ノウラは、今日も今日とてリシャールとアルヴィンを見下ろしていた。
 睦み合う……と言うより、リシャールに一方的に求められるアルヴィンが辛い思いをする様なことがあれば止めるつもりで。
 見ているのは馬鹿馬鹿しくもあるが、自分には肉体がない。そして、何時お互いに箍を外してしまうかが心配でもあった。
 リシャールは乗り気になり過ぎれば拷問にも等しい責め苦を与えかねないし、アルヴィンはアルヴィンで、リシャールの命を奪いかねない。
 心配性で苦労性だという自覚はあるが、譲れないこともある。
 今だとて……実体があるものなら、リシャールの首根を掴んで止めるだろうに。

「あ、っふ……ぅ……」
 自身の下肢から聞こえる濡れた音に、アルヴィンはただひたすら両腕で顔を覆う様にして身を捩る。
 痺れる様な感覚が間断なく湧き上がり、逃れたいのに逃れきれない。リシャールはその様を上目遣いに伺いながら、一層行為を尽くす。
「ぃ……やっ……ぁ」
 指先で何処か柔らかみのある胸とその上に息づく突起を弄われている。それだけでももう十分に熟れ育っていたが、リシャールの唇は一層敏感な箇所を覆っている。
 まだ幼さの残る茎を食まれ、先を啜られる度にアルヴィンの唇からは甘さの中に苦痛の混じる喘ぎが零れた。
「あ…………シャ……も、や……あ……」
 自身の零す蜜とリシャールの唾液で濡れそぼつ感覚が気持ち悪い。
 僅かに離れたかと思えばまたすぐに、今度は茎の下の袋を口に含まれる。
「ひっ……ぃあ……ふ……」
 まるで待てを知らない犬だ。
 引き離そうと頭へ手を伸ばすが、引き離すどころか却って髪を指に絡め、あと少しの刺激が欲しくて腰を押しつけてしまう。
 達しそうになると根を抑えられ、ただひくつく腰を止められない。
「あっ……っあ、やっあ、っ」
 何度こうしてはぐらかされただろう。意識が朦朧としてくる。
 リシャールは口を離し、僅かに顔を上げた。
「もう少し……もう少し我慢出来るな」
「やっ!……も……」
 アルヴィンは必死で首を横に振るが、リシャールはそれを見て微笑むばかりだ。
「まだ解せていないだろう? もう少しだけ、我慢したまえ」
「も、いい……っ……」
「よくない。私も、あまり滑りが悪いのは面倒だし気持ちよくないからね」
「っ……ふぁ、ぁ、ん……っ」
 先を窄めた舌が可愛らしい窄まりをこじ開ける。唾液を送り込まれ、本当に下肢から蜜が滴り落ちるかの様な感覚にアルヴィンは顔を歪めた。
 目尻から生理的な涙が零れ落ちる。堪え難い。咄嗟に足を閉じようとしたが、結局リシャールにただ絡めるばかりになる。

「少し舐めにくいな」
「っえ、あ、っん」
 抗う間もなくうつ伏せにされ、尻朶に息がかかる。アルヴィンは身を捩り、敷布を頼りに掴んだ。
 腰を引き上げ、リシャールは舌先でアルヴィンの蕾を抉る。慎ましやかなそこは、厚みのある舌を受け入れかねて強く窄まっていた。
「あっ……ぁは……ん……」
 無理に押し開かれる感覚に背が撓う。
 茎の根元は未だしっかりと抑えられ、しとどに蜜を零すだけに留められる。
 アルヴィンは首を打ち振るった。達したい。
 思わず自分の手を伸ばす。リシャールは止めなかったが、自身の手を外すこともなかった。
「あっ、ぁあ……っ……ぁ」
 少年にしても華奢な指先が自身を煽る。透明な雫が溢れ零れて敷布を濡らすが、達することは許されない。
「ぅ、ん、あっ、っぁあ……っ……」
「いけない子だな。こんなに濡らして」
 自分の行為を棚に上げ、リシャールは嬉しげに一層アルヴィンを抑える手に力を込める。
「いっ……いた、い……っ……」
「手を離しなさい」
「ゃ……な……んで……?」
「こんなに零して……勿体無い」
 腰に回していた手でアルヴィンの手を取ると、軽く引っ張ってその濡れた細い指を舐め取る。
「ひっ……ぁあ……」
 丹念に舐め、蜜の全てを拭い取る。指先のみならず、指の間、掌まで丁寧に舐められ、アルヴィンは背筋を震わせた。
「ぁっ……っあぁ……っ……も、や……ぁ……」
 もうどのようにして触れられても、過ぎたる快楽にしかならない。
「本当に君は、私の血を滾らせてくれる」
 きれいにした手を開放すると、今度は自分の身体をアルヴィンの下へと入れる。開かせた足の間に顔を置き、開放の予兆に震えている茎を食む。
「ひぁっ! や……だ、やめ……っ……!」
 茎を口に含まれると同時に、濡らされた襞に指が潜り込む。唾液と淫液のぬめりを借りて、既に指の幾本かなら抵抗もなく飲み込んだ。
「ゃあ、ふっ、ぁ…………っ……」
 腰を引けば指がより深く差し込まれ、それから逃れようとするとリシャールの舌が待ち受ける。
「や……ぃや、だ、あっ……あぁ……っ」
 達しようとすると歯が強く立てられ絶頂をはぐらかされる。アルヴィンはただ頭を打ち振るい身悶える他に、逃れることすら出来なかった。ただ必死で敷布を掴む。
 長い指は容赦なくアルヴィンの内側を弄り、切り崩していく。もう既に、アルヴィン自身より余程、アルヴィンを知っていた。アルヴィンを脆くする場所は難なく探り当てられ、緩急をつけて嬲られた。
「あ……っう……」
「……君の体液は、甘いな」
「やっぁ……なに、いっ……あぁっ」
「体液だけではないな。声も……何もかもが甘い」
 アルヴィンの身体は急速に熱を失っていく。アルヴィンの正体を知って以来、リシャールはこの瞬間を最も好んでいた。
 取り繕われるのは好きではない。自分の前では全てを曝け出して欲しい。この、人としての仮面を取り払った姿はリシャールの望むところだ。
 人かそうでないかなど、リシャールにとってはどうでもいいことだ。
 ただ、アルヴィンという存在そのものが欲しい。
「……私が欲しいかい? アルヴィン」
「っ……ん……ぅん……っ」
 終わらせてくれるなら、何でも構わない。
 必死で頷くアルヴィンに、リシャールは目を細めた。可愛い顔を見たい。快楽にとろけ、何一つ隠すことのない忘我の表情を。
 再び身体を返して仰向けにさせる。
「行くよ、アルヴィン」

