Brand new love
Written by 潮崎 とあ 様 [2004.2.8]

  
病室のドアがノックされて、「どうぞ」と声をかけると、カガリが「よっ!」と片手を上げて挨拶をして入ってきた。
そうして開口一番。

「キラ。退院日が決まったって?」

嬉しそうな表情で聞かれた。
相変わらず看護婦さんからの情報が早いなと、キラは感心する。

「カガリ、おはよう」

「それはいいから、何時になったんだ?」

とりあえずの挨拶も、彼女は構わず興味津々、聞いてくる。
キラは苦笑いを浮かべて、言った。

「12月25日」

答えに、カガリは少し眉根を寄せた。

12月25日、それは終戦記念式典が執り行われる日だ。
1ヶ月近く戦争処理を行い、地球軍・オーブ・プラント3者間での和平協定も大方まとまりをみせた。
そうして、古く神が誕生したという日―新たに人類が平和へと歩みだすにはふさわしいということでその日に落ちついたと、カガリが話してくれた。

だから、カガリが困るのも当然だろうと、キラは思う。
腕を組んだ彼女が、心配そうに視線を向けた。

「…式典の日、当日か…。大丈夫か?」

『大丈夫か?』、その問いに、キラはどきりとした。
…考えが読まれたのではないかと、思った。
けれど、カガリはどこか笑みを見せていて、気付いていないと感じさせた。
キラは、きょとんとしてみせて、聞く。

「大丈夫って何が?」

カガリは、彼の言葉に大きく息を吐き出すと、言葉を重ねた。

「その、きちんと来れるか…とか。っていうか、身体は本当に大丈夫なのか?」

心からの心配が、瞳から伺える。
心配を受けるのも、当たり前かもしれない。
1ヶ月前、全身打撲にこれまでの体調不良もあってかなりの衰弱具合だったらしい。
実際、プロビデンスとの戦闘後からの記憶は酷く曖昧で、目が覚めたのは終戦から3日後のことだった。

キラはカガリの心配を、にっこりと笑って、否定してみせる。

「大丈夫だよ。身体の方は、ほら、軽すぎるって言う理由だけだっだし」

「そうか。だったらいいけど…でも、本当に迎えとかいいのか?」

彼女は、彼の言葉に頷いて見せたが、別の心配を続けた。
キラは戦争功労者―英雄として式典への参加を求められている。
彼女にとってはそんなことは関係が無かった。
ただ病み上がりの、大切な人が1人で式典に来ることに不安があった。

「いいって。前から言ってるように、僕1人でちゃんと行けるよ」

「…本当か?」

安心させるように言ってみても、相手はまだ不安を見せて。
キラは小さく苦笑いを浮かべた。

「本当だって。心配性だよね、カガリって」

言うと、カガリは口を尖らせた。

「心配に決まってるだろう?キラなんだからな!」

自分だから…という言葉に、キラは脱力する。

「僕だからって…そんな…」

『そんな心配、僕にかけなくてもいいのに』

続きそうになった言葉に、気付いて。
キラは不意に言葉を止めた。
どこか重い雰囲気に、カガリは真顔になって。

「…キラ…」

こちらを伺った。

「?」

雰囲気を戻して、不思議そうにして彼女を見つめた。
カガリは、緩く頭を振って、彼に合わせた。

「なんでも、ない。ただ、キラはどこか抜けてるから、用心に用心をこしたほうがいいと思ってな」

軽口を叩く。
キラは呆れたような視線を彼女に向ける。

「あのね、カガリ」

「何だ?自覚無いのか?」

戻った雰囲気に、彼女は心のどこか安堵しながら、続ける。
キラは拗ねたように、視線を外して、唇を尖らせた。

「…もう、いいよ」

彼の様子に、頷いて。

「ま、でも…そうだな。そこまで大丈夫だっていうのなら、安心だな」

「安心していいよ。ちゃんと行きますから」

2人、顔を見合わせて、小さく笑った。

「カガリ様、お時間です」

背後から声がかかる。

「あぁ、わかった」

振り向くと、そこにはSPが控えていた。
キラが声をかける。

「忙しそうだね」

「一応、式典まで1週間しかないからな。しょうがないだろ」

カガリは肩をすくめて、盛大に苦笑いを浮かべた。

「頑張って」

微笑んで言うと、彼女は嬉しそうに頷いた。

「頑張ってくる。今度会うのは式典当日、だな」

最後に笑う。

「楽しみに、してる。じゃあ」

手を上げて、踵を返そうとすると。

「ばいばい」

キラは言った。
どこか感じる違和感に、カガリは振り返る。
そこには柔らかく微笑んだキラがいるだけだった。