していた。
そうやって外堀を埋めてから牛尾を訪ね「もう逃げられないよ」と暗黙に知らせて
やったのだ。
同時に、夏実への強制わいせつに関しても調べているとほのめかした。
これは立件するつもりはなかった。
そうするくらいなら、夏実に事情聴取して証言を取り、さっさと逮捕している。
そうしたくなかったから、ほのめかすくらいにしておいたのだ。
牛尾とてバカではないから、罪は少ない方がいいと考えるだろう。
そして、夏実から告訴する可能性は少ないだろうから、自分の方の証拠を隠滅すれば
いいと判断するに違いない。
もちろん、そうされたら証拠はなくなってしまうのだが、逆に牛尾が夏実を脅迫する
タネもなくなるということなのだ。
これでなおも夏実が牛尾の脅迫に屈するとは考えにくい。
脅されなければ、そんなやつの言うことをおとなしく聞くような婦警ではないらしい
からだ。
むしろこれでリセットし、それでも牛尾が迫ってくるようなら殴り飛ばしかねない
のだそうだ。
要は弱みさえ消してやれば、彼女自身の力で立ち直っていけるらしい。
ならば問題はなかった。

黙って聞いていた榊は「ふうっ」と息をついて胸ポケットに手をやった。

「……なぁるほどな。確かにあのねえちゃんなら、卑劣な恐喝のタネさえなけりゃ、
そんな野郎に従うわきゃなさそうだ」

タバコを取り出したところでここは禁煙だと気づき、サングラスの下で苦笑しながら
箱を置いた。
そしてもう冷めたカップを手に取り、コーヒーを啜る。

「で、どうだい。実刑くらいそうかい?」
「それなんですがね」

後藤は腕を組んだ。

「私は弁護士じゃないからよくわかりませんけど、こういう場合、悪質だと判断されて
初犯でも実刑なんじゃないですかねえ」
「後藤さん、法学じゃなかったか」
「私は政経ですよ。まあ、保険金の方もオークションの方も一回二回じゃないですから
ねえ。味を占めて何度も繰り返してってことですし。それに生活費を稼いでいたなら
ともかく、遊ぶ金欲しさですから、あまり情状酌量の余地はないでしょう」
「どれくらい食らい込むかな」
「さあ。双方合わせて2年もいかないですかね。人が死んだりけが人が出たりしてる
わけじゃないですし。執行猶予がつけば5年くらいですか。まあ、その婦警の暴行事件
が明るみになれば、これはもう10年くらい食らい込みそうですが」
「ま、そうなっちゃ困るからあんたを担ぎ出したわけだ。済まなかったな」
「どういたしてまして。私ゃ別に動いてませんしね」

後藤がすっとぼけてそう答えると、榊も笑った。
確かにこの男、裏で暗躍はするが、自分が動くことは滅多にないのだ。
それでいて目的は達するから「食えない」と評されるのである。
出て行こうとする老整備班長に後藤が言った。

「でも、その牛尾ですか? そいつはまだ気をつけた方がいいかも知れませんね。執念
深そうだし、またぞろ何か手を変えて仕掛けてくるかも知れない」
「……そうだな。さすがにそうなれば嬢ちゃんもねえちゃんも黙っちゃいねえだろう。
ま、いい。嬢ちゃんには気をつけるように、よく言っておくさ」


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「夏実」

ふいに美幸に声を掛けられて、夏実はびくりと反応した。
何だか最近、いつもぼんやりしているように自分でも思う。
自分でわかるくらいだから、頼子たちや美幸も当然わかっているだろう。
何だか彼女たちがよそよそしいようにも思っていた。

「今度の非番、たまには出かけようよ」

美幸は明るくそう言った。夏実は顔を伏せ、小さい声で答える。

「ごめん、美幸……。あたし、今度も、その……」
「あのね、夏実」

夏実が顔を上げると、美幸は長身の彼女の顔を覗き込んでいた。
慌てて目を逸らしたが、追いかけるようにして美幸が迫ってくる。

「何て言うか、その……。もう……心配しないでいいと思う……」
「え……?」
「もう、ああいうこと、ないと思うんだ」
「美幸……」

夏実が美幸を見ると、今度は美幸の方が後ろ向いて背を見せた。

「あ、あの……」
「いい。何も言わないで」
「……知って……いたの……?」
「だからいいよ、言いたくないなら言わなくて」
「……」
「でもね」

くるりと振り向いた美幸の顔は笑っていた。

「少し水くさいかな、って思った」
「……」
「気持ちはわかるけどさ。でも、黙ってられたらわかんないし、もし私は同じ目に
遭ってたら、夏実に相談出来なくなっちゃうじゃない。そんなのいやだし」
「美幸……」
「詳しく言う必要はないよ。でも言える範囲で相談してくれてたらなって……、そう
思っただけ」
「……」
「でもさ、解決……したらしいからさ、もう気に病むことないよ」
「ほ、本当に……」
「うん。だからお祝い。お祝いってのも変か。何かおいしいもの食べに行こ」

美幸はそう言って夏実の腕を取った。

美幸に付き添われ、産婦人科を訪れた夏実が擬似妊娠とわかったのは、そのすぐ後
のことである。
夏実の尿タンパクが過多だったのは、極度の疲労や強いストレスによるものだった。
思い返してみれば、妊娠検査薬を使って調べたのは犯されて間もなくのことだった。
尋常でなくタフな牛尾に、気絶するまでレイプされ、くたくたになって解放された
のだから、確かに疲労困憊していただろう。
そして牛尾の一件以来、常に強いストレスに晒されてもいた。
おまけに、そのストレス解消と称して、夏実の食欲は以前にも増して旺盛だった。
何と食べ過ぎでも擬似陽性が出る可能性があるらしい。
しかも肉の食べ過ぎがもっとも悪いらしかった。
加えてレイプ直後でろくに洗浄もしてない状態で計測したのだから、残留精液が
反応した可能性もある。
あれだけ射精されれば、それも当然だったろう。

つまり、当時の夏実の身体は擬似陽性が非常に出やすい状況にあったのだ。
それを知ったとき、夏実は全身から力が抜けて座り込むほどに安堵した。
美幸の言う通り、もっと早くに彼女に相談していれば受診を勧め、余計な心配は
しないで済んだに違いなかった。

牛尾の逮捕。
妊娠の誤解。

夏実を悩ませる根源は、これですべて絶たれたのだ。

それでも、夏実には一抹の不安が残った。
自分自身である。
牛尾に開発され尽くしたこの肉体は、果たして恋人との行為で満足出来るのだろうか。
万が一、牛尾が保釈、釈放あるいは刑期が開けて再び夏実の元に現れたとしたら、
どうなるだろう。
牛尾はもう、夏実は完全に自分の女だと確信している。
夏実もそう口走ってしまったこともあった。
牛尾が目の前に現れた時、彼を拒否することが出来るだろうか。いざとなったら殴り
飛ばせるだろうか。
強引に抱きすくめられ、身体をまさぐられたら、あの強烈な快感を思い出し、慕い
寄ってしまわないだろうか。
おぞましい不安を押し殺し、夏実は美幸に手を取られて部屋を後にした。



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