「っあ! っ……ぁ……」
 切れ切れの悲鳴が上がる。漸く与えられた熱杭に身体が付いて行かない。
 リシャールの頭を掻き抱き、その口元へと胸を押し付ける。心得た舌が、歯が、胸の突起を捉え煽る。
「ふぁ、っぁ……や……ぁ」
 与えられる刺激がもどかしい。馴染むのを待っているのかリシャールはまだ動かなかった。ただ、胸に痺れる様な感覚が走り、下肢へと蟠っていく。
「ぃ……ぁだ…………」
 愛せたらどんなに楽になれるのだろう。
 全てをかなぐり捨てて、リシャールを受け入れることが出来たなら。
 ただ、身体の感覚に任せて抱かれることが出来たなら。
 愛しているのだと告げられたなら……。
「っ……ぅ……」
 一層の涙が零れ落ちる。頤を伝い流れたぬるい雫に気づき、リシャールは驚いた様に顔を上げた。
「痛むのか?」
「違う……」
「苦しいか? 一度いった方が楽かな」
「……いい。まだ……大丈夫……」
 慌てて目元を拭うが、溢れる涙は止め処ない。リシャールは軽くアルヴィンの胸から離れると、首を伸ばす様にしてアルヴィンの頬を舐めた。少し塩辛い。
「君がそうまで辛いのなら、私も我慢を覚える」
「いい。……我慢なんて……出来ないだろ」
「何を言う。君の為になら、私は恐らく何だって出来る」
 低い鼻に口付ける。一層アルヴィンの顔が歪んだ。目尻に唇を押し当て、涙を吸う。
 何処までも甘く優しい対応に、アルヴィンは首を緩く振って逃れようと試みた。しかし、心地良さが勝って動けない。
 こうされたかったのだと、心の奥底が歓喜しているのが分かる。
 喜んではならないのに。
 リシャールを受け入れるのは、許されないことだと分かっているのに。
 触れられた端から解けてしまいそうだ。その感覚が現実なら楽になれる。
 リシャールは嘘を吐かない。それだけは確かだ。
「……動いて……いいよ」
「しかし」
「……もう、我慢できない。そう……言えばいい?……ぁ……あぁ……」
 腰を揺らす。雄を銜え込んでいることを如実に感じ、アルヴィンは呼気を乱す。
「……してよ……リシャール……っ」
 心が流す涙を、生理的なものへ。先のない未来より、刹那の快楽を。
 深いものなど要らない。ただ、繋がっていたい。身体の境界線もなくなる程に。
「リシャールっ……早く……!」
「……愛しているよ、アルヴィン」
「っ……あ、ぁ……」
 耳核に注ぎ込まれる艶めいた声音に背筋が震える。仰け反った瞬間に、それまで穿たれていたものが引かれた。
「あぁっ」
 襞を擦られ、例え様もない感覚が沸き起こる。しかし感じ入る間もなく、再び突き入れられた。
 引き擦られていく。
 終焉に向かって動き始めたリシャールに、アルヴィンはただ全てを委ねた。

 馬鹿馬鹿しい。
 ノウラは小さく溜息を吐くと、壁を擦り抜けて部屋を出て行く。
 リシャールのあんな声音を、ノウラは聞いたことなどなかった。
──愛しているよ──
 耳を塞ぐ。全く、聞いていられない。
 ただ、このまま愛し方を間違えないで居て欲しい。リシャールは屈折しすぎていて、あまり素直に感情を表すことには長けていないし、アルヴィンも人の心の機微には疎い。

 少し間を置いてまた様子を見に来ようと思いながら、ノウラはシリルの下へ向かった。
 シリルと居るのも、それなりに安定出来るし、リシャールとアルヴィンが睦んでいるのでは却って彼が不安定だろう。
 本当に、どうしようもない人達だ。
 自分や周りの付き合いの良さにも程々に呆れながら、ノウラは城の周りを軽く風と共に舞った。


作 水鏡透瀏

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