Brand new love
Written by 潮崎 とあ 様 [2004.2.8]

  







振り返った先には、此処にはいてはいけない人がいた。
一番、顔を見たくはない…相手。
キラは、無意識に『彼』の名前を紡いだ。

「アスラン…」

声が届いたのか、彼はほっと安堵の色を浮かべて、キラに近づいた。

「探したよ。まさかこんな早くに出るとは思わなかった」

キラは一歩後ろに下がった。

「だって、式典に出ないといけないじゃないか」

頭の中が目茶苦茶に混乱していて、上手い良い訳が見つからなかった。
浮かんだ言葉の中で、一番上出来なものを口に出せば。







「うそつき」








アスランはくすりと笑った。
もう一歩、近づく。
後ろには…何故か、下がることが出来なかった。

「な…で…?」

声がかすれて、言葉にならない。
相手は、キラの虚を突いた。

「今行こうとした方向は会場とは逆だよ」

アスランの声に、キラは弾かれたように顔を上げて、問いかけた。

「ちが…!どして、ここにいるの…?」

彼は、困ったように…でも、はっきりと告げた。

「キラに伝えたいことがあって」

聞きたくないと、言葉を放つ。

「僕には…ないよ…」

アスランは聞かずに、続けた。

「…キラが目を覚ましたとき、俺に…言ったよね。本当のこと」

『本当のこと』…それに、キラの身体がビクリと震えた。
アスランは様子を視界に捉える。
それでも構わず、彼は言った。

「俺は…正直、驚いたよ」

「だよね。まさか造りモノだとは思わなかったもんね」

キラは自嘲の笑みを洩らす。
とても自虐的なそれに、アスランは。

「違う」

静かに、そしてつよく否定を示す。
ゆっくりと頭を振って、上を向いた。

「…キラは俺のこと、信じてくれてなかったんだなって、思った」

「え?」

突然の言葉に、キラは思考を奪われた。
アスランが何を言いたいのか、よく分からない。
彼は、キラの表情を見て、小さく苦笑いを浮かべる。

「キラは俺のこと、要らないんだなって、思ったんだ」

「な…に、言って…?」

続いた言葉も、先のものと同じ…それ以上に衝撃的で。
でも、心の中ではっきりと『要らないのと思ったのはアスランのほうではないか』と思った。
キラの考えに気付いたように、アスランは困ったように言った。

「…1人にしてくれって、言ってるように思えて。だから、キラがそうしたいなら、それでいいって…思ったんだ」

だから彼は自分に会いに来なかったのか、と心のどこか、納得する。
でも、釈然としない部分もあった。

「だったら、」

したいようにさせてくれればいい…と、言葉を続けようと口を開いた。

「でも」

アスランが、先に声を発して、言葉の行き先をふさいだ。












「だめみたいだ」













心底困ったようにして、彼が笑う。
彼が言葉を続ける。

「キラがしたいこと、優先してあげたいけど…駄目なんだ。
 キラがいないと、『俺』になれない」

言いたいことが、よく、わからなかった。

…違う。

わかりたくなかった。

「アスラ…」

言葉を今度は自分が塞ごうと、するけれど。
相手はそれを無視して。
言った。

「…あのとき、キラは『誰にも必要とされるような存在じゃない』って、そう…言ったけど、俺にはキラが『必要』なんだ」

しっかりと、アスランはキラを見つめた。

「だから」

ひとつ、息を吐き出して、彼ははっきりと告げた。

















「月へ還ろう」