2人の乗った車が見えなくなると、中嶋が美幸を振り返った。

「大丈夫だったか、小早川?」
「な・・・・ 中嶋くん・・・・ ど、どうしてここに・・・・」
「実家を尋ねたら、俺の名前を騙って小早川を呼び出した男がいるのを知って
ここまで来たんだ。そしたらあの宮崎ってやつを見つけて訊き出したんだよ」
「中嶋くん・・・・」

緊張感から解放され、安堵で膝から力が抜けて崩れ落ちそうになった美幸を
中嶋は支え起こすと、強く抱きしめた。

「あっ・・・・」
「小早川、俺はまほちゃんに謝ってきたよ」
「えっ?」
「まほちゃんをお嫁にしてあげることはできないってな」
「・・・・」
「受け取ってほしいものがある」

中嶋はポケットから指輪を取り出すと、美幸の左手を取って薬指に嵌めた。

「これが俺の気持ちだ。小早・・・・ いや、美幸、俺と結婚してくれ」
「な、何を言ってるの中嶋くん、私は・・・・」

その言葉は続かなかった。中嶋が美幸の唇を自らのそれで塞いだからだ。

「ううっ・・・・」

長い長いディープキス。中嶋は美幸を離すともう一度繰り返した。

「関係ない、何もかも関係ないんだ。美幸・・・・ 俺と結婚してくれ。
今度こそ、今度こそ、君を絶対に守ってみせる」
「でも私は・・・・」
「君の背負ったものを俺も背負う。いや、一緒に背負わせてくれないか」
「中嶋くん・・・・」
「これは俺のわがままだ。俺と一緒になることで君に辛い思いをさせて
しまうかもしれない。それでも・・・・ 俺はもう逃げない。
だから君も逃げないでくれ、自分自身からも、そして俺からも」

中嶋は大きくひとつ息をつき、真摯な眼差しで美幸を見つめた。

「美幸、俺には君が必要なんだ。君さえいてくれればいい!
君を幸せにすると誓う。いや、美幸、二人で幸せになろう」
「二人で幸せになる・・・・」

美幸の大きな瞳から涙が溢れて止まらない。
それをそっと指で拭う中嶋。

「いいよな、美幸?」

美幸は中嶋の厚い胸に顔を埋めて泣きじゃくり、そして・・・・
こくりと頷いた。

────────────────────────

その夜、車内のバックミラーに写った自らの腫れ上がった顔を
忌々しげに見つめ、山口は唇を噛み締め毒づいた。

「たっく・・・・ あの野郎、ぼこぼこにしてくれたもんだぜ」

警察官の民間人への暴力。このことを訴えて中嶋を社会的に抹殺してやりたいが、
こちらも美幸を脅迫した弱みがあるだけにそういうわけにもいかない。

「それににしても、あそこまできてまさかあの野郎が本当に現れるとはな。
へたな三文小説じゃあるまいしできすぎだぜ」

だが、忌々しげな表情は一変し、ニヤリと笑って宮崎を振り返った。

「持ってんだろ。早く出せよ」

宮崎が内ポケットから取り出したのは、美幸のレイプ写真の本物のネガフィルム。
山口は似たようなダミーフィルムを自らの内ポケットに入れ、本物は宮崎に
預けておいたのだ。
美幸に確認させたのも、中嶋に差し出したのもそのにせフィルムだ。
一瞥させただけでは素人にネガフィルムの区別などつくものではない。

「あの野郎も詰めが甘いんだよ。だいたいそんな大事なネガをそう簡単に
渡したりするもんかよ」
「でも・・・・ 山口さん、これからどうするつもりですか?」
「まあしばらくはおとなしくしてるさ。あのクソ野郎にもヒロインを
危機一髪から救い出したヒーロー気分をしばらく味合わせてやればいい。
だが・・・・」

山口は腫れ上がった顔をさすりながらぞっとするほど低い声で言った。

「この借りは絶対に返してもらう。もちろんあの婦警さんの身体でな。
あいつら2人、また地獄の底へ落としてやるぜ」

そして宮崎を見上げた。

「もちろん、手伝ってくれるよな。俺とオマエはもう一蓮托生なんだ」

宮崎はこくりと頷いた。
あの時、本物のネガフィルムを中嶋に渡す事だってできたのにそれをしなかった。
そう、宮崎は自分の意志で山口の側につくことに決めたのだ。
宮崎もまたぞっとするような笑みを浮かべつつ意外なことを言った。

「あの二人・・・・ 結婚するといいですね」

山口が怪訝な顔をする。

「ん? どういうことだよ」
「だってそうなったら、今度は『婚前旅行』じゃなくて、『新婚旅行』先で
人妻になったあの婦警さんを犯れるチャンスがあるわけじゃないですか」
そこでいったん言葉を切って、続けた。

「もちろん、今度は夫になったあの男の目の前でね。どうですか山口さん、
そういうシチュエーションは最高に面白いと思いませんか」
「宮崎、オマエ・・・・」

宮崎のあまりの豹変ぶりに呆然となる山口。

「でも山口さん、そん時は自分に先に犯らせてくださいよ。
それに山口さん自身で今度は婦警さんの生レイプショーを撮影して
もらわなくちゃいけませんしね」
「あ、ああ、そうだな。もちろん俺がプロのカメラマンとしてばっちり撮ってやるぜ。
それも今度はこんな写真じゃなくて音声つきの動画でな」
「それは楽しみですね」

車内に2人の乾いた哄笑が響く。それは死んだ3人に代わる
新たな淫獣の誕生を告げるものであった。

────────────────────────

同時刻、中嶋と美幸がお互いの存在の大きさ、愛の深さを改めて確認し、
あの悪夢をすべて振り払うかのごとく互いに熱く激しく貪り、愛し合っていた。

「あううっ・・・・ あああっ、あぐぅっ!」

美幸は中嶋の激しいグラインドの連続に、切なく喘ぎ、身悶えして淫らな嬌声を
噴きこぼして中嶋をくわえ込むようにして迎え入れていた。

「美幸、美幸、美幸ぃぃぃ!」

やがて中嶋のグラインドが最高潮に達して剛直が爆発すると同時に、
美幸もまた一気に絶頂へと駆け上り、己の中へと注ぎ込まれたものの
淫らな温かさを感じながら軽い失神の中に意識を埋め浸していった。

「大丈夫か、美幸」

エクスタシーの海に沈んで意識朦朧としていた美幸は中嶋の声で我に返った。
閉じていた目を開ければ、優しい中嶋の笑顔が覗き込んでいた。
美幸は中嶋の首に手を回し甘く囁いた

「中嶋くん・・・・ 愛してるわ」
「ああ、俺も君を愛してる」

今回の過酷な体験は結果的には2人の結びつきをより強めることになり、
こうして2人は最高の瞬間(とき)を取り戻すことができた。

「(中嶋くんとなら・・・・ 大丈夫。私はきっと・・・・)」

中嶋の腕の中で、美幸は今度こそこの幸せが永遠に続くものと信じて
疑わなかった。

だが・・・・ それから半年後、幸せ絶頂で訪れた新婚旅行先の地で、
新たな仲間を加えた山口と宮崎の卑劣な罠にはまり、再び淫惨非道な
陵辱地獄に突き落とされることになろうとは、今の中嶋と美幸は知る
よしもなかったのだ。
                              完



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